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巨大変身ヒロインのオリジナル小説を書いている草宗の独り言をつぶやくブログです。

草宗の書斎

オメガスレイヤーズ 第2話「ウエノ血戦」サンプル | main | 年末のご挨拶
「鋼血の姫甲士 ~花の章~」第1話「誕生! ドールピンク」5章

 5、処刑! ドールピンク
 
 
 ドールピンク・オウカこと花咲はるえは、地下深くのメイン倉庫に連れ込まれていた。
 
 段ボールの箱や、プラスチックで出来たコンテナが山積みにされている。県下有数のデパートだけに、生鮮食品や衣類など、主要な販売品目だけでも相当な物量があるのだろう。非常ベルの鳴り響く、地上階の喧騒とは打って変わって、奥が見えない広い地下倉庫は、静まり返っていた。照明も薄暗いが、赤い非常灯ではない。
 
 中央に、高さ10mはあろうかという、鋼鉄の塊があった。
 ところどころ、チカチカと白い光を点滅させている。この巨大なマシンが、デパートを統括しているという、最新鋭のマザーコンピューターに間違いないだろう。
 つまり、CESウイルスに感染し、自我に目覚めた機械生命体軍団『ネクスター』の一員。
 
「人間の分際で我ら『ネクスター』に歯向かう不埒な存在……ドールピンクとやら、処分を受ける覚悟はできていますね?」


 4本の腕=金属製のマニピュレーターを持つ、青い機体の女アンドロイドが、抑揚のない声で言い放つ。
 機械の性能により、『ネクスター』内にもランクがあることは、大和独人から聞いて知っていた。三幹部のひとり、破壊者シーヴァとは彼女のことで間違いないだろう。
 顔は整っているが、全体青のカラーリングと、2mという巨体が、シーヴァの異形を際立たせていた。コーンロウに編んだと見える髪は、漆黒の蛇の形をした機械だ。それらが無数に取り付けてある。
 
 オウカの両腕は、天井から伸びた鋼鉄のアームで拘束されていた。
 手首をガッチリと、ペンチに似たアームが挟み込んでいる。ふりほどくことも、破壊することも、一瞬で不可能と諦めさせられる強度であった。
 本来は、重い荷物や資材を運ぶためのアームだろう。この巨大地下倉庫には、物資を運搬するためのベルトコンベヤーやクレーン、フォークリフトなどが、いくつも備えられている。
 
 それらすべての重機は、マザーコンピューターによって自動操作がされていた。2055年の今は、ほぼすべてのショッピングモールで、物資の運搬は人工知能に統轄されているのが当たり前だ。
 そのマザコンが『ネクスター』……次世代の支配者を自認し、邪魔な人類を滅亡せんとする存在として、覚醒したのだ。
 いわばオウカにとって、このデパート全体が敵になったようなものであった。
 
「我々の調査では、少なくとも8体もの同志が何者かの襲撃を受けて破壊されている……これらは全て、あなたの仕業ですか? ドールピンク・オウカ」

 かすかなモーター音が響いて、鋼鉄アームがゆっくりと白桃色のセーラー戦士を上昇させていく。
 オウカの脇腹は左右ともに奇妙にひしゃげ、破れた素肌から、鈍色の内部や千切れたコードが露出していた。天才少年・独人の発明した鋼血により、ドールピンクの肉体は鋼鉄化している。『ネクスター』が自我に目覚めた機械軍団ならば、iドールは鋼鉄のボディを得た人間なのだ。
 
「……お前たちは、自分たちが殺してきた人間の数を、覚えているの?」

「質問を変えます。地下駐車場でモスキートタイプのビーストを破壊したのはあなたですね?」

「アレ、ビーストっていうのね。さしずめ、自分たち『ネクスター』の手で造り上げた殺戮ロボってとこかしら。神の名を騙る、お前たちに相応しい傲岸ぶりだわ」

「我ら『ネクスター』に逆らう不届き者よ。あなたの罪は万死に値します。ただいまより、処刑を執行いたしましょう」

 両腕を拘束されているオウカは、バンザイするような格好になった。5mほどの高さにまで吊り上げられたミルキーピンクのセーラー少女に、4本の機械の腕が迫っていく。
 すでに死を覚悟しているオウカは、ショートヘアーをガクリと垂らし、胡桃のような大きな瞳をそっと閉じた。
 ハーフを思わせる彫りの深い美貌は、穏やかとすら映る表情を浮かべている。
 
