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ウルトラ戦姫物語 パラレル編 第2章「最強最速の最期」
 第2章  「最強最速の最期」
 
 
 1、
 
 
「やっと明日は非番かぁ。ボクシングの練習に集中できそうね」

 県下有数の病床数を誇る総合病院の廊下を、北野のぞみは歩いていた。
 ピンクのナース服を、大きく膨らんだバストが盛り上げている。静養が必要な男性患者にとっては、のぞみの身体つきは刺激が強すぎるものだった。心身とも休めるどころか、逆に興奮してしまいそうだ。ウエストは引き締まっているのに、胸とヒップは実にボリュームがある。
 
 しかも整った美貌の持ち主なのに、患者にもスタッフにも誰へだてなく、明るく接する性格とあれば・・・人気が出ないわけがなかった。長い髪を大きなリボンでひとつにまとめた姿には、可憐さとともに、キビキビとした活発さも感じられる。
 
 優しく、可愛く、しかも人一倍の働き者。
 看護師が500人以上勤務するというこの大病院のなかでも、のぞみが一番人気のナースであることに異論を挟む者はいないだろう。
 
 しかも彼女には、プロボクサーという、もうひとつの顔まであった。

 
『楽しみだね。本格的に身体動かすのは・・・一週間ぶりかな?』

 のぞみとは別の人格が、心のなかで声をかけてくる。
 ウルトラレディ・マイン・・・のぞみの身体に憑依しているのは、『最強最速』の異名をとるウルトラ戦姫だった。
 優しさと朗らかさ、そしてテキパキと身体を動かすことが大好きというふたりが、シンクロするのは当然だっただろう。マインと肉体をシェアすることに、のぞみは一切の抵抗も感じなかった。
 
「ここんとこ、平和だもんねぇ。ま、怪獣が現れないのはいいことだよ」

 傍から見れば、独り言をかなりの音量で喋っているとしか見えないが、幸いに長い廊下に人影は見えない。
 のぞみの鳴らす、ローファーの足音だけが響いている。外来の多い内科などとは違い、入院患者が多くを占める病棟では、昼間でも息を潜めるようにひっそりとしていた。
 
『ティオちゃんとアイナちゃんもいてくれるから、怪獣たちも暴れにくいかもね』

「ふふ、3人揃うと強いもんねぇ。向かうところ敵ナシ、ってやつ?」

『いいことなんだけど、運動不足になるのはちょっと困るかなぁ。筋肉の質が落ちちゃいそうで不安だよ』

 ふぅ、と唇を尖らせるマインの顔が脳裏に浮かぶ。
 筋肉脳、というのだろうか。物心ついたときからトレーニングを欠かしたことがない、というマインは食べることよりも、オシャレすることよりも、鍛えることが大好きだった。
 他のふたりの戦姫・・・ティオやアイナとも面識があるのぞみだが、ストイックな点においてマインは群を抜いていた。そんな生真面目なマインだから、のぞみは誰よりもウマがあうのだろう。
 
「ちゃんと毎日、月までの長距離飛行、付き合ってあげてるじゃない」

 仕事帰りに日課となっているジョギング・・・ならぬ宇宙への飛行は、そんなマインのたっての願いから始めたものだ。
 
『ごめんね。お仕事で疲れてるのぞみに、無理させちゃって・・・』

「平気、平気。私もロードワークの代わりになるからね。疲れからいうと、月までの往復で大体20km走ったくらいでしょ?」

『ボクシングとウェイトのジムにも行ってるのに・・・でも、一日でも休むと不安になるの。私がのんびり遊んでいる間に、侵略宇宙人はどこかで力を蓄えているんじゃないかって。いつか・・・私では太刀打ちできないような、恐ろしい敵が出現するんじゃないかって』

 『最強最速』と呼ばれているマインだが、実は一度として、己を強いと思ったことなどない。
 その事実を、肉体を共有するのぞみは知っていた。
 
「・・・大丈夫だよ。マイン、あなたはつよ・・・」

 独り言のように見える会話を、ピンク色のナースは強制的にやめねばならなかった。
 人が立っていた。廊下の先に。
 照明を落としているため、昼間の病院は薄暗い。和紙に墨汁の沁みが広がるような。じっとりと闇が浸透していくかのような廊下に、その女はいた。
 
 女とわかったのは、その人物が修道服・・・シスターの格好をしていたためだ。
 
「もし・・・すみません。そこの看護師の方」

 シスターが、のぞみに向かって声をかけてくる。
 ほのかな光のなかでも、美しい顔立ちをしているのがわかった。冷たく、妖艶な視線。のぞみのような華やかな美人とは、異なるタイプの美貌だ。
 いろいろな意味で、重病人のいるこの施設にはそぐわない外見・・・内心で複雑な想いを抱きながらも、のぞみは精一杯明るい声で応える。
 
「はい、どうしました?」

「霊安室はどこでしょう? 故人に祈りを捧げるよう、依頼されて来たのですが」

 わずかに唇を綻ばせるシスターの微笑に、のぞみは胸がざわめくのを抑えられなかった。
 
 
 
「どうぞ。こちらになります」

 先導して室内に招き入れながら、北野のぞみは背後のシスターに意識を集中させていた。
 霊安室・・・亡くなった患者の遺体を、安置しておく病院内の施設。
 むろん、病院とは治療をし、養生するのが本来の役割ではあるが、不幸にも人生最後の日を、迎える場所となり得ることも多い。この手の施設が、現実的には必要であった。ましてのぞみの務める総合病院は、1000を越えるベッドと同数近くの患者が存在するのだ。霊安室を訪れる者がいるのは、日常の光景だった。
 
 しかし、霊安室に現れ、遺体の処置にとりかかるのは・・・葬儀屋の仕事というのが普通だ。
 そこを飛び越え、聖職者がいきなり訪ねてくるというのは、あまり聞いたことがない。それもどこか後ろめたい艶っぽさを秘めた美貌を持つ、シスターが現れるなど。
 
「恐れ入ります。北野のぞみさん、と仰いましたっけ?」

 のぞみの名を確認するシスターの後ろで、霊安室の扉が閉まった。
 カチャリ、と音がする。
 後ろ手にシスターが、扉の鍵を閉めたのだ。こうすれば部屋の外から、誰か邪魔者が入室するのを防ぐことができる。
 
「・・・シスターが直接病院を訪れるなんて・・・珍しいですね?」

 前方にあつらえられた簡易な棺と祭壇を見詰めながら、のぞみの全神経は背後に向いていた。
 マインの心の声を聞かずとも、わかっている。シスターの本当の目的は・・・別にあることを。
 まず確実に、シスターが用があるのはのぞみ自身・・・いや、その内部に宿るウルトラレディ・マインだろう。
 わかっているから、のぞみは素直に霊安室へと案内した。闘いを挑まれれば、ウルトラ戦姫は逃げるわけにはいかない。特に生真面目なマインは、たとえ罠が待とうが策を張られようが、真っ向から飛び込むタイプだ。
 
「どうしても、私がこの手で祈りたかったものですから」

「その胸のロザリオ・・・変わった形ですね?」

 シスターの胸元を飾るペンダントは、深い闇のような黒色だった。
 しかも十字の上部分よりも、下の方が短い。つまりは正確にいえば、逆十字の形をしている。
 
「・・・よく気付きましたわね。宗派が違うものですから」

「あなたが、どんな神に祈りを捧げているのか。興味があります」

 リボンで束ねた髪を揺らして、のぞみは振り返った。
 互いの視線が、『そろそろ始めましょう?』とでも言いたげな光を放って交錯する。
 
「・・・うふふ・・・正直なところ、当初は侮っていました。地球というこの星の住民たちを。下等だ、虫だと。かの地で〝帝国”とあの方が滅びたなど・・・とても信じられませんでしたわ」

