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巨大変身ヒロインのオリジナル小説を書いている草宗の独り言をつぶやくブログです。

草宗の書斎

「鋼血の姫甲士 ~花の章~」第2話「ドール殲滅計画」3・4章(完結) | main | 「鋼血の姫甲士 ~花の章~」第2話「ドール殲滅計画」1章
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「鋼血の姫甲士 ~花の章~」第2話「ドール殲滅計画」2章
 2、青の惨劇
 
 
「シーヴァ。お前のカメラに中継を接続しろ。全世界の人類に、特等席からの視点でドールブルーの処刑シーンを楽しんでもらおうではないか」

「わかりました、ドクター」

 青色のドラム缶、といった破壊者シーヴァの胴体内部で、レンズがギラリと光を放った。シーヴァの体内には様々な工具や道具が隠されているが、カメラもあったことをツバサは知る。
 元テレビ局の屋上。十字架に磔にされたドールブルー・ツバサは、『ネクスター』の機械生命体にぐるりと周囲を囲まれていた。
 
 あと2時間で、公開処刑される――。
 敵の宣言を聞きながら、ポニーテールの少女戦士は己の最期を覚悟していた。
 iドールになったときから、命は捨てたつもりでいる。この場所、『ネクスター』のアジトに乗り込んだ時には、その覚悟は改めて胸に刻んでいた。

 
 身体の内部で爆発が続いており、激痛が全身を支配している。
 十字架に磔にされていなくとも、今のツバサに動くことなど困難であった。自分はスクラップ同然であることを、ツバサ自身が悟っていた。
 
「iドール、か。独人め、つまらんものを造ったものだ」
 
 ドクターと呼ばれた、白衣の中年男が目の前にまで近づいてくる。
 この男がどうやら、『ネクスター』の中心人物。暴走する人工知能〝アダム〟を、手助けしている存在らしい。
 つまりは大和独人の父親……大和幸四郎博士だ。
 
「あなた……が……ッ……」

 目の前に来たドクター大和を見て、ツバサの口から掠れた声が自然に出ていた。
 白衣の上に乗った頭部は、金属製の髑髏であった。
 眼球のみが、生身と思われる。恐らくは神経で繋がった脳も、大和幸四郎生来のものだろう。
 だがそれ以外の顔は、すべて機械で造られたものであった。それをドクター大和は、隠しすらしていない。
 
「不気味だ、とでも思っているかね? 日鷹なつき。いや、今はドールブルー・ツバサと呼ぶべきか」

 それだけは人間のものである眼球が、ギロリと磔のセーラー服姿を睨む。
 
「半ば機械化された肉体、という意味ではお前も同じだろう。ただ、私の方が完成度が高いだけだ」

「……ボクたちは……金属の身体と共存しているだけだ……。人間を捨てようとした、あなたとは違うよ」

「下等な存在が、私と対等な口を利くんじゃないッ!」

 ドクター大和が顎をしゃくると、破壊者シーヴァの腕のひとつがツバサに迫った。
 先端がドリルになっている。
 ツバサの右腕、切断された手首の断面にドリルが突っ込まれると、ガリガリと回転して、剥き出しになっている鈍色の骨を削った。
 
「ぐあああ”あ”ッ――ッ!!! があ”ッ、アア”……!! ぐううう”ぅ”ッ~~~ッ!!!」

「独人ごときの頭脳で生み出されたポンコツが、この天才の私に勝てると思ったかッ!! 知能の差をお前のカラダで思い知れッ!!」

 絶叫するツバサに構わず、シーヴァが新たな腕を伸ばす。
 今度はカッターになったものだった。ギュイ――ンンと刃が回転し、左の脇腹にピタリと当てられる。
 鋼血によって金属化されたツバサのセーラー服。水色に変わったそれが、普通の生地のように易々と切られた。
 メタルボディと化している肉体が、火花を散らしてカッターに切断されていく。町工場で奏でられるような甲高い音色が、磔少女の横腹で響いた。
 
