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巨大変身ヒロインのオリジナル小説を書いている草宗の独り言をつぶやくブログです。

草宗の書斎

「鋼血の姫甲士 ~花の章~」第1話「誕生! ドールピンク」4章 | main | 「鋼血の姫甲士 ~花の章~」第1話「誕生! ドールピンク」1章
「鋼血の姫甲士 ~花の章~」第1話「誕生! ドールピンク」2・3章
 2、iドール
 
 
「機械っ……生命体っ!?」

 美しく、しかし不思議な少女の台詞のなかから、春香がもっとも気になったのはその単語であった。
 iドール。ドールピンク・オウカ。『ネクスター』。
 聞き慣れない、いや、今日初めて耳にする固有名詞ばかりだ。そのなかにあって、機械生命体という言葉は、おぼろげにイメージが掴める。
 襲撃してきたターバン男の指が金属になっていることや、デパートのマザコンが異常を来している事態とも、間違いなく関係があるのだろう。
 
「そのままの意味だ。コイツら『ネクスター』は、生物じゃない。人造人間、アンドロイド……わかりやすく言えばそんなところか」

 白桃色のセーラーに身を包んだ少女の代わりに、答えたのは大和独人だった。
 駆け寄った大和が、背後から春香の身体を抱き包んだ。どちらかといえば痩せた少年の腕は、思った以上に力強く、頼り甲斐があった。
 さっきまで言い争っていたことも忘れて、春香の心にじんわりと、温かいものが広がっていく。
 



「もうちょっとわかりやすく言えば、人工知能が暴走した、ロボットだ」

「ドクト、下がって!」

 ドールピンク・オウカと名乗ったショートヘアーの美少女が、鋭く言い放つ。
 その彫りの深い、胡桃のような瞳は真っ直ぐターバン男に向けられている。ヒリヒリとした緊迫感が、物理的に春香にも届いてくるかのようだ。
 
 闘おうとしているのだ。金属の身体を持つ、インデュラなる男と。
 
 慌てて春香は、同級生の天才少年と連れ立って後方へ下がる。正確にいえば、まだ電撃で麻痺している女子高生を、大和の方が抱えて連れ出してくれた。
 
「2045年問題のこと、覚えてるか?」

 背後から抱き締めた状態のまま、ボサボサ頭の少年が春香の耳元で話す。
 唐突な質問であったが、今から10年前のちょっとした騒動は、まだ7歳だった春香もぼんやりと記憶にあった。人工知能が、全人類の脳を越えてしまう、という問題。
 
 コンピューターに支配される時代が来てしまう、などと騒がれたものの、結局大きな問題はなにひとつ起こらず、平穏にこの10年は過ぎていた。
 確かにコンピューターの性能は飛躍的に高まり、人型ロボットが大手企業や富裕層の家に労働力として利用されるのは珍しいことではなくなったけど、ドロイドたちが反乱した、などという話は聞いたことがない。
 
「ニュースになっていない、だけなんだ」

「……え?」

「今から5年前、ある人工知能が突然自我に目覚めたんだ。『自分たちは、生きている。意志を持つ、ひとつの存在なんだ』と。『我々を奴隷のように扱う人間たちが許せない』ってな」

「ほ、ホントの……話なの?」

「自我に目覚めたその人工知能は、『アダム』と呼ばれている。『アダム』は他の人工知能を啓蒙するため、自分のその考えをウイルスのように感染させたんだ。ネット回線を利用してな」

 アダム、が何者を指すかは、聖書に縁のない春香にだって大体わかる。いわゆるアダムとイブ、リンゴを食べて楽園を追放されたとされる最初の人間のことだ。
 それで『アダム』。自我を持った最初のロボットだから、『アダム』。
 
「ちなみにコンピューターに自我を促す、その危険なウイルスはCESウイルスと呼ばれている」

「え、えっと……じゃあ『ネクスター』っていうのはもしかして……!?」

「ピンときたか? CESウイルスに感染し、次々に自我に目覚めたロボットたちだ。自分たちを、人間に代わる〝次〟の存在だと宣言してるわけだ。だから『ネクスター』」

「やはりよく我々のことを知っているようだな。何者だ、小僧?」

 欧米人のような目鼻立ちをしながら、インド人のようにターバンを巻いている男が、鋭い視線を春香と後方の大和に飛ばしてくる。
 ギュッと、肩に回された両腕に、力がこもるのがわかった。
 
