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草宗の書斎

オメガスレイヤーズ ~カウント5~ 最終話 カウントゼロ。始まりの終わり④ | main | オメガスレイヤーズ ~カウント5~ 最終話 カウントゼロ。始まりの終わり②
オメガスレイヤーズ ~カウント5~ 最終話 カウントゼロ。始まりの終わり③
 5、オメガヴィーナス
 
 
 立てッ!!
 
 祭壇の床に這いつくばりながら、四乃宮郁美は我が肉体を叱咤した。立て。起き上がれ。ブザマに転がっている場合じゃない。
 
 怪老・骸頭が発射した、極太の緑の光線が一直線に走る。我が姉・天音へと。白銀のスーツと紺青のフレアミニ、そしてプラチナブロンドの髪を輝かせた究極戦士に、トドメの一撃が迫っている。
 
 郁美の脳裏に蘇る、残酷な記憶の断片。
 そう、藤村絵里奈は・・・蒼碧の水天使オメガセイレーンは、あの〝オーヴ”のレーザーキャノンを喰らって瀕死の姿に追い込まれた。たとえ最強とされる光の女神であっても、効果は変わらないだろう。あれを撃ち込まれたら、さすがのオメガヴィーナスも「終わる」。
 そしてもうひとつの記憶。それは、父と母が、惨殺された日のものだった。
 

(・・・もうッ・・・家族を失いたくないッ!! ・・・たったひとりの・・・お姉ちゃんをッ・・・!!)

 なのに何故、私の肉体は思うように動いてくれないのか。
 
 理由はわかっている。六道妖に拉致されて以来・・・性的な拷問で責め抜かれたからだ。足腰が立たなくなるほどに、郁美の精は搾り尽されてしまった。
 そして、それ以上に大きな理由。
 それは、郁美がただの人間であるためだった。
 
(私に・・・ッ!! 私にもッ・・・オメガスレイヤーの力があればッ!!)

「いやァッ!! いやッ、イヤッ!! ・・・イヤアアアア”ア”ッ――ッ!!!」

 願いは、虚しい。
 少しでも、姉の役に立ちたい。できるなら、最強の破妖師である姉の代わりに、盾になりたい。
 純粋で、濃厚な、郁美の願いは叶わなかった。
 麗しき女子大生は床に倒れて痙攣しながら、惨劇を見詰めることしかできなかった。
 
 緑色の、反オメガ粒子の光線が、直撃する。
 
 オメガヴィーナスに。
 オメガヴィーナスの突き出した、右の掌に。
 
「うああ”ア”ッ!! ・・・ウアアッ、ァアアアア”ア”ッ――ッ!!」

 苦痛の叫び。から、気高き咆哮へ。
 白銀の光女神から迸る声が、その内容を変える。ビカビカと、理想的なプロポーションの美肢体が、稲妻のように閃光を放つ。
 
 直撃ではない。受け止めたのだ。
 
 闘いに縁のない郁美が見ても、正しい状況が理解できた。姉の天音はギリギリのところで、己の急所に致命的一撃がヒットするのを防いでいた。
 
「おねえちゃッ・・・!!」

「・・・郁美ッ・・・!! 私は・・・負けないッ!! ・・・オメガヴィーナスは・・・絶対に負けないわッ!!」

 右手から凄まじい勢いで黒煙があがるのも構わず、オメガヴィーナスは〝オーヴ”の光線を受け続けた。白魚のようなその手が、ブスブスと焼け爛れていく。
 
「どんなに恐ろしい妖化屍であっても・・・ッ!! オメガヴィーナスは絶対に倒さなければいけないッ!! たとえこの身が朽ち果てることになってもッ!! 4年半前、この宿命を受け入れた時から・・・私はとっくに覚悟を決めたのッ!!」

 双子のようにそっくりな美貌を持つ姉の口から、悲愴な決意は語られた。
 天音が、妹のためを想って、あるいは人々の安全を祈って、この4年半を闘ってきたことは郁美もわかっている。そんな姉だからこそ、郁美も力になりたいと思ってきたのだ。
 だが、天音自身の覚悟は・・・郁美が思うレベルを、遥かに越えていたのかもしれない。
 
「郁美・・・私はどうしても・・・こんな残酷な闘いには・・・あなたを、巻き込みたくなかった」

 血を分けた姉妹だから。世界でもっとも敬愛する、姉だから。
 天音の声に含まれた感情を、郁美は理解できてしまった。
 
「私の・・・オメガヴィーナスの命と引き換えにしても。郁美、あなただけは・・・必ず助けるわ」

 四乃宮天音は。オメガヴィーナスは。
 この闘いで、すでに死を覚悟していた。
 
 優等生であり、頑固なほどに真面目な姉のことを、郁美はよく知っている。
 天音は嘘のつけない性格だった。
 妖魔を葬る最強の破妖師となった彼女は、愚直にその使命を果たしてきた。天音が『絶対に倒す』といえば、そうするのだ。『絶対に負けない』というなら、負けないのだ。責任を負わない発言など、天音の口から出たことはない。天音がそう言う以上、きっとオメガヴィーナスは六道妖を倒すだろう。
 
『オメガヴィーナスの命と引き換えにしても』
 
 同じように、天音はそうも告げた。郁美『だけ』は必ず助けるとも。
 六道妖は倒すだろう。負けではないのかもしれない。しかしオメガヴィーナスは・・・自分が助からないことも、同時に『覚悟』している。
 美しく、優しく、気高く、女神の名に恥じない、郁美の姉は。
 四乃宮天音は・・・嘘のつけない性格なのだ。
 
「バカッ・・・なぁッ!? こやつ、なぜじゃあアッ!?」

 骸頭が抱えたバズーカ砲から、緑色の輝きが消えていく。砲身内に〝オーヴ”の粒子がなくなったのだ。次を放つには、新たな〝オーヴ”を装填しなければならない。
 弱点である黄金の紋章に当たらなかったとはいえ・・・なぜエネルギーを消滅させる〝オーヴ”を浴びて、耐え抜けるのか。骸頭にはわからなかった。たとえ掌であっても、白銀の光女神の身体からオメガ粒子が減ったのは確実なのに。
 
「・・・地獄妖・骸頭ッ・・・!! あなたが郁美を人質に取ったのは・・・失敗だったッ!!」

 オメガヴィーナスの全身が、強く、眩しい白光に包まれる。
 あれほど痛めつけても。これほど〝オーヴ”を浴びせても、まだこんな力があるのか。妖化屍たちは、ようやく悟る。四乃宮天音に埋蔵されたオメガ粒子の総量が、いかに莫大であるのかを。この女には、身体の奥底からまだ引き出せるオメガ粒子があったのだ。
 
「郁美をッ!! 妹を助けるためならばッ!! ・・・私は全てをッ!! この命だって捨ててみせるわッ!!」

 こやつ、命を燃やす気かッ!?
 
