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「鋼血の姫甲士 ~花の章~」第1話「誕生! ドールピンク」1章
「鋼血の姫甲士  ~花の章~」

第1話  誕生! 鋼血のドール


 序、地下駐車場


 スマホを、ロッカーに置き忘れた。
 そんな些細なミスが、結果的には42歳の主婦の命を救うことになった。

 夕方。パートタイムの勤務明け。県下有数のデパートで働く主婦は、遅れた時間を取り戻すべく、足早に地下の駐車場へと向かっていた。スタッフ専用の駐車場。頭のなかは、近所のスーパーがやっているタイムセールに、間に合うかどうかでいっぱいだった。

 暗い照明だけが頼りの地下に降りると、異変にすぐに気がついた。

 もうとっくに帰ったはずの、同僚たちの車がまだそこに置いてあった。
 代わりに、海の近くを通ったときの、潮の香に似たニオイが充満している。濃密で、むせかえるような臭気。

 女性ゆえに、それが血のニオイだと気付くのは、少し早かったかもしれない。


「……なに、これ……?」

 思わずしかめた眉が、次の瞬間には、跳ね上がった。
 一気に汗が噴き出し、動悸が激しくなる。
 
 人間が、転がっている。全部で4つ。いずれも、置物のようにただそこに転がっている。
 服などを確かめなくても、それが全員先に帰ったはずの同僚たちであることを、主婦は理解していた。だが、そんなことは大きな問題ではない。
 
 ガソリンのように黒々と床に広がっているのは、紛れもなくこのニオイの源……血であろう。
 4人は全員、死んでいるのだ。
 すぐに主婦が悟ったのは、流れる血の多さゆえではない。もっと直感的に、ひと目見ただけで4人はもう、動くことはないのだとわかった。
 
 穴が開いているのだ。脳天に。ゴルフホールのような穴が、小気味いいほどの鮮やかさでスコーンと開いている。
 
 ちょっと角度を変えれば、脳ミソの断面をキレイに見ることができそうだった。
 むろん主婦に、そんな勇気も、倫理に勝る好奇心もない。
 
「ィ”ィ”ッ……アアアア”ア”ッ~~~ッ!!」

 叫ぶ。駐車場全体が、震えるほどに。
 この悲鳴を聞きつけて、誰かデパートのスタッフが助けに来てくれないかと、脳の片隅にほのかな期待を乗せて。
 
 脚の力が抜けて、動けなかった。
 逃げなければマズイと、本能が大声で怒鳴っている。頭のなかでガンガンと、その声は響いていた。しかし身体は、別人になったように言うことを聞かない。
 
 ブウウウンンッ……!!
 
 車の陰から、音が聞こえた。
 巨大な扇風機の羽根音、のようでもある。低く唸るモーター音、のようでもある。
 だが、音が周囲から、3つ4つと続けて響くと……主婦は己が囲まれていることに気付いた。
 
 大きくなっていく音が、獲物を前にした野獣の唸り声に重なる。
 
「ひッ……ひィ”ッ!!」
 
 ドガアアアァッ!!!
 
 悲鳴が漏れるのと、激突の轟音が響くのはほぼ同時であった。
 
 誰かが、助けに来てくれたのだ!!
 
 瞬時に主婦は、事実を悟っていた。疾風のように飛び込んできた影。吹き飛ばされて、コンクリートの壁に埋まり込んだ〝何か〟。ひとつ減っているモーター音……これらが結びつける答えはひとつだ。周囲を囲む不気味な襲撃者を、誰かが弾き飛ばしてくれた……
 
「……えッ!?」

 薄暗い照明の下に立つ救護者の姿を見て、主婦は思わず絶句した。
 
 制服姿の、女子高生であった。
 
 身長も年齢も、恐らく自分の娘とほとんど同じ……ただ凛とした佇まいと姿勢の良さが、我が子と比べて大きく差があった。
 顔も、かなりカワイイ。娘の親友たちの顔を思い出してみても、これほど整った顔立ちのコはいなかった。丸く、大きな瞳には力強さがある。欧米人のように彫りが深いため、目鼻立ちがハッキリとしていた。アイドルグループに入っても、かなりの人気を集めそうだ。柔らかなウェーブのかかったショートヘアーは、一時代前のアイドルを彷彿とさせる。
 