「ぎゃああああ”あ”ア”ッ~~~ッ!!! はあぎゅッ!! グガアッ!! ウギャアアア”ア”ッ―――ッ!!!」

「鋼血、といったか? そんなものは、三幹部に搭載した合成金属の前には通用しない。いずれ大量生産した暁には、全てのビーストに使用する予定だ」

 水色のセーラー服ごと肌が裂け、鈍色の内部が露出する。
 ポニーテールの美少女がメタル化した肉体を持っている……その事実が改めて、白日に晒されていた。満足したようにシーヴァの責めがやむ。
 代わりに胴体内部のカメラが近づき、痛みに喘ぐ顔と、金属の内臓が覗く傷口とを撮影する。
 ツバサの惨状がリアルタイムで、ネットに生配信されていることだろう。これらの動画はiドールを辱めるのみでなく、人類に衝撃を与える意味でも、絶大な効果を生むに違いなかった。
 
「独人ともうひとりのiドールを誘き出すため、お前にはたっぷり悲鳴をあげてもらうぞ。シーヴァ、あとはお前たちに任せる」

「了解しました」

「くれぐれも、殺すなよ? 死んでしまったらエサとして使えない」

「了解しました」

 赤銅のカニと白銀のタコ。戦神オーディンと全能ゼウスが、巨体をツバサの近くまで移動させてくる。
 オーディンは左右のハサミをガチガチと鳴らし、ゼウスはその気球のような頭部のモニターに、計算式を並べている。よく見れば、ポニーテールの3Dフィギュアが画像のなかに描かれていた。
 
「我、解析セリ。ドールブルー・ツバサ、貴殿ノ肉体構造ハ、マモナク100%分析終了トナル」
 
 無数のチューブを触手のごとく蠢かせるゼウスの姿に、ツバサは背筋を凍らせた。
 だが、まずポニーテール少女を襲ったのは、言葉を話すことのない戦神オーディンであった。
 左脚に、赤いハサミが突き出される。あっと思った時には、筋肉でパンンパンに詰まった太ももに、巨大なハサミが食い込んでいた。
 
 グググ、と刃が埋まっていく。
 肉の一部では済まない。太もも全体、丸ごとを圧迫されるのだ。脳天に鋭く送り込まれる激痛に、たまらずツバサは仰け反った。拘束する十字架がガタガタと揺れ、額から汗が噴き出す。
 
「うぐぅ”ッ、ぐうううゥ”ッ~~~ッ!!」

 まさかこのまま、太ももを切断する気なのかッ!?
 
 そんな恐怖が脳裏に浮かび、反射的に否定しかけた。まさかそんな、と。
 だがツバサは知る。
 己が闘っている相手は『ネクスター』。機械生命体であることを。
 肉体の一部が欠損することを、彼らは意に介さない。修理で簡単に直るからだ。だから特別と捉えない。四肢のひとつを奪うことに、躊躇するわけもない。
 そもそも容赦という感情を、持ち合わせていない。
 
 太ももの肉を切り裂いて刃が埋まった、と見えるや、オーディンはそのまま怪力でツバサの左脚を引っ張った。
 
 ブヂイッ!! ブヂブヂブヂィッ!! ビリリイィ”ッ―――ッ!!!
 
「へはア”ッ!? ひぎゃああああア”ア”ア”ァ”ッ―――ッ!!! あ、脚ぃ”ッ!! 脚がああぁ”ッ~~~ッ!!!」

 ツバサの左脚が太ももから切断され、引き千切られる。
 太いチューブが数本、一瞬長く伸びて、ブツンと切れた。恐らくは、鋼血によって金属化した筋線維だろう。脚の骨もハサミによって切断され、周囲でバチバチと火花がショートしている。千切れた無数のコードが、しだれ桜のようにだらりと無造作に垂れ下がった。
 
 ゴトンッ、と重々しい音をあげて、屋上の床にツバサの左脚が捨てられる。
 
 不揃いな断面から、黒いチューブや赤いコードがいくつも飛び出ていた。まるで血だまりのごとく、床に広がる。
 見た目には女子高生の生足だというのに、断面から覗くのは金属の部品ばかりというアンバランスだった。
 
「あ、脚ッ……!! ボ、ボクの……ッ……脚ィ”……がああ”あ”ぁ”~~~ッ……!!!」

「解体ショーは、まだまだこれからです」

 シーヴァの声に合わせるように、カニに似た戦神オーディンが、もう一方のハサミを伸ばす。
 ツバサの腹部に刺さったままの、鋼鉄の槍。
 その先端をハサミが掴むと、バヂィッ!! と黄色の稲妻が踊る。
 
 オーディンに内蔵された小型の原子力発電。
 そこで生み出された高圧電流が、槍を通じてツバサの体内に注がれたのだ。
 
 バリリリッ!! バヂヂッ!! ズババババァッ!!
 
