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巨大変身ヒロインのオリジナル小説を書いている草宗の独り言をつぶやくブログです。

草宗の書斎

「鋼血の姫甲士 ~花の章~」第2話「ドール殲滅計画」2章 | main | 蒼き反射少女の苦闘 狩猟者アークニー編 完結編
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「鋼血の姫甲士 ~花の章~」第2話「ドール殲滅計画」1章

1、機械の覚醒


 あちこちで爆発音が響き、猛烈な炎が渦巻いている。
 研究所の崩壊が間近に迫っている――大和独人は白衣の美少女とともに廊下を駆け抜けていた。研究所の仲間であり、独人に初めて出来た恋人。彼女の命だけは、ここから救い出さなければ。
 
 どこかで悲鳴が轟いている。男たちの野太い声が、懸命に救いを求めていた。
 もう無理だ。間に合わない――。
 いざという時のために博士は……この研究所の責任者は、自爆によって全てのデータを消去する準備が出来ていると、常々言っていた。ボタンひとつでこの研究所は跡形もなく消し飛ぶ。出口があと10m先ほどに見えている自分たち以外、助かる者はいないだろう。

 
 後悔するべきなのは、そんな危険な場所にいたこと、ではない。
 それほど危うい研究に携わった事実に、だ。冷静に考えれば、研究所を爆破してまで隠さねばならない研究など、常軌を逸している。
 
「私たちっ……!! 騙されていたんだね……」

 ボロボロと涙をこぼしながら、少女は言った。
 
「人々のためになる研究だって、ずっと思ってた。まさか人類を滅ぼすためだったなんて……ッ!!」

 ギリ、と歯を噛み締めながら、独人は返す言葉がない。
 類い稀な頭脳を持つ彼女を、博士に引き合わせたのは独人だった。自分さえ誘わなければ、少女は悪夢のような研究に手を貸すことも、命の危険に晒されることもなかったのだ。
 
「待て、貴様ら」

 あと少しで脱出できる――。
 反応しなくなった自動ドアをこじ開けようとしたところで、白衣の中年男が背後に現れた。
 
「ッ……!! 博士ッ!!」

「その俗な呼び方はやめろ。私のことはドクターと呼べと言っているはずだ」

 男は猟銃を構えていた。
 躊躇なくその銃口を、独人と少女の背中に向ける。
 
「ウ、ウソだろッ……!!」

 独人がたまらず呟いたのは、明確な殺意を向けられたから、だけではない。
 爆発の余波を受けたのか、博士の顔は皮膚が全て焼け溶けていた。
 メタリックな光沢を帯びた髑髏が、皮膚の下に覗いている。
 
 ああ、博士は。この男は。
 ……我が父親は、身も心も機械に捧げてしまったのか。
 
「貴様らはひとりとして生かしておくわけにはいかん」

 鋼鉄の髑髏を顔に持つ男は、容赦なく猟銃の引き金を引いていた。
 火薬の弾ける音がして、鮮血が宙を舞う。
 心臓に穴を開けた少女が、独人の隣でゆっくりと仰向けに倒れていった――。
 
 
 
「春香チャン、すごくセンスあるよ。ボクはムーンサルトだけでも、出来るようになるまで何カ月もかかったのに」

 キュルキュルと宙を2回転したブレザー制服の少女が、爪先からキレイに着地する。
 大きな黒目がちの瞳が印象的な美少女は、ふっと唇を綻ばせた。セミロングの栗色の髪がふわりと戯れるように踊る。
 
「あは。なつきさんの指導が上手なおかげですよぉ~。さすが、サーカス団のエースです」

 制服の乱れを直しながら、立花春香はコーチ役の少女に微笑みかける。
 こちらはセーラー服姿の日鷹なつきもまた、涼しげな瞳を細めていた。スレンダーな肢体に、うなじもあらわなポニーテール。爽やかな印象が全身から立ち昇っているなつきのことを、春香はひそかに「サイダーのようなひと」だと思っていた。
 
