巨大変身ヒロインのオリジナル小説を書いている草宗の独り言をつぶやくブログです。

草宗の書斎

冬コミに(また)参戦しますw | main | 近況報告
オメガスレイヤーズ ~カウント5~ 「最終話 カウントゼロ。始まりの終わり」①

「最終話 カウントゼロ。始まりの終わり」



 1、ダミー
 
 
 バブル時代の負の遺産が、首都にはいまだ点在している。建設はされたものの、高額な入居料を払う企業が現れず、結果空き家となったテナントビル。
 買い取り手もないまま、その10階建てのビルは廃墟と化していた。使用者がいなかったため、内部にはなにもない。ただ床と壁があるだけの、ガランとした空間。
 太陽はまだ沈み切っていないというのに、部屋も通路も堆積したような薄闇が支配していた。照明器具が一切ないためだ。窓から挿し込む光だけが、ぼんやりと室内を浮き上がらせている。

 
 妖魔の類いが棲みつくには、好都合な物件であることは間違いない。
 地獄妖・骸頭が示した地図上のポイント。四乃宮天音が選ばなかった、東のアジトがそこにあった。
 
「意外でしたわ。まさかあなたがここにいらっしゃるとは」

 最上階の一室で、琴を爪弾くがごとき声が響く。
 廃墟に立つのは着物姿の美女だった。一般の者が目撃すれば、ほとんどが幽霊と間違えたことだろう。全体的に色素が薄く、透けて見えるような錯覚すらする。ハーフアップにまとめた髪は茶色で、丸い瞳は青みがかっていた。すみれ色の和服からは、白磁のような素肌が覗く。
 
 幽霊、と見えるのは、あながち間違いでもなかった。なぜなら彼女は、すでに死んでいるのだから。
 妖化屍〝輔星”の翠蓮。
 美と智を兼ね備えた元『水辺の者』は、部屋の片隅で固まったように直立していた。
 
「オレは天音のパートナーだ。それほどおかしな話でもないだろう」

 漆黒のスーツ姿の男が、部屋の中心に立っている。
 聖司具馬は、天音に宣告した通りに、もうひとつのアジトに突入していた。そこに囚われているであろう、四乃宮郁美か甲斐凛香を救うために。
 外見上はいつもの司具馬と変わりはない。だが、今は敵として向かい合っていることに翠蓮は気付いていた。どこか飄々として、淡泊。それが元同僚に対する浅間翠蓮の人物評。これほど鋭い眼光の司具馬など、見たことがない。
 
「意外と申しましたのは、そのことではございません」

「他の者が来ると思っていたのか?」

「いえ。ケガレどもがひしめくなか、まさか聖さんがここまで辿り着けるとは」

 廃墟ビルの内部。各フロアには平均して10体ほどのアンデッドたちが、待ち受けていたはずだった。
 1階から9階まで。となれば、その総数は三桁に迫る計算となる。
 
「生きている人間からすれば、ケガレの筋力は猛獣を相手にするようなものでございましょう。いかに優秀な破妖師といえど、オメガスレイヤークラスでなければ容易に最上階まで上がってこれぬはず・・・」

「なるほど。時間稼ぎがお前の役目か」

 胡桃のような青い瞳が、正鵠を射抜かれてピクリと動く。
 
「初めから、人質を渡すつもりなどなかったというわけだ。骸頭のヤツにしては素直すぎると思っていた。本当のアジトは別にある。天音が東にいこうが西にいこうが、救援部隊が両地点に向かおうが、ふたりを助けることは最初から不可能だった」

 地図に示された10階建ての廃墟に、オメガヴィーナスの妹も、オメガフェニックスの正体である少女もいなかった。
 いや、それどころか生きている人間の姿さえ見当たらない。
 ビルの内部に潜んでいたのはゾンビの群ればかり。あとは、最上階にこの女妖魔が待ち受けていただけだ。

「・・・少し違っていますが、お見事です」

 努めて冷静な声を、和服の妖化屍は搾り出した。
 部屋の隅で、埃の塊が動く。
 圧縮した空気の壁を、分厚くしたためだった。気体を固めるのが〝輔星”の翠蓮の特殊能力。司具馬には見えていないだろうが、両者の間には2m超の防御壁がある。
 
「安心しろ。お前を殺すつもりはない」

 司具馬の言葉に、白い美女の顏がさらに色を失くした。
 どうして空気壁の強化がわかったのか? 傍目から見れば、翠蓮の動きになんの変化もなかったはずだ。
 
「・・・よくぞ壁の存在に気付きま・・・」

「ただし、質問の返答次第だ。元同僚などという遠慮はオレにはない」

 女妖魔が話す途中で、強引に男は断ち切った。
 場合によっては、司具馬は躊躇いなく翠蓮を殺すつもりだった。そして恐らく、妖化屍相手にそれが可能なだけの実力を持っている。空気の壁などまるで意に介さぬほどの。
 
「・・・たまらんわぁ」

 冷たい汗を浮かべた美貌から、京訛りが漏れ出てくる。
 
「イケズやなぁ。そんな力隠し持ってたなんて、知らへんかったわ。キミ、何者なん?」

「最初の質問だ。少し違うとは?」

 翠蓮の疑問には答えず、淡々と司具馬は訊き返した。
 無表情であるがゆえに、かえってその内包した怒りが伝わってくるようだった。元の調子を取り戻し、慌てて女妖化屍は答える。
 