「はぐう”う”ッ―――ッ!!! ごぶぅ”ッ!! ふぎゃハア”ッ、ウギャアアアア”ア”ア”ァ”ッ~~~ッ!!! は、ハジケッ!! ハジケるぅ”ッ――ッ!! お、お腹がァ”ッ~~~ッ!!」

 ゴブゴブと泡を吹き、涙を流してツバサは悶え叫んだ。
 バチバチと体内で、電撃が蹂躙している。槍が刺さった穴から、黒い煙がシュウシュウと昇った。
 
「いいザマです。ドールブルー・ツバサ。たとえドールピンクがこの場に現れようと、お前が死ぬのは確定しました」

 抑揚のないシーヴァの声が響き、回転するカッターが水色のセーラー服に当てられる。
 ツバサの胸の、やや下。鳩尾部分で、カッターがギャリギャリと生地と肉とを削り始めた。
 
「あぐう”ッ!! あがあああ”ア”ア”ア”ァ”ッ~~~ッ!!! や、やめッ……グギャアアア”ア”ァ”ッ―――ッ!!! お、お腹ぁ”ッ……!! 引き裂がれぇ”ッ!! でじまうぅ”ッ――ッ!!!」

 カッターの刃が埋まるたび、煙と火花がツバサの鳩尾で噴き出す。
 金属を削る音色と、壮絶な悲鳴がネットを通じて全世界に配信される。
 
「やれやれ。獲物がかかる前に殺さなければいいが」

 中年男のつぶやく声が、凄惨な叫びの奥でわずかに聞こえた。
 
 
 
 雪崩れのような響きが、四周を囲むアンドロイドたちの一角で湧き起こる。
 機械生命体で出来た垣根が、そこだけ消えている。倒れているのだ。何体ものビーストが。
 三幹部ほどでなくても、意志もつマシンは人類には脅威だ。拳銃程度では倒せない。
 軍隊を動員しようにも、コンピューターが搭載されている装備は、〝アダム〟の影響を考えれば起動できないはずであった。ハイテク時代であるが故に、人類は昔ながらのシンプルな武器しか、使用できないのだ。
 
 そんな時代に、『ネクスター』に対抗できる存在は、ひとつしかいない。
 
「来たか、iドール」

 金属髑髏の言葉に応えるように、ブレザー制服の少女が姿を見せる。
 
「……そうだよ。罠とわかってて、私は来た。あなたたちから、逃げるわけにはいかなかった」

 セミロングの栗色の髪に、キュートなマスク。
 黒目がちな瞳を真っ直ぐに向けて、立花春香は屋上に現れた。
 学校指定のブレザーは、まだ緑色を基調にしたものだった。つまりまだ、変身はしていない。ドールピンクにならずして、ビーストの群れを倒したのだ。
 
「私はもう、失わない。オウカさんに続いて、ツバサさんまで失うわけにはいかないもの」

 右手に握った金属製のヨーヨーを、見せつけるように春香は高く掲げた。
 スピン・シューター。先代のドールピンクであるオウカが、得意にしていた武器。
 自分がオウカの正当な後継者だと、訴えているかのようであった。
 
「……お前が、ドールピンクなのか?」

 春香の姿が明るみに出るにつれ、金属髑髏の眼球が瞳孔を小さくした。ように見えた。
 
「そうだよ。ドールピンク・サクヤ。変身前の本名は、立花春香」

 敢えて春香は、本名まで名乗る。どうせ敵にはバレているのだ。ネット中継されている画面の向こうの人々にも、こんな人間がいたことを、知っておいてもらいたかった。
 
「立花春香だとッ!? ……バカなッ!」

 明らかな動揺を、白衣の男が示す。どうやらこの不気味な金属髑髏のサイボーグが、この場のボスであるらしい。
 本名を晒すことが、そんなにも意外だったのか? 機械生命体らしからぬ反応だった。だが動揺してくれるのは、むろんチャンスだ。
 
