巨大変身ヒロインのオリジナル小説を書いている草宗の独り言をつぶやくブログです。

草宗の書斎

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オメガスレイヤーズ ~カウント5~ 「第三話 半年前。迫るその刻」④
 7、洋館
 
 
「おい。今、なにか聞こえなかったか?」

 不意に脚を止めた八坂慶は、パートナーである津島隼人に問い掛けた。
 見るからに頑強そうなガタイをした津島は、わずかに首を横に振った。神妙な顔つきであった。年齢も身長も少しづつ津島の方が上だが、「格」においては八坂が勝る。加えて言えば、『水辺の者』としての能力も年下のヤサ男に敵わなかった。
 
「いえ。私にはなにも」

「この洋館のなかからだな」

 高くそびえる赤レンガの壁を、八坂は鋭い視線で見詰めた。
 大学を卒業して2年ほどだが、すでに『水辺の者』の未来を背負って立つ覚悟が、若者にはできていた。それだけの能力も備えているつもりだ。特に耳の良さに関しては、半径数百m以内ならば亡者のかすかな呻きも聞き逃さない自信があった。
 
「八坂さんが言うなら、調べる価値はありますね」

「あれは女の声だった。それも・・・悲鳴だ」

「もしや、オメガフェニックス!? あるいはオメガヴィーナスの妹とかいう・・・」

「黙れ」

 氷のような視線で、痩せた男が筋肉質の男を睨む。
 
「貴様は無能か、津島? オメガスレイヤーの名を軽々しく口にするな。まして一般人である妹の存在は、本来秘中の秘だ」

「すみません。失礼しました」

 180㎝を越える長身が、恐縮して頭を下げる。
 
「いくぞ。そのふたりのうちどちらかならば、本部にいい報告ができる。そろそろオレも、殊勲のひとつやふたつ、欲しいと思っていたところだ」

 尖った顎でクイっと、八坂は壁の向こうの洋館を指し示した。
 
「し、しかし・・・もし八坂さんの推測が正しければ、相手は六道妖ということになります。ここは念のために増援を頼んだ方が・・・」

「やはりマヌケのようだな、貴様は。万一間違っていたらどうする? 不確定な情報で増援など呼べば、オレの評価に傷がつくだろう!? まずは確実な情報を得ることからだ」

「・・・は、はあ」

「心配するな。状況を確認するだけだ。いくらオレでも、六道妖相手に闘うつもりはさらさらない」

 オメガヴィーナスの妹こと四乃宮郁美の拉致が発覚して以来、関東地方の『水辺の者』全員に捜索命令が下されていた。
 さらに紅蓮の炎天使オメガフェニックスも行方不明となり、ふたりを探す眼は草の根を分けるレベルとなっていた。事態は風雲急を告げている。オメガセイレーンが敗れ、『水辺の者』から裏切り者がでた。それまで狩る側だったオメガスレイヤーに、緊急事態が訪れている。六道妖の脅威をこれ以上大きくしないためには、ふたりの発見は是非とも成さねばならなかった。
 
 八坂と津島に割り当てられたのは、都市中央よりやや西。閑静な屋敷が並ぶ、古き街並みの住宅街だった。
 旧華族の豪邸が並ぶこの界隈は、ひとつひとつの敷地面積が異様に広い。春の日射しがうららかな昼下がりというのに、人影はまばらだった。物音はほとんど聞こえてこない。
 妖化屍が隠れ家にするには、絶好のロケーションに違いなかった。
 人外の能力を持つとはいえ、普段はひっそり闇に生きるのが妖魔の習わし。ひとが住まなくなった広大な屋敷は、アジトにするにはもってこいだ。
 
「オレの耳は2km離れた会話も聴き取ることができる。例えば、地下牢などに監禁されていても、屋敷内に入れば感知できるはずだ。特に甲斐家の令嬢とは、面識があるからな」

 周囲に人の眼がないことを確認し、黒スーツのふたり組はレンガの壁を越えた。
 芝生が続いている。ところどころに雑草が伸び、手入れされていないのはひと眼でわかる。屋敷の入り口まで、身を隠せるようなものはなにもなかった。
 故意か偶然かはわからない。しかし、侵入者にとってはイヤな造りの庭であるのは確かだ。
 
「チッ」

 ふたりは一直線に邸内への扉に向かって走った。
 50mほどの距離がやけに長く感じられた。足の速さには自信があるが、屋敷の窓際に誰かが立てば、姿を見られないわけにはいかないだろう。
 
