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オメガフェアリーのキャラ絵と今後の展開についてご報告します | main | ウルトラ戦姫物語 博士の愛した戦姫編① ジェニスの章
オメガスレイヤーズ 第0話 「破妖の天使」⑩
フェニックスのコピー

 14、最後のひとり
 
 
 紅蓮の炎天使・オメガフェニックス――。
 その異名どおりに、真っ赤なコスチュームに身を包んだ少女だった。やや吊り気味の瞳が、勝ち気そうな表情によく似合っている。打撃系の構えを取った肢体は小刻みに揺れ、今にも襲い掛からんばかりだ。
 
 こいつは――やる。
 
 天妖・絶斗がフェニックスとまじまじと対峙するのは初めてのことだが、ひと目でその実力は窺い知れた。
 少なくとも単純な身体能力は、オメガセイレーンを確実に上回っていよう。蒼碧の水天使はタイプ的に、能力に依存する闘い方だ。対して新たに出現した破妖師は、オメガ粒子の恩恵なくとも強さを発揮するタイプ――。
 
 頭ひとつ分はセイレーンより背の低いフェニックスだが、小柄な事実を感じさせない。
 特に――そのバストのボリュームは、否応にも視線が向いてしまうほど際立っていた。身体はSサイズなのに胸だけはLサイズ・・・カップでいえばEはあろうか。しかも形が美しく、マンゴーのように盛り上がりながらもまるで垂れずにキュンと突き出ている。

 
「・・・おいしそうじゃん。だけどさッ! ちょっと確認しなきゃいけないことがまずあるよね!?」

 おかっぱ頭の少年妖魔が睨んだのは、赤いケープの破妖師ではなく、弁髪の武人であった。
 
「なぁ、アンタ。フェニックスは殺したはずじゃなかったっけ? どうしてピンピンしてるんだよ」

 〝オーヴ〟の戟を握ったまま、〝無双〟の虎狼は答えない。
 
「武の結晶、とかなんとか偉そうに言われながら、ミスってたのかよ!? ちゃんと説明してもらわないと納得いかないなぁッ!?」

「そのひとは、あたしをわざと殺さなかったのヨ」

 代わりに答えたのは、構えたままのオメガフェニックスだった。
 
「そうでショ? あの時、あなたは・・・あたしが死んだように見せかけた。仮死状態に陥るよう、巧みにトドメを刺して、ネ」

 半年前、オメガヴィーナスが絶命した惨劇の際、虎狼の手によりオメガフェニックスは殺された。と思われていた。
 胸を串刺しにされ、心臓をはじめ、あらゆる生命活動が止まっていたのだから、当然だ。
 だが、〝無双〟の虎狼ほどの技量があれば、死を偽装することも不可能ではない。ましてヴィーナスと違い、フェニックスの遺体は確認したわけでもないのだ。
 
「屈辱・・・ヨネ。敵に、生かされるなんて。ある意味、これ以上の完敗はないモン」

 視線をわずかに落とした炎天使は、すぐに見上げて虎狼を見つめた。
 
「でも、わかるヨ。〝無双〟の虎狼、あなた・・・あたしと闘いたいんでショ? 正々堂々、余計なモノなしでやりあいたいのヨネ? あの時は、ドロのバケモノが邪魔だったモン」

「おいおいッ・・・! アンタ、マジかよ!? そんな理由でフェニックスを!?」

 表情ひとつ変えずに、虎狼は緑色の戟を構え直す。
 真っ直ぐ見据えた眼光は、炎天使と天妖、どちらに向けられたかわからない。
 
「あたしもネ・・・わかるヨ、虎狼っ!! あたしも、あなたと闘いたいっ!! そのためにこの命、救ってくれたのヨネっ!?」

「・・・貴様は、オレの999体目の獲物だ」

 茶色の唇を、巨漢の武人はようやく開いた。
 
「オメガヴィーナスと順番が逆になったが・・・改めて、貴様を獲物にする。オメガフェニックスッ! 貴様は記念すべき1000体目の獲物に相応しいッ!!」

「・・・ありがとう。生かしてくれたことにはお礼しないケド・・・選んでくれたのは嬉しいカナ」

 ニッと、フェニックスが桜色の唇を緩やかにカーブさせた。
 その瞬間、紅蓮の炎天使と筋肉に覆われた修羅妖が正対する。構える両者の間で、空間が緊迫する。
 真っ向からぶつかりあう闘志で、空気そのものが硬直していくかのようだ。
 