「〝帝国”?」

「ああ、貴女はご存知ないのでしたね。お気になさらず。ウルトラ戦姫がどの次元においても唾棄すべき存在であるのは・・・変わらないことですから」

 すでにシスターは、自分が他の星や次元から来たことも、ウルトラ戦姫の敵対者であることも、包み隠さず話し始めていた。

「・・・異なる次元から、私たちを倒しに来た刺客、ってことでいいのかな?」

 事情はわからなくても、シスターの扮装をした眼前の女が、ウルトラ戦姫に憎悪を燃やす者であることは確信がついた。
 口調を変えたのぞみの質問を、ニセの修道女は微笑を張り付けて聞き流す。
 
「クズ虫が蠢く星ですが・・・宗教というものを知って、考えを改めましたわ。下等生物のくせに、悪くない。全知全能の存在を崇め、その契約とのなかで己の正しさを確認する・・・惹かれましたわ。私も同じように・・・唯一愛するあの方との約束のなかで、生きてきましたので」

「シスターの真似事をしたくなった、ってこと?」

「その通りです。神に身を捧げる彼女たちは、私と同じ。あの方に身も心も捧げた私こそ・・・シスターの名に相応しい」

『のぞみッ! 気をつけて! 来るよ!』

 修道服のなかで、ゾワリと空気が変わるのを、マインは敏感に察していた。
 ウルトラレディに変身するか。いや、しかしここは霊安室。誰かの遺体が眠っている棺の前で、できるならば騒ぎは起こしたくない――。
 ナースとして、怪獣退治に劣らぬほどの意欲で仕事に向き合ってきたのぞみは、わずかに躊躇した。この場所でこれまでに何度、痛恨の念に駆られたことか。数多くの人々と別離を迎えたこの部屋は、看護師にとっては特別に神聖なものだった。
 いまや敵として、ハッキリと認識しつつも・・・妖艶なシスターの言葉につい耳を傾けてしまう。
 
「教えてあげますわ・・・北野のぞみ。いや、ウルトラレディ・マイン。私の愛する、神の名を」

 シスターの指差す方向へ、つられて背後を振り向く。
 木製の棺の前に、設置された十字架。黒い逆十字に最初から違和感は覚えていたが・・・ようやくのぞみは気がついた。
 シスター自体に意識を集中させていたため、これまで気付けなかったのだろう。
 漆黒の逆十字は、二本の腕で作られていた。
 異星人の、肘から先。切断されたと思しき左右の腕には、サーベルのような長剣が装着されている。
 
「〝妖将”レディ・マグマ。それが全宇宙、全次元でただ一人愛し、愛された・・・私の姉の名前です」

 修道服を着たまま、女の中身だけがシスター・マグマの姿へと変身を遂げていた。
 
「我が名はシスター・マグマ。愛しき姉のシスターにして・・・神に等しきレディ・マグマに仕えるシスターです。私の全てだったあの方を奪った・・・憎きウルトラ戦姫ども。一匹たりとて、生かすわけにはいきませんわ」

 本性を現した敵に呼応して、マインへと変わろうとするのぞみ。
 再び前へと向き直る、その瞬間だった。
 
『危ないッ、のぞみ!!』

 逆十字を作っていた二本の腕が、ナース服の背中から飛び掛かる。
 鋭いサーベルの先端が、のぞみの咽喉と、心臓とを狙っていた――。
 
 
 
 2、
 
 
 変身前の姿であっても、北野のぞみにはウルトラレディ・マインの能力がある程度は影響していた。
 加えて、のぞみ本人がプロボクサーのライセンスを取得するほどの、身体能力を誇っている。
 放たれた嚆矢のごとき、二本のサーベル。風を切り裂き、背後から迫る凶器を、のぞみは寸前で身を捻って避けていた。
 
「いい動きですわね。しかし、少々過信が過ぎたようです」

 のこのこと霊安室にひとりで来た・・・つまりは、安易に罠に嵌まったことを、揶揄しているのだろう。
 すぐ近くで響く声に、慌てて意識をシスター・マグマに向けるのぞみ。
 猛然とダッシュしていた修道服の異星人は、眼前にまで迫っていた。
 
「この『裏地球』で『最強最速』の名を持つ戦姫・・・マイン、邪魔な貴女を、まずは全力で葬ることにしますわ」

 シスター・マグマの右手には、漆黒のロザリオが握られていた。それが一気に巨大化する。
 アクセサリーだったロザリオは、逆十字型の剣へと姿を変えた。
 
「くッ!? なんてバチ当たりなの!」

「我が神レディ・マグマへ・・・死を捧げなさい、ウルトラレディ・マイン」

 マインではなく、まだ肉体はのぞみのものだというのに。
 容赦なく、愛らしい顔へ。長く伸びた十字架の先が、マグマの右手から突き出される。
 飛来するサーベルを避けたばかりで、まだ態勢の崩れているのぞみに向かって――。
 
 ガゴォッ!!
 
 次の刹那、瞳を瞠ったのは、シスター・マグマの方だった。
 眉間に迫る十字剣の先端を、のぞみはかわしていた。――どうやって?
 瞬時に放った左のフックで、漆黒の剣の横腹を叩いたのだ。
 軌道がズレた剣先は、のぞみの頬をかすっていた。
 
 なんという身体能力。『最強最速』の異名はダテではない。
 
「末恐ろしい・・・小娘ですね」

「恐ろしいのは・・・あなたの方よッ! シスター・マグマッ!」

 冷たい汗を額に浮かべて、のぞみは叫ぶ。
 マグマの一撃は容赦がなかった。本気で、のぞみの顔面を剣で串刺しにするつもりだったのだ。
 それ以上に戦慄すべきは・・・変身前の、つまりはマインではなく、『北野のぞみ』であるにも関わらず、攻撃に躊躇がないことだった。
 
(い、今まで、人間体を襲ってきた侵略者もいたけど・・・ここまで容赦がない相手は初めてよッ! この女、目的のためなら手段を選ばないつもりッ!?)

『のぞみッ、この相手は尋常じゃないわ! 早く私と代わってッ!』

 切迫したマインの声が、胸の内で反響する。スピーカーを通したかのような大音量で聞こえるのは、のぞみもマインも、両者ともに動転しているからだろう。
 右足を振り上げ、のぞみは真正面からマグマの胸を蹴りつけた。ボクサーという肩書に、惑わされたか。修道服に、まともにキックが決まる。
 
「ぐッ!?」
 
 のぞみの攻撃は、ダメージを与えることが目的ではなかった。蹴り飛ばす。シスター・マグマとの距離を置き、マインへと変身する時間を稼ぐことが、この前蹴りの狙いだ。
 ドドドッ、と5mほど、後ずさる異星人。
 同時に、のぞみ自身の身体も反動で後方に飛んでいた。近接していたピンク服のナースと漆黒の修道服が、弾かれたように離れる。
 ダメージはあまりなくても十分だった。これで十分。のぞみの戦術は、見事に功を奏した。
 
 敵が、シスター・マグマひとり、だけだったならば。
 
 ドガアアアアッ!!
 