『……ねえ。そんなに彼女のこと、好きなの?』

 暗闇に染まった視界のなかで、オウカはいつかの会話を思い返していた。
 じっと誰かのスマホを見つめていたボサボサ頭の少年、大和独人は、慌てて振り返り、顔を赤く染めた。スマホが独人自身のものでないことは、はるえも重々承知している。
 
『いやッ! いやいやいやッ! そんなんじゃないッス! はるえさん、勘違いッスよ! オレはたまたまあの子がデパートに行くことを知っただけで、でもってあそこのマザコンは確かヤバかったなと、たまたま思い出して……』

『逆でしょう。立花春香さんを守りたいから、彼女が立ち寄る場所で、危険なエリアを予め調べたかった』

 冷静に指摘をすると、天才と呼ばれている少年は、観念したようにガクリと肩を落とした。
 
『というか、私のコードネームである〝花咲はるえ〟……〝花〟と〝はる〟が入った名前は、はじめから彼女のことを想定していたんじゃないの? ドクトは本当は、彼女をドールピンクにしたかった』

『ッ!! ……鋭いッスね、はるえさん』

『ずっと彼女のことを心配しているの、丸わかりよ。きっと誰でも気付くわ』

 同じ桃花学園に通う春香のことを、独人は何度もオウカたち、iドールの闘姫たちに話していた。恐らく、無自覚のうちに話題にしていたのだろう。
 春香の話をするときは、独人の瞳はイキイキと輝いて見えた。男子がそんな表情をするのはどんな時か、はるえだって年頃の少女なのだからわかっている。
 
『むしろ不思議なのは、なぜ春香さんをiドールにしないのか、ってことね』

『そ、そりゃあ無理ッ!! だってあの子、普通の子ッスよ!? はるえさんみたいにアスリートじゃないし、どう考えても戦闘なんか不向きッ!』

『でも鋼血を与えれば、万が一襲撃を受けた時に、助かる確率がずっと上がるわ。それだけでも、意味はある』

『そ、そりゃあそうですけど……やっぱダメッス』

 ボサボサ髪の向こうで、独人の瞳はひどく悲しそうに映った。
 
『iドールになったら、ヤツらに真っ先に狙われますから。オレはあの子には、平穏な幸せを掴んで欲しいんで。オレらと同じ世界に来ちゃダメな子です』

 ペコリと、腰が90度曲がるまで、独人は大きく頭を下げた。
 ドールピンクになる時も、こうして深々とお願いされたことを、はるえは思い出していた。
 
『だからッ、お願いですッ!! はるえさんを危険な目に遭わせてしまうけど……なんかあったら、あの子を守ってやってくださいッ!! お願いしますッ!!』

『なに言ってるの。バカなこと、お願いしないで』

 ギョッとした表情で、慌てて独人が顔をあげた。
 
『みんなを守るのがドールピンクの役目よ。だから私は闘姫になった。お願いなんかされなくても、全力であなたの好きな子は守ってみせるわ』

 クールに吐き捨てたつもりでも、頬が赤くなるのを、はるえは抑えることが出来なかった。
 
(……強気で言ってはみたけれど……情けないものね。ごめんなさい、ドクト。私はこういう形でしか、あなたと春香さんを守れなかった……)

 地下倉庫に連れこまれたのは、オウカひとりであった。
 あの場にいた大和独人と立花春香を、シーヴァは気にも留めなかったのだ。雷帝インデュラは、特に独人に対して即座に始末する必要性を感じていたはずだが、幹部である女アンドロイドはその発言を認めようとしなかった。
 シーヴァからすれば、『ネクスター』の邪魔をする反逆者の抹殺しか、脳裏になかったのだろう。
 幹部である以上は、破壊者シーヴァの能力は高いはずだが、案外一度定めた目的に対して融通が利かないのかもしれない。むろん、その頑迷さはオウカとしては助かったのだが。
 
 ふたりの存在はシーヴァに無視されたために、命を狙われずに済んだ。
 予断を許さないが、『ネクスター』に詳しい独人ならば、iドールの力は無くてもきっと無事に春香のことを守り切れるはずだ。少なくともシーヴァたちの意識が、自分ひとりに集中してくれるのは有難い。
 
(……私は……ここまでのようね……でも、ひとりでも多くの人を守れたなら……変身ヒロインになった気分も、悪くなかったわ……)

 昔から冷たい女だとか、美人を鼻にかけて情が薄いだとか、言われてきた。
 自分では普通にしているつもりなのに、なぜ嫌われるのか、冷酷などと罵声を浴びるのか、わからなかった。もちろん大部分の人々は優しく接してくれたけど、100人のうちの1人にかけられた悪意は、カッターナイフで切り裂いたように、胸に痛みが残るものだ。
 
