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巨大変身ヒロインのオリジナル小説を書いている草宗の独り言をつぶやくブログです。

草宗の書斎

ご挨拶 | main | 「鋼血の姫甲士 ~花の章~」第2話「ドール殲滅計画」2章
「鋼血の姫甲士 ~花の章~」第2話「ドール殲滅計画」3・4章(完結)
 3、被虐のドール
 
 
「人類よ、見えているか。iドールと名乗る反逆者は、この通り我ら『ネクスター』の手で討伐した。貴様らは絶滅への途を辿ることになる」

 シーヴァに取り付けられたカメラの前に、金属髑髏の白衣男が立っていた。
 人工知能が支配する『ネクスター』のなかで、元「人間」であるこの男は、特別な待遇を受けている。機械生命体の始祖となった〝アダム〟が総統ならば、いわば『ネクスター』の参謀格といったところか。
 

 
 カメラの前に堂々と現れた、ということは、もはや身を隠す必要はない、という意味だろう。『ネクスター』の勝利宣言といっていい。
 ドールピンク・サクヤが鋼血の刀で貫いたシーヴァは、完全には破壊できていなかった。
 バチバチと頭部から火花を飛ばしながらも、三幹部のうちの一体は表情を変えずに撮影を続けている。
 
 ドールブルー・ツバサを処刑され、サクヤ自身も虜囚と堕ちたというのに……結局iドールは、幹部のひとりとして倒すことはできなかった。
 
「これより、ドールピンク・サクヤの処刑を執行するッ!! 愚かな小娘の最期、よく網膜に焼き付けることだ」

 レンズに向かって高らかに叫び、金属髑髏はサクヤに近づいてきた。
 
 金属製の椅子に、サクヤこと立花春香は座らされていた。
 かつて欧米で死刑執行に使われたという、電気椅子なるものを春香は思い出していた。十数年前までは現存したそれも、2055年の現在では野蛮な処刑方法だとして廃止にされている。
 
 椅子から飛び出た鋼鉄の枷が、首と胴体に嵌められていた。これでは身をよじることも、満足にできない。
 手首と両脚の太ももにも鉄枷が嵌められ、頑丈な鎖で繋がれている。
 左右からクレーンで引っ張られているため、自然サクヤは開脚することになった。金属の椅子に座りながら、股間を広げることになる。
 
 ピンクのプリーツスカートがやけに短いため、黒いショーツが露わとなっていた。
 爆破された影響で、鋼血で強化されたブレザー制服はボロボロになっている。春香の乳房から下は、ほとんど丸見え状態だった。
 そんな屈辱的な姿を、全世界にネットとテレビで中継されているのだ。
 
「これから死んでいく気分はどうだ? ……立花春香」

 なぜか金属髑髏は、サクヤの本名で訊いてきた。
 
「……まだ私は、死なない。私たちには、独人くんがいるもの」

「バカめ。あの臆病者が来るはずがない。今もこうして、お前たちを見捨てているではないか」

 言葉を返す代わりに、椅子に拘束されたサクヤはキッと鋭く睨みつける。
 
「……一応確認しておこう。この私がドクター大和……独人の父親であることは知っているのか?」

「……独人くんから少し聞いたわ。でも、違うよ」

「違う?」

「独人くんはハッキリ言わなかったけど……私が代わりに言ってあげる。あなたなんか、父親じゃないわ。父親である前に、人間ですらないじゃない」

 首と胴体、手首に太もも。合計6箇所に嵌められた鉄枷から、高圧電流が撃ち込まれる。
 
「きゃあああ”あ”あ”ぁ”っ―――ッ!! アア”ッ……ああア”ッ!!」

「そうだ。私は人間などという下等生物から卒業している。わかるか、立花春香? 貴様は苦しみ、私は優雅にその悶えぶりを愉しむ……これが人間と『ネクスター』の差なのだよ」

 悲鳴をあげるサクヤに構わず、電流は全身を駆け巡った。
 
「貴様が苦しみもがき、無惨な姿を晒せば晒すほど、人間どもは抵抗の気力を失うだろう。貴様の死はただの見せしめにとどまらず、人類敗北の象徴となるのだ」

 戦神オーディンと全能ゼウス。赤いカニと、白銀のタコに似た機械生命体が、サクヤの眼前に迫ってくる。
 反射的に、サクヤは全身を暴れさせていた。だがガチャガチャと鉄枷が鳴るだけで、四肢も胴体も身動きひとつできない。
 