「うッ!? なっ・・・!!」

 のぞみの背後に安置された木製の棺が、内側から木っ端微塵に砕け散る。
 なにかが中から飛び出した。異形の姿をした、肉の塊が。
 はじめから、もうひとり隠れていたのねッ――! 気付いた時にはもう遅い。
 
「ケッ! 隙が大アリだぜェッ、『最強最速』とやらよォッ!!」

 棺桶から飛び出した異形は、6本の腕を持っていた。ボディビルダーのごとき、鍛え上げられた肉体。
 空中に浮き、自由に身動きできぬ美しきナースを、背後からガッチリと捕獲する。
 
「くぅッ!? しまっ・・・!!」

「〝猛将”を名乗る予定のカイザー・ナックルってモンだ。『最強最速』も、変身前には随分と非力だなァッ、オイ!?」

 人間体のままののぞみに、6本腕のパワーに対抗できるわけもなかった。
 両腕と腰。羽交い絞めと胴締めを一度に極められ、カイザー・ナックルに拘束される。自由を奪われたピンクのナースに、一旦距離の離れたシスター・マグマが猛然と突進した。
 
 漆黒の逆十字剣が、鋭い切っ先を光らせる。
 懸命に暴れる、のぞみの左胸。Eカップをも越えようかという、巨大な膨らみに。
 十字架の先端が、ズブリと突き刺さった。
 
「はァう”ッ!!」

『のぞッ・・・みッ!!!』

 のぞみとマイン。肉体を共有するふたりは、死を覚悟した。
 心臓を破られる。シスター・マグマが見せる殺気と容赦のなさからすれば、それは避けられない事態であった。ウルトラ戦姫ならばともかく、人間体では致死は免れない。
 
「・・・貴女、まだツイていますわよ。ウルトラレディ・マイン」

 冷笑を貼り付けた漆黒のシスターは、のぞみの中にいるウルトラ戦姫に語りかけた。
 
「メフィラスさまには、カラータイマーを奪え、と厳命されています。タイマーの数にあわせ、四天王の座と交換だと。カラータイマーを取り出すためには、マインに変身してもらわねばなりません」

 十字剣の先を乳房に埋めたまま、反対側の底部を、マグマは掌で包む。
 
「北野のぞみを戦闘不能の寸前まで破壊し、マインに変身させる・・・すべては計画通りですわ・・・我が神レディ・マグマの御加護のままに」

 右手で握っている十字架の底を、漆黒の修道女はゆっくりと押していく。
 のぞみは知る。十字剣は、正確には剣ではなかったと。剣のように見えるが、その正体はもっとのぞみに馴染み深いものだと。
 
 シスター・マグマの武器である漆黒の十字架は、巨大な注射器だったのだ。
 
 ビュジュウウウ”ウ”ウ”ッ・・・!!
 
 内部に詰まっていた真っ黒な粘液が、のぞみの左胸に注入される。
 巨大な乳房の内部へ。さらには、心臓近くの血管へと。
 
「ふはア”ッ!! ア”ッ・・・アアア”ッ、アア”ッ――ッ!!」

「光をエネルギーとするウルトラ戦姫には、毒の類いは効果が薄いのでしたわね。ですが人間体のうちに注入された場合は・・・どうでしょう?」

 リボンで束ねられた後ろ髪を、ブンブンと振り乱してのぞみは悶絶した。
 胸が腐る。瞬時に脳裏を占めたのは、そんな錯覚。まるで腐敗した死体から沁みだした泥水で、美乳の内部を満たされたかのようだ――。
 叫ぶナースを無視して、十字架型注射器を引き抜いたマグマは、今度はお臍の穴に切っ先を突き刺した。
 
 ズブブブッ!! ・・・ブジュルルルウ”ゥ”ッ・・・!!
 
「はぎゅう”ぅ”ッ!!? んはア”ッ、ア”ッ・・・!! お腹ッ・・・お腹が腐ってェ”ッ・・・!!」

「ふふふ、安心なさい。下痢したような激痛でも、簡単にその毒を排泄することはできませんわ。簡単には、ね。お漏らしを気にすることなく、闘わせてあげましょう」

 ぐぎゅるるる・・・ごりゅるるる・・・
 
 濁流が暴れるかのような音が、のぞみの腹部で響いている。人気ナンバーワンナースの美貌は、蒼白となっていた。確かに、ホッとした気持ちがあるのは否定できない。衆人環視のなかで、排泄シーンを披露してしまうなど・・・戦姫でなくても、死にたいくらいの絶望的恥辱だ。それが避けられるのならば、たとえ敗北を迎えてもまだ救われる気はする。
 しかし、腐敗した毒水を胃腸に詰められ、腸壁が爛れていくような激痛を、ずっと耐え続けねばならないのだ。
 
 地獄だった。そんな地獄の苦しみのなかでマインに変身させ、敵は処刑を執行するつもりでいる。
 
『うああ”ッ・・・ぐぶぅ”ッ!! ・・・のぞ、みッ・・・!! のぞみぃッ・・・!!』

 左胸とお臍に注がれた猛毒の効果は、マインにも確実に影響している。
 当然だった。マインとのぞみは肉体を共有しているのだから。
 のぞみが受けた肉体のダメージは、当たり前ながらマインに色濃く反映してしまう。
 
「首尾は上々、ですわね。いきましょう、カイザー・ナックル。マインの処刑を始めることにいたしましょう」

 6本の腕から解放されたナースは、その場にどしゃりと崩れ落ちた。
 胸と腹部を押さえて、のたうち回る。のぞみの愛くるしい、それでいてどこか品のある美貌は、苦痛に歪んで汗で濡れ光っている。
 
「ケッ! 始めるといっても、コイツ、変身できるのかッ!? こんな瀕死にしちまったら、もう闘えないだろうがよォッ!!」

 すべての策をシスター・マグマに任せた〝猛将”は、不満の台詞を口にしていた。
 3つのカラータイマーを奪い、3人揃って四天王に復活する・・・その計画の青写真は、ほとんどがマグマとガッツ星人マモンとが描いたものだ。ただ戦姫3名を抹殺すればいいのではなく、きちんとタイマーを奪取せねば意味がない。
 
「うふふ、心配は無用です。この小娘はすぐに、マインへと変身するでしょう」

 修道服を着た異星人の肉体が、溶けるように消えていく。
 巨大化し、本来の姿へと戻るためだった。
 
「我が神レディ・マグマが教えてくださいました。街が襲われれば、守るために闘わずにいられない・・・ウルトラ戦姫とは、そんな愚かしい存在なのです」

 総合病院が建つ、広大な駐車場に。
 シスター・マグマとカイザー・ナックル。病院をしのぐ大きさの異星人が出現した。



 3、
 
 
 人々が異変に気付くまで、ウルトラレディ・マインが登場してから、数秒もかからなかった。
 
 病室の窓の外。巨大なふたつの影が現れたのは、突然のことだった。修道女のような装いの漆黒の異星人と、6本の腕を持った筋肉質な異星人。宇宙人の存在に慣れたとはいえ、間近で見る侵略者の姿は、やはり脅威だ。患者も病院スタッフも、一様にパニックに陥り悲鳴が渦巻く。
 
 希望の光は、すぐに現れた。
 ふたりの異星人のあとを追うかのように、大地に降り立った巨大な戦士。水着にも似た深紅のボディスーツと、金と銀とを組み合わせたプロテクター。長い髪をピンクのリボンでひとつに束ねたそのウルトラ戦姫は、『最強最速の戦姫』の異名をとる、ウルトラレディ・マインに間違いなかった。どこかあどけなさを残す顔と、完熟といっていいほど大きく実った胸の果実とが、アンバランスなはずなのに妙にマッチしている。
 
 安堵の空気が、一斉に病院内を覆った。実力では傍目から見ても飛び抜けている戦姫が来てくれたのだ。これほど心強いことはなかった。マインが来てくれたなら、大丈夫だと。
 だが、そんな空気は、まもなく暗雲に飲まれていく。ムクムクと底なしのように沸き立つ暗雲に。
 
 病院を庇うようにして立ったマインは、肩を激しく上下させていた。
 本人も恐らく無意識だろう。構えを取っているつもりで、マインの両手は左胸とお腹とを押さえている。大きく波打っているふたつの箇所が、なんらかのダメージを受けているのは明白だった。
 
「言ったとおりでしょう? やはりすぐに現れましたわね・・・いいひと気取りのドブ臭い小娘が」

「ケッ! なるほど確かにッ! こいつらウルトラ戦姫は底抜けのバカだなッ!! わざわざタイマーをくれるために殺されにきやがったぜッ!!」

 乳房と腹腔とが腐敗していくような激痛に耐えながら、マインはギリと奥の歯を噛んだ。
 
「あなたたちみたいな卑怯な敵は・・・初めてよッ・・・!」

 マインが闘ってきた多くの侵略者のなかには、罠を張る異星人も、残虐行為に躊躇ない怪獣もいた。むしろそういったタイプがほとんどだったように思う。
 だが、異次元から来たらしき今回の相手は・・・ゲス度が違う。実力も決して低くはないのに、仕掛ける罠のひとつひとつに、プライドの欠片も感じないのだ。
 