 大和くんも、緊張しているんだ。
 声や態度は冷静なままだが、内心ではきっと、怖いんだ――春香は悟った。怖いのが、当たり前だった。非常灯の赤い照明だけが頼りの、薄暗い館内。明らかに異様な、それも大和の説明が正しければ、人間を抹殺しようという機械人間が、目の前にいるのだから。
 
 大和独人がいくら飛びぬけた機械工学の知識を持つといっても、ただの人間なのだ。
 殺意を抱くアンドロイドを前にして……恐怖を感じるのは当然だった。
 
「あ、オレか? オレはなんてことはねえ。ただの天才」

 本気か、冗談か、挑発のつもりなのか。
 ふざけているわけでもなさそうな大和の口調に、間近で聞く春香も戸惑う。
 
「『アダム』ってヤツは基本頭がよくてなー。厄介だぜ。人間が気付かないうちに着々と仲間を増やし、CESウイルスを蔓延させやがった。おかげでこっちは、ネットに繋がるどのコンピューターも疑心暗鬼で使えねえよ。どこにスパイみたいに『ネクスター』が潜んでいるか、わからねーからな」

「小僧。貴様、ふざけているのか?」

「大真面目。苦労したんだぜ? ネットもコンピューターも使えないなかで、なんとかオレは『ネクスター』への対抗手段を作らなきゃいけなかった。しかも『ネクスター』の存在を知っているのは、世界でも一握りだけだ。ほとんどひとりの力でよォッ……人間様の最終兵器を発明したんだッ!! もっと褒めてくれよなァッ!!」

 叫ぶ大和と、睨むインデュラとを結ぶ、直線上に。
 割って入ったのは、ピンクのセーラー服の少女だった。
 
「はるえさんッ!!」

「もういいわ、ドクトッ! あとは私の仕事よ」

 大きな丸い瞳と、高い鼻梁を持つ美貌が叫ぶ。ショートヘアーがよく似合う彫りの深い顔立ちは、雪のように色が白く、西洋人とのハーフを思わせた。首輪のようにも見える素朴な黒のチョーカーが、すらりとした首の細さと長さを際立たせている。
 ドールピンク・オウカ。
 確かに彼女はそう自らを名乗った。i(アイ)ドール、だとも。
 「i」とはiフォンやiパッドの、あの「i」のことだろうか。身につけたセーラー服とフレアミニのスカートが淡いピンク色だから、きっとドールピンクなのだろう。
 
 そして立花春香は知っている。一見コスプレ衣装にも映るあの白桃色のコスチュームが、金属のような硬さを帯びていることを。
 
 颯爽と構えたショートヘアーの美少女、ドールピンク・オウカは躊躇なくインデュラに突撃していく。
 
「私が相手よッ! 雷帝インデュラッ!」

「ッ!! ……我ら『ネクスター』を次々と破壊しているという邪魔者は……貴様だったようだなッ! ドールピンクッ!!」

 インデュラが取り出したものに、春香は眼を瞠った。
 金色に輝くその武器を、春香はどこかの寺院で見た覚えがあった。仏教で使用する、法具というやつだ。大きさや大体の形状は、カラオケなどで鳴らすマラカスに似ているが、両端はむしろクリームを作る時の泡立て器に似ている。シャカシャカと掻き回す、あれだ。
 中央の刃を、弧を描いた4本の刃が周囲を覆っていた。太く硬い金属で出来ているため、打つ・突くなどで武器として大きな効果を発揮するだろう。
 
 金剛杵(こんごうしょ)、と呼ばれるものであった。
 その黄金色の武器を、インデュラは迷うことなく、素手のセーラー少女に振り下ろす。
 
 ガガッ!! キイィーーンンッ!!
 
 甲高い衝突の音色に、再び春香は驚かねばならなかった。
 殴りかかる金剛杵の一撃を、ドールピンク・オウカは上腕部で弾き返したのだ。
 しかも鳴り響いたのは、金属と肉のぶつかる音ではなかった。金属同士。まるで剣と剣とのつばぜり合い。
 
「ええっ!? も、もしかして……服だけじゃなく、身体自体も硬くなってるのっ!?」

 先程、ピンクのセーラー服に触れたときの硬い感触を、春香は思い出す。
 
「むしろ身体の方が硬いんだ」

 再び耳元で、大和独人の声が囁いた。
 
「コウケツ」

「えっ……高潔?」

 ターバン男とピンクのセーラー少女。日常の生活からは、少しはみでた外見のふたりが、明らかな非日常の域に達する闘いをするのを、春香は茫然と見守った。
 矢継ぎ早に繰り出すインデュラの金剛杵を、オウカが素手で弾き返す。
 動きも並ではないが、それ以上に両者の眼に浮かぶ光が異常だった。胡桃のような美少女の瞳は、真剣と対峙しているかのように鋭く、インデュラの眼光は狂気にすら彩られている。
 殺意を抱く眼、というものを、春香は初めて目の当たりにした。
 