「ふっ・・・ざけんなァッ――ッ!! お前らッ! ボクだけのけ者にして、楽しめると思ってんのかよォッ~~ッ!!」

 奇妙な事態が、起き始めていた。
 対決しようとしているのは、オメガフェニックスと〝無双〟の虎狼。仲間であるはずなのは、虎狼と〝覇王〟絶斗。
 それなのに、3人のなかでもっとも疎外感を味わっているのは、少年妖魔であるという現実。
 
「これはオレと、オメガフェニックスとの闘いだ」

「イヤだねッ! 独り占めするなんて汚いぞッ! ボクだって遊びたいッ!」

「失せろ、小僧。手を出すなら、先に貴様を消すッ!」

「あぁッ!? ボクを小僧呼ばわりするのッ? お前さ、覚悟できてんだよね? いいよ、消せるものならやって・・・」

 絶斗の台詞が終わらぬうちに、弁髪の武人は駆け出していた。天妖の少年に向かって。
 長大な戟を振るう。その穂先は、緑に輝く〝オーヴ〟製。オメガスレイヤーのみならず、妖化屍をも衰弱させる魔の鉱石。
 
「やんのかよォッ――ッ!! てめえェッ――ッ!!」

 150㎝ほどの絶斗の全身が、漆黒の霧に包まれた。
 激突する、修羅妖と天妖。〝オーヴ〟の戟と絶斗の拳が交錯する刹那――。
 瞬くうちに飛び込んだのは、深紅の閃光と化したオメガフェニックスであった。
 
「炎舞・撃っ!!」

 両腕を広げたフェニックスが、巨大な炎の砲弾を・・・直径50㎝はあろうかという火球を放つ。左右に。二体の六道妖に、同時に。
 虎狼は瞬時に戟で受け止め、絶斗は漆黒の身体でまともに浴びた。しかしながら結果は同じ。火球の威力に大きく吹っ飛ぶ。業火の破片が、キャバクラの店内を明るく照らす。
 
 フェニックスを中央に、ほぼ等距離を置いて3人は一直線に並んだ。
 
「ったく! なんであたしが、あなたたちの仲裁しないといけないカナ!?」

「オメガフェニックスぅッ!! ボクもお前と遊ぶぞッ!! アイツだけに獲物はやらないッ!」

 服に纏わりつく炎を手で払いながら、絶斗は叫んだ。
 ダメージをほとんど受けていないのは虎狼も同様だった。仁王立ちで、じっと事態を静観する。

「2人一緒に相手してもいいケド・・・虎狼には借りがあるノ。彼の純粋な気持ちに、あたしは応えたい。虎狼と決着ついたら、いくらでも闘ってあげるワ」

「ヤだねッ! そんなんじゃ納得できないッ! だったらあそこに転がってるセイレーンをバラバラにするぞ!? いいよな、お前が相手しないってんならさ!」

 天井に埋まっていた頭部が抜けて、オメガセイレーンがうつ伏せで床に横たわっていた。
 大きな瞳は閉じられ、長い睫毛が黒々と影を落としている。脳天が割れているのか、茶髪の隙間からドクドクと鮮血が湧き出て、端正なマスクに赤い網目を描いていた。
 
「・・・くっ!」

「あは、あはははッ! 好きなだけ虎狼のオッサンと遊んでろよ! その間にボクは、死にかけのお姉さんを解剖し放題ってわけだ。まずは目玉をくりぬこうかなッ! ヴィーナスとどっちがうまいか、食べ比べてやるよッ!」

 頬を膨らませた絶斗は、コロコロと口のなかで反響する音を殊更大きくしてみせた。
 
「それが嫌ならボクを力づくで止めるしかないよね! 自分たちだけで、都合よくタイマン勝負だなんて・・・そんなワガママ、許さないからなッ!」

 ふぅ、と大きくフェニックスが溜め息をついた。
 血走った虎狼の眼が吊り上がっていくのが見えるが、〝覇王〟絶斗は無視を決め込んだ。元々勝手な行動に走ったのは修羅妖の方だという想いは強い。貴重で、遊び甲斐のあるオメガスレイヤーを独占したいのは、少年妖魔も変わらない。
 