 大きめのカラーにプリーツスカート、胸元を飾るひも状のリボン……というセーラー服は、どこででも見かける平凡なものだ。娘が受験することすら許されなかった、県下有数の進学校もこれとよく似ていた。
 ただ、本来濃紺であるはずの制服は、薄く桃色のついた乳白色になっているのが決定的に違っていた。リボンの赤色だけが、ミルキーピンクともいうべき淡い色のなかで異彩を放っている。
 
 真っ直ぐに立った姿勢の美しさと、ガーリーな制服姿とが不釣り合いなのに、カッコよさとカワイさの両方が、主婦には際立って印象づけられた。
 
「逃げてください」

 少女の声は、少し低めのトーンであった。
 丸みがあって、可愛い声だ、と主婦は思う。しかし、そこには有無を言わせぬ強さが含まれている。
 
「早く逃げないと、命を落としますよ。脅しじゃありません」

「は、はいッ……! あ、あのッ!」

「逃げたら何も言わないで。警察に通報しても無意味です。デパートには、私の方から説明します」

「で、でもッ……あ、あなたはッ?」
 
「私は、アイドル」

「え?」

 女子高生の答えに、瞬間主婦は唖然とした。
 確かについ先程思ったように、少女はルックスがいい。本当にアイドルだとしても、なにも不思議ではない。しかし、この場、この状況で、求めている回答はそういうものではない。
 
 質問を続けようとして、主婦の口は閉じられる。
 空間を揺さぶる羽根音が一段と大きくなり、3体の襲撃者が車の陰から飛び出した。
 
「……来ますッ!!」

 声だけを残して、少女は駆け出していた。真っ直ぐ、もっとも近くにいる襲撃者に向かって。
 同僚たちを手に掛けた、謎の襲撃者の姿を、主婦はようやくその眼で見た。
 
「ロッ……ロボット!?」

 金属で造られた精工な機体を、主婦はそんな言葉でしか表現できなかった。
 ニュースなどでドローンと呼ばれるラジコンのヘリコプターはよく見るが……あれによく似ていた。大きさもあれくらいで、宙に浮いている。違うのは、プロペラではなく、4枚の羽根を高速で動かして飛んでいるところだ。音の正体はこれだったのかと合点がいく。
 
 だがロボットという、アニメや小説でお馴染みの言葉の方が瞬時に思い出されたのは、この機体の姿があるものにそっくりだったためだ。
 巨大な、機械で出来た「蚊」。
 明らかに目の前の3体の機体は、蚊をモチーフにして造られたマシンであった。フォルムも似ているし、姿を見てから聞くと、ブウウゥンという音も夏に煩わしいあの羽音に通じるものがある。
 
 ゾッとしたのは、その顔に当たる部分を見た時だった。
 尖った口がある。蚊なのだから、当然だ。血を吸うための、あの長い針がちゃんとついている。
 細く、長く、ドリルのように旋回しているそれが、真っ赤に濡れていた。
 理由は考えるまでもない。あれは、同僚たちの血だ。
 
 この機械の蚊が、4人の同僚の頭に穴を開け、そこからヂュウヂュウと中身を吸い取った。
 
「逃げて! 早く!」

 茫然と佇む主婦の背を、少女の叫びが押す。
 白桃色のセーラー服を着た女子高生は、自ら蚊のロボットに殴りかかっていた。
 
「えッ……ええッ!?」

 衝撃の光景に、主婦の脚はむしろ立ち止まってしまう。
 どう見ても硬い金属の塊を……ショートヘアーの美少女は殴り飛ばしたのだ。躊躇なく。しかもその威力に、蚊のロボットが紙で出来たかのように軽々と吹っ飛ぶ。
 
「あ、危ないッ!!」

「いいから! 逃げてと言ってるでしょうッ!!」

 2機めのロボットが猛然と女子高生に襲い掛かるのを見て、主婦は叫んでいた。
 少女の声に苛立ちが含まれているのはわかっている。でも、放っておくわけにはいかなかった。蚊のロボットは、ドリルのような口を突き出しているのだ。
 なにも出来ない、とわかっていても、娘と同じ年頃の少女を見捨てては置けない。
 
 ガキイィィッンンッ!!
 
 予想外の音が響いて、主婦はビクリと仰け反る。
 弾丸のように飛んできた機械製の蚊を、白桃色のセーラーを着た少女は、両腕で受け止めていた。しかし、予想外だったのはそこではない。受け止めた腕力の強さよりも、鳴り響いた音。
 
 どうして少女の手と蚊のロボットとで、金属同士がぶつかるような、甲高い激突音が生まれたのか!?