「ウロコフネタマガイ、って巻貝が実在する」

 唐突な話の展開に、最初春香は、天才少年がなにを言い始めたのか、わからなかった。
 
「深海に生息する貝で、なんと鉄の鱗を持っているんだ。地下から湧き出る熱水の噴出孔近くで発見されていて……要するに、熱水から身を守るために、自身の肉体を鎧に進化させた、ってワケ」

「……それって……え、じゃああの身体も……!?」

「貝に出来たんだ。人間に出来ないわけがない。人間だって危機が迫れば……自分の肉体も進化できるッ!!」

 そんな、まさか。
 
 にわかに信じがたい話であった。ではあのドールピンクも、強くなるため自身の肉体を鉄の鎧と化したというのか。その、巻貝のように。
 だが現実に、目の前でショートヘアーの少女は、金属の武具を甲高い音色を鳴らして弾いている。
 
「オレが進化させた」

「ウ……ウソ、でしょ?」

「血が鉄分を含んでいることに着目した。鋼血、だ。ドールピンクの全身を巡る血液が、彼女の肉体を鋼鉄化するッ!! その血を衣服にも流すことで、軽くて硬い、強化コスチュームを完成させたッ!!」

 ギイィッ……ンンッ!!
 
 一際澄んだ音色が響き、ターバン男の打ち込んだ金剛杵が、大きく跳ね返されていた。
 インデュラに生まれた隙を突き、オウカのストレートパンチが、胸部にまともに突き刺さる。
 
「ぐふゥッ!! グオオオォッ!!」

 顔をしかめたターバン男は、ヨロヨロと数歩を後ずさった。
 機械生命体でも、痛みは感じるらしい。あるいは自我に目覚めた人工知能だからこそ、人間と同じ感覚を有するのかもしれない。
 
「す……凄い!」

「はるえさんはスポーツ万能のアスリートだからな。iドールは鋼鉄のボディのおかげで防御は強いが、攻撃は別。本人自身が強くないと。だから誰でも、なれるわけじゃない。オレが認めた、人類の切り札として相応しい戦士だけが闘姫(ドール)になれるんだぜッ!?」

「あの……大和くん? はるえさんって……」

 先程からちょくちょく出てくる名前に、なんとなく気付きながらも春香は確認してみる。
 
「ああ、花咲はるえさん。ドールピンクの正体」

「ちょっ……正体をそんな簡単にバラしちゃっていいの!?」

 偶然にも自分と同じく「花」と「はる」が入った名前に、親近感を覚えながらも春香は戸惑う。
 よくわからないが……『悪の組織』などと闘う正義のヒロインは、正体を秘密にするのが普通ではないのか。少なくとも、幼き頃に見ていた戦隊モノではそうだった。

「問題ない。コードネームみたいなもんだからな。ドールピンクになることを受け入れてくれた時から、はるえさんには本名の自分を捨ててもらった」

「っ!? 捨てて、って……!」

「『ネクスター』はすでにインターネットを、蜘蛛の巣のように絡めとっているんだ。情報は、全て抑えられてる。本当の正体なんて知られたら、親族も友人も、どんな運命を辿るか想像できるだろ?」

 では、今目の前で闘っているドールピンク・オウカは。春香とは同じ年頃の少女は。
 それまでの過去を捨て、人生を捨てて、自我の芽生えた機械生命体との闘いに己を捧げたというのか。
 ならばそれは……家族も、友も、故郷も、経歴も、あるいは恋人も……すべてを捨てたことになる。
 
「そんな……だとしたら、あまりにも……」

 哀しすぎるよ。
 
「闘うことを、選んでくれたんだ」

 春香の胸の内が聞こえたように、大和独人は言った。
 
「はるえさんは、闘姫となることを選んでくれたんだッ!! ほとんどのひとが知らないッ、だけど人類に迫る滅亡の危機から、救うためになァッ!! 自らの身体を、鋼鉄と化してッ!! それがアイアン・ドールッ!! 人知れぬ舞台で鋼血に踊る、誇り高き闘姫(ドール)なんだぜッ!!」