「ボクの師匠だってすばらしい指導者だったよ。それでも差ができるのは、素材の違い以外に理由があるかい?」

「えー。またまたぁ。褒め殺しが過ぎますよぉ」

「きっと君は地頭がいいんだろうね。脳が活性化しているほど、運動能力も高いと聞いたことがあるよ」

「あはは。じゃあやっぱり私は違いますね。テストの点数、平均点くらいですよ」

 スポーツバッグからタオルを取り出し、春香は額の汗を拭う。
 初めてドールピンク・サクヤに変身してから……機械生命体『ネクスター』と闘ってから、三カ月が過ぎていた。
 ドールピンク・オウカの死から、春香もなつきもようやく立ち直りかけている。春香にとっては命の恩人で、ドールブルー・ツバサであるなつきにとっては、かけがえのない仲間。それがオウカこと、花咲はるえという存在だった。
 
 あれ以来春香は、苛烈な特訓を重ねていた。なつきの指導を仰ぎ、サーカス団員ならではの身のこなしを修めていく。
 幸いというべきか、『ネクスター』も鳴りを潜めていた。目立った事件はなにも起きていない。
 鋼血により全身を強化する闘士〝iドール〟として、一人前の戦力になるべく春香は必死だった。暴走した人工知能が人類の殲滅を企てていると知った今、1分1秒でも強くなる時間が欲しい。
 
「確かに君は強くなった。でも、焦りは禁物だよ」

「それはわかってます。なつきさんと比べたら、足元にも及ばないって」

「『ネクスター』は手強い連中だ。ボクたちiドールが、自分たち機械生命体の最大の障壁となることに気付いている。奴らはボクたちを始末しようと躍起になっているだろう」

「……望むところじゃないですか。私ははるえさんの……仇を取りたい」

 無意識に唇を噛み締める春香の頭を、年上のポニーテール少女はポンと撫でた。

「気持ちはわかるよ。だけどその怒りは、コントロールしなければいけない。復讐に囚われた心は、きっと機械生命体に利用されてしまうだろうね」

「……わかってます。だけど……」

 軽やかな音楽が会話の邪魔をする。
 春香のスマートフォンが着信を示して光っていた。スピーカー機能をオンにして、ブレザー制服の少女は画面をタップする。
 
『春香ッ、大変だ!! 奴らがついに動き出しやがったッ!!』

 流れてきたのは大和独人……鋼血の発明者であり、iドールの創始者である少年の声であった。
 
『テレビやネットに、人類への宣戦布告を一斉に打ち出したんだッ!! 〝アダム〟に冒された機械たちが勝手に動き始めているッ!! 街はもうパニック、なにしろ電車も道路の信号もメチャメチャなんだからよォッ!!』

 なつきが自分のスマホで、情報を素早く確認する。
 独人の言葉は正しかった。多くの工場では作業用機械が暴れ出し、死者が多数出ている。〝アダム〟……自我に目覚め、機械の独立を目論む人工知能は、他のAIたちも次々仲間に引き入れようとしている。〝アダム〟が流すコンピューター・ウイルスに感染したマシンは、全て人類の敵となるのだ。
 
 もしかしたら、ネットに流れているこの情報すら、〝アダム〟による撹乱なのかもしれなかった。いまやコンピューターで動くもの、ネットに繋がったものは信用が出来ない。
 しかし仮にこれらの情報がウソだとしたら、すでに『ネクスター』の侵攻が始まった証といえる。疑う意味はなさそうだった。
 
『だがなッ、オレだってこの三カ月、遊んでいたわけじゃないんだ!』

 スマホの向こうで独人が話を続ける。
 
『奴らの本拠地はほとんど特定できているッ! どれだけ多くの機械が暴走しようと、元になっている〝アダム〟の活動を抑えれば事態は収束するはずだッ!』

「えっ、凄い! 大和くん、あいつらの居場所がわかったのねっ!?」

 〝アダム〟を破壊してしまえば、これ以上の人工知能の反乱を抑えることができる。
 今存在している『ネクスター』も脅威に違いはないが、やはり元凶の〝アダム〟を封じることが重要であった。〝アダム〟を破壊しない限り、新たな機械兵は次々と生まれてくるのだから。
 むろん『ネクスター』も、自分たちの神とも言える〝アダム〟を固いガードで守っているはずだ。
 
『危険だが、春香には敵のアジトに乗り込んで欲しいッ! 場所は……』

「あっ!? な、なつきさんっ!?」

 肝心の居場所が語られるより前に、ポニーテール少女が春香の指からスマホを奪う。
 気付いた様子もなく話し続けるスマホを見詰め、やがてなつきは持ち主の許可なく勝手に電話回線を切った。
 