 初めて、大和独人に『ネクスター』やiドールの話を聞いたときは、突拍子の無さに面食らったものだ。
 だが、ミルキーピンクのセーラー服に身を包み、鋼血で頑強なボディを手に入れて闘った日々は……はるえのなかで、尊かった。
 人影ひとつない地下倉庫で、たったひとり、人造人間たちに囲まれたドールピンク・オウカ。
 運命を悟った鋼血の少女に、いま、処刑の手が下される。
 
「簡単に死ねるなどと、思わないことです。不完全なくせに、我らに楯突く人間よ。その無惨な死をもって、『ネクスター』に逆らう愚を、人類に見せつけるのです」
 
 破壊者シーヴァの4本の腕のひとつ、鋼鉄で出来たマジックハンドが、宙吊り闘姫の右脇腹に迫る。
 すでに無惨にひしゃげ、鈍色の内部を露出しているそこを、シーヴァの鋼鉄の手は掴んだ。
 ミシミシと、破壊の音色をあげながらオウカの脇腹が潰れていく。
 
「ぐああ”あ”ァ”ッ……!! ウアア”ァ”ッ、アアア”ア”ァ”ッ―――ッ!!!」

「脆い。なんと脆い身体なのでしょう。鋼血などというもので強化された肉体など、所詮この程度。我ら『ネクスター』とは比ぶるべきもありません」

 白桃色のセーラー服を着た美少女の、右脇腹のみが奇妙に凹んだ凄惨な光景。
 だが破壊者の異名を取るシーヴァの責めは、これからが本番だった。2本目の腕が、倉庫の天井付近まで吊り上げられたオウカに迫る。
 先端が丸い円盤になっていた。ギザギザとした鋭利な刃が、無数についている。やがてギュイ――ンと高速で回転した。
 シーヴァ2本目の腕は、電動のカッターであった。
 巨木の幹を伐り倒すように、回転する刃は、躊躇なくオウカの脇腹に当てられた。
 
 ギャリィッ!! ギャリギャリギャリッ!! バヂヂッ!! ギャギャギャギャッ!!!
 
 火花が飛び散り、細かな金属の破片が舞う。
 硬いモノ同士が削れあう、甲高い響きがしばし続いた後、音は半音低くなった。円盤カッターが、オウカの脇腹に食い込んだのだ。
 
「ふげハア”ッ!? くはア”ァ”ッ!! アアア”ア”ア”ァ”ッ~~~ッ!!! やめッ!! やめてェ”ッ―――ッ!!!」

 クールな闘姫は、あられもなく絶叫した。
 胴体の一部を切断される悲劇に、半ば無意識のうちに懇願の台詞を吐いていた。ショートヘアーを振り乱し、端正な美貌を泣き出しそうに歪ませる。肉体の苦痛と精神的なショック。カッターの刃はどんどんと深く食い込み、オウカの腹部を3分の1ほどまで切り裂いていく。
 
「まだまだ。『ネクスター』の支配を邪魔する者に、この程度の仕打ちでは手ぬるいというものです」

 3本目の腕は、反対側から捕獲されたiドールに迫った。右側ではなく、左から。
 左の乳房。ミルキーピンクのセーラーを、優美な曲線を描いて盛り上げた胸の横に、腕の先端がピタリと突きつけられる。
 シーヴァ3つ目の腕は、尖ったドリルになっていた。
 ギュルギュルと回転を始めたドリルが、オウカの左胸を横から抉る。耳を塞ぎたくなる掘削音を響かせ、ガリガリと削っていく。
 
「ウギャアア”ア”ア”ァ”ッ~~~ッ!!! はギュウ”ッ!! やめヴェ”ッ!! やヴェデぇ”ッ~~~ッ!!! む、むねぇ”にィ”ッ!! ……あ、穴がア”ァ”ッ~~ッ!!! アガア”ッ!! あがががァ”ッ―――ッ!!!」

 ピンク色の鋼血の闘姫が、残酷な凶器によって無惨に破壊されていく。
 咽喉の奥で血が噴き出し、鉄の味が胸のあたりに広がった。それでもオウカは叫ぶことを止められなかった。叫んでいなければ、頭がおかしくなりそうな、激痛の渦。
 