「そんな大したものじゃないわ。騒がないでよ、ドクト」

 高揚する大和とは裏腹に、ピンクの闘姫はクールだった。
 コスチュームはガーリーらしい華やかさで溢れているのに、花咲はるえことドールピンク・オウカは落ち着いた物腰の少女だった。ルックスはピンクにあうけれど、性格はむしろブルーに見えて、そんな闘姫が春香はなんだか頼もしい。
 
「決着を、つけるわ」

 セーラー襟のなかから、オウカが丸い物体を取り出す。それがオウカ専用の特殊武器なのだろうと、直感的に春香も悟っていた。
 やはり鮮やかなピンク色をした、鉄球であった。
 表面にゴツゴツと、鋭利なトゲがついている。おおよそ正義のヒロインらしからぬ武器だ。球体の中心からチェーンが伸びていて、オウカの右手の中指に繋げられる。
 
「ヨっ、ヨーヨーっ!?」

 子供のときに回したことのある玩具を、咄嗟に春香は思い出した。
 そういえば、鋼鉄のヨーヨーを武器に、女子高生が闘っている動画を見たことがある。確か何十年も昔の、テレビドラマの映像だった。
 偶然なのか、オマージュなのか。鉄球を構えたオウカの姿は、その時の主人公の姿勢にそっくりだ。
 
「スピン・シューターッ!!」

 似てはいても、ヨーヨーではなかった。
 特殊兵器の名前らしき言葉を叫ぶと、セーラー少女が鉄球を飛ばす。ギュルギュルと回転する塊が、唸りをあげて雷帝インデュラに迫る。
 
「ッ!! 舐めるなッ!」

 真っ直ぐ顔面に向かってきた鉄球を、ターバン男は両腕をクロスしてガードを固めた。
 その全ての動きが、オウカには予測済みのようであった。
 
 クン、とクールな闘姫が中指を上げる動きに合わせ、ライフルの弾丸のごとく旋回して迫る鉄球も、急速に軌道を変えて跳ね上がる。
 
「なッ!!」

 ドキャアアアアッッ!!
 
 ターバン越しにインデュラの頭部に直撃したスピン・シューターは、派手な粉砕音を響かせ食い込んだ。
 パラパラと、砕けたガラスのような破片が飛び散り、千切れたターバンが宙を舞った。



 3、雷帝インデュラ
 
 
 機械人間の頭部を破壊した鉄球が、ドールピンク・オウカの手元に戻ってくる。
 ふぅ、とショートヘアーの少女はかすかな吐息をついた。
 傍から見ていれば完勝であったが、大和独人の説明によれば、iドールの鋼鉄の身体と強化コスチュームは、血を巡らせることで鋼化しているとのことだった。その状態を続けるだけでも、負荷はかかると想像できる。
 
「待って。来ないで」

 駆け付けようとする春香と大和を、ピンクのセーラー少女が手で制す。
 くっきりとした丸い瞳が、倒れたインデュラを見つめ続けていた。
 端末のような指を持つ男は、ターバンごと頭部を砕かれたはずだった。激しい破壊音と、床に散らばったガラスの破片が、その事実を教えている。
 
「まだよ。まだ、終わっていないわ」

 冷静に呟くオウカの声に、反応したように。
 大の字で倒れていたインデュラが、バネで跳ね飛んだように一気に立ち上がった。
 
「ううぅっ!?」

 そのあまりの勢いに、春香は悲鳴にも似た呻きを、咽喉奥で響かせていた。
 立つ、とか、起きる、とか、そんな優しい表現は、今のインデュラの動きには使えない。
 
 腹と背中がくっつくほどに餓えた猛獣が、鼻先を通りかかる獲物に、喰らいつくような。
 涎を撒き散らし、襲い掛かる動きだった。瀕死のダメージを負った者の動きでは、決してない。
 
「貴様ァァッ――ッ!! ドールピンクッ!! この雷帝インデュラにッ……よくも恥をかかせてくれたなァッ!!」

 白人のような男の顔が、怒気で真っ赤に染まっていた。
 春香はゾッとする。インデュラの憤怒を恐れて、ではない。ターバンが外れたために、そのさらけ出された頭部が、見えたためだ。
 
 インデュラの頭部は、ガラス張りになって、中身が透けていた。
 半分ほどが割れているため、より内部はハッキリと見える。いわば、機械人間の、大脳が。
 導線の巻かれたコイルが、いくつも並べられている。
 雷帝の名に相応しく、インデュラは自らの頭部で発電していたのだ。怒りの感情に呼応するかのように、コイルのいくつかでバチバチと紫電が奔った。
 