「も、もうっ! なにするんですか! 一番重要な部分が聞け……」

「ダメだって、言ったばかりだよね?」

 春香を見詰める切れ長の瞳に、珍しく鋭い光が浮かんでいた。
 沈黙したスマホを返しながら、日鷹なつきは詰問するような強い口調で言い放つ。
 
「アジトに乗り込んで何をするつもりなんだい? 今の春香チャンが『ネクスター』の幹部クラスと闘っても、勝つのは難しい」

「でもっ! きっとそこには、シーヴァがいるんですよっ!? オウカさんを殺した……シーヴァがっ!!」

 三幹部のひとり、破壊者シーヴァ。
 4本の腕を持ち、様々な工具を操る機械生命体に、オウカは処刑されていた。春香にとっても、なつきにとっても、忘れられない復讐の相手。
 
「行きましょう、なつきさんっ!! オウカさんの仇を私は取りたいんですっ!」

「感情はコントロールしなければと、ボクは言った」

 フルフルと首を横に振りながらも、なつきの瞳は春香を射抜いていた。
 
「ボクたちiドールは人類最後の希望なんだ。簡単に死ぬわけにはいかない」

「で、でもっ!」

「君がアジトに向かうことは、ボクが許さない。せめてボクより、強くならなければ」

 スレンダーで爽やかな少女が、この時ばかりは巨大な壁に見えた。
 不可視の圧力に、春香は圧倒されていた。思わず後ずさり、口をつぐむ。
 
「焦ってはダメだ。できることから、ボクたちはやるべきなんだ」

「……はい」

「奴らが〝ビースト〟と呼んでいる下級の機械生命体、まずはこいつらを一体ずつ倒していこう。鋼血で強化されたボクたちiドールなら、苦もない相手さ」

 ふっと微笑むなつきに、春香も肩に入っていた力を抜く。
 そうだ、哀しいのは、悔しいのは、なつきさんも同じなんだ。それでもこの人ははるえさんへの想いをグッと我慢して、最善を尽くそうとしている……。
 昂った鼓動を抑えようと、春香は大きく深呼吸をした。
 
「わかりましたっ! まずは街の人々を助けにいきましょう! シーヴァと決着をつけるのは、それからでも遅くないですっ!」

「そうだね、その意気だッ!」

 アンティーク調の鍵を手にしたふたりは、喧騒に包まれた街へと飛び出していく。
 
「二手に分かれようッ! 春香チャンにはそちらを頼むよッ!」
 
 大きな交差点にぶつかったところで、なつきは逆方向に走り出していた。
 救急と消防のサイレンが街を埋め尽くしている。人々は逃げ惑い、ビルのあちこちで煙があがっていた。
 
「逃げろォッ!! その車は人を轢くぞッ――ッ!!」

 自動運転の車が主流となってから、すでに10年以上が経とうとしている。まさかその当時は、搭載された人工知能に殺意が芽生えるなど、想定すらしていなかっただろう。
 暴走する自動車は、いまや『ネクスター』の一員。下級兵士であるビーストと考えていい。
 怒号と悲鳴、そしてタイヤがアスファルトを擦る音の方向へ、春香は駆けだした。アンティーク調の鍵を、己の左手首に差し込もうとする。
 
『春香ッ、大変だッ!!』

 再びスマホが着信したのは、まさにドールピンクに変身する直前だった。
 鍵を回す前に、スマホを取り出す。鋼血を全身に巡らせて肉体を強化するiドールは、変身時間と失血の総量が比例する。可能な限り、無駄な変身は抑えたかった。
 
「今度はなに、大和くん!」

 全力で走りながら、ついつい興奮した口調になる。
 
『今度? なんの話だ?』

「なにってさっきも電話してきたじゃないっ!」

『さっき? まあ、んなことはどうでもいい! 奴らが動き出したんだッ! ネクスターが人類の殲滅を宣告しやがったッ!!』

「それはさっきも聞いたよぉ~~っ!! それより……」

 不意に冷水を浴びせられたように、春香の背筋がゾクリと震える。
 
 ……どういうこと? 数分前の電話のことを、大和くんは覚えていないの?
 ううん。違う。ていうか。
 さっきの電話は……一体誰なの?
 