「返すつもりがなかったのは、四乃宮郁美だけでございます。ご推察の通り、はじめからオメガヴィーナスの妹はこの地にはおりませぬ」

 なぜ、甲斐凛香ことオメガフェニックスは返すつもりになったのか? とは、司具馬は訊かなかった。
 恐らく、用済みになったのだ。
 詳しいことは想像するしかない。しかし、紅蓮の炎天使は六道妖にとって利用価値がなくなった。少なくとも郁美よりは薄くなったのだろう。
 この時点で、天音が向かった西のアジトに凛香がいるのかどうか、司具馬には知る由もない。だが、最悪の場合オメガフェニックスはすでに始末されている可能性もあった。六道妖の切り札である郁美と違い、凛香の扱いは戦闘を優位にするための道具程度かもしれない。
 そこまでを、一瞬のうちに司具馬は脳裏で粛々と整理した。
 
「郁美さえ手の内にあれば、天音がまともに闘えないのはわかっていたわけか」

「その通りでございます。四乃宮郁美こそが六道妖の勝利のカギ。その所在を易々と教えるはずがありませぬ。地図で報せた地点はあくまでダミー。オメガヴィーナスを誘き出すための嘘ですわ」
 
「六道妖はなぜここにいない?」

「なにより重要なのはふたりの人質、特に四乃宮郁美を『水辺の者』に奪還されないこと。万一の事態に備え、六名の妖化屍は両者の周辺に配置されたのです。余ったこのダミーのアジトを、私が任されただけのこと」

 なるほど、よく考えられている。胸の内で司具馬は唸る。
 白銀の光女神の神速を考えれば、人質がいるからといってオメガヴィーナスの眼前に連れ出すわけにはいかなかった。一瞬にして取り返される可能性が高いからだ。あくまで、天音の手の届かぬ場所に捕えておきたい。だから郁美の監禁場所を偽り、隠した。
 一方で甲斐凛香は、郁美ほどの価値はない。ぞんざいに扱える分、オメガヴィーナスとの戦闘に連れ出し、有効活用できる。仮にオメガフェニックスが息絶えていたとしても、その亡骸だけでも盾などに使えるだろう。六道妖ならば、その程度の悪逆非道は躊躇なく行える。
 
 そして、この廃墟。郁美も凛香もいないこの場所でオメガヴィーナスと対峙するのは、あまりに危険な役割だった。六道妖といえど、怒りに我を忘れた光女神に、一瞬で消し炭にされてもおかしくはない。
 だが相手がかつての仲間・翠蓮ならば・・・心優しきオメガヴィーナスは、命を奪いまではしないだろう。
 骸頭はそこまで熟慮して、女妖魔を配置したに違いなかった。一方で、本当に翠蓮が『水辺の者』を裏切ったのか、確認する狙いもあるのかしれない。
 
 やはり天音は、骸頭の誘いに乗ってはいけなかったのだ。西と東、どちらの地点を選んだにせよ、彼女の愛する妹を救出する方法はなかった。
 あの時、もっと強く天音を押し留めるべきだった――渦巻く深い後悔のなかで、ある言葉が司具馬の胸を稲妻のように貫く。
 
「六名? いま六名といったか?」

「すでに、と申しますか。ようやく、と申しますか。六道妖は、全員が揃い踏みいたしました。つい数十分前のことですが」

「ではッ・・・!! 天妖が・・・あの〝覇王”絶斗が現れたというのかッ!?」

 それまで感情を抑えつけていた男が咆哮した。
 
「ッ!? ・・・あなた・・・なぜ天妖のことを?」

「今すぐ天音の居場所を教えろォッ、翠蓮ッッ!!! 郁美が監禁されたアジトの場所もだァッ!!!」

 廃墟の窓ガラスが割れる。一斉に。1階から10階まですべて。
 気迫というものが、物理的な攻撃になることを翠蓮は初めて知った。腰が抜けそうになる。近距離で浴びた司具馬の裂帛は、妖化屍の心胆を震え上がらせるほどに鋭かった。
 あるいはこの男、虎狼さまと比肩し得るほどの実力者なのか?
 
「そッ・・・それは・・・無理でございますッ!!」

「ここまでベラベラと喋っておきながら、六道妖の走狗を続けるのか!? これほど詳細に話すのは、ただオレへの畏怖が原因でもないだろうッ!」

「そういう問題ではありませぬッ! たとえ場所を知ったところで、この廃墟から出られるとお思いなのですかッ!?」

 己が焦燥に駆られていた事実を、司具馬は悟る。そうだ、大事なことを忘れていた。六道妖が待ち受けているとばかり信じたために、この廃墟のビルにらしくない不用意さで入ってしまったのだ。
 天音のことが絡むと、ついオレは本来の自分を失う。
 時に微笑ましく思えるそんな自分が、この瀬戸際で限りなく腹立たしい。
 
「このビルにあなたを封じ込めているのは、あなた自身の仲間でありかつての私の同僚・・・『水辺の者』ではありませぬかッ!!」

 『異境結界』。
 妖化屍と破妖師を脱出不能にする結界が、廃墟ビル全体を包んでいた。
 むろん、司具馬が張ったものでも、翠蓮が作ったものでもない。施術者は『五大老』から指示を受けたサポート部隊。結界内部の詳細など知らぬ彼らは、両者の間に決着がつくか、異変に気付くまでは結界を解くことはないだろう。
 
 天音、逃げろッ!!
 