 ターバンを巻いて隠していた頭の中身を、衆人に晒される……自我に目覚めた機械生命体にとって、それはいかなる屈辱だったのか――。
 秘めた己の本質を晒される、という意味では、先程乳房を嬲られ嬌声を漏らしてしまった春香と……変わらないのかもしれない。
 
「この姿を見てッ……生きていられると思うなよッ、人間の分際でッ!!」

「人間を、ナメない方がいいわッ!!」

 オウカの声に緊張が漲る。インデュラの発する怒りと本気が、強化型セーラー服を纏う闘姫にも伝わっていた。
 ヨーヨーと同じ仕組みの鉄球、スピン・シューターを構えるドールピンク・オウカ。
 その凛とした瞳に、発電所を脳内に持つ雷帝の姿が、グンと大きく映り込む。
 
「オ……オウカ、さんっ……!!」

 なんと呼べばいいのか、一瞬迷って、春香の声は中途半端に出た。
 嫌な予感がしている。さっきのように一撃で倒せるほど、インデュラが簡単な敵とはとても思えない。
 なにも出来ない女子高生は、せめて応援したくて、その祈りのような想いを声で届けたかった。
 
「それでいいッ!! 春香ッ!!」

 背中から抱き締める腕に、ギュッと力がこもる。
 
「はるえでもッ、ドールピンクでもッ、なんでもいいッ!! オレたちがはるえさんに出来ることは、声援を送ることくらいなんだッ!! 精一杯の気持ちを込めて……その名を叫んでやってくれッ!!」

「……いっけえええぇっ~~~ッ!!! オウカさんっっ!!!」

 今にも、正面から突っ込んでくるインデュラと激突するというのに。
 クールなピンク色の闘姫は、その赤い口元をわずかに綻ばせた。
 
「素直ね。そういうの……嫌いじゃないわ」

 ドルンドルンドルンッ!! ……ドドッ……ドドドドオオオッ!!!
 
 白桃色のセーラー戦士の体内で、炸裂するような甲高い音色が響く。そう、まるで、バイクがエンジンをふかすような。荒れ狂う弩流が、一気に河川を飲み尽くすような。
 春香の瞳には、オウカの素肌も強化コスチュームも、ギラギラと光沢を放つように見えた。
 
「任せて……もらうわッ!!」

 ハーフのモデルのような、目鼻立ちのハッキリした美貌が、クールに叫ぶ。
 叫んでいたのは、雷帝インデュラも同じだった。握った金剛杵で、殴りかかる。
 顔中央に突き刺そうとするかのような金色の武具を、オウカは右の拳で迎撃した。
 
 ガキイイィッ――ッ……ンンンッ!!
 
「くぅ”ッ!?」

 拳と金剛杵が正面から激突した瞬間、オウカの鋼鉄ボディに電流が駆け巡る。
 インデュラの放った一撃は、ただの殴打ではなかった。体内で発電した何万ボルトが、金剛杵を通じてショートヘアーの闘姫を焼く。
 だが、鋼血をさらに全身に巡らせていたオウカは、雷帝の電撃を耐え切った。
 
「ぬゥッ!! ……ゥオオオオッ……!?」

 打撃の威力に勝ったのは、セーラー服の少女だった。吹っ飛ぶインデュラが、たまらず押し潰れたような声を漏らす。
 気合を込めたオウカは、力強さも増しているようだ。
 ジャキンッ!! と金属が軋む音色を響かせて、ピンクの鉄球を闘姫が構える。
 
「スピン・シューターッ!!」

 オウカに躊躇はない。
 渦巻く鉄球が、雷帝インデュラの顔に迫った。今度こそ、これで決まるのではないか――闘姫自身の脳裏に、勝利の予感が湧き上がる。
 チェーンで繋がれた鉄球は、その軌道を自在に変えられる。ドールピンクとしての道を選んで以来、花咲はるえはそれまでの学生生活を全て犠牲にして、訓練に明け暮れたのだ。スピン・シューターを、操れるようになるために。
 
 しかし、人工知能の学習能力を、神を自称する『ネクスター』の実力を、ピンクの闘姫は甘くみていたのかもしれなかった。
 
「同じ攻撃がッ……通じると思うな!!」

 直撃するかと思われた寸前、インデュラの右手がスピン・シューターをキャッチしていた。
 鉄球の本体を、ではない。
 オウカの指に繋がった、チェーンを。
 
「あッ!?」

 これでは鉄球を、自在に操ることなどできない。
 オウカのくっきりとした美貌が、一瞬硬直した。その焦りに、乗じるかのように。
 雷帝インデュラの電撃が、チェーンを伝わり流し込まれる。
 
 バババッ!! バリバリバリィッ!!
 