「ここは私に任せてくださいッ! そのためのアイドルですからッ!」

「え、ええッ!? ど、どういう……?」

 言葉の意味はわからないが、少女のためにも逃げるべきだということは、主婦にもわかった。戸惑いながらも、走り始める。
 視界の隅に、3機めのロボット蚊が少女に突っ込むのが見えた。真正面から、赤い紐状のリボンが飾られた胸元に飛び込んでいく。
 制服姿の女子高生は、両手で2機めのマシンを掴んでいる。キュルキュルと回転するドリル口を押し戻すのに必死になっている少女は、更なる危機に気付いていない。
 
「あ、あぶなッ……!! 逃げてぇッ――ッ!!」

 同僚たちの脳天に開いた穴の映像が、主婦の脳裏にフラッシュバックした。無意識のうちに叫ぶ。
 だが、懸命な声が届くよりも、ロボット蚊の襲撃は早かった。
 
 高速で回転する鋭利なドリルが、ショートヘアーの美少女の左胸に直撃した。
 
「はぁぐぅ”ッ!? ウアアア”ッ……!! うわあああ”ア”ア”ア”ァ”ッ―――ッ!!!」

 ミルキーピンクのセーラー服を盛り上げた膨らみに、細長い針の先端が埋まっていく。
 ギャリギャリという、なにかを削る凄惨な音色と、女子高生の悲痛な絶叫が地下駐車場に轟いた。
 
 
 
 1、デパート
 
 
「……なんだか、騒がしいな」

 レジ待ちの列に並びながら、立花春香はデパートに起きた異変をなんとなく感じとっていた。
 行き交う従業員たちの顔が、どこか引き攣っている。しかも誰もが早足だ。
 春香が住むこの街で、いや、この地方全体で見ても一番といっていいデパートは、数年前に完成したばかりの施設だった。流行の先端をいく人気店がこぞってテナントを出しているし、当然買い物客も多い。その分、なんらかのトラブルも起こりやすいのかもしれなかった。
 
「次のお客様、どうぞー」

 事務的な声に促され、ようやくレジの前に立つ。
 父親の誕生日プレゼント用にと、選んだネクタイを春香はパートと思しき女性に渡した。21世紀も半ばを過ぎ、2055年になったというのに、相変わらずこうした仕事は人間がしているお店がほとんどだ。
 
 営業用スマイルを作っていた中年女性が、春香の姿を見て、一瞬驚いたような表情を浮かべる。
 
 え? 男性用ネクタイを買うのが不思議なのかな? それとも制服なのが、そんなに珍しい?
 
 夕食のおかずを求める主婦層が多いなかで、春香のような女子高生はほとんど見受けられなかった。それでも別段、不自然でもないことを考えると……春香の脳は、最終的にはそれしかない、という、ここ最近では決まりのようになっている答えに辿り着く。
 
(う……やっぱり、フォトジェニック賞のせいかなぁ。だから嫌だって言ったのに……)

 県が企画した『我が県! フォトジェニック大賞』の最優秀作品が、デパートの入り口に貼りだされていたのを春香は思い出していた。
 被写体が春香自身なのだから、否応でも目に留まってしまう。
 
 肩までかかるミディアムの栗色の髪に、大きな黒目がちな瞳。絵に描いたような美少女とは、春香のようなルックスに向けられる言葉であろう。胸元の赤いリボンがアクセントをつけている緑色のブレザー制服が、可憐さを一層際立たせていた。
 
 受賞自体はもう三カ月も前のことだから、周囲に騒がれるのも収まってきていたが、それでも時々「あ!」と指差される時がある。学校の写真部が、隠し撮りしたものを勝手に応募していたのだ。春香が事実を知ったのは受賞のあとで、もう引き返せないところまで話は大きくなっていた。
 
 パフェひとつで写真部を許したのは失敗だった……今更後悔しても、あとの祭りというものだった。
 
「ウフフ。実物はもっとカワイイわねぇ~。彼氏の?」

 顔を崩したデパートの従業員は、急に普通のおばちゃんになった。ポスターを通じてしか知らないはずなのに、どうやら彼女のなかでは身内と同然らしい。
 後ろに並ぶ列を意識して、春香は声を小さくした。夕方のデパートは、多くの客で賑わっている。
 