「さて、かなり切断できたようです。そろそろ、いいでしょう」

 聞く者がゾッとするオウカの悲鳴を浴びながら、青い機体の破壊者は、なんらの感情も湧き出ていないようであった。
 ただ、マジックハンドの腕に力をこめる。
 右の脇腹を握り潰した鋼鉄の手を、グイグイと引く。マジックハンドが掴んだ少し上には、カッターの刃が食い込んでいた。回転を続けて、ドールピンクの鈍色の胴体をギャリギャリと削っている。
 
 当然のように、裂け目の入ったオウカの右脇腹は、切り離し易くなっていた。
 
 ブチンッ!! と切断の音がして、マジックハンドは脇腹の一部を、オウカの胴体から引き千切った。
 
「ウワアアアアア”ア”ア”ァ”ァ”ッ―――ッ!!!」

「これがドールピンク・オウカの臓器のひとつですね。肝臓か、胆のうか、腎臓か。まあ、どれでも良いでしょう。雷帝インデュラ、あなたの出番です」

 ズルズルズルッ!!
 
 切り取った脇腹を引っ張ると、赤いコードがオウカの体内から長く伸びた。まだ、数本は繋がっている。鋼血によって金属化した、神経か血管なのだろう。
 かろうじて、それらのコードでピンクの闘姫と繋がっている鉄の塊を、シーヴァは傍らに控える人造人間に投げ渡した。頭部に小型発電所を内蔵したインデュラが、慌てて受け取る。
 
「あなたの電撃剣で、その臓器をメッタ刺しにしてしまいなさい。ドールピンクもさぞ苦しむことでしょう」

「お、恐れながらシーヴァ様ッ……先程のこやつとの闘いで電撃剣は使いすぎてしまい……しばしの発電期間がなければ、電力が足りません。電撃剣を出現させるなどとても……」

「本当に使えない男ですね。では、今できるだけの電流で責めるのです。じわじわと臓器を焼かれていく苦しみも、それはそれで一興というもの」

 引き抜かれたオウカの脇腹を両手で掴むと、インデュラは10本の指のコネクターから一斉に放電した。
 黄色の稲妻が、縦横無尽に駆け巡る。集中して流される高圧電流に、鈍色の肉片はビカビカと光り輝いた。
 数本の赤いコードを通じて、電流と臓器を焦がす苦痛とが、オウカ本体に流れていく。
 
「アギャア”ア”ッ!! へああ”ア”ア”ァ”ッ~~~ッ!!! かふッ!! お、お腹ァ”ッ!! お腹がば……爆発しぢゃう”ぅ”ッ―――ッ!!! へべぇ”ッ!! もうダッ……!! もうダメぇ”ッ―――ッ!!!」

 自分が何を言っているのか、もはやオウカにはわかっていない。
 左胸にはサイドからドリルが徐々に埋まり、その形のいいバストに横穴を開けようとしている。
 マジックハンドは右の足首へと移動し、かかとの部分を掴むと、一気に180度捻じ曲げた。
 
 ゴキンッ!! と粉砕の音がして、ドールピンク・オウカの右足は爪先が真後ろを向いた。
 
「あぎィ”ッ!! キャアアア”ア”ア”ァ”ッ~~~ッ!!!」

「4本目の腕を使うのを、忘れていました。これを使うと簡単に壊れてしまうので、つまらないのですが」

 シーヴァの抑揚のない声に合わせて、最後の一本が、虚ろなオウカの瞳に突き付けられる。
 4本目の腕の先端は、銃口になっていた。人差し指がすっぽり嵌りそうな黒い空洞が、バチバチと全身から火花を散らす半壊のドールに向けられている。
 
 鋼鉄の筒から飛び出すものは、銃弾ではなかった。
 ブゥゥン、と空気を震わせて、真っ赤なレーザーが宙吊りの闘姫に発射される。
 
 桃色のセーラー服から覗く、お臍の穴。
 縦長の可愛らしい穴に直撃したレーザーは、オウカの腹部を背中まで貫いた。
 
「おぶぅ”ッ!!? ……ェ”ア”ッ……!! ごぷゥッ……!! ア”ッ…………!!」

 丸い瞳を見開き、鮮血の塊を口から吐き出すドールピンク。
 続けざまにシーヴァは、オウカの腹部をレーザーで何度も射抜いた。
 
 ドシュッ!! ドシュッ!! ドシュッ!! ドシュッ!! ……
 
「はぐぅ”ッ!!? んはあ”ァ”ッ!! ア”ッ!! あはア”ッ!! ……ごびゅう”ッ――ッ!!」
 
 すでに脇腹を千切り取られた腹部に、貫通の穴が開くたび、ブシュブシュと赤い吐血が唇を割る。
 凛としていたオウカの瞳から、光が消えていく。
 
「いけませんね。このままではすぐに死んでしまいそうです。もうしばし悶えてもらうために、出力を下げることにしましょう」

 赤いレーザーが、今度は右の乳首……ピンクのセーラー服に浮かんだ、胸の突起に照射される。
 今度は貫通しなかった。鋼血で鎧と化しているはずのセーラーをあっという間に焼き溶かし、ぷくりと尖った剥き出しの乳首をジリジリと焦がしていく。
 