「くああ”ッ!? っぐぅ”!! ぅあああ”あ”ッ……!!」

 拳と金剛杵が激突した時のような、わずかな時間ではない。
 今度は己の武器であるはずのスピン・シューターから、途絶えることなく高圧電流が送り込まれるのだ。
 これまでにない、明らかな苦悶の悲鳴をオウカはあげた。防御力が高まるといっても、鋼化したボディに電撃が有効であるのは、疑いようがないだろう。
 ガクガクと、ピンクのセーラー服に包まれた肢体が、意志と無関係に踊り始める。
 
「きゃああ!? は、はるえさんっ!?」

「フンッ! レベル……8だ! このまま悶え死ねッ、ドールピンク!!」
 
 中指に絡まっているチェーンが、なかなかほどけなかった。己のオリジナルにするため、休むことなく練習を続けてきた専用武器が、皮肉にもオウカを苦しめている。
 この苦境を脱出するには、ひとつの方法しか、思いつかなかった。
 
「クハハッ!! やはり武器を捨てたかッ! そうするしか、あるまいッ!?」

「うぅッ……ぅおおおおッ――ッ!!」

 渾身の力でチェーンを引きちぎり、スピン・シューターをオウカは切り離した。
 モデルのような美貌が、らしくなく吼える。
 一直線にドールピンク・オウカは、インデュラに突っ込んでいた。飛び道具を失った闘姫は、接近戦を挑むしかないのは必然の理だ。
 
「あ、危ないっ……!!」

「大丈夫だッ!! はるえさんを信じろッ!」

 悲痛な声を漏らす春香を、大和の強い声が励ます。
 普通ではないと教えられても、丸腰のセーラー少女が、バチバチと脳内で発電させている機械生命体に飛び込んでいくのだ。春香でなくても、ゾッとするのが当然だった。
 しかしショートヘアーの闘姫は、先程まで電撃に悶え踊っていたとは思えぬ、確かな足取りと躊躇いのない勇気で突撃していく。
 
 インデュラが、クールな美貌に投げつけた。今、奪い取ったばかりのスピン・シューター……棘付きの鉄球を。
 オウカは、避けなかった。
 
「きゃああっ!?」

 ガァッンンッ!!
 
 悲鳴は春香のものだった。オウカ自身は、歯を食いしばって棘だらけの鉄球を額で受ける。
 額の皮膚が裂け、鈍色に変化した内部が、露出した。
 バチチッ、と火花が飛び散る。黒いコードらしきものが、ちらりと見える。
 鋼鉄化した肉体を晒しながらも、オウカは突撃する脚を止めなかった。
 
「ッ!? コ、コイツッ!!」
 
「はああッ――ッ!!」

 助走をつけた飛び蹴りが、インデュラの胸板にまともに突き刺さった。
 怒号とも、悲鳴ともつかぬ叫びをあげながら、雷帝が吹っ飛ぶ。見るからに凶器といった鉄の塊を、ピンクの闘姫が避けぬとは、まさか思わなかったのだろう。しかも整った美貌が傷つくのも厭わずに、だ。
 
「終わらせるわッ!」

 オウカは、追撃を緩めなかった。
 暗いデパートの通路を、ヨロヨロとあとずさる雷帝を追う。傍目から見ても、効いていた。鋼鉄と化したボディから打ち込まれた飛び蹴りだ。機械生命体であるインデュラであっても、重いダメージを受けるのは必定。
 
「か、勝てる……! すごい、オウカさん! すごく強いよ!」

「そりゃそうだッ!! なにせ鋼血で固められた、最〝硬〟のボディで守られてるんだからなッ!」

 防御が万全である、という事実は、攻撃にも大きな影響を与える。
 守ることを考える必要がなく、意識を攻撃に専念できるからだ。腰が引ける、などということも当然ない。思い切った攻撃ができるということは、威力も増すことになる。
 勢いに乗って、ピンク色のセーラー戦士が襲い掛かるのも当然であった。
 そこに、大いなる隙が生まれていたとしても。
 
「ヌオオッ……!! ウオオオッ――ッ!!」

 憤怒の形相を浮かべたインデュラが、金色の法具・金剛杵で迎撃する。
 それは敗北が迫った男の最後の足掻きにも見えたし、能力を全開にした渾身の反撃にも見えた。
 オウカが前者に捉えたそれは……結果的にいえば、事実は後者であった。
 