「あ、いえ。お父さんのです。彼氏とか、いないので……」

「あらヤダ! そんなにカワイイのに彼氏いないの!? おばちゃんが男なら絶対放っておかないのに」

 あはは、と苦い笑いを浮かべるしか、春香にはできなかった。
 とりあえず、恥ずかしいから早くレジをお願いします。
 
「あれ? ちょっと、なにコレ。レジが打てないじゃないの……ちょっと待っててね、えーと……」

 レジ画面を凝視するおばちゃんが、真顔に戻って焦り始める。
 あまりのタイミングの悪さに、春香は己の運勢を嘆きたくなった。どうやら不具合は、隣りのレジでも同様のようだ。
 デパート全体がざわついて感じられたのも、これが原因だったかもしれない。最新鋭の施設だけに、巨大なマザーコンピューターに統轄されているというが……そのマザコンに、なんらかのトラブルが起こったのかもしれなかった。
 
「ゴメンね、少々お待ちくださいね……ヤダ、なんかヘンな表示出ちゃうわ……なんなのよコレ!?」

「え、大丈夫ですか。表示……?」

 背後に並ぶ人々のイライラが感じられて、春香も思わず声をかける。
 
「K、I、L、L……だって。おばちゃん、英語わからないのに……もう、エラーばかりになっちゃうわ」

 え……『KILL』……!?
 
 言葉の意味がわかる春香は、背後のざわめきが聞こえなくなった。全身がゾゾっと総毛立つ。
 え、どういうこと? なんでデパートのレジに『殺す』なんて文字が出るの?
 
 パシッという乾いた音と、誰かに右の手首を掴まれる感触がして、春香は現実に連れ戻された。
 
「お釣りはいらない。コレ、もらってくよ」

 男の声が聞こえて、一万円をレジのカウンターに置いていく。
 呆気にとられるおばちゃんの顔を置き去りにして、春香は不意に現れた男にグイグイと引っ張られた。騒然とするレジ前の列が、どんどん小さくなっていく。
 
「え? え? ええっ!? ちょちょッ……ちょっと! 一体なんなのっ……!?」

 どうやら後ろに並んでいた列から飛び出したらしい男の顔を、春香は見上げた。ブレザーの制服は、春香と同じく桃花学園のものだ。
 早足を緩めない男――少年は、かなりの距離を歩いてからようやく振り向いた。
 
「ハイ、ネクタイ。お父さんの誕生日用な」

 歩きながら、空いている春香の左手に、少年は包装もされていないネクタイを無造作に手渡す。
 
「あッ……? 大和……くん? 大和独人(やまと どくと)くん、だよね!?」

 ボサボサな髪の奥にある顔に、春香は見覚えがあった。会話した記憶はないが、なにしろこの少年の知名度は、桃花学園では一、二を争うといってもいい。
 
「へー。光栄。学校で一、二を争う有名人に、名前を知ってもらえてたとはね」

「えっ、私が!? ウソウソ、やめてよ……悪い冗談だよ」

「立花春香。フォトジェニック大賞を獲った、県で一番の美少女だろ。そのヘンの地下アイドルよりよっぽど有名じゃん」

「あ、あれは写真部が勝手に……大和くんの方こそ、本当の有名人じゃない。国に表彰されてるくらいだもんね。ウチの学校の特待生って、大和くんひとりしかいないんでしょ?」

 数学の世界大会で3連覇という偉業を、この同い年の少年は成し遂げているのだった。
 しかし、大和独人の本領は、機械工学の分野にこそ発揮されると言われている。春香には難しいことはわからないが、すでに日本の研究グループのトップに立つ成果を、17歳にして彼は修めているというのだ。
 なにしろ父親が、ノーベル賞間違いなしと言われている機械工学の世界的権威なのだ。遺伝からも環境からも、息子が天才であるのは当然かもしれなかった。
 
「あ、あの……ネクタイ、ありがとう。お金を……」

 ずっと握られたままの手首を払うことができなくて、春香は財布を片手で取りだそうとする。
 
「いや、いい。それ、やるよ」

「ダ、ダメだよ! おごってもらう理由ないし……」

「やるから、代わりにオレの言うこと聞いてもらうぜ」

 学校の体育館の壇上で表彰してもらう姿からは、想像もできないほど大和独人はハキハキと喋った。クラスメイトと想像で造り上げた内気で寡黙な天才、などというイメージとは、実物はまるで違う。
 