 戦慄が骸頭を襲った瞬間、さらに激しくオメガヴィーナスは発光した。
 ギュルギュルと回転する。独楽のように。4体の妖化屍に囲まれた光女神は、その場で煌めくハリケーンとなって超高速で旋回した。
 その動きは、オメガヴィーナスの持つパワーとスピードを、もっとも遺憾なく発揮できるものだったかもしれない。弾き飛ばすパワー。回転のスピード。遠心力。超速度によるソニックブーム。
 まさにそれは、誰も触れることのできない白銀の旋風。
 
 ギュオオオッ・・・!! グオオオオオッ!!
 
「ゲ、ゲヒィっ!? ぎゅあオオオっ!!」

「ちょッ!? こ、このッ・・・ォオオオッ・・・おぎゃあああッ――ッ!!」

 オメガヴィーナスの背中に張り付いていた灰色の汚泥が、回転の勢いに一斉に剥がれ飛ぶ。
 縛姫の両腕=二匹の大蛇も、ハリケーンのパワーに成す術もなかった。首に巻き付いているのも構わず、旋回する天音。その勢いを、緑のアナコンダは止めることができない。
 
 ブチブチイッ!! 呆気なく断絶の音がして、人妖・縛姫の両腕の蛇は、胴体の途中で引き千切られた。鮮血と女妖魔の絶叫が聖堂の天井に噴き上がる。
 
「グギョオオォロロロォッ――ッ!!」

 オメガヴィーナスの肢体に埋まっていた虎狼の戟、そして啄喰の嘴も、旋回のパワーに弾き飛ばされる。
 あまりの速さで回転しているため、白銀のハリケーンの周囲には真空が生まれていた。いわゆる、かまいたち。近付くだけで、旋風の刃が斬りつける。〝無双”が握る鋼鉄の柄にも、巨大カラスの体毛にも、いくつも切り傷の痕が浮かぶ。
 
 1対5。圧倒的数の優位で、一方的に責めていたはずなのに。
 底知れぬオメガヴィーナスの力の前に、攻守は一瞬で逆転していた。六道妖の攻撃は全て跳ね返され、自由を取り戻した白銀の光女神は態勢を整えようとしている。
 
 回転を止めたオメガヴィーナスが、凛とそのアーモンド型の瞳で睨み付ける。視線の先は、つい先程までその魅惑の瞳を覆っていた汚泥。ハリケーンに弾き飛ばされた〝流塵”は、なんの抵抗も出来るはずもなかった。
 
「〝威吹(いぶき)”ッ!!」

 ぷるんとした厚めの唇がすぼまる。女神の美を体現した乙女が、吐息を吹く。
 甘いはずの吐息は突風となって、寒気と光を伴い噴射される。宙に泳ぐ、汚泥へ。灰色の泥の塊へ、凍てつく風が浴びせられる。
 
「ゲヒヒィッ!? ・・・ヴィーナぁッ・・・!! お、おまえ”え”ぇ”っ~~っ!!」

 呪露の怨嗟の叫びは、魔を滅する突風が封じ込めた。
 灰色の泥の山は、空中でコチコチに凍結していた。〝威吹”がヘドロで出来た〝流塵”の肉体を、急速冷凍して固めてしまったのだ。
 
 パリイィィッ・・・・・・ンンッ!!
 
 一瞬の後、餓鬼妖・〝流塵”の呪露の巨大な身体は、粉々に砕け散っていた。
 
「調子に乗るんじゃないッ!! 死ねッ、この小娘ぇッ――ッ!!」

 千切れた両腕から血を噴きながら、〝妄執”の縛姫は絶叫した。いくらオメガヴィーナスが最強の破妖師といえども、積み重なったダメージは相当なもののはずだった。殺せる。このチャンスに、殺さねばならない。美しかった私の顔を、醜く陥没させた憎き小娘め。
 オレンジの髪が伸びる。光女神の背後から、その右腕に絡みつく。
 何千、何万という髪が、白銀のスーツに包まれた細い右腕に、幾重にも巻き付いていく。
 
「くぅッ!!」

「ほら、今だよッ! こいつの胸を潰してやりなァ――ッ!!」

 縛姫の声を合図として。
 一旦吹っ飛ばされた修羅妖と畜生妖が、同時に襲いかかる。狙うは弱点である胸部。理想的な曲線を描いて盛り上がったバストに、緑の戟と黄色の嘴が殺到する。
 
 肉が潰れる、残酷な音色がふたつ。
 オメガヴィーナスの左右の乳房に、〝オーヴ”の穂先と巨大カラスの嘴は根本まで埋まっていた。
 
「ぐぶう”う”ぅ”ぅ”ッ―――ッ!!! ・・・かはア”ッ!!」

 その瞬間、白銀と紺青の肢体はビクリと痙攣した。
 魅惑の瞳とピンクの唇が、大きく開かれる。鮮血の飛沫が、咽喉の奥から噴き出した。
 
 決定的な一撃、に見えた。
 事実、2種類の凶器を胸に埋めたまま、オメガヴィーナスの動きが止まる。虚ろな美貌は、口の端から吐血の糸を垂らし続けた。白銀の光女神は、乳房を潰される激痛に立ち尽くす。
 強靭なオメガスレイヤーの肌は、鋭い戟の刃も、尖った嘴も、その侵入を許してはいない。しかし、皮膚が破れて血が噴き出すことはなくても・・・豊かなバストが痛々しく陥没しているのだ。天音を襲う痛みが尋常ならざることは、疑いようがなかった。
 
「ホーッホッホッホッ!! これは心臓まで潰れたかもねェッ!! このまま悶え震えて死んでしッ・・・!?」

 だが。
 哄笑する縛姫の顔が引き攣る。醜く陥没した顔でも、動揺がわかるほどにハッキリと。
 
 オメガヴィーナスの右腕に、力がこもるのがわかった。
 緊縛のオレンジ髪が巻き付いた腕に。「こいつッ!」と女妖化屍は思う。私の拘束から逃げられるものか、と。
 
 朦朧としていた美乙女の瞳に、突如として強い光が蘇る。
 
「ッ・・・私ッ・・・は・・・オメガヴィーナス、はッ・・・!! 負けないわッ!!」

 プラチナブロンドの髪が、天音の叫びに呼応するように輝きを増した。
 光女神が右腕を振る。縛姫に縛られている腕を。確かに、〝妄執”の束縛は、オメガヴィーナスのパワーをもってしても解くことはできなかった。
 
 しかし、緊縛から逃げられなくても・・・縛姫自体を、動かすことはできる。パワーで遥かに上回っているのは、天音の方なのだから。
 網を破れないのならば、その先にいる、狩猟者そのものを振り回そうという発想。
 
「うおおッ・・・おおおおおッ―――ッ!!」

 オメガヴィーナスの雄叫びと、縛姫の悲鳴は同時に起こった。
 浮き上がる。紫のナイトドレスに包まれた、人妖の肢体が。
 縛姫が伸縮可能な髪の長さを調節するよりも、オメガヴィーナスがその髪を振り回す方が、断然早かった。気付けば縛姫は宙にいた。もはや上も下もわからない。浮遊している感覚だけが身を包む。
 
 ドキャアアアアァッ!!
 