「最後にひとつだけ聞いておこう」

 拷問役は任せているのか、踵を返した金属髑髏は、背を向けたまま言った。
 
「立花春香……貴様は、本当になにも覚えていないのか?」

「……え?」

「あの時に貴様は、死ななかったのか? あるいは記憶喪失……」

 コツコツと、靴を鳴らして遠ざかりながら、ドクター大和はポツリと呟く。
 
「……まあ、いい。今度こそ、確実に死ね」

 金属髑髏の背中を隠すように、戦神オーディンがサクヤの正面に進み出た。
 巨大な左右のハサミが伸びる。椅子に座った美少女に迫る。
 引き裂かれた制服から、露出したふたつの乳房。そのオレンジのごとき豊満な膨らみを、ハサミは無造作に捕獲した。
 
「んくッ!?」

 機械の容赦ない圧迫に、思わずサクヤは声を漏らす。だが、本格的な激痛は、一瞬後に襲ってきた。
 原子力発電を内包したオーディンの、高圧電流。
 
 バヂィッ!! バヂバヂバヂィ”ッ――ッ!!
 
「うあああ”あ”あ”ぁ”っ―――ッ!!! あぐぅ”ッ!? ガアア”ッ……ああア”ァ”ッ~~~ッ!!!」

 唾液を飛ばし、涙を滲ませて、胸を貫く灼熱にサクヤは悶絶した。
 
「半分機械ノ人間ヲ破壊スルノハ、我ノ能力コソ最適ナリ」

 ゼウスが極太のチューブを伸ばす。タコの触手を思わせるそれらが、束になってサクヤの頭部に迫っていく。
 オーディンが原発ならば、ゼウスはスパコンが能力の主体となっていた。
 サクヤのセミロングの髪に、合計4本のチューブがブスブスと突き刺さる。触手の先端が、サクヤの半ば金属化した頭皮にコネクトする。
 
「ぇはあ”ッ!? な……なにをっ……!!」

「貴殿ノ脳髄ハ、我ガ支配スル。様々ナ感覚ヲ、データトシテ入力スル」

 気球のようなゼウスの胴体、その中央に備えられたモニター画面に、文字と数字が羅列している。
 カチッという、『Enter』を示す音が響くと、ピリピリとほのかな刺激がサクヤの頭部を駆け巡った。
 
「こ……これ、はぁ……っ!!」

 猛烈な不安と孤独の寂しさが、サクヤの胸に押し寄せた。
 気が付けば、ボロボロと涙が溢れている。哀しくて、たまらなかった。もう自分は殺されるのだと、人類は終わるのだと思えて、早く苦痛から解放されたくなる。
 
「絶望ノ感情ヲ入力シタ。モハヤ貴殿ハ、我ガ意ノママナリ」

 脳にある種の電気信号を与えると、感情が操作できるという話をサクヤは聞いたことがあった。
 神経伝達の際にも電気が流れるというのだから、あながち不思議ではないのかもしれない。感情は、電気なのだ。ましてiドールは半分金属化した肉体の持ち主。
 スーパーコンピューターによる電気信号が、サクヤの感覚を操作していた。
 
「次ハ苦痛。全テノ器官・臓器ヲ、串刺シニスル」

 カチッという音色とともに、鋭利な刃がサクヤの全身に突き刺さった。
 実際には、そう感じただけのことだ。肉体には傷ひとつついていない。ゼウスの入力によって、脳が偽りの刺激を受けたのだ。
 しかし苦痛だけは本物だった。現実に何千本単位の兇器で刺し抜かれ、ミンチ肉と化すような激痛がサクヤを襲う。
 ショック死は免れぬ壮絶な苦しみを、生きたまま味わい続ける。
 
「あがああ”ア”ッ!? ふぎゃああア”ア”ア”ァ”ッ―――ッ!!! ウギャアアア”ア”ア”ァ”ッ~~~ッ!!! ひぎゅえ”ッ!! えぎゃはあア”ア”ア”ァ”ッ~~~ッ!!!」

「次。心臓・肝臓・肺・小腸・腎臓ヲ業火デ焼キ溶カス」

 むろん、現実に臓器を焼き溶かされては、生きていられるわけがない。
 だが、生きたまま臓器を焼かれる苦痛だけが、サクヤの脳裏に押し寄せる。気絶すら許されない煉獄を、ドールピンクは受けねばならなかった。
 