「このデパートは『ネクスター』に乗っ取られた。死にたくなかったら、オレの指示に従ってくれ」

 淡々とした大和の口調に、内容が春香の胃腑にストンと落ちるまで、しばしの時間が必要であった。
 
「え……? なに、言ってるの?」

 普通なら、意味が理解できたとしても、大和の言葉を信じる気には到底なれなかったであろう。
 タチの悪い冗談だと、即座に却下しなかったのは、春香なりに不気味な雰囲気をすでに感じていたからであった。店員たちの混乱ぶり、そしてレジに表示された『KILL』の文字……不穏な空気を察するには十分だ。
 
「一刻も早く、ここから出るぞ。1秒の遅れが命取りになる」

「ま、待って待って! ごめん、意味わからないよ。『ネクスター』ってなに?」

「悪の組織。今地球上にいる人類を根絶するのがヤツらの狙い。言っとくけど、これ、マジな」

「え、えぇッ!? あ、悪の組織って……そんな、アニメとか特撮モノじゃないんだからさ……」

 リアルに、真面目な表情で、いかにも理詰めが好きそうな天才の口から、そんな単語を聞くことになろうとは。
 小学生の頃は馴染みのあった『悪の組織』という存在が、高校生になった春香には、現実ではまずあり得ないことがわかっている。地球上に争いは確かに絶えないが、それはいわゆる価値観の相違というやつだ。
 
 幼い頃に見ていた戦隊モノのような、絶対的な悪の組織など実在しない。春香にも、それくらいのリアルはわかっている。
 
「しょうがないだろ。それが一番わかりやすい説明なんだから」

「で、でも……そんな、あり得ないよ……人類を根絶するだなんて。まさか、宇宙人が襲ってきた、とか言うんじゃないよね?」

「そんな非現実的な話じゃない。詳しい説明は後な。今すべきは、この建物から脱出す……」

 デパート内の照明が一斉に消え、大和の話は途中で切れた。
 入れ替わるように真っ赤な非常灯が館内をぼんやりと照らし、けたたましいサイレンが鳴り響く。
 異変にようやく気付いた買い物客が、悲鳴をあげた。騒然となる。パニックに陥った人々は、あちこちで叫び、出口を求めて駆け出している。
 
「き、きゃああっ!?」

「はい、落ち着く。残念だけど、今から急いだところで無駄だ。マザーコンピューターによって、出入り口はもう全て封鎖されてるだろう。うーん、ちょっと行動が遅すぎたか」

「マ、マザーコンピューターによって? ……じゃあやっぱり何かトラブルが……」

「言っただろ。『乗っ取られた』の。すでにここのマザコンは、『ネクスター』の一員ってわけ。殺しにかかってくるぜ。館内にいる人間、全員をな」

 全身の血が引いて、春香の視界は危うく暗黒に飲まれかけた。
 大和が右手首を掴んでくれていなかったら、歩くこともままならなかっただろう。ヘタをすれば、倒れていたかもしれない。
 軽く頭を振ることで、かろうじて春香は、戦慄すべき言葉の内容を呑み込んだ。
 
「殺し……に? コンピューターが? ここにいる全員を?」

「そう。だから逃げる」

「ねえ、なんで大和くんは……そんなこと、わかるの? 一体何者なの?」

「あー、もうメンドいな。今、そんな話してる余裕ないから」

「ッ!? ……もしかして……襲撃されるとわかっていたから、ここにいたの!?」

 半ば強引に連れ回されているのに逆らい、春香は思い切って立ち止まった。
 2、3歩、引きずられるが、止まることに成功する。抵抗を受けて、ガクンとバランスを崩した大和は、ムッとした表情も露わに春香を振り返った。
 
「ちょ、お前……なにしてんの?」

「ねえ、教えて。大和くんは、ここで異変が起こると知ってたの? 私を見つけたのは、ただのぐうぜ……」

 そこまで話して、ハッとした。
 思い出す、レジでの会話。私はお父さんのものとは言ったけど、誕生日プレゼント用だなんて言っていなかったはずなのに……
 
 なんで大和くんは、誕生日のことを知っていたの――?
 
