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草宗の書斎

オメガスレイヤーズ 第0話「破妖の天使」⑤ | main | ウルトラ戦姫物語アルファ編、半額キャンペーン!
オメガスレイヤーズ 第0話「破妖の天使」④
 6、バスケットボール
 
 
 鉄の塊が、深々と己の胸に埋まっている。
 ボギィッ、となにかが砕ける音が、カルラの内部で響いた。恐らくは、肋骨。胸を潰される、そのあまりの威力と衝撃に、再びアバラの一部が折れたのだ。
 
「がァ”ふぅ”ッ!! かはぁ”――っ・・・!! うぐううぅ”っ――っ!!」

 もう何度、獣のような悲鳴をあげたのか、わからない。覚えていない。
 消えかけた生命力と激しい苦痛のなか、萌黄の風天使ことオメガカルラは悶え続けていた。2体の妖化屍に、嬲られ続けていた。

 
 並の人間ならば、とっくにバラバラになって息絶えたことだろう。
 オメガ粒子がほとんど残っていなくても、カルラは簡単には死ねなかった。オメガスレイヤーに選ばれるような少女は、元々が桁外れに頑強な肉体の持ち主なのだ。オメガ粒子を受け入れるには、異常にタフな肉体が不可欠だった。
 
 だからこそ、死ぬことも許されずに、オメガカルラは華奢な肢体を破壊され続けていた。
 
「グハハハァッ!! 女子高生の肉を潰すのは気持ちがいいなッ! これだけ長く遊べる肉体は初めてだぞ」

 ぐったりと顔を下向けるポニーテール少女の耳元で、“跳弾”の剛武ががなり立てる。
 力士体系の巨漢に、オメガカルラは背後から羽交い締めにされていた。
 両肩と首が絞められる・・・だけではない。剛武の腹は、風船のように膨らんでいるのだ。自然、カルラの細い背中は前に突き出されることになる。背骨が弧を描いて反り曲がる。
 黄色のショートブーツを履いた両脚は、剛武の下腹と太ももにそれぞれ挟まれ、固定されてしまっている。
 
 言わば萌黄の風天使は、四肢を固められ、背骨折りの拷問技を極められたようなものだ。
 
 そのうえで・・・剛武はカルラを拘束したまま、ゴム鞠のごとく体育館の壁や天井、床を跳ね飛んでいた。まさに“跳弾”の異名に相応しく。
 バスケットゴールでの絞首刑から解放されたカルラであったが、今度は自身がボールのように扱われたのだ。広い体育館のなかを、縦横無尽に黄色のヒロインは弾んだ。“跳弾”の剛武と一体となって。
 胸や腹部を突き出した姿勢で、オメガカルラは天井の梁や壁の柱に激突していく。受け身もとれず、剛武の150kgの巨体を背負ったまま。
 
 体育館の建築資材が、凶器となってカルラの細身に突き刺さった。
 今、胸に埋まっている鉄の塊も、よく見れば天井からぶら下がった照明器具だ。
 
「・・・ぶじゅう”ぅ”っ!! ・・・ぇ”はぁ”っ・・・!! ア”っ・・・!! ァ”ア”っ・・・!!」

 虚ろな瞳を彷徨わせた黄色のヒロインが、絶え絶えの喘ぎを漏らす。
 半開きの唇からは、粘ついた鮮血がゴブゴブと溢れ出た。グシャグシャに砕かれた肋骨の破片が、肺や胃を突き破っていることにカルラ自身が気付いている。
 
「苦しいだろう? いっそ死んでラクになりたいだろう? オメガペガサスの秘密を話せば、すぐに殺してやってもいいぞ」

「・・・ごぶぅ”っ・・・!! ・・・誰が・・・言うもの・・・か・・・」

「フフフ。あくまで強情を張るなら仕方ないねぇ。人質としてお前のことは利用させてもらうだけさ」

 体育館のギャラリーから床へと降りた“妄執”の縛姫が、照明灯に刺さったカルラを見上げて言う。
 ボタボタと、赤い雫がその足下に水溜まりを作っていく。言うまでもなく、華奢な美少女の肢体から流れ落ちた鮮血であった。暗闇に覆われた体育館が、実はオメガカルラの血飛沫であちこち汚れていることは、妖化屍の眼にはわかっている。

「せっかく骸頭から、オメガスレイヤー狩りの道具をいろいろと借りたんだ。オメガペガサスの到着を待って、二匹目の討伐といこうじゃないか」

「・・・バッカ・・・じゃない・・・の・・・・・・」

 半ば無意識に。ただただ、意地という名の負けん気に衝き動かされて。
 声を出すだけで肺が破れそうになるというのに、カルラは気丈に言い放った。
 
「・・・人質・・・なんて・・・オメガスレイヤーには、無意味・・・だってのよ・・・ゴブゥっ!! ・・・ハァっ、ハァっ・・・早くアリサを・・・殺さないと・・・後悔、するわよ・・・っ・・・」

「フフ、人質の小僧ひとりをかばって死にそうになってるのは、どこのバカな小娘だったかねぇ~?」

 ニヤリと笑った剛武が、照明灯からカルラの身体を引き剥がす。
 重力に引かれ、落下する風天使と“跳弾”。カルラを羽交い締めにする剛武は、巧みに少女の肢体を下に向ける。巨体を背負った女子高生が、その小ぶりなバストから冷たい床に激突する――。
 
「んぐうう”ぅ”っ!! ぐぅああああ”あ”あ”ァ”っ~~~っ!!!」

「グハハハッ、オメガカルラよ。お前の発展途上なオッパイが、また潰れちまったな? このままだと、真っ平らになっちまうぜ」

 心配そうな台詞とは裏腹に、またも剛武は“跳弾”を開始した。
 カルラと一体化した巨大ゴム鞠は、ギュン、と飛び跳ね壁へと向かう。少し突き出た、柱に。黄色のコスチュームから剥き出しになったお臍を、柱の角へ食い込ませる。
 
 ドオオオオォゥッ!!!
 
「んぶう”ぅ”っ――ッ!! ・・・かはァ”ッ――ッ!!!」

 こみあげる吐血を、叫びとともにカルラは撒き散らした。すでにその肢体は、浮遊感に包まれている。ゴムの肉体を持つ妖化屍は、今度は天井に向かっていた。
 
 ゴキャアアアアッ!!!
 