 ジュウウ”ウ”ゥ”ッ~~……!! シュウウ”――ッ、ジュアアア”ア”ッ……!!
 
「ヘアア”ア”ッ……!! ア”ッ、アア”ッ!! ……アア”ア”ァ”ッ~~ッ!!!」

 天を仰ぎ、白目に裏返ったオウカの瞳から、ボロボロと涙が溢れ出した。
 シーヴァの宣言通りに、ドールピンクは破壊されていた。宙吊りで拘束され、動けない身体を、ドリルで、カッターで、鋼鉄の手で、レーザーで……徐々に削られ、切断され、潰され、焼かれていく。
 
「背中がまだ無傷でしたね。背骨から真っ二つに両断してあげましょう」

 電動カッターが背後に回り、オウカのうなじからお尻にかけて、ゆっくり縦に下降していく。
 回転する刃が、ガリガリと火花を飛ばした。脊髄が痺れ、神経を直接削られているような激痛が、次々と脳天に突き刺さってくる。
 
「ギャアアア”ア”ア”ッ―――ッ!!! アア”ゥ”ッ!! へぎゃあ”ッ、ウアアア”ア”ア”ッ~~~ッ!!! ……も、もうッ!! ……もうッ、ゆ……るしィ”ッ……てェ”ッ―――ッ!!!」

 終わらない苦痛の煉獄に、オウカの心も切り裂かれていた。
 むろん生身の肉体であったなら、大量失血かショックによって、とっくに死んでいただろう。解体ともいうべき嗜虐を受けているのは、鋼血によってドールピンクが強固な身体を手に入れた故だ。
 だが、それにしてもこれだけの破壊を受ければ……心が限界を迎えても無理はない。
 
「殺しィ”ッ……!! はや、くッ!! 殺しでェ”ッ~~~ッ!! も、もうッ……!! こ、こんな……のぉ”ッ……!! た、耐えられぇ”ッ……ないィ”…………ッ!!!」

「愚かですね。ドールピンク・オウカ」

 涙を流しながら、懇願の台詞を吐くショートヘアーの美少女に、女アンドロイドは表情ひとつ変えずに言い放った。
 
「あなたは無惨に破壊し尽くすと宣言したはずです。人間は滅ぶべき存在なのです。彼らが『ネクスター』を畏れ敬うために、あなたには極限まで惨たらしく死んでもらわねばなりません」

 4本の腕が、一斉に嗜虐の強さを増した。
 ドリルは左乳房を串刺しにせんとし、カッターの刃は背骨にまで埋まり、マジックハンドはすでに折れている足首をグリグリと捻り回し、レーザーは出力をあげて右胸全体を焦がしていく。
 
「あがああ”ア”ア”ッ―――ッ!!! うわああアアア”ア”ア”ァ”ッ~~~ッ!!!」

 倉庫全体を響かせる、オウカの絶叫が轟く。
 もはやピンクの鋼血の闘姫が息絶えるのは時間の問題……誰もが、オウカ自身もが覚悟した、その時だった。
 
「そこまでだよっ!!」

 その台詞は、あまりに使い古されたものであった。
 オウカが花咲はるえと名乗る以前、まだ本名を使っていた幼少時代。テレビのなかの「正義のヒーロー」が、そう言うのをよく聞いたものだ。悪の暴虐を止めるために。颯爽と、出現して。
 
 悪の組織『ネクスター』を倒す正義のヒロインは、自分であったはずなのに……誰が助けに来てくれたというのか。恐るべき、人造人間たちが待ち受けるなかを。
 
 拷問による苦痛でほとんど飛びかけた意識のなか、本当はオウカは、ぼんやりわかっていた。誰が来たのか、を。声を聞いただけで、わかってしまった。
 認めたくなかった。彼女は、私が逃がしたのだ。こんなところに来てはいけない。私を見捨てて、逃げて欲しい。
 でも、本当は。本当は。
 