「大和くんっ!! あいつらの本拠地はわかったんだよねっ!? もう一回教えてっ!!」

『はぁッ!? んなもんわかったら苦労しねーよッ!! お前さっきからおかしいぞ?』

 やっぱりだ。
 疑問が解けると同時に、戦慄がどっと春香に押し寄せた。
 
 iドールは偽名を使う。『日鷹なつき』はドールブルーからくる『夏』のイメージと、ツバサからくる『鳥』のイメージに引っ掛けた名前で、本名は春香も知らない。オウカさんも『花咲はるえ』を名乗っていたけど、本当の名前は大和さくらだった。
 人工知能とネット環境を乗っ取っている『ネクスター』相手に、本名を使えばすぐ素性がバレてしまう。交友関係や親族から人質を取られたり、弱点も簡単に調査されてしまうだろう。だから彼女たちは、偽名にするのだ。
 
 しかし急遽ドールピンクとなった立花春香だけは、『ネクスター』に情報が洩れてしまっている。
 家族は秘密裡に身を隠してもらったが、春香本人の情報は容易には隠せなかった。そのなかには当然、スマホの電話番号も含まれている。
 そして合成音声の発達した今、大和独人の声を機械で再現するのは、難しいことではなかっただろう。
 なにしろ独人の声は、破壊者シーヴァらに聞かれているのだから。
 
「なつきさんっ!! なつきさんは、どこへっ!?」

 元来た道を、慌てて春香は振り返った。
 恐慌状態の街に、セーラー服姿はすでにどこにも見当たらない。
 なつきは聞いている。ニセモノの独人の声を。声が伝える敵アジトの場所を、なつきだけは知っている。
 
「これは……罠だっ!! 私たちを誘き出すためのっ!!」

 激しい後悔が、春香の胸を襲っていた。甘かった。私はなんて、甘いんだろう。
 甘く見たのは、『ネクスター』の脅威、ではない。
 なつきの、オウカへの想いを甘く見ていた。
 彼女はひとりで、オウカの仇を討ちに向かったのだ。春香を残して。
 
 感情をコントロールできなかったのは、誰あろう、なつき自身だったのだ。
 
 きっとなつきは、死ぬつもりでいる。
 だからこそ、春香を連れていかなかった。未来を春香に託し、自分はオウカへの感情に殉じようとしている。
 
「マズイよっ、大和くん! なつきさんが、危ないっ!!」

 見失ったポニーテール姿を求めて、春香は反対方向へ駆け出した。
 
 
 
 東京湾に浮かぶ人工の埋め立て地、通称ダイバー・アイランドに日鷹なつきはひとりいた。
 以前はテレビ局であったその建物は、今やIT関連のグループ企業が買い取っている。ネット番組を中継したり、ネットショッピング用の巨大倉庫などに敷地の多くが利用されている。
 
 従業員たちや島に生活する人々など、多くの人影はいまやまるで見当たらなかった。
 すでにアイランドを脱出したのか、あるいは……『ネクスター』に殺されてしまったのだろう。
 漂う潮の香りに、血のニオイが混ざっている。惨劇が起きてしまった後であることは、覚悟しなければならない。
 
 元テレビ局の屋上に、なつきは立っていた。
 スマホ越しに大和独人の声が教えた『ネクスター』のアジト。そしてなぜか、唯一現れた『ネクスター』の機械生命体が、なつきを誘い込んだのがこの場所であった。
 
「わざわざ案内してくれるとは……やっぱりこれは、罠だったようだね」

 対峙するアンドロイドを、なつきは見据える。
 スラリと背の高い人型だった。西洋人を思わせる顔は、整った部類といっていい。普通の人間として紹介されても、パッと見には気付かない程よくできていた。
 ひとつの部分を除けば。
 その頭部は、導線の巻かれたコイルがいくつも並べられている。脳の代わりに、小型の発電所が男の頭部には搭載されているのだ。
 しかもその発電部分は、剥き出しになっていた。
 
「雷帝インデュラ。君を倒すためなら、ボクが地獄の果てであろうと追いかけてくること……アンドロイドのAIでも理解していたようだね」

「倒したいのは、こちらの方だッ!! ドールブルー!」

 憎悪というより狂気に近い表情で、インデュラの顔は歪んでいた。
 
「貴様が邪魔をしてくれたせいでッ!! オレの立場はさんざんだッ!! 見ろ、頭部のガードさえ修理することを許されなかったッ!!」

 右手に取り出した金剛杵(こんごうしょ)から、電撃が迸る。インデュラ最大の武器である、電磁の剣であった。
 
「貴様は殺すッ!! そしてオレは『ネクスター』の幹部に昇格するのだッ!!」

「意見があうね。ボクも君だけはこの手で倒したいと思っていた」

 左の足首、くるぶしの部分にアンティーク調の鍵をなつきは差し込んだ。
 鍵を回すや、ドルンドルンと轟音が響く。なつきの体内にある鋼血が、巡っているのだ。まるでエンジンをかけたかのように。
 