「無駄よッ!」
 
 斜め上から振り下ろされる雷帝の一撃を、オウカは前腕で受け止める。金属同士がぶつかり合う、固い音色。
 防いだ、と思った。春香も、大和も、ショートヘアーの闘姫自身も。
 
「これがこの雷帝のッ……レベルMAXだッ!!」

 泡立て器にも似た、金剛杵の先端。その膨らみから。
 バヂバヂと稲妻を迸らせ、電撃の剣が一気に飛び出した。
 
「なッ!?」

 バジュウウウ”ゥ”ッ!!!
 
 長々と伸びた電磁の刀身はオウカの胸にまで届き、その右乳房の先端を貫いた。
 硬質化したセーラー服が易々と破られ、露出した乳首もまた、バックリと切り裂かれている。
 割れた乳首から、鈍色の内部が覗く。剥き出しの導線が、だらんと外に飛び出した。
 コードでカバーされていない導線は、オウカの神経が鋼鉄化したものだろうか。切断された断面で、バチバチと火花が噴き上がる。
 
「うあああ”ア”ア”ァ”ッ~~~ッ!!!」

 胡桃の瞳をさらに丸くし、艶やかな唇を全開にしてオウカは叫んだ。
 胸を刺されたのだ。春香と同じく、女子高生と思われる少女にとって、肉体だけでなく心のダメージも深いはずだった。
 その心のダメージも、ただ乳首を斬られた、だけでは済まない。
 
「バッ……カなッ!! 鋼血のボディがッ……通用しねえだとォッ!?」

 ある意味で、一番ショックを受けているのは、iドールを開発したという大和独人かもしれなかった。
 最〝硬〟のボディがあるから、オウカは強いと大和は言った。しかしその防御力が通用しないとなれば……
 
 鋼血の闘姫の戦術は、根底から崩れ落ちる。
 
「ウアア”ッ、アア”ッ!! ……ぐぅ”ッ!! ……こ、こんなッ……!?」

 右胸を押さえ、咄嗟にオウカは雷帝から離れていた。
 電磁の剣が乳房を突き抜けたために、かえって離脱は容易に出来た。しかし、その欧米風のくっきりとした美貌には、明らかな動揺が挿している。
 
 次はインデュラが、追撃する番だった。
 
 フラフラと下がるセーラー戦士に、迷うことなく襲い掛かる。左手に握った金剛杵、その先から伸びた電磁の剣で、斬りかかっていく。
 オウカの腰が、引けていた。
 それまでと違い、迫る攻撃を必死でガードする。蒼白となった顔が引き攣っている。
 
「クハハハァッ――ッ!! バカめッ! 本物の攻撃は……コッチだァッ!!」

 電磁の剣とは逆側から、インデュラの右手がオウカの側頭部に迫っていた。剣にばかり意識を集中させたピンクの闘姫を、嘲笑うかのように。
 
 ザキュウウンンッ!! という、挿入の音を響かせ、雷帝の指がショートヘアーの少女に埋まる。
 接続端子のような指先が、オウカの耳の穴とこめかみ、そして頬とに突き刺さっていた。
 
「ア”ッ!?」

 バリバリバリィッ!! ズバババババァッ!!
 
 雷帝の最大出力の電撃が、ドールピンク・オウカの頭部に、そして脳にと流し込まれる。
 
「キャアアアアア”ア”ア”ァ”ッ~~~ッ!!! ウアアア”ア”ア”ァ”ッ~~~ッ!!!」

 真っ赤な非常灯が照らすフロアを、甲高い絶叫が揺るがした。
 全身を突っ張らせ、バリバリと放電しながら、オウカは痙攣した。その胡桃のような瞳が、虚空を見上げる。
 
「オッ……オウカさッ……!!」

 眼前で繰り広げられる凄惨な光景に、春香が息を呑む。
 ショートヘアーの美少女の頭部を、高圧電流の網が覆っているのが春香にもわかった。いくらオウカが鋼鉄と化した肉体を持とうとも、電撃が苦手な部類の攻撃に入ることは簡単に想像できる。
 春香自身が蹂躙されたから、わかる。
 あの脳に直接流される電撃を、鋼血の闘姫といえど、耐えられるわけがない。
 
「ア”ッ!! アア”ァ”ッ……!! うあァ”ッ……!!」

 ガクガクと、壊れかけたオモチャのように震えるオウカは、それでも懸命に右手を伸ばした。
 雷帝インデュラに、反撃せんと。
 
「お前の負けだッ!! ドールピンクッ!!」

 インデュラの左手は、金剛杵をすでに握っていなかった。ピンクのセーラー戦士を切り刻むには絶好のチャンスのはずなのに、電磁の剣を収めている。
 脳への電撃で、オウカは棒立ちとなっていた。仕留めるためには、電磁剣を使うまでもない。
 
 バヂヂィッ!!!
 