 変身前を襲う。2対1で襲う。毒を使う。武器を容赦なく使用する。
 そんなシスター・マグマが、のぞみが勤務する病院の近くに出現したのだ。メッセージは強烈だった。マインが闘わなければ、総合病院の患者やスタッフたちがどうなるか・・・
 毒を打たれようと、胃腑も心臓も腐り溶けそうだろうと、『最強最速の戦姫』は逃げるわけにはいかなかった。
 
「卑怯? ふふふ・・・これだからウルトラ戦姫のような偽善に凝り固まった迷妄の徒は・・・我が神が許しておけないのです」

 シスター・マグマが浮かべた笑みは、嘲笑うというには、憎悪が前面に押し出し過ぎていた。
 
「目的のために全力を尽くすのは当然のことですわ。もっとも厄介な『最強最速の戦姫』を、多人数で、人間体を襲って倒す。これ以上に確実な策があるのでしょうか?」

 右手に握った十字架型の剣を、〝謀将”の座を狙うマグマ星人が突き出す。
 剣先から発射された赤いビームが、リボンの似合う戦姫を襲った。突然の攻撃。毒の効果で立つのもやっとというマインに、手加減するような相手ではない。
 
 瞬時に反応したマインは、後方に跳躍する。
 これが毒を注入された身体か? と思えるほどのスピードで軽やかにかわす。次々に撃ち込まれるビームを、舞うようなステップで避けていく。
 それがボクシングの防御の基本、フットワークを応用したものであることは、シスター・マグマも気付かない。ただ『最速』の看板に、偽りがないことを確信するだけだ。
 
(くッ・・・だけど、これじゃマズイわ!)

 深いダメージを受けた身体でテクニックを見せつけながら、動揺したのはマインの方だった。
 シスター・マグマから距離を置く、ということは病院から離れる、ということだ。光線を避けるには仕方なかったとはいえ、病院から遠ざかるのは確実にマズかった。
 〝謀将”と呼ばれようとしているこのマグマ星人が、いかに卑劣な敵か――。すでにわかりきったことだった。多くの患者や医師、ナース仲間を人質に取るくらいは、いとも容易くやるだろう。
 やらない、と考える方が都合がよすぎた。正体がバレ、勤務する総合病院に乗り込まれた時点で、人質という切り札を握られることは、覚悟しなければならないことだった。
 
「念のため、断っておきますわ。あなたのお知り合いを人質にするつもりはありません」

 マインの頭の中を見透かしたように、シスター・マグマは宣言した。
 
「はあッ・・・はあッ・・・なんのつもり?」

「言った通りですわ。気にしている様子でしたので、安心させてあげたのです。人質など無粋なマネは、我が神レディ・マグマの怒りに触れてしまいますわ」

「・・・信用すると、思ってるのッ!?」

「おやおや。私がその気になれば、病院の者などいつでも生殺与奪、思いのままですよ? 今もこうして、なにも手をかけていないのが・・・雄弁な答えでしょう」

 確かに、シスター・マグマの言葉に理はあった。
 胸と腸内が腐り溶けていくような苦痛のなか、マインに1500人以上もの病院内に残る人々を守る余裕はなかった。マグマとカイザー・ナックル、彼らが本気になれば、人質などいくらでも捕らえることができるだろう。
 それがいまだに、病院に目もくれない、ということは・・・本当に人質などという発想はないのだろうか? あるいは、すでに毒に侵されているマインなら、小細工なしでも勝てると?
 
 ぐるぐると、マインの脳裏で考えが巡る。冷静に〝謀将”の目論見を見極める必要があった。窮地であるのは確かであっても、『最強最速の戦姫』はまるで勝利を諦めてはいない。
 思考に意識が向かう、その隙を突くように。
 水玉模様の、分厚い肉体の異星人が、マインの眼前に出現する。
 
「ぐくぅッ・・・カイザー・・・ナッ!!」

「オラオラオラぁッ!! グダグダ言ってんじゃねえッ、カスがァッ!! てめえごとき弱者に、人質だなんだと必要だと思ってんのかッ!?」

 6本の腕が、矢継ぎ早にグラマラスなボディに撃ち込まれた。
 怪力から繰り出される豪打は、爆撃のような威力だった。恐らくは、先程の十字剣のビームと遜色ない。
 懐に踏み込まれたマインは、懸命に6本腕のブローを防ぐ。狙われているのは、顔と左胸、そして腹部。毒が注入されている今、そのどこもが致命的な急所といえる。
 
 ドガガガガガアアアッ!!!
 
「あぐう”ッ!! うぐぅ”ッ・・・!! ん”ッ!! ・・・かはァ”ッ!!」

 2本と6本。スピードではマインに分があるとはいえ、腕の本数が決定的に違うのだ。
 ダッキングやブロッキング、スウェーバックといったボクシングの技術を駆使しようと、至近距離からの乱打を避け切るのは不可能だった。ナックルの猛打がいくつか被弾する。ぐぎゅるるッ、とお腹が喚くような悲鳴をあげる。
 致命傷だけはなんとか避けながら、リボンの似合うウルトラ戦姫はズルズルと後退していく。
 
「相手が悪かったようですわねッ、ウルトラレディ・マインッ!! 『最強』といっても・・・所詮は『裏地球』での戦姫内においての評価。カイザー・ナックルのパワーには敵わないでしょう? そして『最速』といっても・・・」

 たいしたことはない。
 そう言いかけた、シスター・マグマの句が途切れる。
 
 風の唸る、音がした。
 その瞬間、ガトリングガンのごとく発射されていたカイザー・ナックルの6つの拳が、すべてマインの身体をすり抜けた。
 
 残像――。ナックルが貫いたマインの肉体は、実体のない残像だった。
 
 速過ぎる移動速度に、残像が描かれたのか。
 気付いた時には、本物のマインは〝猛将”の背後に現れていた。
 
「・・・ッ!! これが、『最速』たる真のゆえッ・・・ん”ぶうう”ッ!!」

 ドドドドドドンンンンンンッ!!!

 カイザー・ナックルに負けじと、一瞬にして叩き込まれる6発の打撃。
 トドメのアッパーを顎に喰らって、筋肉に覆われた巨体が浮き上がる。ブジュウッ、と砕けた顎から噴き出す真っ赤な鮮血。
 
「・・・まともに闘ったら・・・私だって、簡単に負けるわけにはいかないわッ!!」

 崩れ落ちる〝猛将”の血煙の向こう。
 荒々しく肩で息をしながら、凛と瞳を光らせる『最強最速の戦姫』が、シスター・マグマを鋭く射抜いた。
 
「・・・ふふふ・・・1対1なら・・・私に勝てると思っているのでしょうか?」

 マイン自身もわかっている。頑強な肉体を持つカイザー・ナックルは、この程度の打撃では斃せないことに。いずれ意識を戻し、立ち上がってくるだろう。
 だがトドメを刺すことよりも・・・シスター・マグマとの闘いを優先すべきだった。この卑劣な〝謀将”と対等な状況で闘えるチャンスは、今しかない。意識をナックルに向ければ、なりふり構わぬニセシスターにどんな謀略を使われるか、わからない。
 
 毒が、徐々に全身に回り始めていた。ごろごろと雷鳴のようにお腹が鳴り続けている。
 限られたわずかな時間で、マインはシスター・マグマを倒さねばならなかった。この恐るべき刺客たちを、ティオやアイナ、仲間の戦姫たちと闘わせるわけにはいかない――。
 
 『最強最速の戦姫』は、全力を振り絞って、最後の勝負にでた。
 
 
 
 4、
 
 
(時間がないわ・・・一気に、決めないと!)