「……はる……かッ……!! ……に、逃げ……ッ!!」

 漆黒の十字架に磔にされたドールブルー・ツバサが、絶え絶えの声を振り絞る。
 酷い姿だった。
 左脚は太ももから切断され、腹部は大きく切り裂かれていた。鈍色の内部が覗き、まるで臓器がこぼれ出たかのように無数のコードや残骸が垂れさがっている。
 股間からは、掌に乗るくらいの塊がチューブと繋がったまま飛び出ていた。……ツバサの、子宮だ。
 無惨に破壊された金属製の子宮を見て、春香の瞳から涙が溢れた。
 
「……ひどすぎる……ッ!!」

「…………ボク……はッ……も、もぅ……ッ!! ……き、君……だけ、は…………ッ!!」

「ううん、逃げないよ」

 濡れた瞳を凛と輝かせ、白衣の男を、そしてシーヴァを春香は睨んだ。
 
「ただ、ツバサさんを助けるためじゃない。私は……『ネクスター』と決着をつけに来たのっ!!」

 春香は走った。
 十字架に向かって。その傍らにある、4本腕のアンドロイドに向かって。
 崩壊させるべき『ネクスター』のなかでも、破壊者シーヴァに対する感情だけは別だった。この因縁の敵だけは、どうしても春香の手で倒したい――。
 
「愚かですね。変身もせずに突っ込むとは」

 呟くシーヴァの代わりに、動いたのは赤銅の巨体だった。
 戦神オーディンが、壁となって春香の前に立ちはだかる。カニを思わす凶悪なハサミが、春香の頭上から振り下ろされた。
 
 ガツッ、とコンクリートの床を穿いて、ハサミは春香の足元に刺さっていた。
 ブレザー姿は跳躍していた。ギュルン、と空中で前方宙返りをしている。
 グラビアアイドルのようなルックスの少女が、体操選手のごとく宙を舞う。驚くべき光景だった。しかも春香は、そのままオーディンのハサミの上に着地する。
 
 駆け上がる。巨大カニの、腕の上を。
 日鷹なつき仕込みの、サーカスの技だった。春香の身に宿っているのは、オウカの武器だけではない。ツバサの体術が、美しいだけが取り柄だった少女に根付き始めていた。
 
「解読不能。解読不能。不測ノ事態発生」

 白銀のタコが、けたたましい音声を発する。触手に見える太いチューブを、ぐにゃぐにゃともどかしいように蠢かせている。
 
「ドールピンク・サクヤ、大幅ニデータノ修正ガ必要ナリ。成長予測ニ、重大ナ過誤発生中。発生中」

 気球を思わせる頭部のモニターに、おびただしい計算式が流れている。全能ゼウスが混乱していることが、春香にもよく伝わった。
 このゼウスにはスーパーコンピューターが搭載されているのだろう。だが、春香の動きをタコのようなアンドロイドは、解析できていないのだ。
 以前の闘いから三カ月、なつきの元で特訓を重ねた春香の成長は、スパコンの予測を大きく上回っていた。サーカスの動きを取り入れること自体が、想定外だったのかもしれない。
 
 無数のチューブを蠢かせるだけで、ゼウスはその場を動かなかった。計算と分析に集中し、フリーズしたかのようだ。
 もはや戦力にならなかった。
 春香にとっては、絶好のチャンス到来――。
 
「てやあああ――っ!!」

 登頂したカニを踏み台にし、上空高く、ブレザー少女が飛び上がる。
 
「調子に乗らないことです。隙だらけですよ」

 オーディンの背後。待ち構えていた破壊者シーヴァが、ドリルの腕を突き出していた。
 空中の、春香の可憐なマスクに向かって。
 
「いいえっ!! 私は調子にっ……乗りまくるっ!!」

 アンティーク調の金色の鍵を、春香は右手首に挿していた。
 黒いリストバンドのなかに、スッと鍵が入る。同じく黒い穴が、春香の右手首には開いていた。普通の人間には、有り得ないはずの鍵穴が。
 
「アクセルっ!!」

 シーヴァのドリルを右手で受ける。受けると同時に春香は叫ぶ。
 ドリルの回転を受け止めた鍵が、ギュルルルッ、と高速で回った。春香の右手首に刺さったままで。
 
 ブルンッ……!! ブルンブルンブルンッ!!!
 
 バイクのエンジンをかけたような、排気音。
 血が巡る。鋼血が。
 人の肉体を鋼と化す血が、春香の全身を、特注のブレザーを、沸き立ちながら駆け巡る。
 
 ドドドッ……ドドドドオオオォォッ!!!
 