「大したものヨネ。こうなる可能性も、予想してたんだから」

「はぁ?」

「君のことじゃないワ。司具馬。もし邪魔が入ったら、これを見せろってネ」

 取り出したもの――汚れた布切れを、フェニックスは絶斗の足元に投げ捨てた。
 バサリと落ちた黄色の、元々は光り輝いていたと予想される生地は、五角形をしていた。文字のような、記号のような模様が描かれている。フェニックスの胸中央に輝くのと、同じもののようだ。
 
 ボロボロに擦り切れ、黒い焦げ跡のついた、『Ω』マークの紋章だった。
 
「ッ・・・これはッ・・・!!」

「気付いた? そう、オメガヴィーナスの・・・天音がつけていた紋章ヨ」

 絶斗だけでなく、離れた位置から見つめる虎狼もまた、息を呑んでいた。
 
「あなたたちはそれを、誰の身体に着せたカ、覚えてる? 天音の、オメガヴィーナスの遺志は・・・その紋章に残されたオメガ粒子を通じて受け継がれたノヨ」

 ヴィーナスを処刑した夜のことは、鮮明な記憶となって絶斗の脳裏に焼き付いていた。生涯の絶頂というべき、歓喜の瞬間だったのだ。忘れられるはずもない。
 四乃宮天音から奪ったオメガスレイヤーの象徴は、その妹に無理矢理取り付けた。座興として、だ。瓜二つの姉妹をヴィーナスに見立てることで、互いの惨めさを知らしめ、処刑に華を添えた。
 
 ・・・消滅させたはずの、光属性のオメガ粒子が、まさか紋章に残っていたとでもいうのか?
 
「新しい光のオメガスレイヤーから、メッセージヨ」

 フェニックスの右手がスマホを握っている。スピーカーをONにし、音量を最大限にして。
 通話先を報せる液晶表示には、『四乃宮郁美』の名が映っているのを絶斗の眼は見逃さなかった。
 
『えーと・・・もしもし?』

 第一声は、とても短く、その場の雰囲気からすれば間が抜けたと思えるほど、平凡なものだった。
 だが、絶斗も、そしてまた虎狼も、この声が聞こえる重大な意味を理解している。
 
「・・・ッ・・・生きて・・・・・・やがった・・・ッ!!」
 
『コホン! えと・・・聞こえてるかな? 絵里奈さんに、もちろん凛香さんにも、手出しするのは許さないから。〝無双〟の虎狼。そして、〝覇王〟絶斗』

 室内に流れた、オメガヴィーナスと変わらぬ声質に、絶斗の総毛は逆立った。
 恐怖ゆえに、ではない。
 歓喜ゆえに。再び光のオメガスレイヤーと遊べるという、無上の喜びゆえに。
 
「・・・そうかッ! お前ッ、オメガスレイヤーになったのかよッ!! 四乃宮郁美ぃッ!!」

『私は・・・白銀の光天使オメガエンジェル。覚えておくといいよ』

「ははッ! あはははッ!! いいぞ、最高だよッ!! 死んだお姉ちゃんの敵討ちってわけだ」

『そのイラっとする笑い声は絶斗だよね? あなたには、特に言っておくことがあるから』

 スマホから響く凛とした声に、絶斗は笑いを止めて耳を傾けた。
 
『天音から奪ったものは、全て返してもらうわよ。身体も、眼も』

 危うく絶斗は、飴玉代わりのヴィーナスの眼球を、噛み潰しそうになった。
 
『もちろん、あなたの命もね。小僧ッ!』

 ブチブチブチブチィッ!!
 顔中に浮かんだ血管が、何か所かで切れる音がした。
 糸のような眼を見開き、青筋をビッシリと浮かべながらも、絶斗の顔は笑っていた。
 
「ィッ・・・!! いい、ねッ!! お前、いいよッ!! これだけ殺すのが楽しみなのは、お前の姉貴しかいなかったぜッ!?」

『そう。偶然だね。私もね、あなたを倒したくてたまらないの。今すぐそっちに行きたいくらい』

「ねぇ、虎狼サン。オメガフェニックスはもういいや! アンタにあげるよ。その代わり、クソ生意気なオメガヴィーナスの妹はボクの獲物だッ!! アンタこそ手を出すなよッ!!」