 シスター・マグマと対峙するマインには、ふたつの意味で時間がなかった。
 ひとつ、毒に蝕まれた自身の身体に、限界が近づいていること。
 ひとつ、気を失ったカイザー・ナックルが、いつ戦線に戻るかわからないこと。
 心臓と腸内が、ドロドロと溶け爛れているかのよう・・・そんな激痛が、絶え間なくマインの脳髄に流れてくる。全身に冷たい汗が浮かび、小刻みな震えが止まらなくなっていた。マイン自身の肉体ならば、毒を盛られたところでたいしたダメージは受けないだろう。むしろ人間体・北野のぞみの身体に打ち込まれたために、漆黒の毒は大きな効果を発揮していた。
 
 必殺技を、放つしかない。
 マインの震える右手が、髪を束ねたリボンへと伸びる。
 
「マキシマムソードッ!!」

 その瞬間、ピンクのリボンは太陽のように灼熱の光を放った。
 赤々と輝くリボンを、投げつける。シスター・マグマに向かって。
 それはちょうど、ウルトラレディ・セレスの必殺技セレスラッガーのように。紅き光刃と化したリボンは、空気を切り裂き漆黒の修道女に迫る。
 
「ふふふ・・・その技。資料の通りですわね」

 一直線に飛来するマインの必殺技を前にして、シスター・マグマは薄く笑った。
 
「『ウルトラレディ・マインの必殺技マキシマムソードは、セレスのセレスラッガーに酷似した技である』・・・宇宙忍者レディ・バルタンの諜報能力は確かなもののようです。ならば私の勝利は決まったも同然」

 逆十字の形をした剣が、流麗な弧を描く。
 シスター・マグマの剣技によって、輝くリボンは弾き飛ばされた。
 
「なッ!?」

 硬質な音色を残し、紅の光刃があさっての方向へ飛んでいく。
 病院の一階にマキシマムソードは激突した。崩落する壁の一部。つんざく悲鳴。
 青い顔をしたマインは、慌ててリボンをウルトラ念力で手元へと引き寄せる。
 
「貴女の技は初見でも、セレスラッガーについては研究と分析を繰り返してきました・・・速度、軌道、切れ味。私にとって、叩き落すのは造作もありません」

「あなたッ・・・!! わざと病院に向かってッ・・・弾き返したよねッ!?」

 偶然ではない。計算ずくで、マキシマムソードを病院に当たるように弾き飛ばしたのだ。
 シスター・マグマの狙いが、マインには一瞬で理解できていた。念力である程度操れるといっても、高速で弾かれた光刃を、咄嗟には軌道修正などできるわけもない。女マグマ星人が故意に弾く方向を決めているのなら、マインには防ぐ方法などなかった。
 
 むろん、マキシマムソードを自在に弾き飛ばすなど、容易にできる技術ではない。シスター・マグマの剣技が、相当なレベルにあるからこその防御法だ。
 加えて、マグマ自身が言っているように、マキシマムソードにそっくりだという技・・・セレスラッガーとやらを十分に研究していたことも、この絶技を可能にしているのだろう。
 
「ふふふ・・・たまたまですわ・・・信じるかどうかは、貴女にお任せいたしますが」

「くぅッ・・・どうりで・・・病院から離れないわけねッ・・・!」

「セレスラッガーは・・・我が神を破った、忌まわしき穢れた技です。何万と繰り返した、打倒セレスラッガーの技量。こんな『裏地球』の世界で役立つとは、やはり我が神のお導きでしょう」

「・・・ぐッ! ・・・私の必殺技が・・・マキシマムソードだけだと思わないでねッ!」

 うっとりと佇む漆黒の修道女に対し、マインは両腕を逆L字に組む。
 マキシマムキャノン・・・その態勢から放つ七色の熱戦こそが、マインのもうひとつの必殺技であった。
 その威力は絶大で、『裏地球』でのウルトラ戦姫のなかで、最強を誇るのは間違いない。しかもマインには、最大の光エネルギーを凝縮して放つ、ギャラクシーキャノンなる上位光線まで存在するのだ。
 
 ギャラクシーキャノンともなれば、小惑星を消滅させることすら可能と言われている。まさに『最強』の名に相応しきマインの能力。
 それほどの威力を誇る光線ならば、受けることも、まして剣で弾き返すなんてできるわけがない・・・。
 そんなマインの考えは、次の瞬間、呆気なく崩壊した。
 
「どうしました、ウルトラレディ・マイン? 『最強』と呼ばれる貴女の必殺光線・・・早く撃ってみてはいかがですか?」

「・・・あなたってひとは・・・どこまで卑劣なのッ!!」

 冷たく唇を吊り上げるシスター・マグマに、マインは怒りの叫びをあげていた。
 修道女の衣装を着た異星人は、いまだ多くの人々が取り残されている、総合病院をバックにして佇んでいた。
 人質など取らない――そんな台詞が、マインの脳裏に蘇る。確かにシスター・マグマは、その手の内に人質を握っているわけではないだろう。しかし、実際には人質をとっているのと同じではないか。
 
 威力絶大の光線など発射すれば、病院にも確実に被害が及んでしまう。
 マインに光線を、撃てるわけがなかった。むしろ『最強』の威力を誇るがゆえに、間違ってもマキシマムキャノンなど放つわけにはいかなかった。
 
「この星全体の危機と比較すれば・・・人質が犠牲になるのも仕方がない。そんな選択も有り得るでしょう・・・偽善ぶったウルトラ戦姫も、いざとなれば。しかし・・・己の手で住民を殺してしまう。そんな失敗をするリスクを、万が一にも背負えるでしょうか・・・?」

 ニヤニヤという音が聞こえてきそうなほど、シスター・マグマは整った容貌を歪ませていた。
 姉の仇を討とうというこの女異星人は、ウルトラ戦姫をよく知っている。彼女たちがいかに甘く、純粋であるかを。
 そして見立てた限り、この『裏地球』の戦姫たちは、セレスやシャインといった元の世界の戦姫よりも、未熟ぶりが際立っていた。
 
「答えはノー。貴女は絶対に・・・犠牲者を生むのが怖くて、光線を放つことなどできません。愚か。吐き気を催すほどに愚かです。こんな虫けらどもの近くにいるだけで、最強のバリアになるなんて」

「だッ・・・黙ってッ!! 黙りなさいッ! ・・・シスター・マグマッ、あなたは・・・真正面から堂々と戦うことができないのッ!?」

 ぎゅるぎゅると鳴る腹部を押さえ、マインは叫ぶ。
 あまりに価値観の違う相手に、熱血漢の戦姫は心底から怒りを覚えていた。リングで1対1で闘うボクシングの相手とは・・・この修道女の格好をしたニセモノはあまりに違う。
 
「ふふッ・・・うふふふ!! 本当にバカな小娘ですわね! これが我が神の唱える『堂々』ですよ!? 使えるものは全て使って、どこがいけないのです?」

「・・・教えてあげるわッ! 卑怯な手を使っても、ウルトラ戦姫を倒すことはできないッ! マキシマムキャノンが使えなくても、私はあなたに勝ってみせるからッ!!」

 髪を束ねる大きなリボンを、再びマインは右手に握る。
 煌々と輝き、赤光の刃と化すリボン。だが、今度は投げなかった。マキシマムソードとして投擲するのではなく、文字通り剣代わりに使って斬りつけるつもりなのだ。
 
 光刃を投げても、光線を撃ってもダメ。
 ならば直接斬ればいい。『最強』の必殺技を封じられても、マインにはまだ、『最速』の動きがあった。
 
「・・・あなたには・・・容赦しないわッ!!」

 ブンッ・・・!!
 
 空間の揺らぐ、音がした。正しく言えばそれは、あまりの高速で物体が動いたために、捻じれた空気が生み出したソニックウェーブ。
 残像を残し、ウルトラレディ・マインの肢体は移動していた。
 
 一気に殺到する。佇むシスター・マグマに。
 超高速で走るマインの姿に、漆黒の女異星人は気付いていなかった。脳自体が認識していない。マインが元の場所から移動しているという、事実を。
 
 わかっていないのだから、斬れる。当然の話だった。
 本気を出した『最速の戦姫』の斬撃が、棒立ちとなったシスター・マグマの首筋に迫る――。
 
 ズバズバズバァッ!! ・・・ブシュウウウウッ――ッ・・・!!
 