「……大和くんはどうして……このネクタイがお父さんの誕生日プレゼントだって、わかったの?」

「んぅ?」

 春香の突然の質問の真意が、天才と呼ばれている少年には、一瞬で理解できたようであった。
 それまで吊り上がっていた眉が、ピクンと動揺を示して痙攣する。
 
「私、誕生日のことは誰にも言ってなかったよ? どうして大和くんが知ってるの? まさか、ネクタイをあげるなんて誕生日プレゼントに決まってる、とか言わないよね?」

「お前のスマホ、な」

 春香の手首を掴んでいない、空いている右手で、大和独人はボリボリと頭を掻いた。
 
「二か月前から全部のデータ盗んでた。わりい。あ、安心しろよ。お前って見た目だけじゃなく、性格もいいのな。ヘンなメールとか書き込みとか画像とか、一切見なかったから。普通はどこぞのSNSに、げっそりするような悪口とか書いてるもんだけど。あと、めちゃめちゃ恥ずかしい性癖わかったりとか」

 大和の『わりい』が、春香には『ダイエット宣言してるお前のために、冷蔵庫のプリン食ベてやった方がいいかなと思って』と同じ軽さに聞こえて、本気の殺意が一瞬湧いた。
 
「……スマホの中身……全部見たの?」

「あ、うん。お前さ、休み時間に机の上にスマホ置いとくの、良くないぞ。知識と技術あるヤツなら、数秒あれば同期できちゃうから」

「……みんなのスマホも……そうやってデータ盗んでるんだ……」

「バッ、バカいうなよ! その、これはそのッ……お前だけ……お前だけ、特別だよッ! 『ネクスター』の脅威が広まってるんだから、危険な目にそのッ……遭わせたく、ないっていうか……」

 大和に掴まれている右手首を、春香は渾身の力で振り払った。
 
「へ?」
 
「さようなら。ネクタイの代金……あとでゼッタイに返すからッ!」

「はぁ? ……お、おいッ、待てよ!」

 非常灯のせいか、やけに顔が赤く見える大和は、春香の行動と言葉に一気に顔全体を歪ませる。
 動揺も露わな大和に背を向け、制服少女はひとりずんずんと歩き始めた。
 
「それはやるって言っただろッ!?」

「いらない。あなたの言うこと、聞かなくちゃいけないんでしょ? そんなのお断りだから」

「ちょ、お前……なに急に怒ってるんだよ!? オレ、なんか悪いことしたか?」

「ッ!! ……あのね、お前って呼ぶの、やめてもらっていいかなぁ! 私、あなたとはほとんど初対面だよね!?」

「なッ……メンドくせーヤツだな、お前ッ! 今の状況わかってんのかッ!? 死ぬぞ。マジで死ぬから! はい、立花春香サン、ご臨終~~!」

 大和としては春香を立ち止まらせたい一心なのかもしれないが、言われた方は喧嘩を売られているとしか思えない。
 まして非常事態の最中。怒号と悲鳴がデパート中に渦巻き、頼りない赤色の照明のもとで、出口がどこかもわからぬ恐慌のなかだ。押し寄せる不安に、春香の精神が不安定になるのも致し方なかった。
 
 ……おーい!
 
 混乱と、煮え立つような怒りに支配された薄闇で、行く先の奥から届いてきた声は、春香に希望と安寧を与える一筋の光だった。
 
「……誰か、誰かいるかぁー! こっち、出口はこっちだ!」

「ハイ、ここにいますっ! ……よかった……なによ、さんざん脅かして……」

 張り詰めた心と身体が蕩けそうになるのを春香は自覚する。危うく、涙腺が緩みかけた。
 だが、気を抜くのはまだ早かった。とにかくデパートから出ないと。無事に外に出てから……大和独人にはプライバシーの侵害について、たっぷり謝ってもらわないと気が済まない。
 
 赤い光のなかで、デパートの従業員らしき男性が手を振っているのが見えた。インド人のように白いターバンを頭に巻いているのは、カレー屋のシェフかなにかだろうか。
 とはいえ、ヒゲもなく、むしろ白色人種のような顔の中年に、春香は走って近づいた。異常な空間から脱出できる……そう思ったら、女子高生が飛びつかんばかりの勢いで駆け出すのも無理はない。
 
「そいつに近づくんじゃねええぇッ―――ッ!!!」

 切り裂くような大和の絶叫は、一瞬、遅かった。
 すでに春香の肢体は、ターバン男の目の前まで迫っていた。
 
「ほう。いい女だ。始末する前に、ちょっと遊ぶか」

 抑揚も、感情も感じられぬ冷たい声に、あらゆる細胞が戦慄した時、ブレザー姿の女子高生はガッシリと男の手に捕獲されていた。
 
 バヂィ”ッ!!! バリバリバリィ”ッ!! バヂヂッ!!
 