 幸い、視線は感じられなかった。
 入り口に辿り着いたところで、八坂と津島はひと息つく。爽やかな季節なのに、汗が滲んだ。呼吸を整えたところで、内部の気配を探る。
 
「人が住んでいないのは、確かなようです」

「人は、な。入るぞ」

 厚い扉には、鍵がかかっていなかった。
 邸内にふたつの影が滑り込む。
 玄関ホールは広かった。正面に二階へと続く大階段。吹き抜けの天井が高い。
 大階段の横には、地下へと降りていく階段も見えた。
 
「・・・感じるか?」

「はい。濃密な・・・血の臭いです」

「屋敷に沁みついている。纏わりつく、この重い瘴気・・・死んでいるな。ここで多くの人間が」

 殺人現場で感じる、重く、暗い雰囲気。
 あの湿った感覚が、いくつも重なり合ってこの場に沈殿している。亡くなった人々の怨恨が、積み重なったように。
 八坂の額には、大粒の汗が浮かんでいた。津島は巨体を揺らして、大きく息をしている。
 この屋敷が尋常でないのは間違いなかった。少なくとも、悪霊のひとつやふたつが憑く、というレベルではない。
 
「耳に集中する。怪しいのはやはり地下だ」

 迂闊に動けない、と八坂は思った。
 応援を要請するべきだったのか。後悔の念が起こるが、今更遅かった。あの時点では仕方なかったのだ。まさかこれほどのものが、邸内に存在するなどとわかるはずがない。
 
 じりじりと、地下への階段ににじり寄る。
 汗が尖った顎から滴り落ちる。津島の顏もまた、冷たい汗で濡れ光っていた。
 オメガフェニックスか四乃宮郁美、あるいは六道妖の存在が判明次第、すぐに邸内から逃げるつもりだった。出入口となる扉からは、あまり離れたくない。そのために、懸命に証拠となるような音を探る。
 
 静寂。外の世界で、鳥が鳴いている。
 
 ―――キャアアアッ・・・―――
 
 かすかな、しかし確かな悲鳴を、八坂の耳朶は捉えた。
 
「ッッ!! 間違いないッ!! この声・・・甲斐凛香の、オメガフェニックスのものッ!!」

 反射的に、若き『水辺の者』の脚に力がこもる。跳び逃げるため。
 上空。吹き抜けのホールの天井に、「その音」を感知したのはその時だった。
 
「ゲギョ」

 ・・・なんだッ!? この声はッ!?
 
「津島ァァッ――ッ!! 上だあァァッ――ッ!!」

 ボンッッ!!
 
 風が吼える。疾風が頬を叩く。無意識のうちに八坂は跳んでいた。追いかけてくる衝撃波。なんだ、この唸りは!? なにかが上から落ちてきたのかッ!!
 バックに跳びながら、傍らのパートナーに視線を向ける。
 視界に飛び込んできたのは、真っ赤な噴水だった。
 津島の頭部はなくなっていた。首が引き千切られている。顏のあったところに、大量の鮮血が噴き上げていた。
 
「うおおおおおッッ―――ッ!!! なんだこれはアアァッ――ッ!!?」

「グギョロロロロッ――ッ!!」

 さっきのあの声。今度は八坂の背後から。いつの間に。なんて速さ。
 絶叫をあげる『水辺の者』が、飛燕の速度で後ろを振り返る。
 
 激痛は、一瞬だけだった。
 
 顏の中央に穴が開く。と思った次の刹那、八坂慶の意識は永遠に閉ざされた。
 襲撃してきた怪物の姿を見ることもなく、ふたりの『水辺の者』は洋館の玄関ホールでその人生を終えた。
 クチャクチャと人肉を咀嚼する音色が、広いホールにこだました。
 
 
 
「啄喰(つくばみ)が、邸内に紛れ込んだ黒ネズミを二匹、始末したようですわ」

 蝋燭の灯りだけが頼りの地下室に、色白の美女は幽魔のごとく浮かび上がっていた。
 ハーフアップにした茶色の髪。青みがかった丸い瞳。透きとおるような白い肌。薄紅の唇。全ての色素が薄かった。〝輔星”の翠蓮。元『水辺の者』、浅間家の令嬢だった乙女は、かつて知ったる同僚を汚らしい動物に喩えて言った。
 『水辺の者』の制服ともいうべき黒いスーツは脱ぎ捨てている。
 代わりに翠蓮が着ているものは、淡いすみれ色の和服だった。紙のように白い美貌の持ち主だけに、薄闇に立つ姿は怪談に出てくる美女の怨霊のようだ。
 