 肉の断ち切れる連続音に続き、鮮血の飛沫が高々と宙を舞った。
 
「んはア”ア”ァ”ッ・・・!? ウアアアア”ア”ア”ッ――ッ!!?」

「・・・ふふふッ・・・うふふふッ!! やはり愚かですわねッ、ウルトラレディ・マインッ!!」

 首筋と胸元、そしてくびれた腰とから真っ赤な血潮を噴き出しているのは、シスター・マグマの眼前にまで迫った、マインの方であった。
 定規を使って引いたような、一直線の赤い傷口が、首・胸元・腰の三箇所で開いていた。それぞれ肉体の半ばほどまで、パックリと切り裂かれている。
 
「ぶしゅッ・・・!! んはア”ッ、アア”ッ・・・!! な・・・んでッ・・・!!?」

「ゴゴゴッ!! 思った以上にうまくいったナ」「呆気ないくらい単純なバカだゼ、コイツ」

 ヒクヒクと肢体を震わせるマインの左右で、同じ声音がなにもない空間から響く。
 いや、なにもない、のではなかった。透明で見えていなかっただけだと、ようやくマインは悟る。マグマとナックル以外に、さらにもう一体・・・いや二体。異次元からの刺客が、隠れていたのだと。
 
 空間に色が浮かび、やがて異星人の形をとっていく。
 丸い頭部に、大きな眼。そして鋭い嘴。マインを両側から挟むようにして立った二体の新たな敵は、オウムによく似た姿をしていた。
 
「よお。挨拶しとくゼ、『最強最速の戦姫』さんヨ」「オレはガッツ星人・マモンってんダ」

「分身宇宙人って言われてるんだけどヨ」「わかるカ? これ、分身の術ってヤツだからナ」

「つまりオレたち、ふたりともマモンってことダ」「どっちも本物で、どっちも偽物ダ。ふたりいるようで、ひとりなんだゼ」

「ま、んなこたぁ、どうでもいいヤ」「大事なのは、お前はもう終わり、ってことだヨ」

 ふたりのオウム型異星人、ガッツ星人・マモンと名乗った敵の手から、糸のような細い光線が伸びていることにマインは気付く。
 光線の糸は、ふたりのマモンの手を繋げている。合計3本。細い糸が、二体のガッツ星人の間に張られているようなもの。
 
 そのピンと張られた光線の糸に、超高速で疾走したマインは自ら突っ込んだのだ。
 謎の斬撃、そして出血の理由を、ようやくマインは呑み込める。
 
「病院を巻き込まないようにするためには、接近戦を仕掛けるしかない・・・予想通りの動きで助かりますわ、マイン」

 首筋から噴き出す血で、赤く染まったマインの美貌に、シスター・マグマは己の顔を近づける。
 ブルブルと震えるマインの唇を、修道女の赤い舌が、ベロリと舐め上げた。
 
「がああ”ッ・・・アア”ッ!! ・・・こッ・・・んなッ・・・!! ま、だ・・・罠をッ・・・!!」

「言いましたわよね、マイン。全力を振り絞って、『最強最速の戦姫』をまずは葬ると。これが私たちの全力ですわ」

 ふたりのガッツ星人の指から伸びる光線の糸が、ぐるぐると肉に埋まった傷口に巻き付いていく。
 
「オレたちはふたりいてもひとりだからヨ」「当たり前だが、息ピッタリなんダ。獅子座の双子なんざメじゃねえゼ」

「二体で作った光線の糸も、変幻自在に操れるんダゼ」「『光線技のアルファ』も逃げ出す腕前ヨ」

 細いくせに、鋼のような強度とゴムのような伸縮性がある。
 緊縛する光線糸の厄介さが、マインにはわかった。引き千切ることなど到底不可能な糸が、首と胸と腰とに絡まっていく。
 
(うああ”ッ・・・!! ああ”ッ!! ・・・こ、これではッ・・・ど、どうすることもできッ・・・しかもッ・・・!!)

 顎を押さえながら、6本腕の異星人が立ち上がるのが、視界の隅に映り込んだ。
 眼前のシスター・マグマは、口元を赤く濡らしたまま、逆十字の剣を構える。
 
「『最強』であるがゆえに貴女は光線を放てず・・・『最速』であるがゆえに光線糸に致命的な勢いで突っ込んでしまった・・・全力の使い方をわからぬ者は、ブザマに平伏すのが我が神の教えです」

 口元に付着したマインの返り血を、美味そうにシスター・マグマは舌で舐めとった。
 
「死になさい、愚かな小娘。『最強最速の戦姫』の最期です」

 三箇所に巻き付けた光線糸を通じ、ガッツ星人・マモンが高圧電流を流し込む。
 深々と食い込んだ乙女の肉の内部で、バチバチと火花が弾けた。
 
「ウアアアア”ア”ア”ッ―――ッ!!! アガア”ッ!! ギャアアア”ア”ア”ッ――ッ!!!」

 引き攣るようなマインの絶叫が、病院と、取り残された人々の心をグラグラと揺り動かした。
 倒れるはずがない――そう思い込んでいたものが、崩れ去ろうとしていた。
 
 
 
 5、
 
 
(ア”ッ!! うぎゅう”ッ!! ・・・ダ、メェ”ッ・・・!! 焼けてッ!! 私のカラダ、がッ・・・焼けてッ!! ・・・しまッ!! ・・・)

「おいおい、オレ様の光線糸から脱出するのはムリってもんダゼ。どれだけ暴れてもヨ」「ティアナの怪力だってその糸は切れねえヨ。なにしろ丈夫なくせに、ゴムみてえに伸びるんだからナ」

 グラマラスな戦姫のボディが、電撃に焼かれてビクビクと痙攣している。
 マモンという名のガッツ星人の言葉は正しかった。マインがどれだけ暴れても、光線で出来た糸が切れることはない。しかも鋼線のような糸は、首や胴体に深く食い込んでいるのだ。
 
「てめえッ・・・!! このオレを地に這わせてッ・・・!! ラクに死ねると思ってねえだろうなァッ~~ッ!!」

 筋肉に青筋を浮かべたカイザー・ナックルが、緊縛されたマインの前に立つ。
 ゾクッ・・・!! 戦慄が背筋を駆け抜けたときには、6本の腕によるストレートが、毒を注入された腹部に一斉に撃ち込まれていた。
 
 ドドドドドドボボボボボボォォォッッッ!!!
 
「うぐう”う”う”ウ”ゥ”ッ―――ッ!!! ・・・ごはア”ッ!! がはア”ッ!! ・・・ア、アアア”ッ・・・お腹ッ・・・がア”ァ”ッ~~ッ!!!」

 大量の血の塊が、ゴボゴボとマインの唇を割ってこぼれる。
 むろん憤怒に駆られた〝猛将”が、その程度で許すわけはない。
 お臍の真上からストレート。脇腹に左右のフック。下腹部には、突き上げるアッパー。
 2本ずつの腕で、3種類のパンチを、剥き出しになっているマインのお腹にめり込ませる。
 
 ブチブチイッ!! ボギイッ!! ドボオオッ!!
 