「ギャアアア”ア”ア”ァ”ッ―――ッ!!! アヅッ、アヅイ”ッ―――ッ!!! 殺しッ!! もう殺しでぇ”ッ~~~ッ!! ゆ、許しでぇ”ッ~~~ッ!!! ウギャアアア”ア”ア”ァ”ッ―――ッ!!!」

 叫びすぎて、サクヤの咽喉から鮮血がブシュッと噴き出す。
 涙と涎を垂れ流し、美しき少女はガクガクと痙攣した。耐えられるわけのない苦痛だった。もし今『ネクスター』に忠誠を誓えと迫られたら、拷問に耐え切れず呆気なくサクヤは屈服しただろう。
 
 幸か不幸か、『ネクスター』はサクヤを苦しめ抜いて処刑することしか考えていなかった。
 
「次ハ快楽。最大ノエクスタシーヲ、自ラ感ジヨ」

 ゼウスにかかれば、女子高生ひとりをイカすのに愛撫など必要はなかった。
 愉悦のデータを送るだけで、サクヤの全身に刺激が走る。ビリビリと、最高の快感が沸き上がる。
 強制的に脳を弄られ、発情するドールピンク・サクヤ。
 あらゆる部位が性感帯と化し、甘い痺れを突き刺してくる。異常な高揚に包まれた少女は、もはや性欲に溺れた玩具《ドール》だった。
 
「ふはあああ”あ”ぁ”っ~~~っ!!! んはああ”あ”ぁ”―――んんっ!!! イグぅ”っ!! イグぅ”っ!! イッぢゃうよぉ”っ~~~っ!!!」

 白目を剥き、ゴボゴボと涎を吹いて絶叫するサクヤ。
 大きく開かれた股間から、飛沫が噴射される。ブジュウウッ!! ブジョオオ”ォ”ッ!! と半濁の体液が飛び散る。
 脳に送られた悦楽の信号だけで、サクヤは容易く絶頂に達し、潮を吹いたのだ。
 
「やはり人間などブザマなものだ。だが立花春香よ、これだけでは終わらんぞ」

 高みから見下ろす金属髑髏が、冷たい声を響かせた。
 それを合図としたかのように、ゼウスの胴体でモニターが光る。カチッと、『Enter』の音がする。
 
「あひゅはア”ア”ッ――ッ!? だめぇ”ッ――ッ!! こんあの、だめぇ”っ~~~っ!!!」

「愛蜜を溢れさせ、ヨガり狂って貴様は死ぬのだ。体力を枯らしてな。やれ、ゼウス。オーディン。命尽きるまで立花春香をイキまくらせろ」

 バチバチと電撃が乳房を焼き、官能の刺激が脳に直接入力される。
 現実の電流責めと架空の快感が、拘束されたドールピンクを蹂躙する。頭部に刺さった4本のチューブが、ビリビリと震えていた。オルガスムスに達するあの感覚が、あっという間にブレザー制服の内側に満ちる。
 
「んはあああ”あ”ぁ”っ~~~っ!!! ひゃめぇ”ッ――ッ!! ……あめだってッ!! らめだってぇ”ッ……イっでるのにぃ”っ~~~っ!!! くはああぁ”っ、くるっぢゃう”ぅ”ッ~~~ッ!!!」

 先程盛大に潮を吹いたばかりの股間から、またもブシュブシュと飛沫がとんだ。
 涙と唾液で濡れ光ったサクヤの顔を、シーヴァのカメラがアップで映す。白目を剥き、赤い舌をトロンと垂れ流して、美少女は悶え叫んでいた。
 眉をひそめ、唇をヒクつかせたその表情が、悦楽に支配されたドールピンクの現実を物語っている。
 
「へあああ”ぁ”ッ!! ひゃふうう”う”ぅ”っ~~~っ!!! イグぅ”っ!! またイグぅ”っ――ッ!!! も、もうひゃめぇ”っ~~~っ!!! ……ゆるし、許しでぇ”っ……くだざいぃ”っ―――っ!!! おかひっ、おかひぐぅ”っ……!! んはあ”ぁ”っ!? うはあああ”あ”ぁ”ッ―――ッ!!!」