 無言で答えない虎狼の反応を、絶斗は『了承』と受け止めた。
 突然フェニックスがスマホの声を聞かせた意味も、絶斗にはきちんと理解できているつもりだった。万が一、虎狼以外にも襲われた場合の対処を、オメガフェニックスは備えていたのだ。絶斗の反応は想定通りということになるが、オメガエンジェルなどという新鮮で極上のご馳走をエサに使われたら、釣られてやる価値はある。
 
『・・・虎狼。父さん、母さん・・・そして天音・・・私の家族をみんな奪ったあなたも、私は許すことができない』

 若干、通話の向こうで声のトーンが落ちた。
 自分と虎狼、どちらにより復讐の念を四乃宮郁美が抱いているのか、絶斗には判断することができなかった。
 
「無論だ。オレを許すな。1001体目の獲物となれ、オメガエンジェルとやら」

『あなたも必ず、土に還してみせるから』

「貴様が絶斗に勝ち、オレがフェニックスに勝てば問題はない」

「よーし、じゃあ話はまとまったネ!」

 パンパンと、両手を甲高く鳴らしたのは、グラマラスな肉感ボディを誇る炎天使であった。
 
「早速闘いを、って言いたいトコだけど、今は絵里奈の治療が先カナ。今日は帰らせてもらうヨ。あたし、ショートケーキのイチゴは最後に食べる派なのヨネ」

 ダッ、と床を蹴ったと見えた時には、赤いコスチュームに包まれた肢体は、一瞬のうちに横臥するセイレーンに駆け寄っていた。
 
「いいデショ? あたしは、あなたとの決闘は互いにベストで臨みたいノ」

「・・・こんなものは、傷のうちに入らんッ!」

 フェニックスの視線に気づいたのか、己の分厚い胸板に刻まれた無数の朱線を、虎狼は見つめる。
 
「あなたがよくてもあたしが困るんダ。勝った時に、絵里奈との闘いを言い訳にされたくないモン」

「オーケー! わかった、いいぜ」

 不服の表情をアリアリと浮かべた巨漢の武人を、小学生のような子供が諭すように言った。
 
「見逃してやろうよッ、虎狼サン! 作戦通りってのが気に食わないけど、まあいいや。策に嵌ってやる。セイレーン連れて帰っていいぜ。どうせオメガスレイヤーは、ボクたち妖化屍を葬るのが宿命だもんね!?」

「そうだヨ。あたしたちは、逃げない。あなたたち妖化屍は、生きてちゃいけない存在ナノ」

「来いよ、ボクら六道妖のアジトへ」

 絶斗が口にした台詞に、さすがの虎狼も表情を硬直させた。
 
「教えてやるよ、アジトの場所。斃したいんだろ? 復讐したいんだろ、一刻も早くさぁッ!? 大好きなお姉ちゃんのカラダ、1秒でも早くジグソーパズルみたいに繋ぎ合わせたいんだろうッ、オメガエンジェルぅッ――ッ!?」

 前代未聞、すぎた。
 潜伏する隠れ家の場所を、絶斗は自らの口で発表しようというのだ。本来なら小躍りすべき話に、炎天使が困惑するのも無理はない。
 
 たじろぐ様子を隠しもしないフェニックスに代わって、スマホから届く声が天妖の〝覇王〟に返答した。
 
『・・・もちろんだよ。たとえ罠だとしても、喜んで私はあなたたちが待ち構える場所に乗り込んでやるわ』

「さすがッ、生意気クソ女だぁッ!! 万全で来いよ、オメガエンジェルッ!! お前らはもう終わってることを教えてやるよォッ――ッ!! 正々堂々、真っ向からボクらと勝負してオメガスレイヤーは全滅するのさッ!」

 一瞬の静寂が、キャバクラ『シーサイド』の店内を包む。
 突拍子もない絶斗の提案。だが、互いの目的は一致していることに、ほどなく全員が気付いていた。一同を代表して言葉を発したのは、スマホの奥の可憐な声――。
 