 愛する恋人に懸命な想いを伝えるべく、司具馬はスマホの回線を繋げた。
 コールを鳴らすのは、2回。
 
 君の妹・郁美を救うことはできなかった。
 天音。君は・・・逃げるんだ。
 
 六道妖の悪辣な罠に嵌ったことを悟った司具馬は、ただただ願った。郁美の居場所がわからない以上、救出作戦は完全に失敗だ。
 天音に危機が迫っていた。天妖。〝覇王”絶斗には・・・究極の破妖師であるオメガヴィーナスも勝てないかもしれない。
 
 夕闇迫る空に、急速に暗雲がたれ込んでいた。
 沈みゆく太陽が、光の残滓をビルの壁に挿し込む。
 
 照らし出された光は、血のように真っ赤な色だった。
 
 
 
 2、教会
 
 
 街の中心に、ヨーロッパを想起させる一画が不意に出現していた。
 緑の木立に囲まれた、白亜の建物。先の尖った塔がふたつ、三角屋根の母屋を挟んで並んでいる。ざっと見て、50mほどの高さがあろうか。遠目からでも確認できる双塔は、この付近のランドマークとして認識されていた。
 塔の先端と三角屋根の頂点には、それぞれ十字架が飾られている。
 
 荘厳な雰囲気を醸すゴシック風な建造物は、教会堂であった。
 玄関の脇には、2mほどの聖母像が優しく微笑んでいる。訪れる者を、祝福するように。
 窓も扉も、尖ったアーチ状になっているのが、教会らしさを演出していた。たまたま前を過ぎる通行人でも、この建物が何か、すぐにわかることだろう。
 
 教会内部は暗かった。夜が間もなく訪れようとしている時間帯ならば、尚更だ。昔ながらのガス燈を思わせる照明器具が、左右の壁に並べられ、ぼんやり聖堂を浮かび上がらせている。
 本来は礼拝のために多く並べられていたであろう長椅子は、全て撤去されていた。元々広かった空間が、余計に広大に感じられる。
 
 正面にはステンドグラス。
 一段高くなった祭壇の中央には、巨大な十字架。傍らにはパイプオルガンの金属パイプが壁を作っている。
 
 美しく、厳粛で、心落ち着く場所だった。本来ならば。
 妖魔の類いに占拠された今、教会堂の内面はまるで異なるもの・・・むしろ真逆の性質へと、変化を遂げていた。
 
「4年と半ぶり・・・じゃのう。直接、顏を合わせるのは。会いたかったぞ、オメガヴィーナス」

 光女神の異名を取る破妖師が、妖化屍のアジトと化した教会に連れ込まれるとは、あまりの皮肉であった。
 皺に覆われた、魔法使いのごとき怪老は、祭壇の上から声をかける。地獄妖・〝百識”の骸頭。六道妖の頭脳ともいうべき妖化屍は、喜悦を隠し切れずに唇を歪ませている。
 
 聖堂の中央には、青いケープが力なく広がっていた。
 ケープの下には、瞳を閉じたままの美しき乙女。
 プラチナブロンドの髪に、白銀のスーツ。意識を失ってなお、自ら輝きを放っている。光の粒子に守られたようなその若き美女こそが、最強の破妖師といわれたオメガヴィーナスであった。
 
「ゲギョッ! ゲギョギョ!」

 眠ったままの光女神に、漆黒の巨鳥が飛び乗る。
 うつ伏せのオメガヴィーナスの背中に、お尻に、鋭い爪を食い込ませる。まるで死肉に群がるカラスだった。ハゲタカよりもさらに大きなその体躯は、2mにも迫ろうか。黒い羽と赤く爛れた皮膚を持つ怪鳥は、動かぬ美戦士にトドメを刺すように、ガシガシと踏みつける。
 紺青のケープとフレアミニが、容易くザクザクと切り裂かれた。鮮やかな青の破片が、細切れとなって舞う。
 醜い怪物に踏み躙られても、やはりオメガヴィーナスは固く睫毛を閉じたままだった。横を向いた美貌も、すらりと伸びた生脚も、ピクリとも反応しない。
 
「虎狼よ。啄喰のヤツを遠ざけてくれ。せっかくの獲物を独り占めされてはかなわん。そやつに理性は期待できぬからのう」

 光女神の傍らに立っていた弁髪の武人が、巨大な黒鳥を押しのける。
 予想外なほど、呆気なく〝骸憑”は修羅妖・虎狼に従った。野生の本能で、巨漢の武力を嗅ぎ分けているようであった。
 漆黒の羽を広げると、不気味な怪鳥は飛び立った。壁際の、照明燈のひとつに止まる。
 死肉が好物である畜生妖は、まだオメガヴィーナスの遺体にありつけないことを、案外と気付いているのかもしれなかった。
 
「ヒョッヒョッヒョッ・・・思ったよりも他愛なかったのう。〝オーヴ”さえあれば、十分じゃったか。儂としたことが、オメガヴィーナスの戦力を正しく把握できておらんかったようじゃ」

 眠り続ける美戦士の姿に、骸頭が驕るのも無理はなかった。
 
「光属性のオメガスレイヤーに怯え、念には念を入れたのじゃが・・・わざわざこの根拠地に、連れ込むまでもなかったか」

「骸頭。貴様はやはり、コイツの力を正しくわかっていないようだな」

 筋肉で固められた岩のごとき武人は、不快そうに吐き捨てた。
 片手で白金の髪を鷲掴むと、オメガヴィーナスを軽々と引き起こす。
 
「この女は・・・とっくに目覚めている。気付いていなかったのか?」

 宙に持ち上げられた美戦士は、虎狼に促されるようにゆっくりと目蓋を開けた。
 強い光が、アーモンド型の瞳に宿っている。
 ようやく骸頭は悟る。オメガヴィーナス=四乃宮天音は、意識を戻していながらも、隙を窺っていたのだと。
 