 ブジュウ”ッ!! ブッシャアアアッ―――ッ!!! ……ジョボボボッ……
 
 開脚した股間から、レンズに向かって半濁の飛沫がスプラッシュした。
 ヒクヒクと痙攣しながらも、サクヤの秘裂は愛蜜を噴いた。途切れることなくボトボトと雫を垂らす。
 ゼウスのモニター画面は新たな文字列を並べ、チューブから電気刺激を送り続ける。完全に表情を蕩けさせたドールピンク・サクヤは、淫靡な悶え声を絶え間なくあげた。
 
 ヨガリ狂わせた挙句に、精根搾り尽くしてサクヤを殺すという『ネクスター』の狙いは、現実のものとなりつつあった。
 
 春香03


 4、未来へ
 
 
 もう、ダメだ。
 
 限界が訪れたことを、サクヤは自覚していた。膣壺から溢れさせた大量の愛蜜が、足元に水溜まりを作っている。下腹部が、鉛のように重かった。叫びすぎて、呼吸も不安定になっている。
 
 ゼウスの陵辱により体力を削られ、オーディンの電撃でバチバチと全身がショートしている。
 シーヴァに放った血刀で、鋼血も多くを消耗していた。手の打ちようがなかった。処刑椅子に拘束されたまま、命尽きるまで嬲られ続けるしかない……。
 
 全てをドールピンクが諦めかけた、その時。
 元テレビ局の屋上に、風が吹いた。一陣の突風が。
 バタバタと、空気を叩く音色とともに、制服姿の少年が青い空に浮かび上がった。
 
「うおおおおッ――ッ!! そこまでだァッ――ッ、てめえらぁッ~~ッ!!」

 ――……えっ!?
 
「……た、凧ぉっ……!?」

 快楽に蕩けていたサクヤの脳裏が、驚愕の光景に一気に覚醒する。
 絶叫を轟かせる大和独人は、巨大な凧に乗っていたのだ。まるで、義賊が城に忍び込むかのような。
 
「ドローンとか使おうにも、機械は全部信用ならねえからなッ! アナログで勝負だぜェッ!!」

 機械やネットが『ネクスター』に支配された今、自然こそが頼りという独人の発想は、わからなくはなかった。
 だがしかし、大凧に自ら乗るなんて。
 
「これでも苦労したんだぜェッ! 風速や角度はもちろん、気圧の状態から風向きの変化まで……全部計算したんだからなァッ!! おかげで時間がかかっちまったがッ!」

 背負ったリュックから砲丸のような黒い塊を取り出すと、上空から次々に落とす。それらが、屋上付近で爆発する。
 
「ぐぬッ!! あの……出来損ないめがッ!!」

「わははは! 久しぶりだなぁッ、博士! 焙烙玉ってのを作ってみたのさ! 戦国時代の火器もバカにできねえだろうッ!?」

 忌々しげに見上げる金属髑髏を嘲笑うように、独人は手製の爆弾を落とし続けた。
 アンドロイドの軍団に混乱が巻き起こる。頭上からの攻撃は、三幹部にも次々と着弾していった。ゼウスのチューブが千切れて吹き飛ぶ。爆風を浴びて、オーディンの横に長い巨体が仰け反る。
 
「私のことは、ドクターと呼べと言っただろうッ! やはりお前は、我が生涯で一番の失敗作だッ!」

「やかましいぜェッ!! てめえにはダサイ博士呼びがお似合いだッ!」

 そこで独人は、一旦言葉を切った。

「間違っても……オヤジだなんて呼ばねえからなッ!!」

 ジャッ!! と閃光が煌めいて、大凧に穴を開けていた。
 戦神オーディンの電撃と、破壊者シーヴァのレーザーだった。
 自身への直撃はなかったものの、独人の墜落は避けられなかった。椅子に拘束されたサクヤの近くに、少年は凧を離して落下する。
 