 オレンジの髪を釣り糸のごとく操り、高々と一本釣りした縛姫を、オメガヴィーナスは床に叩きつけた。
 〝オーヴ”で強化された、教会の床に。
 『ボクたちの力でも、簡単に壊れない』そう言ったのは、くしくも同じ六道妖の天妖・絶斗であったか。
 
「げはあああッ――ッ!! ・・・プギュッ!!」

 背中から全身を強打した縛姫の口から、ブザマな悲鳴と吐血が噴き出す。
 顔の中央を陥没させた女妖魔は、四肢をバタリと大の字に投げ出した。ピクリとも、動かなくなる。
 何重にも巻き付いていたオレンジの髪が、オメガヴィーナスの右腕からズルリと垂れ落ちた。
 
「こッ・・・殺せェッ~~ッ!! 殺すんじゃあッ!! はやくそやつを・・・ッ!!」

 骸頭の叫びは悲鳴のようだった。
 改めてアンチ・オメガ・ウイルスを充填した、特製レーザーキャノンを構える。照準を白銀の光女神に合わせんとする。
 右腕の自由を取り戻した、オメガヴィーナスとのスピード勝負。・・・となれば、骸頭に勝機のあるはずもなかった。
 
「〝ホーリー・ヴィジョン”ッ!!」

 凛としたアーモンド型の瞳が輝く。比喩ではなく、現実に白光を放っていた。
 目から放つ光線・・・というものは、即ち『見るものに照準があっている』ということだった。視線の先に確実に着弾する、精確無比な射撃。
 天音の瞳から発射された白いレーザーは、距離を置いていた怪老の右手を射抜く。
 鮮血とともに、バズーカ砲に似た対オメガ戦士抹殺兵器が、高々と天井に舞った。
 
「ぎゃあああッ~~~ッ!! わ、儂のッ・・・儂の手があァッ~~ッ!!」

 瞳からのレーザーを射出すると同時に、天音の右手はカラスの嘴を掴み、左手は戟の柄を握っていた。
 本能に従う、獰猛な巨鳥。〝骸憑”の啄喰の頭部を、足元の床に叩きつける。
 
「ゲギョオオオッ――ッ!! ギュロロロオオォッ――ッ!!」

 二、三度羽ばたき、黒い羽根を舞わせると、這いつくばった巨大カラスは動きを止めた。
 光女神を逃がさないための〝オーヴ”による建築補強が、むしろ役に立っている。どんな苦境にも光明は見つけられることを、天音は教えられる想いだった。
 
「・・・やはり最後は・・・このオレとの闘いが相応しいようだな」

 弁髪の武人の声には、怒りよりも喜悦の調子が強かった。
 愛用の戟を強く引く。〝オーヴ”が先端に取り付けられているため、オメガヴィーナスも本来の力は発揮できない。呆気ないほど、柄を掴む左手は離れた。
 
「・・・虎狼・・・あなたがどれほどの想いで、その武器を手にしているのか・・・わかっているつもりよ・・・」

 己の肉体と技とを磨き続けた男が、効果的な道具に頼る。
 その悔しさと、それでも勝ちたいという情念は、天音が共感できるものではなかった。しかし、慮ることはできる。虎狼が抱いているであろう、その痛切な気持ちを。
 
 両親を惨殺し、オメガフェニックス=甲斐凛香をも手に掛けた〝無双”の武人を、どこか憎み切れないのはそのためかもしれなかった。
 
「・・・それでも。私は・・・オメガヴィーナスは、負けられない」

「当然だ。貴様は、易々と敗れていい存在ではない」

「あなたたち六道妖を全員倒し・・・郁美を返してもらうわ」

「上等」

 ボンッ!! と、空気が破裂したような音が響く。
 
 オメガヴィーナスと〝無双”の虎狼。両者が全力を開放した合図だった。ふたりの動きの力量に、空気がたまらず震えたのだ。
 深いダメージを負っている天音に、長く闘う余裕はなかった。一瞬で決着をつける必要がある。
 対する虎狼も、全力をぶつけ合う闘いは、願ってもない。
 
 至近距離で交錯する、オメガヴィーナスの拳と〝オーヴ”の戟。
 
 狙ったのは、互いに左胸だった。心臓の位置。そして、オメガ粒子が集中した『Ω』のマークがある箇所。
 
 先に届いたのは、見た目には小さな、乙女の右拳だった。
 窪む。分厚い武人の胸板が。筋肉の装甲が陥没する。さすがの〝無双”といえど、効かぬはずのない痛烈な一撃。
 
 事実、効いた。
 一瞬、心臓の鼓動が止まり、虎狼の視界はブラックアウトした。こみあげる、吐き気。胃の中身が逆流しているのではない、破れた肺から鮮血が昇るのだと瞬時に察する。
 
 だが、オメガヴィーナスのパワーは、すでに本来のものではなかった。
 これまでに、どれほどのオメガ粒子を消耗したことか。〝オーヴ”の戟を『Ω』の紋章に突きつけられたか。
 激減したパワーとスピードでは、一撃で虎狼を葬ることはできなかった。その繰り出す戟の先端。緑色の十字の穂先が、深々と左の乳房に埋まる。
 
 ゴパアアアッ・・・!!
 
 大量の赤い血が、大きく開いた口から撒き散らされた。
 オメガヴィーナスと虎狼。互いの口から、ほとんど同時に。
 
「ウオオオオオオッ―――ッ!!!」

 大切な、二撃目。ここで差が出た。2000年以上、戦闘に身を捧げた武人と、闘いの場に立ってから4年半の、24歳の乙女との差が。
 間髪入れずに〝無双”の虎狼は、吼えながら戟を振り上げていた。十字状の穂先が、可憐な美貌を襲う。天音の尖った顎先を、斜め下からカチあげた。
 
 ガクンッ、と45度。
 卵型の顔が傾く。脳が揺れる。頭蓋骨の内部でシェイクされる、天音の大脳。
 瞬間、オメガヴィーナスの瞳は虚無を彷徨った。大きすぎる、隙。白銀の光女神は、その間、完全に動きを止めた。
 
 跳ね上げた〝オーヴ”の戟を、〝無双”の武人が大上段から振り下ろす。袈裟斬り。オメガヴィーナスの左の肩口から右の脇腹へと。斜めに緑の斬撃が奔る。
 脳震盪を起こした光女神に、〝オーヴ”の凶刃を避ける術などなかった。
 
 ゴギャギャギャギャアッッ!!!
 