 まだ鮮血を吐いている途中にも関わらず。
 顔面から胸元へかけて、天井の梁にカルラは叩きつけられた。意識がとびかかる。頭蓋骨が軋み、押しつぶされた乳房が破裂しそうだ。
 
「っ・・・がァ”っ・・・!! ア”、アア”っ・・・!!」
 
 勢いを弱めることなく、“跳弾”の剛武は弾み続ける。
 凄まじいスピードで、何度もカルラは衝突した。壁に、床に、天井に。そのたびに鮮血が口から噴き出し、内臓が衝撃と骨の破片でズタズタに裂かれていく。
 
 ドキャアアアッ!! ダァンンンッ!! グシャアアアッ!!!
 
「んぐうう”う”ぅ”ッ―――っ!!! あがア”っ、アア”っ!! ・・・ぅぶう”う”ぅ”っ~~~っ!!!」

「お前たちオメガスレイヤーに、人質は有効さ。オメガヴィーナスを始末した時から、そんなことはとっくにわかってるんだよ」

 目にも留まらぬ速さで、縦横に飛び跳ねるカルラと剛武。
 体育館全体が揺らぐなか、白ドレスを着た女妖化屍は薄く笑う。ゴム鞠が激突するたびにビチャリと床や壁に付着する血飛沫が、カルラの肉体が壊れていくのを如実に教えている。
 
「お前たちは無敵だったからねぇ。人質を取られたくらいじゃ、どうってことなかった。圧倒的な強さで、そんなハンデなんて簡単にひっくり返した。だがお前たちの正体はただの小娘・・・力の差が埋まれば、どう闘えばいいのかわからない、甘ちゃんだらけさ」

 剛武が弾むのを、ようやく止める。
 己が吐きだした鮮血で、萌黄の風天使の胸元は真っ赤に染まっていた。『Ω』の紋章とリングの形をしたオメガストーン、そして首からぶらさげたままの“オーヴ”鉱石も、大量の血に濡れている。
 
 羽交い締めを解いた力士体型の巨漢は、ポニーテールを掴んでカルラを吊り上げた。
 ぐったりと四肢を垂らした少女戦士は、指先ひとつ、ピクリとも動かなかった。白目を剥き、ヒクヒクと開いた唇を震わせるのみ。
 
「・・・ァ”っ・・・!! ぎィ”・・・っ・・・!! ぇ”ァ”・・・っ・・・!!」

「安心するんだねぇ、オメガカルラ。お前を殺す準備は、着々と進んでいる。『純潔』の次は『純血』・・・オメガスレイヤーたり得るための三要素は、あとは『純真』だけってわけさ」

 『純血・純真・純潔』――オメガスレイヤーにとって重要なこの3つの要素は、失えば即ち生命力の弱体化に繋がった。
 事実、紫水晶や反オメガ粒子=“オーヴ”によってのみ、カルラは瀕死に陥ったわけではない。陵辱を受けたり、あるいは失血するたびに、四方堂亜梨沙の肉体は滅んでいったのだ。オメガ粒子の喪失はオメガカルラの能力を奪うが、直接肉体にダメージを与えているのは、むしろこの三要素の影響が大きいかもしれなかった。
 
「『純真』・・・つまりはお前の心が屈すれば、あるいは絶望すれば・・・三要素は全て崩れ落ちるってわけだ。人質として利用したら、お前はすぐに処刑してやるよ、オメガカルラ」

「・・・・・・はァ”・・・っ・・・!! ハァ”・・・っ・・・!!」

「オメガヴィーナスも、そうやって殺してやったのさ。絶望した四乃宮天音をバラバラにするのは、最高のショーだったよぉ!! アハハハハッ!!」

 満足に焦点の合わない視線で、それでもカルラは人妖・縛姫を睨み付けた。
 オメガカルラに選ばれた時から、いや、『征門二十七家』の宿命を知らされた時から、死の覚悟などとっくに亜梨沙は出来ている。
 風天使の窮地を知り、救出に来るであろう者・・・恐らくは紫雲の空天使オメガペガサスの、足手まといとなる方が余程屈辱であった。四乃宮家の姉妹を助けられなかっただけでなく、ペガサスも死なせたとなればあまりに惨めすぎる。
 
 このまま剛武に潰されて死ねたらいいと、どれだけ思ったことか。
 だが、そんな心情を見抜いているかのように、“妄執”の縛姫はカルラを少しでも有効に利用しようとしていた。
 あとは『純真』さえ踏みつぶせば、容易く始末できるまでに弱らせておいて・・・敢えて殺さず、打倒オメガペガサスの役に立てようとしている。空天使の情報を聞き出せれば御の字、そうでなくても人質に使おうというわけだ。
 
(・・・悔しいけど・・・もうアリサに力は・・・残ってない・・・こうなったら・・・利用される前に死ぬのが、一番いいのに・・・っ・・・!!)

 死にたくても、容易には死ねぬ己の頑強さを、カルラは恨んだ。
 
「殺すなら殺せ、とでも言いたそうな顔だねぇ、生意気な小娘。いいだろう、オメガペガサスのことを話せば、すぐに殺してあげてもいいよ」

「・・・・・・殺す、なら・・・殺せっ・・・!! ・・・でも・・・どれだけ拷問されて、もっ・・・!! ペガサスのことは・・・絶対話さない・・・っ!!」

「フフフッ・・・そうかい。じゃあオメガペガサスが駆けつけるまでに・・・喋りたくなるよう、するしかないねぇ」

 縛姫の口調に、不穏な響きが混ざる。
 思わずゾクリとした時には、カルラの下半身はオレンジの髪と緑の大蛇に巻き付かれていた。二匹の大蛇は、縛姫の両腕が変化したものだ。フレアミニのスカートから伸びた生足に、ぐるぐると縄のような髪と大蛇は螺旋を描いて絡みついている。
 
「ぐうう”ぅっ・・・!? な、なに・・・を・・・?」

「弱ったお前の身体を、捻り回すのは造作も無いこと・・・オメガヴィーナスのように身体を引き千切っても・・・まだ我慢できるかねぇ?」

 メキ・・・ミチミチィ・・・ギリギギリィッ・・・!!
 