『受けて立つわ。オメガスレイヤーと妖化屍はッ・・・互いに殺しあうのが宿命だものッ!!』

 殺しあう。
 という言葉のときに、声が半音高くなったのを絶斗は聞き洩らさなかった。
 
「・・・じゃあ、よく聞けよな。ボクたち六道妖のアジトは」

 スマホの向こうで、四乃宮郁美が固唾を飲むのが、天妖の少年には伝わってきた。
 
「上野恩賜公園を中心とした、付近一帯。動物園も、美術館も、博物館も・・・不忍池からアメ横まで。あの辺全部が、ボクら死者の世界さ。上野の夜に、生きている者はひとりもいない。住民はすでに全員ケガレ・・・ボクら六道妖の、忠実なゾンビだ」



「・・・命拾い、したのう・・・ッ・・・」

 身長130㎝足らずの皺だらけの老人が、吐き捨てるように言い放った。
 地獄妖〝百識〟の骸頭がいるのは、相変わらず、西洋画に囲まれた一室であった。だが、飾られた作品は、人物を中心に描いたものが多い。恐らくは宗教画なのだろうが、オメガヴィーナスの遺体が保存された部屋とは、別室であるのは明らかだった。
 
 国立西洋美術館。
 
 上野駅周辺の数ある施設のなかで、骸頭が己の根拠地としたのが、この美術館だった。ほぼ直方体の箱のようなデザインは、簡素ながら洗練されている。他にも芸術に関する施設が多々あるなかで、1600歳を越える妖化屍がここを選んだのは、ひとえに建物の形が好みだったからだ。
 
「あの女狐めが。あてにならぬ情報ばかりではないかッ! たまにもたらす確実な話は、よからぬ内容ばかりじゃわいッ・・・」

 今しがた、スマホ越しに届けられた〝輔星〟の翠蓮の言葉を、骸頭は思い出す。
 悪夢のような、報告だった。
 新たに光属性のオメガスレイヤーが現れた。それも、死んだはずの四乃宮郁美が、姉・天音の遺志を継いで。
 オメガエンジェルと名乗る郁美の前に、人妖・縛姫と餓鬼妖・呪露は撃退され、九分九厘成功しかけていたオメガカルラとペガサスの抹殺は失敗に終わった。しかも消息不明となっていた、司具馬というかつてのオメガヴィーナスのサポート役も、郁美の側についているという。
 
「・・・おのれッ! おのれェッ! おのれェッ~~ッ!! 完全勝利、だったんじゃあッ!! ・・・オメガスレイヤーどもはッ・・・あと一歩で、殲滅できておったのにィッ!!」

 まだ、死者の春を、謳歌できぬのか。
 1600年待ち続けたというのに、いまだ理想郷は実現できないというのか。
 
 ようやく捕まえた、と思えた幻の蝶は、骸頭の掌のなかで消えていった。
 しかし、以前ならばそんなものはいない、と諦めていた蝶は、いまや確実に存在すると骸頭は知っている。しかも、少し背伸びすれば、届く位置まで近づいているのだ。
 
 闇に隠れ、恐怖におびえ、それでもどこか、わずかな可能性に賭け続けた1600年間。
 大手を振って世界を闊歩できる日々が、すぐそこまで迫っている以上、こんなところでへこたれている場合ではなかった。蝶は必ず、捕まえられる。長年の、長すぎる年月の努力は、きっと報われる。
 
 妖化屍の唯一の脅威であるオメガスレイヤーは、六道妖が抹殺してみせる。
 
「グギョッ! ギャアアオッ!!」

 甲高い怪鳥の鳴き声が、美術館にこだまする。
 2mはあろうかという、漆黒の巨鳥だった。パッと見、カラスに似ている。しかしところどころ、ケロイド状に赤黒く爛れた地肌と、長く鋭い黄色の嘴が、このバケモノの脅威はただサイズだけに留まらないことを漂わせている。
 