「ウアアアア”ア”ア”ァ”ッ―――ッ!!!」

 刃が肉を絶つ痛撃に、美しきプラチナブロンドの女神は身を震わせて絶叫した。
 身を両断されるような痛みが、肉を灼熱のナイフで切り裂かれる激痛が、天音に押し寄せてくる。だが、〝オーヴ”の戟では、苦痛の感覚は与えても、現実にオメガ戦士の肉は切れない。火傷の焦げ跡が、肩口から胸中央、そして脇腹へとついていても、オメガヴィーナスは実際に切断されたわけではない。
 
 トドメを刺さねばならなかった。
 その身体を刺すことも、切り刻むことも出来なくとも、〝オーヴ”の戟でオメガヴィーナスを仕留めることはできる。
 急所を狙えば・・・オメガスレイヤーにとっての弱点を狙えば、白銀の光女神とて絶命させ得る。
 
 ヒクヒクと痙攣する、光のスーパーヒロイン。その鮮やかな、青色のフレアミニへ。
 すらりと伸びた太ももの間、股間へと向かって、一度振り下ろされた戟が再度上昇する。
 十字状の緑の穂先が、四乃宮天音の陰部へと――。
 
 ガキイイイィィッ!!
 
「なにィッ!?」

 オメガヴィーナスに選ばれた乙女の底力を、虎狼はまたも思い知ることとなった。
 跳ね上げた戟の穂先は、両脚を閉じた天音の太ももによって、恥丘に到達する寸前で挟まれていた。
 
「ここッ・・・をッ・・・狙うと思っていたわ・・・ッ!!」

 『純潔』を奪われれば、オメガ粒子との結びつきは弱くなる。
 オメガスレイヤーの弱点を知った以上、虎狼がそこを標的にするのは当然だった。逆にいえば、天音が守るべき場所もまた、必然。
 
「闘いにおいての能力は・・・すべてあなたの方が上よ、虎狼。ただ私がオメガヴィーナスであることがッ・・・あなたに勝つ、ただひとつの理由ッ!!」

 四乃宮天音が虎狼と闘ったのならば、何万回も死ぬこととなっただろう。
 オメガヴィーナスという、特別な力を授かった。そしてまた、その力を振るわねばならなかった。それだけが、天音が〝無双”に勝利できた唯一の要因だった。
 
 ドドドドオオオオッンンンンッ!!!
 
 100発を超える打撃のマシンガンが、左右の拳から虎狼の身体に撃ち込まれた。
 厚い胸板が、割れた腹筋がボコボコとへこむ。
 白くなっていく意識のなかで、弁髪の武人は、真っ直ぐ拳を突き出した最強の破妖師の姿を見た。
 
 やはり、貴様は美しい。
 容姿も、打撃のフォームも。初めて会った時とは、比べものにならないほどキレイになった。
 
 重々しい地響きをたてて、〝無双”の虎狼は教会の床に崩れ落ちた。
 
「・・・・・・ッ・・・バ・・・カな・・・ッ・・・!!」

 呪詛とも、感嘆とも取れる呟きは、右手を押さえた老人の口から漏れ出ていた。
 気がつけば、片膝をついた骸頭自身を含め、六道妖全員。オメガ戦士抹殺のために集結した、最強最凶の妖化屍の群れが、全て地に臥せっている。
 
「・・・オメガヴィーナス・・・は・・・・・・絶対に負けない・・・わ・・・ッ!!」

 荒々しく、苦しげな吐息に紛れて。
 何度となく聞いた台詞が、美女神の口から奏でられた。
 
 口元を汚す赤色を、グッと掌で拭い取る。露わになっている右乳房を腕組みして隠しながら、敢えて胸を張ってオメガヴィーナスは仁王立ちした。
 
「・・・私の・・・勝ちよ。六道妖」
 
 その立ち姿こそが、白銀の光女神の勝利を、雄弁に語っているようであった。
 
 
 
 6、勝利
 
 
「バ・・・カなぁッ~~ッ!! 儂ら六道妖が・・・こ、こんなことがッ・・・!!」

「・・・郁美は・・・返してもらうわ・・・」

 ガクガクと震えながら喚く皺だらけの怪老を無視し、オメガヴィーナスは巨大な十字架の祀られた祭壇へと歩を進めた。
 青のケープはほとんどが破れて、白銀のスーツに包まれた背中がよく見えている。右の乳房は露わとなり、黄金の『Ω』マークはいまだシュウシュウとほのかな煙をあげていた。白銀のピッタリ密着したボディスーツには、吐血の飛沫や黒く焦げた跡が、ところどころ点在している。特に左肩から右脇腹にかけて、斜めに刻まれた火傷痕は濃い。
 
 女神の名に相応しい美乙女は、無惨な姿に変わり果てていた。プラチナブロンドの髪も、シルクのように輝く素肌も、心なしか汚れて見える。
 それでも。疲弊し切っていても、立っているのは光属性のオメガスレイヤーであった。
 オメガヴィーナスを抹殺するために結成された六道妖は、その全てが教会の床に倒れ、あるいは粉々に砕けて消えている。
 
(・・・苦しい・・・闘いだったわ・・・)

 死をこれほどに覚悟した闘いは、天音がオメガヴィーナスになって、初めての経験であった。
 未熟であるがゆえに、危機に陥ったことなら4年半前にある。しかし、真っ向からの勝負で、命を削られるような想いをしたのは今回が初めてだった。
 
 本当ならこの恐るべき妖化屍たちに、しっかりトドメを刺すべきだろう。
 だが天音は、万一の事態を恐れていた。狡猾な〝百識”の骸頭には、まだ切り札が残されているかもしれない。今のオメガヴィーナスに、残されている余力は少なかった。力が残っているうちに。確実に妹の郁美を救出する必要があった。
 妹の安全を確保してから・・・六道妖との真の決着はつければいい。
 
「・・・郁美ッ・・・!」

 慎重に、しかし急ぎながら。
 スレンダーだが、盛り上がるべきところは豊満に実った女性らしい肢体が、一段高い祭壇の上に飛び乗る。骸頭の動きに、不穏なものはなかった。床に転がったレーザーキャノンを拾う素振りがあれば、容赦なく瞳の光線で射抜く準備は、天音には出来ている。
 
「・・・おねえ・・・ちゃん・・・ッ!!」

 わずか2mの距離まで近づいた時、ようやく天音は気付いた。
 そっくりな美貌を持つ、少し勝ち気な妹が、瞳にいっぱい涙を溜めていることに。
 妹は・・・郁美は、普段は4つ上の姉を「天音」と呼んでいた。
 それが「お姉ちゃん」と、幼いころと同じように呼ぶのは、彼女が素直になった時だけだ。
 
「・・・ごめんね、郁美。つらい想いを、させてしまったわね」

 妹が泣いている理由は、性的拷問のためではなく、天音が苦しむ姿を見たためだと、姉は悟った。
 最強のオメガスレイヤーとされる乙女も、ホッとしたのだろう。不意に愛おしさが、ぐっと胸に迫った。
 
 そう。私がオメガヴィーナスとなったのは・・・このコを守るためだもの。
 
 ふっと唇を綻ばせ、天音は残りの距離を駆け寄る。
 祭壇のほぼ中央、仰向けに転がった郁美を、抱き起そうと手を伸ばす――。
 
 ドオオゥゥンンッッ!!
 