 ちょうどくびれた腰の位置。剥き出しになったお臍の、少し上の部分に捻れが走る。
 縛姫に緊縛されたカルラの下半身が、強引に捻り回されている。猛烈な力で、180度回転し、臍から下だけ後ろを向こうとしている。
 
「ぐああ”っ・・・!? うああ”、うぎゃゃあああ”あ”っ~~~っ!!!」

「ホホホホッ!! ヴィーナスは四肢を切断されても生きていたからねぇ! お前も腰から両断されたくらいじゃ、死なないんだろうッ!?」

 縛姫はオメガカルラの肢体を捻り切り、下半身を引き千切ろうとしているのだ。
 
 上半身と下半身、お臍のところから、分断するつもりなのだ。その凄惨な仕打ちの結果は、想像するだに恐ろしい。むろん腸などの臓器が、ねじ切られた断面からこぼれ落ちることだろう。それでもオメガスレイヤーの生命力はカルラを生かすかもしれないが、壮絶な苦痛の末にいずれ死に絶えることは避けられまい。
 
 死は覚悟していても、胴体をねじ切られる地獄など、当然カルラも想定外だ。
 思春期の女子高生には、あまりに酷すぎる処刑方法。胴体だけになった、無惨なオメガヴィーナスの遺体がカルラの脳裏に蘇る。
 
「うああ”ッ、いやあああ”あ”ア”ア”ァ”っ~~~っ!!! やめっ、やめぇ”っ――ッ!!! アアア”ッ、こ、腰がァ”ッ~~ッ!!?」

「ホホホホッ、雑巾のように絞られるのは苦しいようだねぇッ、カルラ!! さあ、早くオメガペガサスの秘密を言うんだッ!! それともヴィーナスのように、下半身とおさらばするかいッ!?」

 ゴキッ、メキメキィッ・・・ミチミチ・・・ブチィッ!!
 
 背骨が軋み、腹筋の一部が断裂した音が響く。
 ほとんどカルラの下半身は、180度旋回していた。剥き出しになったお腹が捻れ、深い皺が刻まれている。
 
「うあああ”あ”ア”ア”ァ”っ~~~ッ!!! ごぶぅ”ッ!! ぐぷっ・・・!! ぎィ”ぃ”・・・ち、ちぎれぇ”っ~~っ・・・ひぎぇ”っ・・・う”っ!!!」

「オホホホッ!! 随分ブザマに鳴く鳥だねぇ!! さっきまでの生意気な態度はどこにいったんだい? ほら、まだまだこれからが本番だよッ!!」

 絶叫するカルラの口から鮮血がこぼれる。悲痛な叫びに構うことなく、縛姫はさらにねじ回していく。
 華奢な少女の肢体が、180度を超えて旋回しようとするその時――。
 
 ・・・ガチャ・・・
 
 女妖化屍が口をつぐみ、相撲取りのような巨漢が顔を強張らせる。
 二体の妖魔は揃って音の方向を鋭く睨んだ。体育館の出入り口。鉄製の、重い扉。
 むろんカルラの耳にも、不意に鳴った音は届いている。あれは紛れもなく、ドアノブが回った音だった。つまりは何者かが、扉を開けて中に入ろうとしている。
 
 夜の学校、灯りも点いていない体育館に、なんの用があるというのか?
 
 声をあげようとして、しかしカルラは出来なかった。オメガペガサスが助けに来たのか? あるいは『水辺の者』の誰かが? 異変に気付いた学校関係者が、様子を窺いに来た、という可能性も否定できない。
 逃げろとも、助けてとも言えずに、ただ瀕死の風天使も、ゆっくり開いていく鉄の扉を凝視する。
 
「・・・あれー?」

 とぼけたような口調の声が、扉が開けきるのと同時に響く。
 なんの躊躇も警戒もなく、ひとりの少女が暗闇の体育館に足を踏み入れていた。セーラー服を着ている。右腕に抱えているのは、大きさからいってバスケットボールと思しき球体。
 
「練習してるような音が、聞こえたんだけどな? えーと、誰かいますかー?」

「ァ”・・・ァ”カっ!! 逃げっ・・・!!」

 喉からこみ上げる鮮血が邪魔をし、カルラはうまく叫べなかった。
 その間に、剛武の手がポニーテールを離している。床を蹴る音が響くや、“跳弾”は空間を切り裂いて少女へと一直線に飛んでいた。
 
 まさしく弾丸と見紛う速さ。
 ただの女子高生としか見えぬ少女に、逃げられるわけがない。むろんカルラが阻止できるわけもない。
 迫る空気の「圧」に少女が悲鳴を漏らしたときには、その身体は剛武に背後から抱えられていた。
 
「えッ? ええーッ!? これなにッ・・・!?」

「おやおや。運のない小娘が紛れ込んじまったようだねぇ」

 相撲取りのような巨漢に持ち上げられた少女は、バタバタと懸命に宙を蹴っている。
 長い髪の一部を、右側だけリボンで結っていた。胡桃のような丸い瞳が、人形のように愛らしい。どこか幼さの残る童顔ではあるが、セーラー服の上からでもハッキリわかるほどに、美しい稜線を描いてバストは盛り上がっている。
 
 そのオレンジのような双乳を、剛武の掌が鷲掴んでいた。
 遠慮なく、ゴム男の手は少女の胸をぐにゅぐにゅと潰している。全体重がかかっているだけに、乳房をもぎ取られるような苦痛が襲っているはずだった。

「きゃあああッ――ッ!! い、痛いぃ”ッ――ッ!! 痛いよぉッ――ッ!!」

「ぅ”ぐっ・・・!! やぁ”・・・めっ・・・!!」

「どうやらお前が叩きつけられる音を勘違いした、バスケ部のお嬢ちゃんってところかねぇ? フフフ、せっかくだから利用できるものはさせてもらうよ」

 床に落ちたカルラの背を、縛姫が踏みつける。黄色のケープ越しにグリグリと踏みにじる。
 剛武から解放されたところで、今のカルラに立ち上がる力など残っていなかった。動けないオメガスレイヤーを、〝妄執”の女妖化屍は嘲笑うように踏み潰す。
 
「オメガペガサスがやってくるまでの間・・・ちょっとした余興といこうじゃないか」

 ポニーテールを掴まれ、カルラはグイと引き起こされた。
 自然、背中が弓なりに反る。それまで横回転で捻られた腰が、今度は逆方向に反り返ることになる。
 
「・・・ぁ”があ”っ・・・!! ・・・ィ”っ・・・!!」

「カルラ・・・お前はさっき、小僧を逃がす時に報われるとかどうとか言ってたねぇ?」

「・・・アリ、サ・・・はっ・・・健人を・・・救えたっ・・・!! 死んでも・・・満足、よっ・・・・・・!!」

「ホホ、じゃあ今度はあの娘を救ってみないかい?」

 力士体型の妖化屍に捕獲されたセーラー少女を、縛姫は指差した。
 
「ペガサスの秘密を話すんだよ。そうすれば、あの娘を生かして帰してやってもいい」

「・・・くゥ”っ・・・!!」

 カルラがもっとも嫌がることを、〝妄執”の縛姫は察しているようであった。

 闘いに敗れたカルラであったが、その胸中には晴れやかさもある。年下の少年・相沢健人を救えたからだ。かつて四乃宮家の姉妹を惨殺された時とは、雲泥の差があった。自身がどれほど凄惨な目に遭おうとも、満足して死ねると思えるのはそのためだ。
 