 薄暗い照明のもとで、ビカビカと春香の全身が発光する。
 弾けるような高圧電流の音色と、放電を示す紫の稲光りが、ブレザー少女を包んでいた。
 
「きゃああああ”あ”ぁ”ッ―――ッ!!? ……ァ”ア”ッ……!! ウアア”ァ”ッ――ッ!!」

 全身が爆発するような激痛に、春香は絶叫していた。
 両肩を掴んだターバン男の手から電流が注がれ、筋肉がビクビクと痙攣する。神経が焼き切れそうなのに、身体の自由が利かなくてどうすることもできない。
 このまま細胞が沸騰して死ぬのだ……そんな残酷な予感が、霞む意識の片隅に居座る。
 
「雷帝インデュラッ!! てめえがいるのかよぉッ!!」

「ふむ……貴様、私の名前を知っているのか? 興味深いな」

「神の名前をパクリやがって、この不届きモンがぁッ!! そのコを離せッ!! 今すぐだッ!!」

 春香の耳に届く大和の声は、野獣のようだった。これほど猛々しい声を本当は出せたのだと、初めて天才少年の本気を知る。
 だが、悲しいかな、今の春香は高圧電流の苦痛に耐えるだけで精一杯だった。
 悶える以外、叫ぶ以外、なんらの反応もできない。ターバン男の手に踊らされている自分を、虚しく自覚するのみ。
 
「よくわからんが、この娘を嬲れば面白い反応が見られそうだ」

 細い首に、男の左腕が回される。身長差のせいで、春香は首を吊られそうになった。爪先で立たなければ、窒息してしまう――。
 すぐ目の前に、男の右手が突き出された。春香に見せつけるため、わざとやっているのだと気付く。
 
 その瞬間、立花春香は己がひとではない存在に襲われている事実を悟った。
 ターバン男の右手は、銀色の金属で出来ていた。しかも5本の指先は、どれもパソコンなどに接続する端子のようになっている。
 春香もよく使う、USBメモリのコネクター。あれによく似ていると、反射的に連想した。
 
「我ら『ネクスター』に比べれば、人間などは脆いものだ」

 コネクターになっている5本の指を、インデュラと呼ばれた男は、ブレザー越しに春香の右胸に押し付けた。
 5匹のスズメバチに、乳房を刺されたかのような、激痛。
 だが、それだけでは終わらない。バリバリと右胸を焼く電流は、乳腺を刺激してじんわりと疼くような快感を催す。ビリビリという痺れが、そのまま83㎝のバストを小刻みに愛撫する。
 
「うぇ”あ”ぁ”っ……!! ひぐぅ”っ!! ……んくぅ”っ……あ、ああ”っ……や、やめぇ”っ……!!」

「春香ッ!? やめろ、てめえぇぇッ――ッ!!」

「快楽の電気信号を、直接乳房に流してみた。他愛無いな、この娘。まだレベル……2に過ぎんというのに」

 ターバン男の台詞が終わる直前、ブレザーに収まった胸の丸みを、電流が一段と激しくなってバチバチと弾く。
 乳房の感じるポイントを、一斉に針でカリカリと弄られたようだった。沸き上がる快楽が、数倍に膨らむ。キュン、と一瞬で乳首が屹立するのが春香にはわかった。
 
「あへあ”っ!! へうぇ”っ~~っ!! ひぃ”っ、ひぃやあああ”あ”っ~~~ッ!!!」

 自分が呆けたように、惨めな嬌声を迸らせているのがわかる。口が半開きになり、トロトロと透明な涎を垂れ流しているのもわかる。さっきまで言い争っていた大和に、感じていることがバレバレの、アヘ顔を晒してしまっていることも――。
 
 死にたい、と思った。こんなみっともない姿を見られるくらいなら、死んだ方がマシだ。
 
 だが、自ら死ぬ選択すら許されない春香は、乳房に送られる官能の電撃に、可憐なマスクを蕩けさせて喘ぎ喚く。
 
「どうせこの建物からは、誰も逃げられない。旧人類を殲滅する前に、この娘の嬌態を味わっていくとしよう」

 インデュラが右手の指を一本伸ばす。むろんその先端は、銀色の接続用コネクター。
 春香の右胸を解放した男は、放電する指先を、制服美少女の耳穴に突っ込んだ。
 
 バヂバヂバヂュゥ”ッ!! ビヂビヂッ!! バリバヂュウ”ッ!!
 