 畜生妖・〝骸憑(むくろつき)〟の啄喰(ツクバミ)。
 
 巨大な怪鳥がバサバサと翼をはためかせると、それなりに広いはずの展示場は随分手狭に思えた。
 黒い羽毛が舞う中で、啄喰は落ち着かず騒いでいる。
 
「まさか・・・のう。来るはずのないヌシが現れた時には、心底驚かされたわい。女狐めは、しばらくは動けぬと、うそぶいておったが・・・」

 巨鳥が落ち着かないのは、その目の前にいる、人物が原因のようであった。
 
 足首にまで届こうかという長いケープが、背中でなびいている。
 緑と青の、中間のような色。ターコイズブルー、あるいはターコイズグリーンと呼ばれる色味であろう。ワンピース型のスーツも同じ色で出来ていた。裾のフレアスカートはやけに短く、少し動けば中のショーツが見えてしまいそうだ。逆にオフホワイトのロングブーツは膝を覆うまでに長く、間にある、いわゆる絶対領域の生身の太ももがやけに艶めかしい。
 
 背中にまで届く、ウェーブのかかった長い髪と、胸中央の紋章が、黄金色に輝いている。
 紋章の『Ω』のマークを確認するまでもなく、その若き乙女の正体は明白であった。
 
「・・・深緑の地天使オメガフェアリーよッ・・・!! 関西におるはずのヌシが、よくぞここまでやってきたものじゃッ・・・!」

 オメガスレイヤー最後のひとり。地の属性を持つ破妖師・オメガフェアリー。
 涼しげな切れ長の瞳が、真っ直ぐに骸頭に向けられている。すっと高く通った鼻梁と、赤い厚めの唇。ひとつひとつが華やかなパーツを持った美貌は、モデルやレースクイーンなどの派手な仕事が似合いそうだった。
 身長は決して高くなく、むしろ小柄な部類に入るだろうが、そのシャープな顔立ちとスレンダーな肢体のせいで、随分スタイルよく映る。
 
「ここにおる、ということは・・・翠蓮の予測を裏切る速さで、アチラの妖化屍を処理してきた、ということじゃな?」

 骸頭の問いに、オメガフェアリーは答えない。
 
「ヌシがオメガスレイヤーどものリーダーを務めておる、という情報は正しいようじゃなぁ? どうじゃ? なんとか言うてみぃ!?」

 長い睫毛も、整った柳眉も、深緑の地天使はピクリとも動かすことはなかった。
 ギャアギャアと騒ぐ巨大カラスが飛び掛かろうとするのを、骸頭は制した。戦力としては大いに役立つ啄喰であるが、理性と知性に乏しいのが難点だった。御してやらねば、なにをしでかすか、わかったものではない。
 
「儂らの虚をつき、一気にアジトに乗り込んでくるとはのうッ! 恐れ入ったわい、オメガフェアリーよ。ここまで大胆に動いてくるとはッ・・・さすがにリーダーを務めるだけはあるのう」

 ツツ・・・とターコイズグリーンのスーツを纏った肢体が、前方に傾く。
 
「わざと関西方面に・・・この場所を流布した甲斐があったわいッ!!」

 どしゃああッ・・・!!
 
 無言のまま、オメガフェアリーは受け身も取らずに、美術館の床に昏倒した。
 その右胸と腹部に、杭でも穿たれたかのように、穴が開いている。巨大な嘴で、突き刺された痕だった。ドクドクと真っ赤な鮮血が、溢れて流れている。
 
 両腕の付け根と、両脚の太もも部分。そして首との5箇所に、緑に光るリングが嵌められている。〝オーヴ〟製の拘束具。さらには拳大の魔鉱石を、ネックレス代わりに首からぶら下げたフェアリーは、うつ伏せに倒れたままヒクヒクと痙攣を繰り返す。
 
「ッ!! ・・・ヌシをここで始末しッ・・・全てのオメガスレイヤーは、根絶やしにできたはずだったんじゃあッ!! オメガエンジェルなどというッ・・・亡霊が現れなんだらのうッ!!」

 骸頭の感情が、伝染したかのように。
 深緑の地天使に飛び乗った怪鳥が、ガシガシと鉤爪のついた足で踏みつける。小柄でスレンダーな肢体に、見る間にザクザクと細かな傷が刻まれていく。
 