「……な……ぜ……ぇ? ……き、来た……の……? ……」

 くっきりとした丸い瞳から、雫が一筋垂れた。
 今の涙は、先程までとは意味が違う。痛くて、苦しくて、辛くて……死を悟って、流した涙とは違う。
 
 なぜ、来たの? こんな私のために。惨めに負けてしまった、力不足の私のために。
 
 ……嬉しくない……
 わけが、ないじゃない。
 
「決まってるっ!! はるえさんを、助けるためだよっ!!」

 咲き誇る花のように、可憐でカワイイ美少女だった。肩までかかる、ミディアムの栗色の髪。黒目がちの大きな瞳は、どこまでも真っ直ぐな光を湛えている。そういえば彼女は、『フォトジェニック大賞』とかいうコンテストに選ばれているのだった。万人が見て肯く美少女とは、あんなタイプを言うのだろう。
 緑色のブレザーは、フレアのスカートがやけに短く感じられた。膝上までの丈で、健康的な太ももが見えている。胸元の赤いリボンが、チャーミングさを一層引き立たせているようだ。
 
 殺風景な灰色の倉庫には不自然な……いや、そんな無機質な色合いの世界をも、華やかに彩ってしまう美しき少女。
 制服姿の立花春香は、ゆっくりとした足取りで、宙吊りのオウカの元へと近づいていた。
 
「……来ては……ダ、メ……ッ!! ……に、逃げ……てッ……!!」

「そうだね。『ネクスター』だっけ? 私はそんな、恐ろしい機械人間たちに勝てるなんて思ってないよ。だから逃げる。でも、それははるえさんと一緒なんだからぁっ!!」

 歩みを止めた春香は、拳を固めた右腕を視線の高さまで上げた。
 その右手首には、黒いリストバンドが巻かれている。先程までは、なかったものだ。
 オウカだけが、リストバンドの存在にすぐに気付いた。なぜなら、オウカの首にあるチョーカーと同じものだったから。
 よく見れば、そこには黒い穴が……鍵穴が開いていることまで、同じだったから。
 
「アクセルっ!!」

 春香の左手に、金色の鍵が握られていた。細く、長く、幾何学的な形をしたアンティーク調のキー。古い洋館の、秘密の間でも開ける時に使いそうだ。
 その金色の鍵を、春香は己の右手首に挿した。リストバンドの鍵穴へ――。
 
 鍵を回す。ブルンブルンと、バイクのエンジンを掛けたような排気音が響く。
 ブレザー制服の、少女の体内から。
 
 ドルンドルンッ!! ドドドッ!! ドドドドオオォッ!!!
 
 オウカは知っている。このアクセルを目いっぱいふかしたような轟音は、血が凄まじい速さで循環する音だということを。
 今、立花春香の体内を、鋼血が巡っている。全身から、ブレザーの制服にまで。
 美少女の肉体と衣服とが、鋼鉄へと変わっていく。
 その証拠に緑色の制服は、桜の花が満開となるような鮮やかなピンクに染まった。
 
「……? ピンク色の娘がもうひとり……? どういう意味でしょう。あなたは一体誰です?」

 破壊者シーヴァの声に、初めて感情がこもった。
 戸惑いと、わずかだが、確かな苛立ち。
 
「私はっ……iドールっ!! ドールピンク・サクヤっ!!」

 新たなピンクの闘姫が名乗った。それは立花春香が、『ネクスター』と闘う戦士として、最初の一歩を踏み出した証。
 
「破壊者シーヴァ!! 雷帝インデュラ!! 私はあなたたちから……はるえさんを、奪い返すよっ!!」

 ピンク色のブレザーに身を包んだ少女が、4本腕のアンドロイドに向かって突進した。
 
 
 
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| 鋼血の姫甲士 | 11:04 | トラックバック:0コメント:1
コメント
「ドール」第1話の5章となります。
当初は戦隊ヒロインの要素も強く盛り込む予定だったんですが、いろいろな絡みがあるので、いわゆるあのスーツを使うのはやめようかと思っています。
期待されていた方には申し訳ないのですが、サイボーグ色を強めると思うのでよろしくお願いいたします。

今後このシリーズは一部のみファンティアhttps://fantia.jp/fanclubs/1770 のプレミアム会員さまに公開、という形にしていく予定です。
一般公開の部分だけでも楽しんでもらえるよう、頑張りたいと思います。
2018.01.24 Wed 11:07 | URL | 草宗
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