「ッ・・・油断のならぬ・・・小娘よのうッ・・・!」

「フン。貴様は知識はあっても、〝慧眼”ほどに洞察は優れていないようだな。まあ、死んだヤツのことはどうでもいいが。安心しろ、たとえ意識はあってもオメガヴィーナスは満足に動けん」

 虎狼の言葉通り、髪を掴まれて浮かんだ青と白銀のヒロインは、四肢をぶらぶらと脱力させている。
 なぜ天音は、自由を奪われているのか?
 その理由は、すぐに骸頭にはわかった。薄闇で眼を凝らせば、豊満な胸を持ちながらスレンダーな肢体に、びっしりと灰色の粘液が付着している。
 ヘドロのような泥だった。
 
「ッ!? ・・・呪露のヤツか?」

 手甲にまで伸びた白銀のボディスーツ。胸に輝く黄金の『Ω』マーク。紺青のフレアミニに、膝下までのホワイトのロングブーツ。
 それらオメガヴィーナスのアイデンティティとも言えるコスチュームに、灰色の汚泥が分厚く重なっていく。空中に飛散していた粒子が、吸い寄せられていくように。
 
「・・・ゲヒ・・・ゲヒヒヒ。・・・なあ、オメガヴィーナスぅ~・・・あれでオレが・・・滅びたとでも思っていたかぁ~?・・・」

 泥のなかから、声が響いた。天音の厚めの唇が、思わず歪む。
 悔しげな表情すら、美しい乙女だった。とはいえ妖化屍が白銀の光女神の面貌を愉しめるのは、圧倒的優位に立っていればこそだ。
 
「・・・くッ・・・!」

「残念だったなぁ~・・・バラバラにされても・・・この〝流塵”の呪露さまは、簡単には死なないぜぇ~・・・グププッ・・・戻るのに、ちょいと時間くっちゃったけどねぇ~・・・」

 付着していく泥の総量は、オメガヴィーナス自身を上回ろうとしていた。
 光女神を包む、ヘドロの小山。その一部は、明らかに腕や頭部と思われる形状になっていく。顏と思しき場所には、真っ赤な三日月型の眼と口が描かれた。
 
「まさ、か・・・あれほど・・・粉々に砕いたのに・・・ッ・・・?」
 
「そぉら、プレゼントだ・・・お前みたいなベッピンさんには・・・エメラルドがよく似合うと思うよぉ~・・・」

 緑に光る拳大の鉱石を、己の体内から呪露は取り出す。
 反オメガ粒子をたっぷり含んだそれが、エメラルドとはまるで別物であることはわかっている。天音の瞳がたまらず見開き、泥の妖魔はグヒグヒと笑った。
 『Ω』マークを盛り上げる、形のいい乳房。その膨らみの先端に、〝オーヴ”の石を呪露は押し当てた。
 
「うあああ”ッ・・・!! んゥ”ッ! あああ”あ”ッ――ッ!!」

 白銀スーツの胸部分が、シュウシュウと黒い煙を昇らせる。
 悶える天音に構わず、〝流塵”は緑の鉱石で丸い膨らみを摩擦する。バストの先端が固く尖るのが、スーツ越しにもわかった。ぷくりと浮きあがるのは、紛れもなくオメガヴィーナスの乳首。
 
「ゲヒ。ゲヒヒッ・・・おいおい、この程度で・・・コチコチに勃ってるじゃないかぁ・・・感じやすいんだなぁ、オメガヴィーナスぅ~?」

「んう”ッ・・・! くぅッ・・・!」

「グプププッ・・・嫌がる顔も色っぽいねぇ~・・・ほれほれ、光女神の乳首も弄り放題だぁ~・・・」

 〝オーヴ”鉱石で、尖った先端を乳房に押し込む。
 一層激しく、黒煙が昇った。ブロンドの髪を揺らして仰け反る天音。
 
「ヒョヒョッ・・・! その煙、オメガ粒子が消滅していく証じゃな。やはり〝オーヴ”を手にした我らの前には、さすがの究極破妖師も敵ではなかったか」
 
 一旦は警戒した骸頭に、安堵が再び広がっていく。
 確かにオメガヴィーナスの力は底知れないものがあるが・・・現実に虎狼たちの前に敗北したではないか。
 己の手で確実に処刑するため、このアジトまで連れて来させたのは、やはり正しかった。自らを納得させるように、妖老は胸の内で言い聞かせた。いまだ天音に反撃の意志はあるようだが、恐れることはない。
 
「ゲヒヒッ・・・! ・・・女神さまが・・・乳首転がされて喘いでやがるぅ~・・・! ・・・そんなにキモチいいのかぁ、オメガヴィーナスぅ~・・・?」
 
 泥の妖化屍は、丹念に左右の双房を責め続けた。
 今度は浮き上がった乳首を、緑の石で素早く上下に折り曲げる。スリスリと摩擦の音が響き、充血した突起が熱を帯びていく。
 颯爽としたコスチュームを纏ったスーパーヒロインが何もできずに吊り下げられ、淫靡な胸の小豆を嬲られている・・・六道妖からすれば、勝利を実感する瞬間であった。
 
「ああ”ッ!! んあ”ッ・・・!! はぁ”ッ!! ・・・んん”ッ!!」

 『Ω』マークの下には、オメガ粒子の集積地があった。乳房を〝オーヴ”で責めるのは、官能の意味もあれば、力の源を奪う効力もある。
 〝流塵”の呪露に全身を覆われ、じわじわと反オメガ粒子によって消耗していく白銀の光女神。
 〝無双”の武人が空いた手に、愛用の戟を握る。オメガヴィーナスに対する想いは、呪露などより遥かに積もっている自負があった。多数でひとりに対するのはまるで主義に反するが、最強のオメガスレイヤーを葬るのは自分であるべきだと信じている。
 