「……あぐぅ”っ……!! ……ぅ”ぐっ……!! ど、独人、くん……っ!!」

「……悪かったな、春香。随分待たせちまった」

 駆け寄った独人の顔を見上げて、サクヤの胸はグッと詰まった。
 自分が拷問されていたかのように、独人の表情は苦しげに歪んでいた。
 
「オレのせいだ、と思ってる」

 四肢などに嵌められた枷を外そうとしながら、独人は目を合わさずに言った。
 
「お前がこんな目に遭うのも……なつきさんが、あんなことになったのも。iドールなんかにならなければ、って思う」

「……独人、くんっ……!! それは……ちが……」

「でも、誰かがやらなきゃいけないことはある」

 真っ直ぐに、独人の瞳が正面からサクヤを見詰めていた。
 
「ヤツらを倒す。『ネクスター』を倒し、人類は生き残る。そのために、iドールは闘わなきゃいけねえ。闘ってくれよ、ドールピンク・サクヤ」

「貴様、なぜ立花春香をドールピンクなどにした?」

 背後から金属髑髏が声をかけてきた。
 ドクター大和の後方では、『ネクスター』の機械生命体が態勢を立て直しつつあった。焙烙玉で与えたダメージなど、わずかなものだろう。仮にサクヤが椅子の拘束から逃れたとしても、独人とふたり、生きて戻れるとは思えない。
 
「かつての、お前の恋人を」

 金属髑髏の言葉を理解するのに、しばしサクヤには時間が必要だった。
 恋人? かつて? 私は独人くんの恋人とは言えないし、iドールのことがなければ話をする関係ですらなかったというのに――。
 
「あの時、確かに私はその少女を、立花春香を撃ち殺したはずだ」

 心臓が痛いほど強く鳴って、急速に全身が冷えていく。
 足元が消滅して、奈落の底に落ちるかのようにサクヤは錯覚した。グルグルと視界が回る。
 
 殺した? 私を?
 では私は……ここにいる立花春香は……死んだというの?
 
「まさかお前は、立花春香を……」

「悪いけど、黙っててくれねえかな」

 くるりと独人が振り返り、父親だった白衣のサイボーグを見詰める。
 
「ちょっと。ちょっとだけでいいんだ。春香と話をさせて欲しい」

「……随分と、都合のいいことを言う」

「今春香に話しておかなきゃ、もう伝えられない。言ってる意味は、わかるだろ? ……オレだって、覚悟を持ってここに来たんだ」

 両肩に乗せられた独人の両手が、ブルブルと震えていることにサクヤは気付いた。
 ああ。ああ、そうなんだ。
 このひとは、独人くんは……ここで死ぬつもりなんだね。
 そして恐らく、私もここで。
 
 無言のまま、金属髑髏が片手をあげる。
 蠢いていた機械生命体たちが、一斉に動きを止めた。三幹部までもが。
 それはドクター大和の、実の息子に対する最後の優しさなのかもしれなかった。
 
「ありがとな、オヤジ」

 父と息子に何があったのか、サクヤが当然知る由もない。
 ただ、こんな事態になった運命を呪いたかった。
 
「……春香。お前はもう、覚えてなんかいないだろうけど」
 
 再び振り返った独人は、グッと顔をサクヤに近づける。
 
「これでもオレたち、昔は恋人同士だったんだぜ」

 ボサボサ髪の奥で、少年は頬を赤くして照れていた。
 初めて独人を見たときから、なぜ胸がドキドキするのか。天才と呼ばれる少年の動向が、やたら気になってしまうのか。
 春香のなかで、疑問がひとつ氷解していた。
 
「……そう……なんだ……」

「ああ」
 
「……素敵な、話だね」

「オレとお前は、オヤジの研究に協力していた。オレたちは十代にして、当時機械工学の世界的権威だったオヤジの極秘プロジェクトに、参加することを認められたんだ」

 自分が独人に並ぶほどの頭脳の持ち主だったとは、今の春香には到底信じられなかった。
 
「そのプロジェクトが機械生命体による人類の支配だったとわかって、オレたちはオヤジに反対した」

『ネクスター』が生まれた発端が、ドクター大和の研究にあったのか。
 独人が『ネクスター』殲滅にこだわる理由を、春香は知った気がした。実の父親の暴走と、知らなかったとはいえ手伝ってしまった自分たち……贖罪のために、独人はiドールを生み出したのだ。
 