 カラスのバケモノに足蹴にされるオメガフェアリーは、顔を踏まれても、胸を潰されても、なんの反応も示さなかった。
 すでに深緑の地天使は、骸頭と啄喰の前に、敗北していた。
 
「ヌシを・・・むやみに殺すことは出来なくなったのうッ・・・!! このカラダッ、有効利用させてもらうぞッ!!」

 胸中央の『Ω』のマークに、畜生妖の黄色の嘴が振り下ろされる。
 ドシュウウゥッ!! と刺突の音がして、鋭い先端がフェアリーの胸の谷間に埋まった。
 
「・・・ふぐぅ”っ!!? ・・・ぅ”っ・・・!!」

 一瞬瞳を見開き、呻きとともに鮮血を噴きだすオメガフェアリー。
 再び意識を失い、ガクリと脱力するオメガスレイヤーのリーダーを、串刺しにしたまま〝骸憑〟が高々と掲げる。
 
「・・・地獄から、舞い戻ってきおったかッ、四乃宮郁美ッ!! いや、オメガエンジェルッ・・・!! どこまでも、いつまでも儂らの宿願を姉妹ともども邪魔するかァッ!!」

 呪詛の台詞を吐き出す骸頭の額で、ブチブチと音色が響く。
 限界まで歪んだ皺のなかで、怪老の肉体に巣食ったウジ虫が、何匹も潰れて緑の体液を飛び散らせた。
 
「防げるものなら防いでみィッ!! 儂ら妖化屍はッ・・・死者の群れは、生者の世界を奪い取るッ!! ヌシらオメガスレイヤーどもの亡骸がッ・・・我らが神への生贄となるのじゃあッ!!」

 ウオオオオォォ・・・・・・ンンンッ・・・・・・!!!
 
 骸頭の雄叫びに呼応するかのように、美術館の外で大地が鳴動した。
 正確には大地そのものが音を発したのではなく、地を埋め尽くしたケガレの群れが咆哮したのであった。隙間もないほど群がった、リビングデッドの波。虚ろな表情で、骸頭の指示に合わせて動くだけのゾンビたちは、漂い流れるオメガフェアリーの血の匂いに、歓喜しているかのようだ。
 
 総勢、約18万体。
 
 それだけのケガレを、この半年で六道妖は、上野界隈で配下にしてきた。
 殺せば殺すほど、妖化屍の忠実な下僕は増えていく。来るべき決戦に備え、さらに死者たちの兵隊を骸頭は増員するつもりだった。
 
 究極の破妖師オメガスレイヤーと、対抗手段を手に入れた妖化屍集団・六道妖。
 
 その本格的な開戦は、これからが本番だった――。
 
 
 
 《第0話  破妖の天使 了》
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| オメガスレイヤーズ | 00:08 | トラックバック:0コメント:9
コメント
ようやくといいますか、オメガスレイヤーズの第0話、完結しました(^^ゞ とはいえこれからが本番になるわけですが、今後については以前からお話している通り、有料化を基本路線として考えています。申し訳ない気持ちもあるのですが、今後の目標に向かって進むための措置として、ご理解ご容赦頂ければ幸いです。

今後の詳しい展開は、後日改めて(今月中には、と思っていますけど…)させていただくとして…。

ここでちょうど区切りとなりましたので、しばらく(一カ月ほどでしょうか)新作の公開などは控える予定です。といっても水面下で準備を進めるためなので、活動ペース自体は変わらないんですけど(^^ゞ

オメガスレイヤーズも本当にようやく、本番である血で血を洗う抗争が始まりますので、自分自身ワクワクしていますw 順調にいけば以前から話していたサイボーグ風の戦隊?っぽい話も始められますし、コミケなどの準備もありますし、もちろんウルトラ戦姫の続きもありますので…
ワクワクしながら、どこまで出来るのか、ドキドキってところでしょうか(^^ゞ