 縛姫はそんなカルラの心情に気付いている。だからこそ、風天使のわずかな満足を砕こうとしている。
 オメガペガサスの秘密を漏らすか、あるいは目の前の少女をむざむざと殺されるか。
 そのどちらもが、カルラに痛烈な後悔をもたらすと、〝妄執”は気付いている。ペガサスの情報を聞き出せればよし、さもなくてもカルラの精神を傷つけられる・・・残る最後の三要素『純真』に、大きなダメージを与えることができる、と知っているのだ。
 
「・・・そんな・・・ことっ・・・どっちも・・・」

「おっと、どちらも嫌だなんて我儘が、六道妖に通じると思ってないだろうねぇ?」
 
 近くに立ったバレーボールの支柱へと、縛姫は歩み寄っていく。
 ポニーテールを手離し、背から足をどけても、カルラの下半身を緊縛したオレンジ髪はそのままだった。もはや萌黄の風天使は這うこともできないが、それでも警戒は怠っていない。
 
 縛姫が支柱にローキックを放つ。フォームは悪いが、妖化屍のパワーは凄まじい。
 直径10cmほどの金属の柱が、斜めの断面を見せて切り落とされた。
 まるで鉄製の竹槍であった。カットされた支柱は鋭い切り口を見せ、床から50㎝ほどの高さまで突き出している。
 
「さあ、紫雲の空天使オメガペガサスはどんな小娘で、どんな能力なんだい? 言わなきゃあの娘は串刺しになるよッ!」

「・・・縛姫っ・・・!! あんたって・・・ヤツはっ!!」

「オホホホッ、正義の風天使さまはどんな選択をするんだろうねぇ!?」

 冷たい床に突っ伏したカルラに、縛姫の哄笑が降りかかる。
 セーラー服の少女の悲鳴が、真っ暗な体育館にこだました。
 
 
 
 7、水城菜緒
 
 
「・・・バカっ・・・!! なんでこんなところに・・・来たのよ・・・っ!?」

 床に爪を立てて掻き毟りながら、オメガカルラは捕獲された少女に向けて言い放っていた。
 懸命に体を動かそうとするものの、ブルブルと震えるのが精一杯だった。諦めたくなくとも、もう現実を受け入れねばならない。今のカルラに、少女を助ける力などないのだ。むしろ蹂躙を受け、嬲られ続けた萌黄の風天使は、救護するよりされるべきであった。
 
「だ、だってッ!!」

 依然、バタバタと足掻きながら少女も叫び返す。
 白い太ももまでチラチラと見えるのは、スカートではなくブルマらしきものを履いているためだった。セーラー服にブルマ、とは少し卑猥な雰囲気もあるが、いかにも活発そうな少女にはよく似合ってもいる。
 
「さあ、早く答えを言いな、オメガカルラ。ペガサスのことを喋る気になったかい?」

 顔面の陥没した熟女が、〝跳弾”の剛武に顎で指図する。
 鷲掴んでいた少女の乳房を、力士体型の巨漢は一気に握り潰した。セーラー服の内部に収まった柔らかな果実がふたつ、ぐにゃりと変形する。
 
「はああ”ッ!! うわああああッ―――ッ!!!」

「や、やめっ・・・ろぉっ!!」

「お前がもたもたしてると、あの娘はお嫁にいけない身体になっちまうよ? オメガスレイヤーさまは、一般人を助けるためなら身を張るんじゃないのかい?」

 少女の絶叫にうろたえるカルラを、冷たく縛姫は見下ろした。

「・・・アリサは・・・どうなってもいいっ!! 殺せっ!! 真っ二つでも八つ裂きでも、好きなようにすればいいっ!! ・・・いいから早く殺しなさいよっ!!」

「頭の悪い小娘だねぇ。お前を殺すのは、ペガサスの秘密を聞き出した後だって言ってるだろう。・・・剛武、やれ」

 少女を背後から抱き締めた巨漢が、薄い笑いを張り付ける。
 〝跳弾”は再び、頭上へ高々とジャンプした。先程までと異なるのは、捕獲しているのが萌黄の風天使ではなくセーラー服姿の少女という点。
 常人では有り得ぬ跳躍力で、天井からぶらさがる照明灯に、一直線に突っ込んでいく。
 
「なっ・・・!!」

 息を飲むカルラを嘲笑うように、凄惨な光景は現実となった。
 
 ガシャアアアアッッンンンッ!!!
 
 体育館の屋根を揺るがす衝撃と、ガラスの割れる破砕音。
 ロケットのような勢いで天井まで運ばれた少女は、脳天から自分の頭より遥かに大きな照明灯に叩きつけられていた。
 
 瞳を見開くカルラの前に、パラパラとガラスの破片と鉄クズが降ってくる。
 続いてボタボタと垂れてきたのは、真っ赤な液体。
 少女の首までが完全に照明灯のなかに埋まり、見えなくなったその頭部から、鮮血は流れ落ちていた。胸元も、豊かに盛り上がった乳房も、真紅の網目で汚れている。ブラブラと垂れさがった白い太ももから爪先へと、血は伝い滴っていた。
 
「・・・ぐっ・・・!! くぅ”っ・・・!!」

 痙攣する拳を握りしめる。それが、今のオメガカルラに出来る限界だった。どれだけ怒っても、悔しくても、萌黄の風天使にその拳を振るう力は残っていない。
 縛姫に後頭部を踏まれたカルラは、床に否応なく接吻する羽目となった。
 
「ホホホッ・・・ほーら、お前が喋らないから可哀想に。あの娘、血祭りにあげられちまったねぇ。でも安心しな。ビクビクと震えてる。まだ生きているようだよ」

「・・・んぐっ・・・!! ぅ”っ・・・!! ぷはぁ”っ!!」

「さあ言え、オメガカルラ。あの高さからこの槍のように尖った鉄の支柱に落ちたら・・・ピチピチしたあの娘もイチコロだろうねぇ。正義の味方が一般人を犠牲にしていいのかい?」