 長柄の武具の先端には、緑に光る刃が取り付けられていた。
 喘ぐ天音が、〝オーヴ”の戟に気付いて頬を引き攣らせる。虎狼が何をしようとしているのか、明白であった。
 
「ぐッ・・・!! あああ”ッ・・・! や、やめッ・・・!」

「苦しめ、オメガヴィーナス」

 表情ひとつ変えずに、古代戦国時代の猛将は、緑色の戟をフレアミニの内部に挿し込む。
 太ももの間。青のミニスカの隙間から突っ込まれた〝オーヴ”の刃は、股間の肉裂にピタリと押し当てられる。
 
「あふう”ッ!! ふぐう”ッ、うああ”ッ・・・!! キャアアア”ア”ア”ッ~~ッ!!」

 湧き上がる灼熱に、オメガヴィーナスが全身を痙攣させる。
 薄闇に閉ざされた聖堂に、乙女の絶叫はこだました。性感帯でもある乳首と股間とを焼く激痛に、虚空を見上げて美戦士は耐える。白銀と青に彩られた女性らしいフォルムが、ガクガクと震える。
 
「ウププッ、グプププッ! ・・・これが究極のオメガスレイヤー? ・・・ゲヒヒ、弱いねぇ~・・・これならオメガフェニックスと・・・大して変わらないなぁ~」

「じゃが気をつけよ、呪露よ。長い時間〝オーヴ”を直接持つのは、危険じゃぞ」

「んん~?」

「〝オーヴ”が力を奪うのは、オメガスレイヤーに対してだけではない。儂ら妖化屍にも効果はあるようじゃ。もっとも、そやつらほど劇的ではないようだがのう」

 骸頭の台詞に顏を青くしたのは、餓鬼妖よりもむしろ光女神の方だった。
 気付いていたのか。〝オーヴ”の習性に。
 天音がショックを受けたのは、単に六道妖の油断がなくなったからではない。確かに〝オーヴ”が妖化屍にも影響すると知っていなければ、敵は自滅していたかもしれない。この状況を脱するのもグッと容易になっただろう。だがそんな短絡的な話ではなく、もっと危惧すべき不安があった。
 
(・・・もしかして骸頭は・・・オメガスレイヤーと妖化屍の本当の関係に気付いたのでは・・・?)

「そうかい・・・じゃあコイツは・・・手放すとしようかぁ~・・・」

 思考を巡らす天音の耳に、のんびりとした呪露の声が届く。
 考える余裕は、すぐに美乙女から奪われた。
 背中に奔る、稲妻に貫かれたような激痛。
 巨鳥・啄喰によって抉られた背中の傷に、泥の妖化屍は〝オーヴ”の石を捻じ込んでいた。
 
「うがあ”ッ・・・!! ウアア”ア”ァ”ッ――ッ!!」

「そんなアブないものは・・・お前にやるよぉ、オメガヴィーナスぅ~・・・ゲヒヒ、暴れないようにしっかり抑えてやるぜぇ~・・・」

 背骨を反り曲げ、白銀の光女神が悶絶する。熔けた鉛を注がれたようだった。しかも生命そのものを削られるように、力がどんどんと抜けていくのがわかる。
 虎狼からバトンを受け取るように、オメガヴィーナスを羽交い締めに捕える呪露。
 バンザイする姿勢で固定された天音の胸。黄金の『Ω』の紋章に、股間から引き抜いた戟の穂先を〝無双”が突きつける。
 
 ジュウウウッ・・・シュウウウッ~~ッ・・・!!
 
「アアア”ッ・・・!! キャアアア”ア”ア”ッ――ッ!! ち、力がッ・・・!! 力が抜けッ・・・アアア”ア”ッ~~ッ!!」

 白銀と青のコスチュームに身を包んだ美戦士が、あまりに無力に見えた。
 前後を挟む怪物たちは、いずれも2m級の巨漢。対するオメガヴィーナスは、たなびくケープこそヒロイン然としているものの、可憐な容貌の若き乙女。
 背中の傷口に石を埋められ、武具で胸を焼かれていく姿は、凄惨に過ぎた。
 
「ヒョッヒョッヒョッ!! 六道妖全員を揃えるまでなかったかッ・・・! たったふたりで、よもやこれほど圧倒できるとはのう!」

 祭壇の上で怪老が笑う。皺だらけの顔が、ますますクシャクシャになった。ブチブチと音がするのは、皺のなかで飼っている蛆虫が潰れていくためだ。
 
「骸頭。その小娘が息絶えるまで、油断しない方がいいわ」

 呵々大笑する地獄妖に、近づく影があった。
 紫のドレスにソバージュのオレンジ髪。過剰なまでに装飾された宝石類は、重なる年齢を誤魔化すためにも思える。溢れる自己顕示欲が、ギラついた眼光から迸るかのようだ。
 元は端整であったと思われる顏の中央は、クレーターが出来たように陥没していた。
 六道妖のひとり。人妖を司る、その女妖魔の名は〝妄執”の縛姫。
 かつてオメガヴィーナスに顔面を凹まされた熟女は、張本人を前にして憎悪を蘇らせていた。
 