 四方から発射音が轟いたのは、その時であった。
 罠が張ってあったことを、瞬時にオメガヴィーナスは悟った。赤外線のセンサーを巡らせ、郁美に近付けば作動するようにしておく。現代の防犯技術を利用した、その程度の仕掛けは、〝百識”の骸頭ならば造作もなくできるだろう。やはり地獄妖の怪老は、油断ならない相手であった。
 
 だが、オメガヴィーナスも、決して油断などしていなかった。
 天井の隅から飛来する鋭い輝きを、その凛とした瞳は捉えている。ナイフのような、掌サイズの鋭利な結晶。それら小型の刃が、ギラギラと光りながら四周から迫っている。射出されたその速度は、銃弾と変わらぬ速さだった。
 
 刹那。そのわずかな時間に、天音は全ての状況を把握し、決断をした。
 
 飛来する結晶が狙っているのは、自分ではなく、妹の郁美であった。
 このままでは、鋭利な刃は郁美を貫く。四つのナイフが妹を切り裂く。
 まさしく光に迫る速さで、オメガヴィーナスは動いていた。郁美をかばう。両腕で抱きしめ、上から覆い被さる。
 尖った結晶を、白銀の光女神は背中で受けようとしたのだ。頑強なオメガスレイヤーの肉体は、ナイフくらいならば容易く跳ね返す。
 
 まして結晶の色は、天音が瞬時に危惧した、緑などではなかった。弱点である、アンチ・オメガ・ウイルスの色ではない。だからこそ、どこかで安堵した。
 
 撃ち込まれた結晶の色は、紫だった。
 
 ドシュッ!! ドシュッ!! ブシュッ!! ドシュウッ!!
 
「ふぐう”ぅ”ッッ!!?」

 くぐもった、悶絶の呻きが天音の口から漏れていた。無意識のうちに、その芸術的な肢体が大きく仰け反る。
 いつもならその背に翻る、紺青のケープがほとんどなくなっていたこともオメガヴィーナスにとっては不運であった。先程、骸頭の放った〝オーヴ”の砲弾を避けたときに、半ば以上が破られたのだ。
 
 白銀のボディスーツが密着した背中に、紫色の四つの結晶が、深々と突き刺さっていた。
 紫水晶――アメジストの、刃が。
 
「う”ッ!! ぐぅ”ッ、ふぐぅ”ッ・・・!? ・・・え”ッ・・・?」

 背中に広がる鋭い痛みに、喘ぎながら天音は動揺した。
 思わず左手を背中に伸ばす。掌に伝わる、ヌルリとした感触。
 慌てて左の掌を見詰めたオメガヴィーナスは、そこに信じられぬ色を見た。
 
 鮮烈なほどの、赤色。深紅。
 強靭なオメガスレイヤーの肉体から、最強の破妖師である己の肌から、血が流れている事実を天音は直視した。
 
「うあ”あ”ッ・・・!! いやあああ”あ”ア”ア”ァ”ッ―――ッ!!!」

「きゃああ”ア”ア”ッ――ッ、お姉ちゃァ”ッ・・・!!」

 しまった。
 私は、愚かだった。痛恨のミスをしてしまった。
 なぜ凛香さんが・・・オメガフェニックスが、あれほど酷い姿に変わり果てていた時に気付けなかったのか。フェニックスの身体には、杭で串刺しにされたような傷穴がいくつも開いていた。あの時に〝オーヴ”以外の危険を察知していたのに・・・どうしてその脅威を軽んじてしまったのか。
 
 思えば、オメガヴィーナスは強すぎたのかもしれなかった。
 
 あまりの超人的な能力に、無敵であることが当たり前すぎた。妖化屍を何十体と葬るうちに、狩る側の視点しか持てなくなっていた。

(六道妖の・・・恐ろしさを・・・肝に銘じていたはずなのに・・・私は、どこかで・・・・・・勝てると思い込んでいた・・・・・・)

「ヒョホッ!! ヒョホホホオォッ~~ッ!! 神よッ、よくぞ儂らを見捨てなんでくれたァッ――ッ!!」

 老人の歓声が響く。骸頭は両手を組み合わせ、巨大十字架に向けて感謝を捧げていた。クシャクシャの皺だらけの顔は、悦んでいるようにも、泣いているように見える。
 妖魔が神に感謝する。これほど異様な光景も、ないかもしれない。しかし、骸頭にとってもまた、この闘いは存亡を賭けたものなのだ。祈るのに、躊躇いなどなかった。最強のオメガスレイヤーを倒すには、なににでもすがる想いであった。
 立場も、宗教も、関係なく。オメガヴィーナスを殺せるならば、六道妖はあらゆるものに頼りたかった。
 
「勝てるッ!! 勝てるぞおおオォッ~~ッ!! 最後の賭けじゃったッ!! それが最後の賭けなんじゃよォッ、オメガヴィーナスッ!! 紫水晶ッ・・・死=シ水晶こそが、貴様を殺すための儂らの切り札じゃあッ!!」

「紫ッ・・・ま、さかッ・・・そッ・・・んなッ・・・!?」

「そうじゃよォッ、気付いたんじゃあッ、儂ら妖化屍が苦手とする紫水晶が・・・ヌシらオメガスレイヤーにも有効なことにのうッ!! 〝百識”と謳われた儂が、随分迂闊なことじゃったわいッ!!」

 バズーカ砲にも似た、特殊兵器・・・〝オーヴ”のレーザーキャノンを、骸頭は拾う。
 苦痛に美貌を歪めながらも、オメガヴィーナスは立ち上がった。反動で鮮血が飛び散る。紫水晶の短剣を、4つも背中に埋めているとは思えぬ動き。
 
「儂ら妖化屍とッ・・・ヌシらオメガスレイヤーの本当の関係に気付けばッ!! なんてことはない、単純な答えだったんじゃあッ!!」

 佇む天音の顔が、蒼白となった。
 痛恨のダメージを喰らったから、ではない。出血が多量のせい、というわけでもない。
 バレようと、している。
 妖化屍とオメガスレイヤー、その両者の間にある真の関係が、六道妖にバレかけている。マズい。とてもマズい。これ以上、オメガスレイヤーの秘密を知られることは、致命的な事態に繋がる気がする・・・
 
「させッ・・・ないッ!! 骸頭ッ!! これ以上はッ・・・これ以上は、あなたにはッ!!」

「思えば、〝オーヴ”で我らが力を失ったときに・・・早々に気付くべきじゃったッ!!」

 倒す。
 心底から、天音は思った。地獄妖・〝百識”の骸頭をここで滅ぼす、と。全力を振り絞って、千年以上を生きた妖魔を討伐すると。
 
 背中を4か所も抉られている事実を、忘れたかのように。
 骸頭がキャノン砲を構えるより早く、オメガヴィーナスの瞳が光った。眩い白光が一直線に発射される。
 
「〝ホーリー・ヴィジョン”ッ!!」

 〝百識”の怪老が気付いた時には、聖なる光は直前まで迫っていた。
 心臓と顔。容赦なく撃ち抜く気だった。オメガヴィーナスの全力の前に、奸計を巡らす妖術師はあまりに無力。
 逃げることも、防ぐこともできずに、骸頭はその場に立ち尽くした。
 
 バジュウウウウゥッッ!!
 