「・・・はぁっ・・・!! ・・・はぁ”っ・・・!!」

「死なせたくなかったら、オメガペガサスの秘密をぶちまけな。どうせお前も死ぬんだ。犬死するなら、ひとりでも多くの人間を助けた方がまだ報われるじゃないか」

「・・・・・・バッカじゃ・・・ないの・・・」

 地に伏せた風天使から漏れ出た言葉に、〝妄執”の縛姫は目を剥いた。
 
「・・・アリサたち・・・は・・・正義の味方なんかじゃ・・・ないってのよ・・・」

「・・・ッ!! 小僧一匹見捨てられなかったヤツが、ヌケヌケと・・・ッ!」

「アレはアリサの命と引き換えだから・・・出来た・・・他人の命は・・・勝手に賭けられない・・・っ・・・」

「このッ・・・!! なにをワケのわからぬことを・・・!!」

「ペガサスを窮地には・・・できないっ!! ・・・私自身の命以外は・・・天秤に掛けるなんて、許されないっ!! ・・・」

 天井から落ちる赤い雫を見つめながら、カルラは強い口調で言い切った。
 
「・・・そうかい。どうやらお前のなかじゃ、自分の命だけが軽くて、ペガサスもあの娘も命の重さは一緒ってことらしいねぇ。バカバカしい!」

 中央の窪んだ顔をさらに歪ませて、縛姫は唾を吐き捨てた。
 カルラの頬にベチャリと付着する。唾液を広げるかのように、靴の裏でグリグリと踏みにじった。
 
「じゃあ見てるがいいさッ、哀れな小娘が串刺しになるのをねぇッ!! 剛武、カルラの目の前でその娘を殺してやりなッ!!」

 縛姫がポニーテールを再び掴むのと、剛武が照明灯から少女を引き抜くのとは、ほとんど同時であった。
 少女を抱えた〝跳弾”が、折れた支柱目指して真っ逆さまに落下してくる。顔を無理矢理に上げられたカルラは、これから起こる光景から目を逸らすことができない。
 血に濡れたセーラー少女の表情が、恐怖に引き攣った。両腕を巨漢に羽交い絞めにされて、身動きの取れない態勢。身をよじることすらできない少女は、豊かに発育した胸から鉄製の竹槍に落ちていく。
 
「うわああああああああッ―――ッ!!!」

 悲痛な絶叫が、己の口から出たのか、少女のものであったのか、カルラはわからなかった。
 尖った支柱の先端が、セーラー服の乳房の膨らみに埋まるのが見える。
 続けて超重量が、床に激突する轟音――。
 
 ドオオオオォォウウウゥンンッッ・・・!!!
 
 体育館全体を、震動が包み込む。
 〝跳弾”の剛武を背負ったまま、セーラー服の少女は胸から鉄の支柱に落下していた。
 
「・・・ゴブウ”ゥ”ッ!!!」

 胡桃のように丸い瞳が、一瞬大きく見開かれた。
 鮮血の塊が、開いた唇からバチャリと吐き出される。
 50㎝ほどの支柱を胸に埋めた少女は、床からわずか20㎝の高さまで肢体を沈め、そのままピクリとも動かなくなった。
 左胸に刺さった支柱だけが、少女を支えている。淡い茶色の長い髪が、さらさらと重力にひかれて流れた。
 
「ホホホッ・・・オーッホッホッ!! くだらない意地を張るから運の悪い小娘が死んじゃったわねぇッ!! カルラ、お前のせいだよッ! お前がこの小娘を殺したんだ!」

 床に顔を伏せたカルラに聞こえるよう、甲高く縛姫は笑い続けた。
 少女を解き放った剛武も、カルラの傍らに歩み寄る。すでに砕けているアバラを爪先で蹴りつけても、萌黄の風天使は顔を下向けたまま反応しなかった。もしかすると、涙に濡れた表情を隠そうとしているのかもしれない。
 
「グハハッ、いくら強がっても目の前で一般人を殺されたんだ。オメガカルラのショックはさぞ大きいだろうな!」

「おそらくは『純真』が砕けかけているはずねぇ。『純血・純真・純潔』の全てが崩れた今なら、カルラを始末するのは羽のもがれた鳥を踏み潰すようなもの・・・」

 紫のドレスの内部に、縛姫は己の両腕を引っ込めた。
 代わりに左右の袖から飛び出したのは、緑色の大蛇。〝妄執”は通常の腕を緊縛の蛇へと交代させたのだ。
 
「オメガスレイヤーなど甘ちゃんだと思っていたけど・・・まさか一般人を見捨てるとはね。少し誤算だったわ。この分だと、ペガサス相手にこいつを人質にとっても意味ないかもねぇ~・・・」

 左右の大蛇を、縛姫はカルラの首に巻き付ける。
 下半身を緊縛したオレンジ髪も、同時に圧迫を強めていく。黄色のコスチュームをまとった華奢なヒロインを、ギリギリと強烈に締め付ける。

「うぇ”ア”っ・・・!! かはァ”っ!! ・・・ァ”、アア”っ!!」

「作戦変更だよ、剛武。ひとまずオメガカルラを望み通り八つ裂きにしようじゃないか。今の私たちなら、人質なんかなくてもオメガペガサスに勝てるさ」

「グハハハ、座興は終わりということか。よかろう、元々オレは一刻も早くトドメを刺したくて仕方なかったんだ」

 相撲取りのような巨体が、カルラの背中に全体重を掛けて乗った。
 萌黄の風天使、本来の耐久力ならば150kgの質量などモノともしないだろう。しかしありとあらゆる責めで限界まで削られた今のカルラは、体重たった38kgしかない普通の女子高生と変わらない。
 
 ゴキゴキと背骨が軋み、内臓のいくつかが無惨に破裂していく。
 
「ゴボア”っ!! ア”っ!! アアア”っ―――っ!!! ひぎゅゥ”っ・・・ぅアア”っ!! ガハア”ア”ア”っ~~~っ!!!」

 獣のような絶叫とともに、ドス黒い血がカルラの口を割って出る。
 縛姫に絞められ、剛武に潰されて風天使は激しく痙攣した。断末魔の震え――。二体の妖化屍は黄色のオメガスレイヤーが死の間際にあることを確信した。
 
「ホッホッホッ!! 萌黄の風天使オメガカルラは・・・この人妖・〝妄執”の縛姫が仕留めたわァッ!!」

 あとわずかに緊縛の蛇と髪に力をこめれば、カルラの肢体をバラバラに分断できる。
 縛姫が喜悦に震えかけた、その寸前であった。
 
 パリイィィッ・・・ンンンッ!!!
 