「うぶううう”う”ッ――ッ!!! おぼお”ォ”ッ・・・!! ごふぅ”ッ・・・!! や、めッ・・・!! おな、かッ・・・グチャ・・・グチャにッ・・・!!」

 同じ女子プロボクサーからは、喰らったことのない重さと鋭さ、そして破壊力。
 見開いたマインの瞳に、涙が浮かぶのも無理はなかった。カイザー・ナックルの打撃は激しすぎる。しかも毒を打たれたマインの腹部は、下痢に見舞われたような苦痛に苛まれているのだ。いっそ排泄できないために、腸が腐ったような苦痛がいつまでも続いている。
 
「おっと、なに崩れようとしてんだヨ」「立ちナ。休ませねえゼ。息絶えるまでナ」

 突き刺さる殴打の痛みに、「く」の字に折れ曲がるマインの肉感ボデイ。
 ボディブローの苦痛でKO負け寸前の戦姫を、マモンの電撃が無理矢理立たせる。バリバリと全身をめぐる高圧電流に、ダイナマイトボディという表現がピッタリくる肢体がピンと一直線に伸びあがる。
 
「あがああ”ッ・・・!! アア”ッ・・・!!」

「ふふふ・・・大口開けていると・・・いろいろなものを突っ込まれてしまいますわよ? 淫らな小娘ですね」

 空を仰いで喘ぐマインの口腔に、シスター・マグマは十字剣の先端を突っ込んだ。
 
 ブジュウ”ッ!! ブジュリュルルルッ・・・!!
 
 剣の底にあたる柄頭を押し込むと、真っ黒な液体が剣先から溢れ出る。
 注射器に入った猛毒は、マインの胃に流し込まれていく。カイザー・ナックルの殴打を受けて、弱り切った胃のなかに。
 本来ならば毒への耐性が強いウルトラ戦姫も、衰弱し切った身体ではダメージは免れない。
 
「ごぶう”ッ・・・!! ぶじゅう”ッ!! ・・・あ”ッ、があ”ア”ッ・・・!! やめッ・・・てッ・・・!! ゴボオ”ォ”ッ!! ・・・苦しッ・・・やめェ”ッ・・・!!」

「ケッ! 壊してやらあッ――ッ!! 『最強最速の戦姫』だとォッ!? この脆いカラダのなにが『最強』だァッ~~ッ!! 笑わせんじゃねえッ――ッ!!」

「ウルトラ戦姫のボディスーツは、光エネルギーで出来ているんでしたね? 剥いて差し上げますわ。スーツの喪失は、即ち光エネルギーを失うことになる・・・」

 マモンの光線糸で動けぬマインを、容赦なく〝猛将”と〝謀将”とは破壊にかかる。
 
 頭部ほどもあろうかという、大きく膨らんだ左右のバスト。果実でいうならパイナップルほどもあろうかという爆乳を、カイザー・ナックルの6つの拳が襲う。
 真っ直ぐ突き刺す。フックで横殴りに弾く。アッパーで跳ね上げる・・・。
 ボクシングの練習にパンチングボールというものがあるが、まさにそれだった。天井からぶら下がったゴム製のボールを、リズムよく連続で叩くアレ。
 マインのふたつの乳房を、6つの拳が面白いように連続で殴りつける。上下左右、ブルブルと揺れる胸の果実。ウルトラ戦姫のなかでも特に巨大な乳房が踊りはねる光景は壮観だが、やられる方はたまらない。
 
 ドドドドオオォォッ!!! パパパンンンッ!!! ドキャアッ!! スボオオッ!!
 
「うあああ”ッ、アアア”ッ――ッ!! 千切れッ、千切れちゃう”ぅ”ッ~~~ッ!! 私のッ、むねェ”ッ・・・!! うああ”ッ、痛いィ”ッ――ッ!! アアア”・ア”・ア”ッ・・・!!」

 元々マインの強化スーツは、面積があまり広くない。
 四肢はロングブーツやロンググローブが多くを覆っているが、胴体部分のスーツはほとんどなかった。際どいビキニのように、胸や下腹部をわずかに隠しているだけだ。
 その、わずかなスーツと金銀のプロテクターが、カイザー・ナックルの連続殴打によって、ビキビキと砕けていく。
 
「ふふふ・・・ほらほらほら! 我が神が、貴女を切り刻む様子を愉しんでおられますわ!」
 
 同時にシスター・マグマは、十字剣を使って、マインの肢体を何度も何度も斬りつけていた。
 ザクザクと、マインの柔肌に漆黒の刃が埋まる。触れた感覚はソフトでも、戦姫の皮膚は強靭だった。容易に破れることはないものの、斬撃の痛みまでは抑えられない。
 
(ああ”ッ・・・あああ”ッ・・・!! 胸、がッ・・・潰れるッ・・・!! あち、こちッ・・・斬られてッ・・・痛みでおかしくッ、なりそうッ・・・!!)

 ガッツ星人の電撃とカイザー・ナックルの殴打。そしてシスター・マグマの斬撃。
 四天王の座を狙う強豪異星人3体の猛攻に、マインのカラータイマーが赤く点灯する。額のビームランプも、同時にピコンピコンと警告音を鳴らし始めた。
 はらり、と深紅のスーツが、マインの下腹部から離れて落ちる。
 ついにシスター・マグマの十字剣により、強化スーツが切断されたのだ。ガクンッ、とエネルギーを喪失する感覚。
 
(・・・こいつらッ・・・は・・・強いッ・・・! 卑怯な手、なんか・・・なくても・・・ひとりひとり・・・十分強いわ・・・ッ・・・!!)

 病院の方から、マインの名を叫ぶ声と悲鳴とが届いてくる。
 かつてない、切迫した叫びだった。彼らも気付いているのだ。罠に落ちたマインに、最悪の事態が訪れようとしていることを。『最強最速の戦姫』と呼ばれたウルトラ戦姫に、敗北の瞬間が迫っていることを。
 
 このままではいけない。この恐るべき敵と、ティオやアイナを会わせるわけには・・・せめてひとりでも、道連れにしなければ。
 
 そんなマインの悲愴な想いを嘲笑うように、バストを守るプロテクターが砕け、カラータイマーはますます点滅を激しくする。
 
「そろそろコイツも限界だナ」「激しく壊すとするカ。『最強』に相応しく、華々しく散りてえだろうしナ」

 光線糸に緊縛され、直立不動で立っているマインの乳房に、新たな2本の光線糸が迫る。
 スーツを斬られ、プロテクターを破壊されたマインの胸は、ピンクの突起が露わになっていた。ぎゅるぎゅると、光る糸はふたつの乳首に巻き付いていく。
 同時にやはり露わになっている下腹部・・・乙女のクレヴァスの上、過敏な肉芽をめざとく見つけると、第三の光線糸も絡みつく。敏感すぎる陰核を、きゅっと締め付ける。
 
「アハア”ッ!! ア”ッ・・・あああ”ッ~~ッ!! そんなッ・・・トコッ!! やめッ・・・!! きゃああッ、あああ”ッ―――ッ!!!」

 乳首とクリトリス、3点に巻き付いた光線糸は、マインの豊満ボディをゆっくりと吊り上げた。
 己の全体重が、その過敏な3点にかかるのだ。ひとつに束ねた髪を振り乱して、マインは絶叫した。激痛と痺れるような快感に、宙吊りになった肢体がビクビクと痙攣する。
 
「注いでやるヨ。破壊の光線をナ」「こんな身体で喰らったら、たまんねーよナ」

 タイマーを点滅させる戦姫の肢体に、3点からガッツ星人の破壊光線が送り込まれた。
 
 バジュジュジュッ!! バシュウッ!! ジュジュジュッ!!
 
「うわあああ”あ”あ”ッ――ッ!! ティオォッ――ッ!!! アイナァッ~~~ッ!!!」

 引き裂くような悲鳴が、ウルトラレディ・マインの口から迸る。
 その瞬間、カイザー・ナックルは宙に浮いたマインの股間に、フルスイングのアッパーを撃ち込んだ。
 凶悪な拳が、戦姫の膣壺のなかへと吸い込まれていく。
 
「オラああッ~~ッ!! 子宮を潰されッ・・・死にやがれェッ――ッ!! ウルトラレディ・マインッ!!」
 
 ドキャアアアアッッ!!! グボオオオオォォッ・・・!!
 