「苦しめッ・・・もっと苦しむことね、忌々しい女めッ! ほら、これを見るがいい!」

「・・・・・・いッ・・・くみ・・・ッ・・・!?」

 濛々と黒煙が昇るなか、光属性のオメガスレイヤーは、自分とそっくり同じ顏をした女子大生が、祭壇に現れるのを見た。
 
「ホホホッ・・・!! そうよ! あんたの大切な妹は、この縛姫の手にある。ヘタな動きはしないことねッ!」

 白黒ボーダーの長袖Tシャツに、ホワイトのミニスカート。セミロングの髪型は天音と変わらないが、茶色に染めているのが奔放な妹らしかった。
 縛姫の腕から伸びた緑の大蛇に巻き付かれ、四乃宮郁美は拘束されていた。
 虚空を見詰め、ふらふらと夢遊病者のような足取りで引き出されてくる。汚れた衣服を見ても、頬や内股を濡らす液体の痕を見ても、六道妖から拷問を受けたのは間違いなかった。恐らくは、性的な。
 
「・・・いく・・・みッ・・・! ・・・郁美ッ・・・!!」

「・・・・・・あま・・・ね・・・・・・お姉・・・ちゃん・・・っ・・・!!」

 随分久しぶりの対面に思えた。ほんの今朝方、姉妹は顏を合わせていたのに。
 ボロボロではあるが、郁美は生きていた。生きて再び、天音の前に現れてくれた。
 思わず涙腺が緩みかかる。天音は知っていた。この、どこか強情なところがある妹は、普段は姉を呼び捨てにすること。だが、心底甘えたいときには、「お姉ちゃん」と幼少からの呼び方をすること。
 
 もう・・・安心してね。郁美。
 お姉ちゃんが来たからには・・・必ずあなたを助けるからッ!!
 
 オメガヴィーナスの胸元を飾る、十字架のロザリオ。
 金色のオメガストーンが、まばゆい光を放つ。同時に天音の全身も、黄金の輝きに包まれた。
 
「ゲヒッ!? こ、こいつぅッ・・・グギャアアアッ――ッ!!」

「まだオメガ粒子を温存していたかッ!!」

 光女神のフラッシュに焼かれ、泥の妖化屍がたまらず剥がれる。
 一体、なにが起こったのか――? 悟ると同時に、虎狼は戟を突いていた。『Ω』の紋章を貫くべく。
 だが、身を捻ったオメガヴィーナスは、ゼロ距離からの刺突を避ける。先程までの、弱々しい姿ではない。本来の、素早く力強い動き。
 
 ボッと空気が燃えるような音がして、光女神の右ストレートが虎狼の顔面に迫る。
 〝無双”の武人が掌で受ける。虎狼以外の者では、不可能な反射速度。しかし打撃のパワーに、筋肉の鎧を纏った巨体が軽々と吹き飛ばされる。
 
「なッ・・・なんじゃッ・・・!?」

 一瞬にして行われた一連の攻防に、ようやく骸頭の理解が追いついた。
 
 どおりで脆いと・・・弱すぎると思った。
 四乃宮天音は十字架のオメガストーンに、敢えてオメガ粒子を残していたのだ。つまり、これまでのオメガヴィーナスは全開ではなかった。
 
 なぜ、そんな周りくどいことをしたのか。ダメージを受けるリスクがありながら。
 理由はひとつ。大切な妹を、助けるために――。
 
「捕まれば、きっと郁美に会えると思っていたわ。賭けだったけど」

「ゲギョッ!! グギョロロロッ――ッ!!」

 自由になった白銀の光女神が、ロングブーツで教会の床を踏みしめる。青のケープがふわりと浮き上がり、大海原のごとく広がった。
 その眼前に、漆黒の巨鳥は迫っていた。
 畜生妖・〝骸憑”の啄喰。その純粋な速度は、〝無双”の虎狼をも上回っているやもしれぬ。一瞬。まさに一瞬で、壁際にいたはずの巨大カラスは、オメガヴィーナスの鼻先へと飛来している。
 
 黄色の嘴が、つるはしの如く振り下ろされる。凛とした瞳が光る、美貌へ。
 
 硬質な物がぶつかりあう音がして、天音は嘴の襲撃を左腕一本で受け止めた。
 それまでパクリと裂けていた白銀のスーツが、今度は傷ひとつつかなかった。
 
「あの洋館で、シグマからのコールが鳴った時。私はわざと、あなたたちに負けることを覚悟したの」

 怪鳥が逃げるより速く、オメガヴィーナスの右手が嘴を掴む。
 そのままピッチャーの投球のようなフォームで投げた。啄喰の、全身を。
 コンクリートの壁に叩き付けられ、巨大鳥がブザマに鳴く。叫ぶ嘴から噴き出す鮮血。漆黒の羽が、はらはらと舞った。
 
「わざとッ・・・じゃとォッ!?」

「そう。ダメージを受けた姿なら、警戒心の強いあなたも油断すると思ったわ。きっと、郁美がいるアジトにも連れていくと」

 聖司具馬が郁美の救出に失敗した、とわかった瞬間。
 天音は逃げることよりも、イチかバチかの勝負に出た。郁美と出逢うためには、もう己の身体を差し出すしかない、と。
 オメガヴィーナスを処刑するのなら、恐らく六道妖は最愛の妹の前で執行するはずだった。欲望のままに動くのが、妖化屍の基本生態。最大の宿敵を始末するとなれば、もっとも嫌がる方法を選ぶだろう。
 どこにいるかわからない妹と出会うには、己が捕獲されるのがもっとも確実。しかし、そのためには万全の状態でいることは許されない。
 たとえ深いダメージを受けることになっても、郁美は助ける。司具馬からのコールが鳴った時、一瞬で天音はそれだけの覚悟を決めた。
 