 天井付近にある窓が割れ、黒い影が体育館に飛び込んだ。
 
「ッ・・・!! 来たようねぇッ!!」
 
 割れたガラスが、キラキラと月光を反射して輝く。見えないはずの星空が、一瞬体育館の上空に描かれた、などと縛姫はらしくない錯覚を起こした。
 煌めく破片のシャワーのなかに、人の形をした影があった。
 7、8mはあろうかという高さから、影は音もなくフローリングの床に降り立つ。その軽やかな身のこなしは、並みの人間であるはずがない。
 
 くしくも縛姫は、半年前、教会での出来事を思い出していた。
 オメガヴィーナスを処刑した、あの夜。同じようにガラスを割って上空から乱入したのは、萌黄の風天使オメガカルラだった。
 今はそのカルラを、解体寸前にまで追い込んでいる。あの時邪魔をした生意気な小娘は、半年経って地を舐めさせるまでに征伐した。
 ならばきっと、今宵の乱入者も、六道妖の軍門に下ることになる。よき吉兆としか、縛姫には思えなかった。
 
「・・・・・・っ・・・な・・・お”・・・っ!!」

 体育館の舞台近く。縛姫たちがいる出入り口とは反対側の、離れた場所に立つ影を見て、声を発したのはカルラだった。
 おそらく背骨も砕けたであろう黄色のヒロインは、顔だけを舞台の方に向けている。端正な美貌は蒼白だった。血の気を失っているのは、乱入者の身を案じてか、蹂躙された肉体があまりに痛むためかはわからない。
 
 もはやカルラは、指先ひとつ動かせまい。
 確信した縛姫は、緑の大蛇とオレンジ髪をスレンダーな肢体から引き剝がした。「なお」と呼ばれた影に向かい、臨戦態勢を整える。意識を乱入者に向けるのは、〝跳弾”の剛武も同じだった。
 
「水城菜緒です」

 暗闇のなかで、影は自ら名乗りをあげた。
 闇といっても、死後の住人である妖化屍には昼のように全貌が見えている。舞台近くに降り立った影の正体も、今や明瞭にその視界に捉えていた。
 
 パリッと糊の効いた、濃紺のブレザー。胸元を飾るピンクのリボンが、可愛らしいアクセントをつけている。黒のストッキングを履いているため一見わかりにくいが、マイクロミニのプリーツスカートはかなり短い。
 襟足でふたつに纏めたおさげ髪が幼い印象を与えるが、その顔もあどけなさを残す童顔であった。涼やかな瞳と造りの小さな鼻や口が、和風の美少女といった様相を強くしている。カルラに似たスレンダーな体型だが、身長は頭ひとつ分高いようだ。
 
「・・・まさか、中学生?」

 支柱に串刺しにした少女とは制服が異なる。加えて、端正ではあるが幼い顔立ち。
 縛姫はこの異様な状況で最初に口にするには、やや不釣り合いな質問をした。
 
「さあ、どうでしょう?」

 薄ピンクの唇を綻ばせて、おさげ髪の少女はわずかに微笑む。
 これまた異様な状況には似つかわしくない、余裕ある態度と台詞であった。
 
「フン・・・随分と短いスカートだねぇ。コイツらといい、今の若い小娘どもは羞恥心ってものがないのかい?」

「動きやすいんですよ、この長さだと。脚を見せたくて短くしてるわけじゃないんです」

「ミズキナオ、だったね。お前が紫雲の空天使、オメガペガサスでいいんだね?」

 肩に乗ったガラス破片を払い落としながら、再び菜緒は笑顔を見せた。
 
「どうでしょう? と言っておきましょうか。六道妖相手に、こちらの手の内を全て見せるほど驕ってはいませんので」

 六道妖の存在を、知っている。
 それだけで縛姫からすれば十分だった。少なくともこの水城菜緒という少女が、破妖師の仲間であることは確定したのだ。
 
「フフ、そうかい。だがお前がこの死にかけの風天使を助けに来たのは間違いないんだろう?」

「そうですね。その点に関しては、しらばっくれるのはやめておきます。カルラさんがいなければ、夜の体育館にこんな派手な登場をする必要がありませんから」

「・・・なぁ・・・お”っ・・・!! ・・・逃げ・・・・・・ぇ”っ・・・・・・」

 言葉の途中でカルラの顔が、カクリと力なく垂れる。
 黙り込んだ萌黄の風天使は、そのまま動かなくなった。ただ半開きになった口から、トロトロと赤い鮮血が流れ落ちるのみ。
 
「ムダなやりとりをするのは好きじゃないので、ハッキリと言っておきますね」

 涼やかな奥二重の瞳が、冴え渡るように鋭くなった。
 折り目正しい制服と同じように、ハキハキとした口調で菜緒は言う。童顔のこの少女が、どうやら怒っているらしいことに、ようやく縛姫は気付いた。
 
「あなたたちが察しているように、私はカルラさんを救出するためにこの場に来ました。ふたり纏めて、でも構いません。一刻も早くカルラさんを手当したいので、とっととかかってきてください」

「ッ・・・はぁ?」
 
 縛姫と剛武。ふたりの妖化屍は、ともに我が耳を疑った。
 慇懃な少女の口から漏れ出た、突然の挑発。しかしそれは聞き間違いなどではなかった。ふてぶてしい台詞は、紛れもなく制服姿の和風美少女から発せられたものだった。
 
「早く闘いましょう、と言っているんです。意味がわかりませんか? 顔面クレーターのキモいババアと、汗臭そうなブタ野郎には」

「ィ”ッ・・・!! ぶち殺してやるあああアアァッ~~~ッ!!! クソ小娘がああァァッ―――ッ!!!」

 〝妄執”と〝跳弾”とが、濃紺のブレザー目掛けて一気に殺到する。
 
「ふぅ。まったく。ここまで言わないと動かないなんて、面倒な化け物たちですね」

 唇を尖らせたおさげ髪の少女は、素早く武道家のような構えをとった。
 
 だが、遅い。
 本来なら決して遅いとは言えぬスピードだが、妖化屍の身体能力は次元が違う。ましてゴムの肉体を持つ巨体は、長い距離を一瞬で跳躍できるのだ。
 すでに菜緒の直前まで、風船のごとき肉弾は迫っている。
 
「・・・えッ・・・!?」

 人妖・縛姫の情報はともかく、ただの妖化屍に過ぎない剛武の能力を、『水辺の者』といえど知るわけがなかった。
 〝跳弾”の恐るべき技量を、闘って初めて菜緒は理解することになる。怪力の持ち主であることは予測できても、ゴムの弾力が生むスピードと特質は経験せねばわからない。
 太鼓のように膨らんだ腹部から、剛武は全身で華奢な少女にぶつかっていく。
 
「くッ!!」

 床に身を伏せ、水城菜緒は〝跳弾”の激突を避けていた。
 だが、剛武の脅威はこれから。舞台との段差が生んだ壁に突っ込むや、巨大なゴムボールはすぐに元来た軌道を跳ね返ってくる。
 先程より、角度がやや下向きにつけられている。今度は身体の上を通過しないよう、菜緒に直撃するため微調整を加えたのだ。
 