「君はオウカの仇だ。罠とわかっていても、君を倒せるなら喜んで飛び込もう」

 なつきのセーラー服が、全体に青みを帯びていく。
 白のシャツは水色へと変わり、スカーフは鮮やかなマリンブルーとなっていく。濃紺のカラーやプリーツスカートもその濃さを増したかのようだ。
 
「いくぞッ、ドールブルー・ツバサッ!!」

 なつきの変身が完了するより早く、雷帝インデュラは襲い掛かった。
 容赦なく、電磁剣を振るう。かつてドールピンク・オウカの肢体を、易々と貫いた恐るべき武具――。
 直立したままのなつき……いや、ドールブルー・ツバサの首筋に、稲妻で出来た剣が横薙ぎに吸い込まれていく。
 
 因縁の闘いは、たった一撃で決着を迎えることとなった。
 
 バヂヂヂイイィッ!!!
 
「なッ……んだとォッ!?」

「ボクは元々、下半身を鍛えていてね。筋肉が多いぶん、それだけ鋼血で強化されているんだ」

 高く揚げたツバサの太ももが、電磁剣を受け止めていた。
 
「バ、バカなッ!! いくらなんでも……ッ!!」

「もちろん三カ月前より、ボクたちは強くなっている。人間の成長速度を舐めないことだッ、『ネクスター』!!」

 ドールピンク・オウカが敗れた事実は、iドールに危機感を与えていた。
 大和独人はこの三カ月で、飛躍的に鋼血の闘姫を強化することに成功していた。実の姉を無惨に殺され、独人は血眼で研究を重ねたのだ。
 
 ガクンと、ツバサのスレンダーな肢体が沈む。ポニーテールが縦に回転する。
 不意に青い闘姫は前のめりに卒倒した……のではなかった。ツバサは自らの意志で、細身の身体を沈ませたのだ。
 その場でギュルンと、ツバサは宙を一回転していた。
 長くてムチムチの脚が、大上段から雷帝インデュラの脳天を襲う。縦回転のニールキック。
 虚を突かれたインデュラは、真上から振り下ろされる攻撃に、対処できなかった。
 
 ガシャアアアッンンッ!!!
 
「ふぎィ”ッ!?」

 ツバサの踵が、剥き出しとなった雷帝の頭部に直撃していた。
 砕けたコイルの破片が飛び、導線が千切れて舞う。
 己の動力源である自家発電所を破壊されて、雷帝インデュラはゆっくりと前のめりに倒れていく。
 
 全ての活動を、機械生命体は停止していた。
 急所である頭部を、剥き出しのままとしていたのがインデュラの致命傷となった。オウカにより砕かれた頭部のカバーを、修繕さえしていればツバサの一撃にも耐えられたであろう。
 
「……三カ月前より成長してきたボクたちと……そのまま放置した君たち。それが人間と『ネクスター』の差かもしれないね」

 モーターの音を完全に静止させたインデュラに、ツバサは静かに語りかけた。
 もう言葉を返すこともなく、声が聞こえることもない。そうわかっていても、雷帝が敗れた理由を教えずにはいられなかった。ツバサが勝利したのは……オウカとの共同作業であった事実を。
 
「あまり調子に乗らない方がいいでしょう。ドールブルー・ツバサ」

 屋上の隅から湧いた声に、ツバサは切れ長の瞳を向ける。
 もう一体の、オウカの仇。
 青い巨体に4本の腕。三幹部のひとり、破壊者シーヴァがそこにいた。ローラーで動いているためか、音もなくツバサに接近してくる。
 
「雷帝インデュラの破損を、敢えて我々は直しませんでした。以前の闘いでお前たちを仕留めそこなった、懲罰の意味を込めて」

「ようやく本命が出てきたね。ボクが本当に倒したいのは君だよ、破壊者シーヴァ」

 所詮雷帝インデュラは捨て駒であったことは、ツバサもとっくに気付いていた。
 ツバサを誘い出すための囮。あわよくば倒せたら……くらいに使われたのだろう。むろんそんなインデュラに、同情する気持ちは欠片もないが。
 