まだまだやりたいことはいっぱいありますので、どうぞ今後ともご支援ご贔屓のほど、よろしくお願いいたします。

そして挿絵には、炙りサーモンさまに描いていただいたオメガフェニックスを登場させました(*´▽`*)
残る五天使の最後のひとり、オメガフェアリーについても近日公開の予定ですので、そちらもご期待いただければと思いますw
2017.05.20 Sat 00:10 | URL | 草宗
役者が揃いましたね。今回はフェニックス復活のいきさつも分かって満足です。因縁の対決、今後に期待です。また、最後のシーンは・・・きっと次回、詳細が明らかになるのでしょうね。楽しみです、早く読みたい!!DLになっても容赦なくオメガスレイヤーズを追い込んでください。
2017.05.20 Sat 02:10 | URL | オメガ好き
>オメガ好きさま
はい、この0話は役者を揃えるのが最大の目的だったので、まずはそこをクリアできて満足してます。
フェニックスと虎狼の関係は、少年ジャンプのノリを目指しているんですが(^^ゞ、多対多のバトルのなかにこうしたタイプもあっていいかと思いましてw

フェアリーは自分でも気に入っているキャラで、炙りサーモンさまから頂いた立ち絵もイメージぴったりの素晴らしいものなんですよw 早く皆さんにもお披露目したいです(*´▽`*)

どこまでできるか、今準備しながら調査中なんですが、次回からのオメガはDL以外の方法も模索していまして・・・
有料にはなってしまいますけど、そのぶん満足いただけるものを目指していきます。
容赦のなさは保証できますので(^^ゞ、今後ともよろしくお願いいたします。
2017.05.20 Sat 09:41 | URL | 草宗
>拍手コメントくださった方
ありがとうございますw 本編が始まる前に敵も味方も全員揃えたかったので、なんとか(^^ゞ全員集合できてホッとしています。

今回はつなぎのシーンとでもいいますか、これといったサービスシーンもないだけに、「お!」と思っていただけるものが欲しくて(^^ゞ
そうした「楽しみ」は常に意識している部分なので、楽しんでもらえたようで本当に嬉しいです(*´▽`*)
本編に入れば、バトルやサービスシーンがもっと増える予定なのでw、ご期待に添えるようさらに精進しますね。
体調管理にも努めて、夏本番もきっちり乗り越えるよう頑張りますw
2017.05.20 Sat 10:04 | URL | 草宗
>拍手コメントくださった方
やはりどうしても次へのつなぎ、という意識が強いので、予想外の展開になりやすいかもですね(^^ゞ 狙ってやってる部分ももちろんありますけどw

フェニックスの以前の最期のシーンがあっさりなのは、まさしくこのためですね(^^ゞ あれで終わりにするのはもったいないですしねw

準備万端、整ったという状況なので、あとは本編を頑張るだけですね。期待に応えられるよう、期待以上のものになるよう、頑張りますw
2017.05.21 Sun 00:23 | URL | 草宗
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このコメントは管理人のみ閲覧できます
2017.05.22 Mon 00:47 | |
>コメントくださった方
ありがとうございます。
オメガフェアリーの詳細な情報が出せるのは、先になってしまうと思いますが、仰るようにその姿だけは早いうちにお披露目できると思います。
炙りサーモンさまに描いていただいたキャラ絵が、かなりイメージ通りなので(*´▽`*)、早く皆さんにもご覧いただきたいのですが、タイミングを図っていますので・・・もうしばしお待ちくださいね。
2017.05.22 Mon 08:27 | URL | 草宗
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このコメントは管理人のみ閲覧できます
2017.05.23 Tue 18:19 | |
>拍手コメントくださった方
本来はお楽しみシーンがないような場面だったのですが、それではあまりに華がないので、次回以降への楽しみを促進する意味もこめてこのような形にしました(^^ゞ

毎日それほど楽しみに待っていただけているのは、作者冥利に尽きます! ありがとうございます(*´▽`*)
とりあえず一カ月はオメガも表立った発表もお休みにさせていただきますが、順調にいけば再来月より通常ペースで発表できる・・・はずです(^^ゞ
そのあたりの細かいところは、来週には発表いたしますね。

有料化についてご理解いただき、本当にありがとうございます。
モチベーションもさることながら、最大の利点はうまくいけば更新ペースがグッとあがることにあります。・・・もちろん、簡単な話ではありませんが。
詳細発表のあかつきには、なにとぞご理解いただけますよう、よろしくお願いいたします。
2017.05.23 Tue 20:45 | URL | 草宗
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