「だけど、すでにイカれちまってたオヤジは、研究所とともにオレたちを闇に葬ろうとしたんだ。……そしてお前も……春香も、犠牲になった」

「っ……!! ……私、は……本当に……死んで……!?」

「春香の亡骸から造り上げたサイボーグが、今の君だよ」

 今までで最大の衝撃が、春香を貫いた。
 
「……わ、たしっ……!? ……私、が……サイ、ボーグ…………」

「脳細胞をはじめとする、まだ使用可能な80%以上の春香の肉体を利用して、オレは君を造りあげた。『ネクスター』に使うオヤジの技術を、オレも応用させてもらった」

「じゃ……じゃあっ……!! ……私も……機械生命体、なの……っ!?」

「君の場合は春香の肉体がベースになってる。『ネクスター』とは別物だ。特に脳は……春香そのものといってもいい」

 だからか。だからなのか。
 鋼血の力であっさりiドールになれたことも。
 なつきが驚くほどの早さで、サーカスの動きを習得できたのも。
 電撃に弱く、全身でバチバチとショートする音が聞こえるのも。
 元々機械の部品を内蔵していると考えれば、理解ができる。もしかするとツバサやオウカも……iドールたちはみんな、独人が造ったサイボーグだったのかもしれない。
 
 だが一方で、理解できないことも多々ある。
 何故、今の春香は成績優秀ではないのか。幼い頃などの記憶は、独人に植え付けられたとでもいうのか。身体測定などで異常が見つからないのは? まさか独人が同じ高校に通っているのは、そうした不都合な真実を隠すためとでも――。
 
 疑問はいくつも生まれてきた。混乱して、頭がおかしくなりそうだ。
 だが、間近で独人の瞳を見詰めていれば、わかることもある。
 そう、彼が話していることは、全て真実なのだと。
 
「全てを伝える時間はなさそうだ。だけど、これだけは信じて欲しい」

 天才と呼ばれつつ不器用なところがある少年は、薄く笑った。
 
「君のことが好きだ、春香。できるなら二度目の人生は、普通に幸せを掴んで欲しかった。だからオレなんか比べ物にならない優秀な君の頭脳は、敢えて制限をかけて本来の能力を発揮できないようにしておいた」

 独人の顔が鼻先まで接近して、ふたりの唇は重なった。
 やさしい感触が、春香の唇に伝わる。懐かしい、感触。
 キスが離れた時には、春香の頬は濡れていた。
 
「……今のが、脳のロックを外す鍵だ」

 独人の頬にも、涙が伝っていた。
 何度目かの、そして初めてのキスの味は、春香にとって苦かった。
 
「本当の、オレ以上の天才だった立花春香がこれで蘇る。……あとは、頼んだよ」

 金属髑髏が手を振り下ろす姿が、独人の背中越しにかすかに見えた。
 
「あっ!! 危なっ……!!」

 ドシュドシュドシュッ!! ジュボオオオォッ!!!
 
 シーヴァのレーザーが。オーディンのハサミが。ゼウスの触手が。
 ただの人間である独人の全身を串刺しにしていた。
 真っ黒な血が噴きだし、バシャバシャとサクヤの身に降りかかる。ピンク色の制服が、赤黒い液体に染まる。
 
「いやあああ”あ”っ……!! いやああア”ア”ア”ァ”っ―――ッ!!!」

「時間オーバーだ。死ね。我が最悪の失敗作よ」

 胸を、腹部を、独人は貫かれていた。
 無数の穴からドボドボと黒い血が流れる。心臓も無事でないことは、サクヤの眼からも明らかだった。
 
 不意に脳裏に、記憶が蘇る。封印されていた、かつての記憶が。
 春香は白衣に身を包んでいた。どこか薄暗い建物の、休憩所。自動販売機が並ぶ横で、驚く独人の顔に唇を近づけていく――。
 初めてのデートは映画にいった。他にはお客さんが5人しかいないコメディ映画。笑う場所が同じところで、私はすっごくホッとしていた。
 外食はいつもバーガーショップだった。栄養価が低いとあなたは愚痴るのに、私に付き合ってくれてたね。お互いお金がなかったもんね。彼が嫌いなポテトはいつも、私が食べる役目だった。
 雨の日にはよく彼の傘に入れてもらった。ごめんね、本当は折り畳みがあったけど、私はあなたの隣がよかった。誰かに見られないかと気にしていながら、雨を避けて私は身を寄せるの。
 