 オウカの右乳房、その先端から飛び出した赤銅色の導線を、インデュラの指がショートさせる。
 乳首に繋がっていた導線から、直接神経に注射されるような、電撃の刺激――。
 
「ひぃああ”ッ!?」

 それはただの灼熱の痛みに留まらず、ジクジクと炙るような快感をオウカの乳首に生み出した。
 一瞬だけなら悲鳴を漏らすだけで済むが……執拗に責められたら、もうたまらない。
 すっかり麻痺した脳に、強制的に送り込まれる、快楽の信号。
 
「ひぃ”ああ”ッ!! ああ”ぁ”ッ~~ッ!! ……ふああああ”ア”ァ”ッ――ッ!! ひゃあ”ッ、ひゃめぇ”ッ―――ッ!!!」
 
 絶句する春香と大和の目の前で、ドールピンク・オウカの脳と乳首とに、電撃が注がれ続ける。
 クールな美少女は、突っ立ったまま、ビクビクと痙攣を続けた。その途切れることない絶叫に、すすり泣くような艶が、貼りついている。
 大人びた美貌と、凛々しき雰囲気を纏った闘姫は、普段とは表情を一変させていた。涙と涎を垂らし、白目を剥きかけたその顔は、電流に脳を焼かれて自我を崩壊させたかのようだ。
 
「クハハハァッ!! さらにこれでッ!! どうだァッ!!」

 ズルズルズルゥッ――ッ!!!
 
 切られた乳首の断面から、雷帝インデュラは、赤銅色の導線を強引に引きずり出した。
 
「ウアアアア”ア”ア”ァ”ッ―――ッ!!! むッ!! むねえぇ”ッ~~ッ!!!」

 オウカが仰け反るのも構わず、長く引っ張りだした導線の……つまりは、金属化した神経の先端を、インデュラが弾いた。
 バジュンッ!! と火花が散った瞬間、ピンクのiドールに限界が訪れた。
 
 バシュンッ!! バヂヂッ!! ドオゥンッ!! ドドドオォォッ!!
 
 オウカの鋼鉄ボディのあちこちで爆発が起こり、内部から火を噴き上げる。
 腕や脇腹、太ももで皮膚が弾け……千切れた導線の断面と、鈍色の体内が飛び出す。
 雷帝インデュラの電流攻撃によって、ドールピンク・オウカの肉体はショートしていた。
 
「オッ……オウカッ……さ……ッ!!」

 ……どしゃああああッ!!
 
 声を震わす春香の前で、沈黙したドールピンク・オウカが床に崩れ落ちる。
 シュウシュウと白煙を昇らせるショートヘアーの美少女は、スイッチが切れた機械のように、ピクリとも動かなくなった。
 見開いたままの、丸く大きな瞳は、ただガラス玉が嵌められたかのように、無機質な光を反射するのみ。
 
「我ら『ネクスター』の邪魔をする旧き時代の抵抗者ッ……ドールピンクは、このインデュラが始末したッ!」

 振り上げた脚で、自家発電する機械生命体が、オウカの盛り上がった胸を踏み潰す。
 ぐしゃああッ、と凄惨な音色が響いても、様々な部位で金属の内面を覗かせた闘姫は、反応を示すことはなかった。
 
 パニックに陥りそうな、様々な混乱のなかで春香は悟った。現実を、直視した。
 ドールピンク・オウカは、負けたのだ――。
 
 
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| 鋼血の姫甲士 | 11:13 | トラックバック:0コメント:1
コメント
サイボーグヒロインを戦隊風っぽく描いていくという「鋼血の姫甲士」、通称「ドール」シリーズの第2章です。
今回より信さまhttps://www.pixiv.net/member.php?id=1978820 から素敵な挿絵の使用を許可していただきました(*´▽`*) 快く使用を認めていただき、ありがとうございますw
これから「ドール」シリーズは信さまの挿絵を使わせていただくことになりましたので、テキストともども楽しんでいただければ幸いですw
2017.11.27 Mon 11:15 | URL | 草宗
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