「バカな女ねッ!! そんなに妹を殺されたいのッ!?」

 この緊急時に、〝妄執”の縛姫だけが笑っていた。
 緊縛を得意とする女妖化屍は、自分より美しい同性が嫌いだった。一度受けた屈辱は、生涯恨む性格だった。
 殺しても殺し足りないほどオメガヴィーナスは憎いが、郁美への憎悪も変わらない。姉妹揃って死んでもらわねば、潰れた顔面の代償は払えない。
 これでまず、生意気な妹をバラバラにできる・・・そう思うと、縛姫の唇は自然に吊り上がった。
 
「縛姫。あなたには、郁美に触れないでもらうわ」
 
 ジュッ、と空気の焼ける音がして、オメガヴィーナスの双眸から白い光が発射される。
 一直線に伸びる、レーザー光線。その名を〝ホーリー・ヴィジョン”。
 縛姫が力を込めるより速く、緑の大蛇に直撃する。
 
「ギャアアッ・・・!? ギャアアアッ――ッ!!」

 聖なる光で焼かれた蛇は、ボトリと郁美の足元に落ちた。
 腕代わりのヘビを焼き切られ、顔面の陥没した妖化屍が絶叫をあげる。
 
「自分で言うのもなんだけど」

 一旦台詞を区切り、オメガヴィーナスは聖堂を見回した。
 祭壇の上には地獄妖・骸頭。魔法使いのような怪老は、恐怖と動揺でガクガクと震えている。
 佇んだまま睨む修羅妖・虎狼。焦げた身体を修復する餓鬼妖・呪露。壁に張り付き痙攣する畜生妖・啄喰。腕を押さえて叫ぶ人妖・縛姫。
 5体もの妖化屍に囲まれながら、圧倒しているのは、白銀の光女神の方だった。
 
「私か、あなたたち六道妖。そのどちらかが生まれてこなければ、多くの犠牲も生まれずに済んだ」

 光属性のオメガスレイヤーを抹殺するため、組織されたのが六道妖。
 一方で、妖化屍を狩るのは、究極破妖師の宿命。
 在りし日の父と母が脳裏に浮かぶ。そして今、祭壇の上ではぐったりと崩れ落ちる妹の姿が。両者の激突で、多くの者が犠牲となった。もう哀しみは増やしたくない。心優しき光女神の、心底からの想いだった。
 
「決着をつけましょう。この場で・・・私たちのどちらかは、消えるべきよ」

 オメガヴィーナスの全身を、黄金の光が覆う。
 背中から、ポトリと緑の鉱石が抜け落ちた。もう天音の全力を妨げるものはない。まずは一気に郁美を奪還しようと、スラリと伸びた脚に力を込める。
 5体の妖化屍に、緊張が走る。本気のオメガヴィーナスと、まともに闘い得るのか? 〝オーヴ”の戟を手にした虎狼でさえもが、死神の鎌を背に感じた。
 
 予想外の出来事が起こったのは、光女神が駆け出す寸前だった。
 
「あれェ? ・・・なにしてるの?」

 聖堂に、子供の声が響いた。
 神速で振り返るオメガヴィーナス。ざっと見て、小学生高学年といったところか。おかっぱ頭の少年が、ケープを背にしたヒロインを呆然と眺めている。
 
 なんという、最悪のタイミング。
 拝礼に来た少年が教会に入ってきたのか。数多いる異様な妖魔の存在に、まだ気付いていないようだ。しかし当然のように、六道妖の方はわかっている。人質に取るには格好の獲物が、紛れ込んだことに。
 
「お姉ちゃん、誰? なんでそんな格好してるの?」

 逡巡。
 さすがの光女神も、決断までにわずかな間があった。祭壇上の郁美と少年とは、ほぼ正反対の位置にある。スピードには自信があるオメガヴィーナスといえど、一度にふたりは守れない。どちらを優先すべきか? その二者択一は、郁美と凛香を秤にかけた以上に難しいものかもしれなかった。
 
 天音は奔った。ケープを翻し、一瞬で距離を詰める。
 選んだのは、あどけない少年の方。
 たったひとりの肉親より、オメガヴィーナスは見ず知らずの子供を先に守った。それが破妖師として、『水辺の者』として生まれた者の、宿命だった。
 
「え? あれ?」

「大丈夫よ。私が君を守るから。さあ、早くここから・・・」

 キョトンとする少年を、いつの間にか眼の前に現れた、キレイなお姉さんが抱き締める。
 まずはこの子を教会の外に連れ出す。それが天音が思い描いた策だった。すぐに戻れば、きっとまだ、郁美の救出は間に合うはず・・・
 
 ズドオオオオォゥゥッッンンッ!!!
 
 大砲が火を噴いたような轟音が、聖堂を揺らした。
 
「・・・がぁッ・・・!? ・・・かはア”ッ・・・!!」

 苦しげな吐息が漏れる。ボタタッ、と唾液の束が床を叩く音。
 己の身に起こった出来事を、しばし天音は理解できなかった。
 鉛の塊を鳩尾に埋め込まれたようだった。胃がせりあがり、丸ごと口から飛び出しそうだ。苦しい。オメガヴィーナスになっているのに、これほどの痛みをなぜ感じるのか?
 