 思い出す。
 思い出してくる。これまで無くしていた、たくさんの記憶が。記憶の洪水が。
 
 だけど、どうして。どうしてこんな、つまらないことばかり。
 どうでもいいことばかり、あなたの記憶が浮かんでくる。
 
 大好きな独人が、死んでいこうとしているのに。
 
「……けッ!! けけ、けッ!!」

 血を吐きながら、独人は吼えた。
 怪鳥のようなその声を、はじめサクヤは笑っているのかと勘違いした。
 
「けけ、計算ッ……!! 通りだぜェッ―――ッ!!!」

 真っ白な顔で、大和独人は咆哮する。
 引き攣りながら作った笑顔は、春香のためでもあり、父親への意地でもあったかもしれない。
 
「オ、オレは鋼血で変身できねえがッ……!! 身体使って運ぶことはできるんだよォッ―――ッ!!!」

 サクヤに降りかかった独人の血が、光沢を帯びて固まってきていた。
 鋼血だった。全身にありったけ輸血して、独人はこの場に、サクヤのために運んできたのだ。
 今のサクヤは、大量の鋼血を浴びて、頑強な鎧を纏ったも同然――。
 
「いやあ”ァ”っ……!! 嫌だよ、独人っ!! 私、私っ!!」

「……悪いな、春香。……君なら……きっと、できるさ」

「せっかく、あなたのことを思い出したのにっ!! 嫌だっ!! いやあああア”ア”ぁ”っ~~~っ!!!」

 ハサミと触手からずるりと抜けて、独人の身体がサクヤの膝に落ちてくる。
 微笑を浮かべたまま、大和独人はピクリとも動くことはなかった。
 開いたままの瞳には、なんの光も灯ってはいなかった。
 
「うわあああア”ア”ア”ァ”っ~~~っ!!!」

 鋼鉄の枷を、漆黒の鎧に包まれたサクヤは引き千切っていた。
 吼える。涙の雫を振り飛ばして、絶叫する。
 4本腕のロボットが、サクヤの前に立ちはだかった。破壊者シーヴァ。全ての武器をサクヤに向け、真っ向から襲ってくる。
 
 身体ごとシーヴァの胴体に突っ込んだサクヤは、そのまま青いアンドロイドを貫通していた。
 一瞬遅れて、爆発が起こる。三幹部の一体が、炎に包まれ粉々に吹き飛ぶ。
 
「こ、殺せッ!! 立花春香を殺すんだッ!!」

 金属髑髏が声高に叫ぶ。独人の仇。このまま命尽きても構わない。『ネクスター』の群れに飛び込むべく、サクヤの脚に力がこもる。
 だが、元々拷問で死に瀕していた少女は、くるりと背を向けた。
 元テレビ局の屋上から、飛び降りる。
 感情に任せて、死を選ぶのは簡単なことだった。しかし、今やドールピンク・サクヤの両肩には人類の未来がかかっている。独人から、ツバサから……死んでいった仲間たちから、少女は希望を託されたのだ。
 
 轟音が響き、サクヤはアスファルトの地面に埋まっていた。
 ギシギシと、全身が軋む。鋼鉄の鎧に包まれていなければ、バラバラになっていたことだろう。
 遥か頭上、ビルの屋上が騒然としていた。すぐに『ネクスター』の追手が、サクヤを抹殺に向かってこよう。
 
 ヨロめきながら、サクヤは走った。
 引きずるように、歩くことしか出来なかった。それでも懸命に駆けた。今出来る全力で、ドールピンク・サクヤは逃げるしかなかった。
 
「……独人っ……!! ツバサ、さんっ……!! オウカさん……っ!!」

 仲間たちの思い出が、脳裏を駆け巡る。
 かつての記憶が、次々に蘇ってくる。科学者として、ドクター大和の元で研究していた日々。サイボーグの仕組み。今はもういない、両親や研究仲間のこと……。
 
 これからは、たったひとりでドールピンク・サクヤは『ネクスター』と闘わねばならなかった。
 独人とともに得た、iドールの知識と鋼血とが、人類最後の希望となるだろう。
 
 壊れそうな身体を支えて、サクヤこと立花春香は走り続けた。
 ボロボロと溢れる涙を、春香は止めようとしなかった。
 
 もし生き残れたら……この場を逃げきれたら……私は必ず『ネクスター』を倒す。
 その時には、もう二度と泣かない。独人のことも、思い出さない。
 
 涙を枯らし尽くすため、泣きながら立花春香は無人の道を走り続けた――。
 
 
 
 《鋼血の姫甲士 ~花の章~  完 》
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