「はああッ!!」

 バネでも仕掛けられているかのように、瞬時にブレザー姿は立ち上がった。迫る肉弾を跳躍してかわす。跳び箱の要領で、タン、と剛武の肩に手をついてその巨体を飛び越えた。
 
「・・・どうやら、まともにやりあうのは厳しいみたいですね」

 マイクロミニのスカートが翻るのも構わず、180度まで開脚した菜緒は宙に浮いていた。瞳は涼しげなままだが、額にはわずかに汗が滲んでいる。
 
「余裕ぶるのはそこまでだよぉッ!! 水城菜緒ッ・・・いや、オメガペガサスッ!!」

 確信に近い勝利の予感に、〝妄執”の縛姫は笑いを堪えられなかった。
 両腕に抱え込んだのは、アンチ・オメガ・ウイルスを照射するレーザーキャノン。
 六道妖の首謀者たる〝百識”の骸頭からは、今回のオメガスレイヤー狩りのためにいくつもの道具を借りている。対カルラ戦でも活躍したこの〝オーヴ”のキャノン砲は、事実上風天使を戦闘不能にした主武器であった。
 
「・・・う・・・ッ!!」

「変身もせずにノコノコ現れたのがお前のミスだよッ!! とても〝オーヴ”の光線から逃げられないねぇッ!?」

 人妖・縛姫にはわかっていた。ブレザー少女の動きは確かに称賛に価するものだったが・・・あくまで人間としては、の話だ。オメガヴィーナスやカルラと闘った猛者の眼には、随分と物足りなく映る。
 深く考えなくても、理由は明らかだった。水城菜緒は変身を遂げていない。変身前のオメガスレイヤーは、本来の10分の1ほどしか能力を発揮できないのだ。満員電車で四方堂亜梨沙を蹂躙したように、変身前を襲うのはオメガスレイヤー攻略の初歩中の初歩だった。
 
 むろんオメガ粒子が影響している以上、変身前の状態でも〝オーヴ”は効く。
 宙に浮いてしまった菜緒に、レーザーを避ける術はない。妖化屍の力を侮ったのか、全開で闘いに挑まなかったのが、あどけない少女らしい稚拙さであった。
 
「これでッ!! 紫雲の空天使もお終いさッ!!」

 轟音がレーザーキャノンを震わせるや、緑色の光の帯が、暗闇の体育館を横切った。
 反オメガ粒子。通称〝オーヴ”の光線が、一直線にスレンダーなブレザー姿に襲い掛かる。
 
「はああ”ア”ッ!? うわああアアア”ア”ッ―――ッ!!!」

 胸元を飾るピンクのリボンに、緑のレーザーは直撃した。
 空中で〝オーヴ”の一撃を喰らった少女は、軽々と後方に吹っ飛んでいく。舞台の上まで飛ばされ、埃っぽい壇上を丸太のように転がり滑った。
 
「ホホホッ・・・オーッホッホッ!! ざまぁないねぇッ!! だがまだだよッ! この縛姫の顔を笑った女はッ・・・ラクに死ねると思うんじゃないよッ!!」

「オメガスレイヤーなど大したことはないが・・・始末するのが厄介なのは、カルラでよくわかったぜ。どうせてめえも、くたばっちゃあいないんだろう?」

 うつ伏せに倒れたままピクリとも反応しない菜緒に、再び二体の妖化屍は一斉に躍りかかった。
 距離からいっても移動速度からいっても、剛武の方が早く辿り着く。一足先に舞台にあがった巨漢は、少女の白いうなじに掴みかかった。
 
 〝オーヴ”を浴びればオメガ粒子は大幅に消耗する。オメガスレイヤーにとっては、活動のエネルギー源を根こそぎ奪われるようなものだ。
 緑のレーザーを受けた菜緒が、動けるわけはない・・・はずであった。
 
「・・・そうは、いきませんよ」

 鈴のような声が聞こえた、と思ったときには、剛武の顎は跳ね上がっていた。
 黒のストッキングに包まれた膝が、巨漢の顔を激しく突き上げていた。横たわっていた菜緒の肢体は、剛武の接近にあわせて飛び起き、膝蹴りを喰らわせたのだ。
 
「なッ・・・!? こ、小娘えぇ”ッ~~~ッ!!!」

 怨嗟の呻きを漏らしたのは、舞台に駆け寄る途中の縛姫。
 反オメガ粒子のレーザーが、効かなかったというのか? あるいは変身前であることが、〝オーヴ”のダメージを逆に減らしたのかもしれない。
 
 涼やかな瞳に強い光を宿らせ、水城菜緒は後方に跳躍する。
 襟足でまとめたふたつのおさげ髪が、風に流れる。縛姫を挑発するように、和風の美少女は微笑んでいた。
 逃げるつもりだ。咄嗟に縛姫は、少女の狙いを悟る。
 不利を察したのか、時間と距離を水城菜緒は稼ごうとしているに違いなかった。その細身の肢体を緊縛するには、縛姫の位置からでは遠すぎた。
 
「慌てるな、縛姫よ」

 声が響くや、少女の奥二重の瞳が、ハッとしたように見開かれる。
 初めてといっていい、菜緒の動揺した姿であった。その緊張した視線は、眼前に迫った影を捉えている。
 顎を蹴り抜かれた〝跳弾”の剛武が、平然として、逃げる菜緒を追っていた。
 
「コイツ・・・弱いぞ」

 力士体型の妖化屍が右手を伸ばす。弾力あるゴムの掌は、濃紺のブレザー越しに菜緒の左乳房を鷲掴む。
 バスト81㎝のCカップ。
 まだ未成熟な少女の胸を、容赦なく怪力で握り潰す。
 〝オーヴ”のレーザーで撃たれた時よりも、遥かに痛烈な悲鳴が美少女の口から迸った。
 
「きゃあア”ッ!? ア”ッ!! くあああアア”ア”ァ”ッ―――ッ!!! ア”ッ・・・アア”ッ!!」

「グハハハハッ、相当に苦しいようだなッ!? さっきの小娘より辛そうな悶えぶりじゃあねえかッ!」

 凛とした表情が苦悶に歪む。
 長く、しなやかな四肢を突っ張らせて、水城菜緒はヒクヒクと痙攣した。思春期の少女にしてみれば、発育途中の乳房を圧搾されるのは、己の尊厳そのものを潰されるような苦痛だ。
 
 だが、それにしても・・・脆い。
 縛姫の胸に、ムクムクと漆黒の入道雲のような疑念が沸き上がる。かかってこいと挑発した割には、この弱さはなんだ? あるいは〝オーヴ”のレーザーによって、予想以上に弱体化しただけなのか?
 