 F1マシンのアクセルを全力で踏み込んだなら、きっとこんな轟音がする。
 鋼の闘姫は完成した。緑のブレザーは、鮮やかなピンクに色を変えた。フレアミニのスカートも、膝下までのハイソックスも、全てが同じ色。
 
 ドールピンク・サクヤ、ここに参上。
 
「勝負よっ!! シーヴァぁっ!!」

 横回転で旋回しながら、サクヤはオーディンの後頭部に蹴りを放つ。ローリング・ソバット。不意を喰らったカニを吹っ飛ばすとともに、自らの推進力を生み出す。
 眼下で待つ4本腕の青いアンドロイドに、サクヤは突っ込んだ。
 ドリル。カッター。マジックハンドに、レーザー。
 シーヴァの持つ武器が、一斉に空中にあるピンクの闘姫を迎え撃つ。
 
「お前の死ぬ瞬間を、至近距離から全世界に中継してあげます」

 観音開きになった胴体の内部で、丸いレンズが光を反射していた。
 迫るカッターを、サクヤの素手が弾き返す。ギャイィンッ、という澄んだ音色。
 ドリルもガードする。マジックハンドも跳ね飛ばす。
 しかし最後の難関、レーザーだけは空中に浮いた態勢で逃れることはできなかった。
 
 空気を焼くジャッ!! という射出音。
 赤いレーザーが、身を捻じったサクヤの右の脇腹を、正面から背中へと貫通していた。
 
「うぐぅ”っ!!」

 苦悶の呻きとともに、鮮血の塊が口から吹き出る。
 
 構わなかった。これぐらいは……覚悟の上だ。
 すでに『ネクスター』の犠牲になった人々は数知れない。先代のピンク、オウカは春香を助けるために命を失った。
 人ひとり、ツバサの命を救おうというのに、自分の命に保証があるなど、思っていない。
 
「うあああああっ―――っ!!」

 ドガガガガアアァッンンンッ!!!

 渾身の拳を、サクヤはシーヴァに叩き込んだ。
 何度も。何発も。地面に着地する、その間際まで。
 
「ドールピンク・サクヤ。以前より格段に強くなっているのは確かですね」

 肩で息をするサクヤの前で、破壊者シーヴァは冷たい声で言った。
 眼前の敵を、ピンクの闘姫は反射的に見上げる。
 数十発のパンチを浴びせたのに、シーヴァの青い身体には凹みひとつなかった。
 
「しかし、我々の特殊合金の方が、お前たちよりずっと硬い。壊れたのは、お前の方です」

 握ったままのサクヤの両拳から、赤い飛沫がブシュッと噴き出した。
 
「iドール。お前たちに勝機など皆無であることが、これでわか……」

 ゴガンッ!!
 
 シーヴァの声を、重い打撃音が掻き消した。
 鮮血に濡れた拳で、サクヤは右のストレートをシーヴァの内部に撃ち込んでいた。
 
「無駄です。私の内部は、外装同様に強化されている。お前の打撃などまるで通用……」

 ドガアッ!! ガガンッ!!
 
 構わず激痛の走る拳を、サクヤは撃ち続けた。
 恐らく手の骨にはヒビが入っているだろう。自分でも気付かぬうちに、大きな瞳に涙が浮かんでいた。
 
 だが。それがなんだというのだ。
 
「うおおおっ……うりゃああああっ―――っ!!!」

「愚かな。お前の拳の方が砕けていくことが、理解できないのでしょうか。その攻撃は無意味です」

「無意味でもやるっ!! ダメだとわかっていても、諦めないのが人間なんだよっ!!」

 自分がやっていることは、きっと正解ではない。この攻撃も。ここに来たことも。
 サクヤはそうわかっていた。それでも問いたい。だからこそ……不完全な人間だからこそ、問いたい。
 
 機械生命体のあなたたちに、こんな間違った選択ができるというのか?
 