「なッ・・・!!」

 瞳からのレーザーが着弾する音色と、驚愕の声はほぼ同時に沸き起こった。
 動揺を隠しもしない声の主は、オメガヴィーナス。
 そして、白光が着弾した先は。
 
「・・・お前さー、覚悟できてんだろうね?」

 骸頭の心臓を貫く寸前、〝ホーリー・ヴィジョン”の前に立ちはだかったのは、おかっぱ頭の少年妖魔だった。
 右の掌で、聖なる光線を受け止めている。
 〝覇王”絶斗にとっては、この程度の光は恐れる対象ではなかった。
 
「このボクに、これだけのことをしたんだ。バラバラにしてやる。目ん玉くりぬいて、ベロベロ舐めてやる。妹の前で、これ以上ないってほど、残酷に殺してやるからな」

 1mに満たない小さな身体からは、いまだ黒煙がシュウシュウと立ち昇っていた。
 オメガヴィーナス必殺の〝クロス・ファイヤー”を浴びて、もう意識を取り戻したというのか。天音にとっては最悪の事態であった。このタイミングで、単純なスペックでは光女神をも凌駕する天妖が立ち上がってくるなんて。
 
「・・・天妖。〝覇王”絶斗。この尋常ならざる最強妖化屍の存在が、儂がオメガスレイヤーとの関係に気付く、そもそものきっかけじゃった」

 ドクン、と天音の鼓動が一際高く鳴った。
 真綿で首を絞められる、という言葉がある。それが示す感覚を、白銀の光女神は今、身をもって知っていた。
 確実に、かつてない危機が、最強と呼ばれた美しき破妖師を包んでいく。
 暴かれようとしている、オメガスレイヤーと妖化屍との秘密。
 天妖という、最強の刺客。
 オメガスレイヤー抹殺用の〝オーヴ”のレーザー。
 そして、ドクドクと背を濡らす鮮血。オメガ粒子と自身を繋ぐ『純血・純真・純潔』の一角が、次々に天音の肉体から流れ出る。
 
「最初に気付いたのは・・・〝慧眼”のあヤツだったかもしれぬのうッ・・・ヤツは言った。絶斗の強さとオメガスレイヤーとは、同じ由来なのではないかとな」
 
 もぞもぞと、床に蠢く気配をオメガヴィーナスは察知していた。
 残る4体の六道妖・・・彼らもまた、再び立ち上がろうとしている。一旦倒したとはいえ、トドメまで刺せていないのだから当然だ。六道妖の殲滅よりも、まず郁美の救出を優先したのは天音自身ではないか。
 深手を負った今、6体の妖化屍と闘うことになれば・・・いくらオメガヴィーナスといえども、勝機があるはずもない。
 
「その通りじゃったわいッ!! ・・・気付いてみれば、なんということもない話。ヌシらオメガスレイヤーと・・・儂ら妖化屍は、同じ存在だったんじゃッ!! だから〝オーヴ”も、紫水晶も同様に苦手とする!」

「ウッ・・・ゴオオオオオォォォッ――ッ!!!」

 虎狼。縛姫。啄喰。
 横臥していた妖化屍たちが、突如として、一斉に立ち上がる。中心に佇むオメガヴィーナスに、タイミングを図っていたかのように襲い掛かる。
 六道妖は全てを整えていた。罠を張り、武器を揃えた。プライドの高い〝無双”までもが、いざという時、他の者と協力する覚悟を決めていた。
 全ては、オメガヴィーナスを処刑するために。

「郁美ィィッ――ッ!! 動ける限りッ・・・全力で逃げなさいッ!!」

 最後の勝負に、オメガヴィーナスは打って出た。
 可能ならば。六道妖全員と、差し違えるつもりだった。私ひとりの命で、この恐るべき妖魔を滅ぼせるのなら構わない。それで郁美を、助けられるのならば。
 両腕を真横に広げる。すらりと伸びた両脚を、かかとを揃えて一直線に立つ。
 天音自身が、白銀の十字架となったようだった。背後に祀られた、教会の巨大な十字架と重なる。
 
「儂ら妖化屍の異能力の源泉も・・・ヌシらと同じく、オメガ粒子だったんじゃあッ――ッ!! 妖化屍とはッ!! 要するにオメガスレイヤーの劣化版ッ!! オメガスレイヤーに敵わぬのは、保持するオメガ粒子が少ないがためなのじゃッ!!」

「〝クロス・・・ファイヤー”ァァッ!!」

 その瞬間、セミロングのプラチナブロンドの髪も、白銀のスーツに包まれた肢体も、神々しく輝いた。
 光属性の能力を全開にする、最強の必殺技〝クロス・ファイヤー”。
 聖なる十字架の光で、あらゆる妖魔を殲滅する。敵が6体であっても、いずれ恐るべき怪物であっても、全方向に照射するこの技なら、通用するはずだった。あとはただ、力の限りに白光を放出するのみ。
 
「〝オーヴ”の脅威は儂らにとっても同様であることは、よく理解できたわいッ!! じゃからこそッ・・・ここぞの場面まで、封印したんじゃあッ――ッ!!」

 額の皺を歪ませ、骸頭が絶叫する。皺の隙間に生息するウジ虫がブチブチと潰れた。
 その声が、合図であったのか。
 祭壇中央の巨大十字架に、亀裂が走った。パリンッ、と割れる音がする。次の瞬間、十字架を覆っていた表面が、粉々に砕け飛んだ。
 
 内部から現れたのは、妖しく光る緑の十字架。
 
「オッ・・・〝オーヴ”製のッ・・・十字架ッ・・・!!」

 引き攣る悲鳴とともに、郁美の咽喉の奥から、声が漏れる。
 姉である、光り輝くような美しきヒロインの瞳が、大きく見開かれていた。
 自ら十字架を象った体勢を取る、オメガヴィーナス。その全身は、眩い聖光に包まれている。
 
 だが、四方を焼き尽くす征魔の光線は、発射されることはなかった。
 
「ッ・・・力ッ・・・がァッ・・・!!」

 抜ける。
 激しい虚脱感が、天音を襲っていた。全身の力が、抜けていく。呼吸をするのでさえ、息苦しい。
 
 背後の、巨大〝オーヴ”製十字架の影響であるのは、明らかだった。
 表面が覆われている間は活動できなかったアンチ・オメガ・ウイルスが、じわじわとオメガ粒子を侵食していくのが実感としてわかった。放てない。これではとても、〝クロス・ファイヤー”を作動することなどできない。
 
 〝オーヴ”は妖化屍の異能をもまた、封じていく。脱力を感じているのは、六道妖もまた同じはずだった。
 そう、その通り。骸頭の言葉は当たっていた。妖化屍がバケモノであるのも、オメガ粒子があるからこそだ。〝オーヴ”を過剰に使うのは諸刃の剣・・・六道妖自身も弱体化してしまう。
 
(・・・なんとかッ・・・郁美を連れて、この場を逃げなければッ!!)