 ・・・本当に、水城菜緒は紫雲の空天使オメガペガサスなのか?
 『水辺の者』であることは間違いない。相当に鍛えられてもいる。しかし、オメガスレイヤーとしてはあまりに物足りない。左胸を潰されただけで悶絶する菜緒は、ふつうの人間の耐久力とほとんど大差ないではないか。
 これならば、先程串刺し処刑したセーラー少女の方が、まだ頑丈だったと言えるだろう。
 
「・・・え・・・?」

 そこまで考えて、縛姫は唐突に気が付いた。
 いや、違う。水城菜緒が、脆いのではない。
 
 ・・・あのセーラー少女のタフさが、常人離れしていたのではないか。
 
 風が巻くほどの速さで、縛姫は背後を振り返った。
 支柱に串刺しになっていたはずの遺体は、消えてなくなっていた。
 20㎝ほどの高さになった、鉄製の支柱。槍のようにとがった支柱は、セーラー少女の胸に刺さっていたのではなかった。その逆。潰れたのは、支柱の方。蛇腹に縮んだ支柱が、その事実を今になって縛姫に教える。
 
 なぜ鉄製の支柱が、こんな無惨な姿になるのか。
 答えは簡単。あのセーラー服の少女の方が、硬い肉体の持ち主だったから――。
 
「やっと、全てをわかってくれたようですね」

 脂汗を浮かべた菜緒が、強引に引き攣った笑顔を作る。
 少女のしなやかな右手が、剛武の顔面に当てられる。掌底というには、あまりに勢いのない攻撃だった。
 
「むッ・・・ごぽア”ッ!?」

 だが突如咆哮した〝跳弾”は、菜緒の乳房を手離した。鼻と口を押えて、激しく咳き込み悶え踊る。
 大量の水が、剛武の鼻からバシャバシャと溢れ出ている。
 
「私にできるのはこの程度の大道芸です。オメガペガサスだなんて、畏れ多いですよ」
 
 これが、水城菜緒の能力であった。
 手品のように水を生み出す。本人は大道芸などと卑下したが、その効用は侮れないものがあった。ゴムの肉体を持つ巨漢も、突如気管支に水を注がれてはたまらない。
 思春期の乳房への暴虐から逃れた菜緒は、舞台の奥へと距離を取った。これ以上は自分の出番などないことを、聡明な少女は悟っている。
 
 菜緒の仕事は、縛姫と剛武を引き付けること。そのためにわかりやすい挑発を繰り返したのだろう。
 
「小娘ぇッ・・・どもがアアァ”ッ~~~ッ!!!」

「私は『水辺の者』のひとり、オメガスレイヤーのサポートを務める水城菜緒。そしてあそこにいるのが・・・」

 小さな唇を綻ばせながら、おさげ髪の少女は白い指先を体育館の後方に向けた。
 
「親友であり、仲間である浅間萌音。またの名を・・・紫雲の空天使オメガペガサス、です」

 セーラー服にブルマというコスチューム。髪の右側だけをリボンで束ねた少女が、瀕死のオメガカルラを抱えて立っている。
 その背中には、鮮やかな紫色のケープが、怒りに燃える妖化屍の視線を受け流すようにたなびいていた。
 
 
 
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| オメガスレイヤーズ | 00:56 | トラックバック:0コメント:4
コメント
いろいろなことがあってバタバタしてたんですが、なんとか更新できました(^^ゞ
12月は毎年公私ともに忙しいため、オメガの更新は今年はこれが最後になる可能性が高いですね^_^; 

今回登場するあるキャラは、AV女優さんの名前とほぼ同じですが、これは全くの偶然です(^^ゞ キャラのモデルにした、などというわけではないので、あしからずご理解いただければ。
2016.12.12 Mon 00:57 | URL | 草宗
>拍手コメントくださった方
スーパーガールをモチーフにしているので、コスチュームがどうしても油断すると似たようなものになってしまって・・・差別化するために思い切って変えたのがペガサスですね(^^ゞ
どうせなら自分の好きなものを、と思ってセーラー服+ブルマという、趣味全開すぎでしょ! なものになっちゃいましたw

ボクもできればもう一回更新、とは思っているんですけど、微妙な情勢ですね~。
更新するにしても普段と同じ量は難しいので、1つの章のみの公開になるかと思います。あまり期待しないでお待ちくだされば・・・(^^ゞ
2016.12.19 Mon 15:51 | URL | 草宗
>拍手コメントくださった方
セーラー+ブルマはちょっとあざといかな、とも思ったんですが、やりたいようにやろうと吹っ切れましたw

セーラームーン系に手を出していない理由は、まずオリジナルのセーラームーンをボク自身があまり知らない、というのが大きいですね。魔法少女なども同じ理由なんですけど。
こういうものが好き、というのをひた隠しにして生きてきた&リョナは大好きな割に一般的なアニメにはあまり興味がない、という、たぶんちょっと珍しい(でもないですかね?)タイプなものですから、セーラームーンも見たかったけどほとんど見ずに過ごしてきたんです。
で、ヴィーナスがパピヨンに責められるシーンやら、セーラー戦士がひとりずつ倒されるシーンなど、ここぞというリョナシーンだけを大人になって見たという・・・

二次創作までいかなくても、ある程度モチーフにして作品を作るときは、それなりに準備をしてから、と思っているので、セーラームーンは手を出さずにきました。
でもやっぱり制服+リョナは大好物なんでw、セーラームーンとは違う形で実現させようとは思っています。

設定のまとめ、あるといいですね。なるほど。イラストだと印象強く残りそうですが、小説だとしばらく出ないキャラは忘れ去られそうですしw
設定を考えるのは楽しいですよねえ~w ボクもいろいろ考えているときが一番楽しいかもしれません。
作品という形にすると、いろいろなことが表現できる喜びはありますが、一方で面倒なこともあるのは確かですねえ。
しかし一度嵌ると、これ以上の喜びはない、というくらいに楽しいものなので、一度踏み出されるのもいいかもしれませんよ(^^ゞ
2016.12.24 Sat 00:36 | URL | 草宗
>拍手コメントくださった方
リョナシーンオンリーですか! まさにボクとほぼ同じ・・・様々なタイプがあるリョナ好きのなかでも、ハードタイプですねw
心強いです。

新作のサイボーグものでは、制服+リョナがテーマといっていいような内容になるので、ご期待いただければと・・・
ボクの予定では、オメガより取っつきやすい作風になるんじゃないかと思っています。細かい部分はまだ煮詰めていないので、そこが本当の勝負どころではありますが・・・

仕事との両立など、慣れないと大変な部分は確かにありますかねえ~。
ボクも今でこそ慣れたので普通にやっていますが、いろいろな趣味や仕事と同時並行でよく進めていけるなと、自分でも感心する時があります(^^ゞ
少しずつ慣れていったから出来るのであって、最初からではムリでしょうねえ~・・・
折り合いをつけていく方法を自分で見つけるしかないのでしょうが、創作というのがいい趣味であるのは確かだと思っています(^^ゞ
2017.01.01 Sun 21:30 | URL | 草宗
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