「皆さんっ!! レンズの向こうにいる、皆さんっ!! 私のことが、見えていますか?」

 ドラム缶のような、シーヴァの胴体。その内部に血染めの連打を放ちながら、丸いレンズをサクヤは見詰めた。
 
「私はドールピンク・サクヤといいますっ!! こうやって……!! 人類を滅ぼそうとする、恐ろしい機械生命体『ネクスター』と闘っていますっ!!」

 響け、と願った。
 突然の人工知能の反乱に、パニックに陥っている人々に届け、と。
 悲惨な状況に涙している人々に、私の闘いを見ていて欲しい――。
 
「私はきっと、この場で彼らに殺されます」

 だから、私の最期を。
 諦めない人間の姿を、見ていて欲しいとサクヤは願った。
 
「どんな残酷な目にあってもっ!! 私はとことん闘い抜きますっ!! だから見ていて。こんな私でも闘えるんですっ、皆さんだってきっとできるっ!! 『ネクスター』と闘えるっ!!」
 
 ボロっと、大粒の涙が瞳の淵から溢れて流れた。
 
 笑わなきゃ。
 みんなが私を見ているんだ、もっと……笑おう。
 未来を託す人類に、私は希望を与えなきゃ――。
 
「大丈夫っ!! 私たちには、独人くんがいます」

 殴ることを中断し、サクヤは血濡れた両手でピースサインを作った。
 満面の、笑みを浮かべる。
 
「私たちiドールを開発した……天才の、大和独人くんがいますっ!! 彼がきっと、なんとかしてくれるっ!! 私が死んでも……だから皆さん、絶対に大丈夫っ!!」

 ボロボロと涙を流しながら、最高の笑顔をサクヤは見せた。
 やることはやった。遺言は……残せた。
 あとはツバサを救い出し、闘い抜くだけだ。
 
「……どういう……ことでしょう?」

 抑揚のないシーヴァの声が、かすかに震えているように感じたのは気のせいだろうか。
 サクヤの連打が止まったというのに、シーヴァは反撃してこなかった。
 4本の腕が、小刻みに揺れている。
 
「なぜ……私のカラダに、ダメージが? ……ドールピンク・サクヤの攻撃など、私には通用しないはずです」

「ねえ、忘れてない?」

 ピースしていた両手を再び握り、サクヤは見せつけるように突き出した。
 
「私の血は、鋼血なんだよ。噴き出したこの血で、拳はどんどん硬くなった」

 その事実にサクヤが気付いたのは、さんざん拳が壊れた後であった。
 だが。無意味だと思っていた攻撃に、意味はあった。
 諦めないで遮二無二殴っていたからこそ、サクヤの拳はシーヴァに効いた。
 
「不完全な私たちだからっ!! できることも、あるっ!!」

 勢いよくサクヤは、両腕を広げた。
 左右の手首を捻じる。切り札だった。鋼血を大量に使う、失血死の危険を孕んだ命懸けの切り札。
 手首にパクリと穴が開き、真っ赤な鮮血が一直線に噴き出す。
 
「ブラッディ・ソードっ!!」

 鋼血で造った、2本の剣。
 紅蓮の血刀をサクヤは突き出した。真っ直ぐ、シーヴァの顔面へ。
 
 重い衝撃音と爆発の音色が響いて、鋼血の刀はアンドロイドの右眼と額を貫いた。
 
「……バ……カな……ッ!!」

 呟くシーヴァの頭部で、次々と火花がショートする。
 稲妻がバチバチと、シーヴァの巨体を包む。ひとつだけ残った左眼は天を仰いでいた。もはやピンクの闘姫を映してはいない。
 ガクガクと4本の腕を震わせる青いアンドロイドから、サクヤは血刀を引き抜いた。
 
「ツバサさんっ!!」

 勝利の余韻に浸る余裕など、サクヤにはなかった。
 ピンク色のブレザーを翻し、十字架に駆け寄る。脚がもたついた。血が脳に回らなくて、意識が遠のきかかっている。上半身が凍えるように寒く、視界は半ば暗く翳っている。
 
 この後、『ネクスター』の群れから脱出するなんて、不可能だろう。
 だがせめて、ドールブルーだけは助けたかった。自分はここで盾になるから、ツバサさんだけは逃がさないと――。
 鋼血の刀で拘束具を斬って、青のセーラー少女を解放する。
 