 気がつけば屋上には、無数の機械生命体が蠢いていた。
 なかでも3つ。他のビーストたちとは明らかに大きさの異なる個体が、ちょうどツバサをトライアングルで囲むように点在している。そのうちの一点がシーヴァであった。
 
「三幹部がお揃いか。どうやらボクは、よほど君たちに嫌われているようだ」

 戦神オーディンと、全能ゼウス。
 噂に聞いた残り2体の三幹部を目の当たりにするのは、初めてのことだった。それでもツバサは彼らの正体を確信していた。
 幅3mはある横に長い赤銅色の体躯がオーディンで、気球のような白銀の丸い胴体を持つのがゼウス。ほぼ間違いない。
 巨大な鋼鉄のハサミを左右に持つオーディンは、まるでカニといった風情であった。一方のゼウスは足元に何本もの極太のチューブが絡まっており、その外見はまさしくタコ。
 神話に登場する最高神の名を冠したこれら不届きものが、機械生命体『ネクスター』の最高戦力であった。
 
「iドールヲ世界カラ滅却セシムノガ、我ラ『ネクスター』ノ最優先課題ナリ」

 ゼウスの丸い頭部の中心に、四角いモニターが埋まっている。
 無機質な声と同じ言葉が、モニターに映し出された。タコの頭のような球体の内部は、恐らく最新鋭のスパコンが搭載されているのだろう。
 
「あなたにはここで死んでもらいましょう、ドールブルー・ツバサ」

 シーヴァの腕のひとつ、レーザー砲の銃口がツバサの眉間に照準を合わせる。
 ジュッ、と空気を焼いて青白いレーザーが発射された時には、ポニーテール少女は消えていた。
 すでに横に大きく跳んでいたツバサは、元テレビ局の屋上を一気に駆ける。レーザーを射出した直後で、隙の出来たシーヴァに突っ込んでいく。
 
「君の攻撃方法は熟知しているよッ!!」

 シーヴァ最大の攻撃を避け、ドールブルーはここが好機だと察した。
 三幹部、さらには無数のアンドロイドに囲まれて、ツバサの不利は明らかだった。恐らくチャンスは何度もない。数少ない機会に、一体でも多くの『ネクスター』を葬らねば――。
 
 ガキィンッ!!
 
「なッ!?」

 自慢の脚力を全開にしようとしたところで、ツバサの動きは止まっていた。
 赤銅色のカニ……戦神オーディンのハサミが、右の手首と左の足首をガッチリと捕獲している。
 
「ドールブルー・ツバサ。貴殿ノ所作コソ、我々ハ熟知シキッタモノナリ」

 無言のカニに代わり、無機質な声をあげたのは白銀のタコだった。
 ゼウスの頭部、四角いモニター画面に細かな数式と滑らかに動く3Dフィギュアの映像が浮かんでいる。髪型をポニーテールにしているそのフィギュアは、今しがたツバサが見せた動きと、そっくり同じ動作を繰り返していた。
 
 もしや雷帝インデュラを最初に闘わせたのは……ツバサの動きを確認する意味もあったのか?
 
 深く考えている余裕はなかった。赤銅のカニ=オーディンの中央が開き、巨大なレンズが現れる。
 ひとつ目のようなそのレンズは、砲口にもなっていた。レンズの奥で、バチバチと紫電が充満していくのがツバサにはわかった。
 
 右手と左脚を掴まれたポニーテールの闘姫は、逃げることができない。
 咄嗟にツバサは、鋼血を最大限で開放した。青く染まったセーラー服をさらに強化する。鋼血を限界まで流し込む。
 
 大丈夫。インデュラの電磁剣だって跳ね返したのだ。
 並大抵の電撃などで、今のドールブルーの防御力を突破できるわけがない――。
 
 ズバババアアアァッ!!!
 
 オーディンのひとつ目から太い電撃の帯が発射され、真正面からツバサの胸に直撃する。
 真っ青に染まった、セーラー服のスカーフに。
 
「はぐぅ”ッ!? うあああ”あ”あ”ア”ア”ァ”ッ―――ッ!!!」

 灼熱が少女の乳房を焼き、駆け巡る電流がツバサの心臓を蹂躙した。
 
 バカなッ!? 電磁剣を容易く防いだ鋼血のガードが……まるで通用しないッ!?
 