 マインの下腹部、その秘裂の奥深くで・・・何かが砕ける音色が、病院内の誰にも聞こえる音量で鳴り響いた。
 
「はぐう”う”ぅ”ッ――ッ!!? ア”ッ・・・!! ・・・ッ!!」

 マインの瞳が白く裏返る。リボンで束ねた髪が、だらりと揺れた。
 カクンと頭を垂らした『最強最速の戦姫』は、そのままピクリとも動かなくなった。
 
「まず一人目カ」「たいしたことはなかったナ」

「・・・ケッ! こいつはマグマッ、てめえの獲物だったが・・・勢い余って殺しちまったぜェッ! まあ、カラータイマーを奪えれば問題ねえよなァッ!?」

 ガッツ星人・マモンとカイザー・ナックルの勝鬨が響くなか、拘束を解かれた戦姫の肉体が、どしゃりと地面に投げ捨てられた。
 ウルトラレディ・マインは純粋すぎた。真面目すぎる性格ゆえに、容赦ないシスター・マグマの奸計に、成す術なく嵌まって敗北を喫した――。
 あとはそのカラータイマーを抉り取れば、『裏地球』におけるウルトラ戦姫の、第一の犠牲者は確定する。
 
「・・・まったく・・・男どもは、これだから頼れないのです」

 誰もが勝負あったと確信していた、その時。
 〝謀将”シスター・マグマだけが、ウルトラレディ・マインに宿る最後の命の灯火を、正確に見抜いていた。
 
「・・・うああ”ッ・・・ウオオオオオッ―――ッ!!!!」

 死んだと思われたマインの肢体が、跳ね起きる。
 その左腕に、七色の光が輝いている。逆L字に組んだ、左の腕に。
 
 それはマイン必殺のマキシマムキャノン・・・いや、より濃密に光エネルギーを凝縮された一撃は、最大最強の必殺光線=ギャラクシーキャノンに間違いなかった。
 
「・・・シスターッ・・・マグマァッ!! 私にとっての・・・全力をッ!! あなたにッ・・・見せてあげるわッ!!」

 ガッツ星人・マモンの光線糸は、確かに脱出不能なものだった。
 マインは死を覚悟した。もはや、無事で済むことはなかろうと。だが、もし3体の刺客の猛攻を耐え抜き、緊縛から解放された時に生きていたなら・・・
 残る生命の光を全て使って、ひとりでも多くの敵を倒そう。
 油断しきった敵は、病院を盾代わりにすることを忘れている。今ならば。やっと。ようやく。今ならば。
 
 ウルトラレディ・マインは、本来の実力を思い切り発揮して、闘うことができるのだ。
 
(遅かった・・・なんて、思わないッ!! 間に合った・・・私は、間に合ったのよッ!!)

 たとえ死んでも、ティオとアイナのためになれば。
 そしてこの星の、人々の役に立つならば。
 
「ひとり・・・たったひとり、でもッ・・・構わないッ!! 喰らいなさい、私のッ・・・ウルトラレディ・マインのッ、最高の光線をッ!!」

 マズイ。
 死に体のマインが、最期の一撃を放とうとしている。ひとりでも多く、道連れにしようと。
 そうわかっていても、マモンとカイザー・ナックルの脚は動かなかった。気圧されたのだ。マインの気迫と、ギャラクシーキャノンが内包する、絶大な光エネルギーに。
 マインに近付けば、安易に向かっていけば、消し炭になるのはこちらだ。それがわかるために、〝猛将”と〝魔将”は動けなかった。あの恐ろしいまでに光エネルギーを凝縮した光線は、バリアなどで防げる類いのものではない――。
 
「その潜在能力の高さ・・・認めてあげましょう、ウルトラレディ・マイン。ですがやはり愚か。全力が、あくまで真っ向勝負とは・・・蜜蜂も嘔吐する甘ったるさです」

 輝く七色の光を前に、シスター・マグマだけが、悠然とした笑みを崩していなかった。
 
「焼かれ、刻まれ、殴られ、膣壺すら砕かれて・・・それでも立ち上がるその気力。なにがそこまで貴女を動かすのか、不気味ですらありますわ。しかし・・・そんな貴女が生きているのを知る私が、なぜトドメを刺さなかったか、不思議に思いませんか?」

 ギャラクシーキャノンの照準を、マインは漆黒の修道女に合わせる。
 
「終わっているからですわ。すでに貴女は。間に合ってなど、いないのですよ・・・我が神に導かれた私の手により・・・ウルトラレディ・マインはすでに死んでいるのです」

 悪寒が、マインの背中を駆け上った。
 撃たなければ。早くギャラクシーキャノンを発射して、せめてこの卑劣な〝謀将”だけでも、倒しておかねば。
 
「私の十字剣の毒を・・・貴女は受けていますね。3度も。お臍と心臓、そして胃のなかに」

「ッ・・・ギャラクシーッ!!」

「その黒い毒・・・元々は剣の刀身であったことを、忘れていなくて?」

 可憐なマインの美貌が、戦慄に引き攣る。
 己に残った全ての光エネルギーを、放射する寸前。
 刹那。ほんのわずかの差で。
 ボロボロのマインよりも、シスター・マグマの指が鳴る音が速かった。
 
 ・・・パチン
 
「ッ!! ・・・はぐうう”ぅ”ぅ”ッ――ッ・・・!!」

 ドシュッ!! ドシュッ!! ドシュッ!!
 
 マインの腸と胃袋、そして心臓付近で。
 打ち込まれた漆黒の毒が剣に変わり、ウルトラ戦姫の内側から串刺しにしていた。
 肛門から、咽喉元から、そして左の胸を突き破って・・・長い剣の刀身が、マインを貫き飛び出している。
 
「貴女の変身前、人間体の北野のぞみも・・・これでは絶命は免れませんわねェ」

 鮮血を噴いて、どしゃりと崩れ落ちたマインの肢体を、シスター・マグマは蹴り転がす。
 真っ赤に濡れた胸の谷間。すでに光を失い、黒くなったカラータイマーの結晶を、十字剣の切っ先で抉り抜いた。
 
「へッ・・・まったく恐ろしい女だナ」「最初に毒を打たれた時点で・・・マインのヤツは負けてたってわけダ」

「シスター・マグマァッ・・・てめえッ、簡単にヤれるなら、さっさと殺せやァッ!! 危うくこっちがやられるところだったじゃねえかッ!!」

 ヘラヘラと笑うガッツ星人と、いきり立つナックル星人に、冷ややかな笑みを修道女は見せた。
 
「いいえ、『最強最速の戦姫』はあれだけでは滅ぼせません。満足に動けなくなるまで、痛めつけねば・・・それにカイザー・ナックル、貴方もマインをリンチできて、悦んでいたではありませんか」

 くすくすと笑うシスター・マグマに、すでに足元に転がった哀れな亡骸は映っていないようだった。
 
「これで邪魔者は消えました・・・あと残る二匹。この愚かな小娘より脆い連中を・・・嬲り殺すとしましょう」

 息絶えたマインの束ねた髪を掴み、シスター・マグマは病院の敷地をあとにした。
 
 
 
 ティオとカイザー・ナックルの激突が始まる、30分前。
 それが『最強最速の戦姫』の最期となる闘いだった――。
 
 
 
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| ウルトラ戦姫物語 | 00:50 | トラックバック:0コメント:1
コメント
新 京史朗さまのブログ、30万HITを記念してのウルトラ戦姫パラレル編、第二弾です。
順調な創作活動、といえばそうなんですけど、これでもなかなか言いにくい悩みなどありまして・・・心配いただくようなことではないので、お気にかけずにいてもらえれば結構なんですけど、まあ、こういうことやってると常に悩みはつきものですね。深刻なものじゃないんですが、スッキリしない日々が続いています。

特に今年の後半、ハッキリとした予定が立ってないので・・・なにやろうか、迷い中です。ずっと。いくつか候補はあるんですけどねえ。

最終的には時間がない、ってところに問題が行き着くんですけどね・・・そこをどうクリアするかが、昨今の課題になってます。
2016.06.28 Tue 00:53 | URL | 草宗
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