 天音は諦めなかった。
 苦境にあるのは確かだ。しかし、〝オーヴ”で六道妖も弱まるならば・・・光明はある。逃げに徹すれば、郁美とともにこの教会を脱するくらいは可能なはずだ。
 三方から飛び掛かってくる、虎狼・縛姫・啄喰の動きがスローモーションで見えた。イケる。オメガヴィーナスは、この程度の包囲網は突破できる。たとえ〝クロス・ファイヤー”は不発でも、多少のダメージを覚悟すれば、この場を切り抜け・・・
 
「くう”ぅッ!? なッ・・・!!」

「ゲヒ、ウヒヒヒヒィっ~~っ!! ・・・オレもいることを・・・まさか忘れてないよなぁ~・・・オメガヴィーナスぅ~~っ・・・!」

 白銀の光女神を、突如襲ったのは、灰色の泥の塊だった。
 餓鬼妖・〝流塵”の呪露。一度、粉々に飛び散った汚泥の妖化屍は、時間をかけて復活したのだ。その細かな粒子は、知らぬうちにオメガヴィーナスの顔に、首に、付着していた。チャンスとみるや、一気に積み重なった。
 
 〝クロス・ファイヤー”を放てていれば、今度こそ分子レベルにまで粉砕できていた、はずだった。
 
「私はッ・・・オメガヴィーナスはッ・・・負けないわァッ――ッ!!」

 大量の灰色の泥が、天音の上半身を包み込む。その柔らかな乳房を、揉み潰そうとする。
 〝オーヴ”十字架の影響を受けていても、まだ光女神にスーパーパワーは残っていた。弾き飛ばす。上半身を振って、その勢いで纏わりつく呪露を引き剥がす。
 あれほどのダメージを受けたのに。オメガ粒子も、随分消耗したはずなのに。この美麗な乙女の肉体には、どれほどの力が埋蔵しているというのか。
 
 だが。呪露が狙っていた、オメガヴィーナス抹殺用の策は。
 この時点で、すでに成功を迎えていた。
 
「・・・ッ・・・こ・・・れは・・・ッ・・・!?」

 灰色のヘドロが、キレイさっぱりオメガヴィーナスの上半身から消え飛んだ後。
 天音の首には、呪露から授けられたアクセサリーが提げられていた。
 拳ほどの、緑に光る鉱石が胸元を飾る、ネックレス。
 
「うあああ”ッ・・・きゃあああ”あ”ッ――ッ!!!」

 右乳房を露出した天音の胸が、黄金の『Ω』マークが激しく黒煙を噴き出す。
 掛けられてしまった。オメガフェニックスを地獄に落した〝オーヴ”製のネックレスが、今また光女神の胸をも焦がす。
 
(抜けるッ・・・!! 力が、すごい勢いでッ・・・!! これでは本当にッ、本当に私はッ・・・!!)

 懸命に、天音は走ろうとした。郁美を抱いて、とにかく逃げよう、と。
 焦りが、最強の破妖師と呼ばれた乙女を、掻き乱していた。オメガヴィーナスは、自らが置かれた状況を正確に理解できていなかった。
 
 すでに詰んでいた。
 四乃宮天音は、オメガヴィーナスは、完全なる死地に陥っていた。
 たとえ白銀の光女神といえども、この状況から脱する方法は、すでになかった。
 
 〝骸憑”の啄喰。カラスの怪物。〝オーヴ”の影響を受けようとも、獣の敏捷性は大差なく健在。
 背後から殺到する黄色の嘴に、オメガヴィーナスは気付けなかった。あまりの速さと、呪露に向いた意識のために。
 
 ドジュウウウウッ・・・!!
 
 鋭利で、巨大な嘴が、天音の背中に突き刺さる。
 本能か。きちんと理解していたのか。
 啄喰の嘴が突いたのは、紫に輝く水晶。
 オメガヴィーナスの肉に埋まった紫水晶の底を、さらに巨大カラスは打ち込んでいた。
 
「はぁぐう”ッ!! あはあ”ぁ”ッ・・・!! うあああ”あ”あ”ア”ア”ァ”ッ―――ッ!!!」

 オメガヴィーナスの、右の脇腹。うっすらと浮かんだ腹筋の、わずかに横。
 背中から貫通した紫水晶の尖った先端が、天音の前面から飛び出した。
 ブシュッ、と噴き出す赤い鮮血。絶叫する乙女の咽喉奥から、これも紅の飛沫が溢れ出る。
 
「終わりじゃああッ~~ッ、オメガヴィーナスッ――ッ!!」

 骸頭の絶叫が響く。ガクガクと震える、プラチナブロンドの女神。
 その頭上から、1mほどの長さはある紫水晶の杭が、串刺しにせんと落下する。オメガヴィーナスの脳天から、股間までを貫く勢いで。
 
 血を吐きながら。〝オーヴ”の苦痛に悶えながらも、天音は動いた。
 天井から迫る凶器に、すかさず反応して後方に跳ぶ。まだ動けるだけでも驚異的であった。この白銀に輝く美女神には、限界というものがないのか。
 剣と見紛うアメジストの塊は、虚しく的を外して床に激突する・・・と思えた。
 
 〝オーヴ”の影響にも関わらず、桁外れの身体能力を持つ者は、啄喰だけではなかった。
 
「・・・あらゆる手を使うと、言っておいたはずだ」

 〝無双”の虎狼が、落下する紫水晶の杭を、その右手に掴んでいた。
 天音の美貌が、絶望に歪む。オメガヴィーナスが見せる、弱々しき表情。一度バックに跳んだ肢体を、さらに遠く跳ぼうとする。
 追撃する虎狼の動きは速く、その射程距離からは、逃れられなかった。
 
 振り下ろす紫水晶の剣が、オメガヴィーナスの右の太ももを串刺しにする。
 
 ズブウウウッ・・・!! ズボボッ、ボオオッ――ッ!!
 