「きゃああああ”あ”あ”っ~~~っ!!! 脳っ!! あたまがぁ”ッ――ッ!! とへぇ”っ、蕩けひゃふぅ”っ~~~ッ!!!」

 快楽信号を大脳に直接流され、春香の意識は桃色に染まった。
 気持ちよすぎて、脳ミソが溶ける。本気で少女は覚悟した。もう自分は、廃人になるしかないと。脳を直接愛撫されては、耐えられるわけがないと。
 
「やめろォッ――ッ!!! そのコだけは手を出すんじゃねえェェッ――ッ!!」

 言葉の意味はわからずとも、大和が咆哮しているのがかすかに聞こえる。と、その瞬間。
 デパートの天井が割れて、上の階から桃色の塊が降ってくる。
 コンクリの床とともに落ちてくるそれは、春香の眼にも、ひとの形をしているとわかった。
 
「なにッ!?」

 表情を引き攣らせるインデュラの首筋に、まともに飛び蹴りが突き刺さった。
 天井から降ってきた桃色の――正確にいえば、白とピンクの中間色といった淡い色の塊が、蹴りを放った主であった。ターバン男は、木の葉のように吹っ飛んでいく。
 
 インデュラの腕から解放された春香は、派手な登場をした救世主の姿を、絶え絶えの意識のなかで見ることができた。
 
「ごめんね。危うく間に合わないところだったわ」

 ミルキーピンクとも言うべき色の服を着た少女は、電撃の余波でまだブルブルと痙攣している春香を優しく抱き締めた。
 そんなに年は変わらないはずなのに、母親に包まれたような安心感が、春香の胸に広がる。瞳が丸く大きく、鼻はスッキリと高いため、外国人にも似た美少女であった。ショートヘアーの少女の瞳には、ハッキリと伝わる慈しみが溢れている。
 
 淡い、ドレスのような色調の衣服は、実はセーラー服なのだとようやく春香はわかった。
 だが、ただ色合いが珍しい制服、に留まらない。胸の内に抱かれているからこそ、春香は知った。一見普通に見える制服が、驚くべき秘密を持っていることに。
 
 このミルキーピンクのセーラー服は、金属の鎧のように硬かった。
 鎖かたびら、のようなものだろうか。衣服と同じ性質を持ちながら、強度だけが異様に高い。
 むろん天井を突き破った事実と加え、彼女が並の存在であるわけがない。
 
「どうやら……貴様のようだな。最近出没する、我ら『ネクスター』の邪魔をする愚か者とは」

「そうよ。私は……i(アイ)ドール」

 そっと春香を床に降ろしたショートヘアーの少女は、丸い瞳を凛と輝かせた。
 
「正確には、ドールピンク・オウカ。お前たち機械生命体『ネクスター』を斃すために、闘い続ける闘姫(ドール)よ」



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| 鋼血の姫甲士 | 10:20 | トラックバック:0コメント:3
コメント
ファンティアhttps://fantia.jp/fanclubs/1770 にて先行公開していた「鋼血の姫甲士」を、時間差で発表していきたいと思います。
サイボーグ風の女子高生たちが戦隊ヒロイン風に闘う……という、「~風」としか表現しにくい作品なんですけど(^^ゞ、楽しんでいただければ幸いです。

ヒロインのひとり、花咲はるえを信さまhttps://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=65567951 に描いていただきましたので、是非そちらも合わせてご覧ください(*´▽`*)

意識して「オメガスレイヤーズ」とは雰囲気を変えてみようとしていますので、こちらはこちらで気に入ってもらえれば(^^ゞ
2017.10.26 Thu 10:22 | URL | 草宗
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2017.10.28 Sat 02:01 | |
>コメントくださった方
ありがとうございますw ボクもあのアリスのようなシーンをもっとやりたくて、鋼血の姫甲士は始めました。機械化された肉体ならではの破壊もありますし、壊れてもまた直せる良さもありますしねw

囚われのヒロインを嬲る、というのは大好物なので……(^^ゞ
好きなのでまた同じようなシチュをやると思いますw その折をご期待いただければ(*´▽`*)

2017.10.28 Sat 23:50 | URL | 草宗
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