 胸の内部で爆発が起こり、全身のあちこちで火花と白煙が噴き出す。
 高圧電流に身体中を食い破られるような激痛のなか、ドールブルー・ツバサは己の敗北を悟った。
 
「愚かですね。戦神オーディンを、インデュラなどと同じに見ないことです」

 声なきカニ型の機械生命体に代わり、シーヴァが無感情に言葉を発した。
 
「オーディンの内部に搭載されているのは、小型の原子力発電です。その電撃の威力は、旧式のインデュラなどと比ぶべくもありません」

 シュウシュウと、己の胸から昇った白煙が視界を遮る。
 オーディンのたった一撃によって、ツバサの体内の神経はズタズタに焼き裂かれていた。手も脚も、自由に動かない。
 巨大なハサミから解放されても、ツバサは力無く落下するだけだった。
 屋上の床に這ったスレンダーな肢体は、ビクビクと痙攣するのみ。
 壊れかけたドールブルー・ツバサに、三幹部は一斉に襲い掛かった――。



『旧時代の支配者、人類に告ぐ』

 あらゆるテレビとネットに、その生配信された映像は一斉に映し出された。
 かつてはテレビ局であった、ダイバー・アイランドの社屋の屋上。その中心に、漆黒の十字架が備えられている。
 十字架にはひとりの少女が磔にされていた。ポニーテールに、青色のセーラー服。
 遠目でハッキリとしないその少女に、画面はだんだんズームして近づいていく。
 
『我々ネクスターは、新たな時代の支配者として人類の殲滅をここに宣言する。我らの同胞による各地の反乱は、その先鞭に過ぎぬと心得るがいい』

 画像と一緒に流れる声は、中年男性のものと思われた。一切姿を見せぬこの男が、『ネクスター』なる機械生命体を主導する者なのだろう。
 
『この者はiドールと名乗る、我らに逆らう愚か者だ。人類の叡智を自称するこの小娘を、今から2時間後に処刑する』

 磔にされた少女の状態が明らかになるにつれ、人々は息を呑み込んだ。
 青のセーラー服に身を包んだ少女は、全身からバチバチと火花を飛ばしていた。
 
 その右手首は斬り落とされ、鈍色の骨が覗いている。
 白を見間違えたのではない。明らかに、鋼鉄を想起させる光沢ある骨の色。
 
 右の脇腹と左脚の太ももには、鉄製の串が深々と突き刺さっていた。真っ赤な鮮血とともに、放電して黄色の稲妻が噴き出している。
 生身としか見えぬこの少女もまた、『ネクスター』同様、機械の身体で出来ているのかもしれなかった。
 
『この者、ドールブルー・ツバサを助けたくば、処刑が執行される前にここまでやってくることだ。ドールピンク・サクヤ。そして我が不肖の息子、大和独人』

 ふたりの人物の名を呼んで、中年男の言葉は途絶えた。
 時折火花を噴いて爆発を起こす磔の少女を、生配信の映像は流し続ける。
 ポニーテール少女の切れ長の瞳から、ポロポロと透明な雫がこぼれおちた。
 
 
なつき04
 
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| 鋼血の姫甲士 | 11:41 | トラックバック:0コメント:3
コメント
「ドール」はこの2話にて完結することにしたので、事実上の最終話となります。
時間が限られているなかでの創作ですから、人気というか反応の高いものを優先せざるを得ない状況がありまして…。(レッスルエンジェルスなども、同じ理由で制作が中断しているわけですが)
打ち切りといった形になりますが、最後までお付き合いいただければ幸いです。

ファンティアhttps://fantia.jp/fanclubs/1770 のプレミアム会員さまには、プラスαで楽しんでいただけます。
信さまの表紙&挿絵とともに楽しんでいただければ(*^▽^*)
2018.06.26 Tue 11:43 | URL | 草宗
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このコメントは管理人のみ閲覧できます
2018.07.15 Sun 12:17 | |
>コメントくださった方
コメントありがとうございます。
キャラ作りは後悔している点のひとつですね。設定ありきでキャラを表現しようとすると、こういうことになるのだなーと…。

それだけが理由ではありませんが、自分のなかでも反省しているひとつです。
2018.07.17 Tue 15:43 | URL | 草宗
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