「がああ”ッ!! うぎゃあああ”ア”ア”ァ”ッ―――ッ!!!」

 太ももを貫かれ、脇腹を貫通され、首から〝オーヴ”のネックレスをさげて。
 ヒクヒクと痙攣する天音の肢体が棒立ちとなる。その腕を、脚を、妖化屍たちが次々と拘束していく。
 
 縛姫のオレンジの髪が巻き付き、灰色の泥が四肢に付着した。
 完全に右脚を貫いた紫水晶の剣を、虎狼はグリグリとねじ回す。右の二の腕は、啄喰の嘴が咥えて挟み付ける。
 
「ああああ”あ”ッ・・・!! あがあ”ぁ”ッ・・・!!」

 動けなかった。
 妖化屍などに、負けるはずがない。そう思っていたオメガヴィーナスの四肢が、いくら力を込めようとも拘束から逃れられなかった。
 必死にもがきながら、四乃宮天音は己に迫る運命を悟りつつあった。
 
「・・・儂ら六道妖の・・・勝ちのようじゃなッ、オメガヴィーナスッ~~ッ!!」

 緑の光が充満するレーザーキャノンを、骸頭が構えた。
 砲口が、オメガヴィーナスの胸に照準を合わせる。
 オメガ粒子が集積した、黄金の『Ω』の紋章に。
 
「逃げられるものならばッ・・・避けるがよいわァッ――ッ!!」

 太い、〝オーヴ”の光の帯が、一直線に白銀の光女神目掛けて閃いた。
 4体の妖化屍に身体を抑えられたオメガヴィーナスに、凶撃を避ける手段などあるはずもなかった。
 
「はあう”ッ!! あああ”ア”ッ、ウアアアア”ア”ア”ァ”ッ―――ッ!!!」

 〝オーヴ”のレーザーが、オメガヴィーナスの胸を直撃した。
 黄金の『Ω』マークが、弾け跳ぶ。白銀のスーツから、左の乳房も露わとなる。
 剥き出しとなった天音の胸に、黒い火傷のような『Ω』の焦げ跡が浮かんだ。構うことなく、緑の魔光は浴びせられた。
 
 ビクビクと、壊れたように震え続けるオメガヴィーナスに、〝オーヴ”が尽きるまでレーザーは撃ち込まれた。
 
 ようやく照射が終わった時には、凛とした瞳は白く裏返り、開きっぱなしのピンクの唇からは、だらだらと大量の泡と涎が溢れこぼれた。
 四乃宮天音に、もはや妖化屍と渡り合えるだけのオメガ粒子は残っていなかった。
 無惨に失神した白銀の光女神を、支える六道妖が高々と掲げる。凛々しく、美しかったスーパーヒロインは、乳房を晒し、虚ろな表情を浮かべてただ痙攣していた。
 
 敗北したオメガヴィーナスを包むのは、泣き叫ぶ妹の声と、妖化屍たちの哄笑だけだった。
 
「・・・じゃが・・・こいつらはしぶとい。これほど責め抜いても、オメガ粒子をゼロにするのは容易ではないわ」

 変わり果てた光女神を見上げながら、〝百識”の骸頭は低い声音で呟いた。
 
「『純血・純真・純潔』・・・これらを奪い取って、オメガヴィーナスを完全なる死に追い込まねばならんのう」

 オメガセイレーンで失敗した処刑を、今度こそ成功させねばならぬ。
 四乃宮天音の息の根を止めねば、六道妖に真の勝利は訪れなかった。
 
 
 
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| オメガスレイヤーズ | 02:37 | トラックバック:0コメント:8
コメント
少々無茶をしまして、一気に書き上げてしまいました。「最終話 カウントゼロ。始まりの終わり」の第三弾です。
あとで見直すとおかしなところがあるかもですが・・・勢いにまかせていっちゃいましたw まあ、書けるときに書いておこう、ということで。

「祭り」と称するからには、ひと月に2回は更新したかったので、ちょっとホッとしています。天音ちゃんの魅力が少しでも伝わればいいんですが。
2016.04.28 Thu 02:38 | URL | 草宗
更新お疲れ様です。
本当は下の告知をさせてもらうつもりでお邪魔したんですが、更新分一気に読んでしまいました。
祭りと最終章に相応しい怒涛の展開いいですね(・∀・)
ネタバレ回避ですが、各種アクションと並行して物語の核心部分も垣間見えて面白いです。
次回更新も楽しみにしています♪

この場お借りしまして、こちら訪問されている方々向けの告知を少々。
間近ですが5月1日(日)。東京都有明のビッグサイト(東京国際展示場)開催の『comic1☆10』で、お預かりしている昨年冬コミ発行の草宗さんが執筆されたスーパーガール小説本『超少女カーラの苦闘』を領布致します。
スペース及びサークル名は東4ホール ひ-37a『バルクラッシュ』です。
部数少なめなので、冬コミで買い逃した方はお早めに。
2016.04.28 Thu 23:34 | URL | SAD
>SADさま

ご無沙汰してますw お元気そうでなによりです(*´▽`*)
バトル中心の内容ですが、仰る通り、物語の中枢に迫る重要なシーンなんかもあったりしますね、今回は。
エッチ成分がほとんどなかったのが、我ながら少し残念ですけど、そちら方面はそのうち・・・ってことでw

「comic1☆10」での参列、おめでとうございます(*´▽`*) ボク自身は参加できないのですが、その代わりに分身である(^^ゞ拙作の面倒をよろしくお願いしますw
コミケとは違い、気候がいい時季での開催ですし、存分に楽しんでくださいね。

オメガスレイヤーとはまた少し異なり、どっぷりスーパーガールなw作品になっていますので、ご興味のある方は是非よろしくお願いします(^^ゞ
2016.04.29 Fri 20:56 | URL | 草宗
>拍手コメントくださった方
実はGW中は、ほとんど執筆に時間がとれそうもなく・・・やるなら今しかない、ということで少々無理しましたw

今作の主人公であり、最強の戦士である天音には、やはりいろいろな面で頑張ってもらわないと・・・(^^ゞ 通常ならとっくに負けている状況でも、強さを見せられたのなら嬉しいです。

真綿で首を絞める、のさじ加減がとても難しくて、その点は頭悩ませながら進めたので、そのように評していただけると本当にありがたいですw

このさじ加減をもう少し続けながら、いよいよクライマックスへ・・・というところでしょうか。あまり期待をさせてハードルをあげてもいけませんがw

おかげさまで体調はいいので、またボツボツ頑張りたいと思います。
2016.04.29 Fri 21:03 | URL | 草宗
おつかれさまです。
早い更新ペースじゃまいか。
このまま一気に書き上げてくれるのを楽しみにしてるぜ!
2016.05.03 Tue 17:21 | URL | ニックジャガー
>ニックジャガーさま
ええ、「祭り」ですからw
いつも以上に早い更新を目指してますよw というといつもが早いみたいだけど(^^ゞ
予定ではあと三回の更新で完結しますが、もうあと1、2回くらいは早い更新を頑張りたいと思います。
2016.05.04 Wed 00:46 | URL | 草宗
今回も大迫力のバトルですね。楽しませていただきました。さすが天音、簡単にはいかなかったですね。その分、これからの展開に期待がもてるのかな、と思っています(笑)あと3回、天音たちにどのような運命が待っているのか。早く続きが読みたいです。
2016.05.05 Thu 01:01 | URL | オメガ好き
>オメガ好きさま
今回はリョナがいつもよりやや少なめ、エロがほぼ皆無、といった内容になってしまいましたが、そのぶんバトルで楽しんでいただければありがたいですw

もちろん、これからの展開に期待していただければ・・・w ただ、なんとなく皆さまの期待をひしひしと感じているので(^^ゞ、ちょっとプレッシャーもありますがw ハードル低めでお待ちください(^^ゞ

私的な用事がちょっとあるので、次の更新まで少し間が空くかもですが、またよろしくお願いします(∩´∀`)∩
2016.05.05 Thu 21:57 | URL | 草宗
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