 ヒクつく身体を懸命に動かし、天音は自身の腹部を見た。
 拳が埋まっている。手首まで、深く。
 オメガヴィーナスの鋼鉄のボディに、おかっぱ少年のアッパーブローが突き刺さっていた。
 
「お姉ちゃんが噂のオメガヴィーナスかァ。思った通り、柔らかいカラダだね」

 コロコロと笑いながら、少年は右拳を引き抜く。
 支えを失い、白銀の光女神が両膝から崩れ落ちる。呼吸がうまくできない。パクパクと、酸素を求めて桃色の唇が開閉する。自然に両手はお腹を押さえ、蝕むような苦痛に全身が小刻みに震えた。
 
「あ”ッ・・・!! かふゥ”ッ・・・!! な・・・ぜッ・・・!?」

 天音の疑問は、「なぜ少年が敵対してくるのか?」ではない。
 「なぜ、これほどのパワーを持っているのか?」
 あの虎狼でさえ、素手による打撃はオメガヴィーナスには通じない。子供の姿をした妖化屍がいても不思議ではないが、究極戦士の肉体にダメージを与えるパワーは一体・・・!?
 
「天妖・・・〝覇王”絶斗よ・・・おかげで助かったわい」

 骸頭の台詞が、答えの全てだった。
 この少年が、六道妖最後のひとり。天妖。
 またの名を、〝覇王”絶斗。
 
「オジサンたち、本当に情けないね。こんな女ひとりに勝てないの?」

 プラチナブロンドの髪を掴み、絶斗は右手のみでオメガヴィーナスを持ち上げた。
 腹部を押さえて悶える美乙女が、軽々と宙に浮く。
 
「うああ”ッ・・・ぐゥ”ッ・・・!!」

「いいよ。ちょうど遊び相手が欲しかったんだ。このオモチャは頑丈そうだから、たくさん楽しめそうだね♪」

 無邪気に相好を崩し、絶斗は空いた左腕でボディブローを放つ。
 グボリッ!! と肉の陥没する音が響き、〝覇王”の拳は易々とオメガヴィーナスの鳩尾に埋まった。
 
「ゴブウウ”ウ”ッッ!!」

 大量の鮮血が、天音の唇を割って高々と飛沫をあげた。
 〝覇王”を冠する少年の猛攻が、始まろうとしていた。
 
 
 
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| オメガスレイヤーズ | 03:15 | トラックバック:0コメント:4
コメント
久々となります、オメガスレイヤーズの更新です。今回からいよいよ最終話に突入しますが、以前から報告しているようにしばらく表の制作活動がストップしてしまうので・・・続きは数か月後になるかと思います。
一応、前回からの続きで、ちょうどいいところで区切ったつもりではありますが・・・ご迷惑お掛けしますが、ご容赦頂けますようよろしくお願いします。

年内中の活動としては、あとはウルトラ戦姫後編の完成と、冬コミ作品が入るかどうか、ってところでしょうか。
しばらくは表立った活動は減りますが、ちらちらと生存報告だけはしていきたいと思っています(^^ゞ
2015.10.26 Mon 03:19 | URL | 草宗
>拍手コメントくださった方
う・・・実はそうなんです(;´Д`) 今回はともかく、次回までの間が多めに空くってことになるのですが・・・そのぶん、再開した折にはオメガ祭りで一気に最終回までいくつもりです。
(逆に他の作品はずっと何もしない、ってことになっちゃいますけど・・・)

前回の闘いが「あれ?」という感じになったのは、仰る通り今回のためですね(^^ゞ ここからが天音の本当の闘いと思っていただければ。
司具馬も重要なキーパーソンのひとりであることは確かです。郁美ももちろんそうなんですが、今回更新分にはエッチ成分がほとんどなかったのは申し訳なかった部分ですね(^^ゞ

重ね重ね、発表できるものが少なくなるのは申し訳ありませんが、またよろしくお願いします。
2015.10.27 Tue 01:29 | URL | 草宗
更新お疲れ様です。


前回のオメガヴィーナスの戦いは、あまりにもあっけなく敗北していたから何かありそうだな~と感じていましたが、やはり作戦でしたね。
郁美の事、有る程度予想していたのかな。

また司具馬も人間なのに無茶苦茶な強さを持っているようで。
作戦失敗と言う事だったから、ボロボロの瀕死状態にでもなっているのかと思ったら、元気そうでなにより。
そして何と言っても今回の骸頭の作戦、完璧過ぎ。
感心しました。

そして最後に登場した絶斗!!
全く本気でも無いパンチでこの強さなんて、本気を出したらどうなるの?とワクワクしちゃいます。
覇王の猛攻、早く見たい所です。
それとオメガヴィーナスの言った、「オメガスレイヤーと妖化屍の本当の関係」と言うのも、とても気になりますよ。

キリが良いけれど、とても気になる終わり方で続きが早く読みたいですが、残念だけど来年までおあずけですねw

色々とお忙しいようで大変だとは思いますが、くれぐれもお身体には気を付けて下さいね。
そして更新再開を心待ちにしています♪
2015.11.01 Sun 02:14 | URL | さとや
>さとやさま
最強のオメガスレイヤーの割には呆気なく・・・と思われたかもしれませんが、こういうわけでしたw ちょっとややこしい作戦かな? とも心配してたんですけど、伝わったようでなによりです(^^ゞ

ポイントとなるべき点を的確に整理していただき、ありがとうございますw
司具馬の強さ、妖化屍とオメガスレイヤーの本当の関係、そして絶斗・・・ここらが次回以降のキーになってきますかね。
子供の姿をした強敵、はいままであまりなかったと思うので、絶斗には是非魅力を発揮してもらいたいですねw

いやー、ボク自身早く書きたい気持ちも強いんですけど・・・それ以外にやらねばならないことがメジロ押しでして(;´Д`)
このあと今後の予定など発表したいと思いますが、しばらくキツイ日程が続きそうです。
お目にかかれる作品は少なくなりそうですが、またご支援のほどよろしくお願いしますm(__)m
2015.11.01 Sun 21:13 | URL | 草宗
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