「…………は、るか……チャン…………ッ……!!」

「しっかりっ!! しっかりしてください、ツバサさん!! 大丈夫っ!! 絶対……絶対にツバサさんのことは助けますからっ!!」

 右手と左脚を切断され、腹部と股間を切り裂かれた身体を、サクヤは強く抱き締めた。
 ポニーテールの少女は、虚ろな瞳をゆっくりと向ける。華奢な肢体が、腕のなかでやけに軽くサクヤには感じられた。
 無惨に変わり果てた「サイダーのような少女」。立花春香にサーカスの体術を教えてくれた、愛すべき青色の先輩闘姫。
 
 吐血で赤く濡れた唇を、ドールブルー・ツバサはパクパクと開閉させた。
 
「……逃げ……るんだ…………ッ!!」

 どこにそんな力が、残っていたのか。
 片腕でツバサは、強くサクヤを突き飛ばした。思わずピンクの闘姫は、ドールブルーを腕のなかからこぼす。
 
 その瞬間。閃光と轟音が、サクヤの眼前で炸裂した。
 
「きゃああああっ!!」

 意識が数瞬消し飛び、なにが起きたか、サクヤは理解できなかった。
 灼熱。痛み。頭を締め付けるような耳鳴り。全身を襲う虚脱感。
 
 気が付けばサクヤは、うつ伏せで屋上の床を這っていた。
 ビリビリと、轟音の余韻が地面を揺らしている。熱気が渦巻いていた。火事の現場にいるような、そんな錯覚をしてしまう。
 シュウシュウと、黒い煙が全身から昇っている。火箸を押し付けられたような苦痛が、あちこちに起きていた。ピンクのブレザーは大部分がブスブスと焼け焦げ、ほとんど素肌が露出してしまっている。
 
 爆発したのだ。ようやく事態を、サクヤの脳は呑み込んだ。
 
 ツバサの身体が。
 ツバサの下腹部で爆発が起こり、サクヤも巻き込んだのだ。
 もしツバサが突き飛ばしていなければ、今頃サクヤも確実に死んでいた。助けようとして、助けられたのはサクヤの方だった。
 
 この場にサクヤが来るまでに、ツバサは壮絶な蹂躙を受けていた。
 腹部にも、女性器にも、凄惨な仕打ちがあったのは姿をみれば明らかだ。『ネクスター』が爆弾を埋め込む時間など、どれだけでもあった。
 
「うあっ……!! ア”ア”ァ”っ……!!」

 水色のセーラー服を纏った少女が、数m先に転がっている。ポニーテールにした黒髪と、凛とした切れ長の瞳が特徴的な美少女。
 床を這い、懸命にツバサの元へいこうとして、サクヤは気付いた。
 
 ドールブルー・ツバサの腹部から下は、無くなっていた。
 鮮血にまみれた無数のチューブが、溢れ出しているだけ。
 細かな金属の破片と、床に描かれた黒い焦げ跡が、ツバサの下半身が爆発で消し飛んだ事実を示している。
 
「いやあっ……!! いやあああぁ”ぁ”ぁ”っ~~~っ!!!」

 ドールブルー・ツバサは、死んでいた。
 光を失った瞳で天を見上げながら、全ての活動を停止していた。
 もはや飛べなくなった空を懐かしむかのように、目尻から垂れた鮮血がすっと頬を流れた。
 
「まず一匹。処刑完了だ」

 中年男の声が頭上から降り、サクヤの後頭部に圧力がかかる。
 グチャッ、と粘った音がして、サクヤは床に口づけをしていた。白衣を着た金属髑髏が、ドールピンクの後頭部を踏みにじっている。
 
「次はお前の番だ。ドールピンク・サクヤ。貴様らを生かしておくわけにはいかん」

 暗黒に呑まれていく意識のなかで、サクヤは男の声を聞いた。
 以前にもどこかで、聞いたことのある声だった。
 
 深い虚無がピンクの闘姫に訪れると同時に、iドールの敗北は決定した――。
 
 なつき05
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| 鋼血の姫甲士 | 09:08 | トラックバック:0コメント:1
コメント
このお話は終わりが近いので、サイボーグヒロインにやりたいことを全部詰め込むくらいの気持ちで取り組んでいます(^^ゞ
そのぶん、少し内容がハードめになっているかと思いますが……その点に気をつけて、お楽しみいただければ幸いです。

いつも挿絵をお願いしている信さまに、今回も素晴らしいイラストを描いてもらいました!(≧▽≦)
表紙の磔絵ともども、是非ご堪能くださいm(__)m
2018.07.23 Mon 09:09 | URL | 草宗
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