「六道妖のひとり、畜生妖・・・〝骸憑(むくろつき)”の啄喰か」

 己を慕う女の声に、〝無双”の虎狼は振り返ることなく声だけを返した。
 
「ヤツは・・・好かん。このオレが、あんなケダモノと同列だとはッ!」

「ゲヒヒ・・・究極の武人様にかかったら・・・どいつもこいつも気に入らないようだねぇ~・・・」

 2mほどの泥の小山が、人間の言葉を発する。
 〝流塵”の呪露もまた、前方に視線を釘づけにしていた。返事をしながらも、呪露も虎狼も、興味の大半は眼前に吊り下げられた獲物にあった。
 
「そのぶんだと・・・このオレも嫌われていそうだなぁ~・・・」

「当然だ。貴様のような下衆は、見ているだけで反吐がでる」

「おお~、怖い怖い・・・まあ、今だけでも仲良くしようじゃないか・・・こんな楽しいオモチャが、眼の前にぶら下がっているんだ・・・」

 ヘラヘラと笑いながら、泥の怪物が手にした棍棒を振るう。
 棍棒は木製のものではなかった。黒褐色でゴツゴツと鋭利に光っている。黒曜石の固まりで出来たシロモノだった。
 
「ぐうう”う”っ――っ!! ・・・げほぉっ!! ・・・ごぼっ・・・!!」

 棍棒のフルスイングを鳩尾に受け、オメガフェニックスの唇から血の塊が噴きこぼれた。
 この地下室に囚われて以来、紅蓮の炎天使への拷問は休むことなく続けられていた。
 深紅のケープは剥ぎ取られ、フェニックスを包むものはノースリーブのスーツとショートパンツ、あとは両腕のグローブと膝下までのブーツだけになっている。スーツの胸部分は大きく破られ、黄金の『Ω』マークはなかった。代わりに地肌に直接、黒焦げた火傷で『Ω』の文字が浮かんでいる。
 真っ赤なショートパンツもまた、股間部分が破れている。インナーまで削られた結果、18歳の乙女の秘部が露わとなっていた。だが、乳房も陰唇も晒した淫靡な格好でありながら、オメガフェニックスこと甲斐凛香に恥ずかしがる素振りはない。
 嬲り抜かれ、衰弱し切った炎天使には、裸体を気にする余裕などなかった。
 己が生死の境にあることを、凛香は自覚していた。いや、もはや・・・生きて陽の光を浴びる時は、二度と訪れないだろう。究極戦士などと自惚れていたが、自力で脱する力も、救助してもらうチャンスも、ありそうになかった。
 
 オメガフェニックスの両腕は、〝オーヴ”・・・アンチ・オメガ・ウイルス(Anti Omega Virus)を含ませた緑の鉄枷で拘束されていた。左右の手首に嵌められ、天井から吊るされている。
 鍛えられた肢体が一直線となるよう、足首にもまた〝オーヴ”製の枷は嵌められていた。片方の脚に5個づつコンクリートブロックの固まりが繋がれている。
 ブロックひとつの重さが約10kg。合計100kgの重量が、フェニックスの肢体を引き伸ばしている計算となる。
 本来のオメガ戦士の力ならば、100kgなどは少し大きめなクッションほどのものだ。だが、今のオメガフェニックスは瀕死の状態であった。なによりも〝オーヴ”により四肢の筋力を封じられている。
 首から提げられた緑の鉱石こそ外されたものの、フェニックスが究極戦士の力を奪われた状態であるのは変わらなかった。
 むしろ〝オーヴ”による拘束が最低限度に減ったのは、簡単にオメガフェニックスが息絶えないよう配慮したためだ。ある程度は究極戦士の頑丈さを残しておかねばならない。そうでなければ、対オメガスレイヤー用の実験として意味がないからだ。
 
「あらら・・・黒曜石もダメかぁ~・・・表面に傷ひとつついていないぞ・・・」

「フン。骸頭のいうことなど、あてになるのか?」

「さあねぇ~・・・まあいいんじゃないか~・・・コイツが死なない限りは、痛めつけ放題だからなぁ~・・・」

 泥に浮かんだ赤い目口を綻ばせ、呪露は別の道具を握った。
 真鍮製の杭を持つと、フェニックスの丸く膨らんだ左の乳房に振り下ろす。
 
「んぐうう”う”っ――っ!! ぐあああ”あ”っ――っ!!」

「やっぱり真鍮も違う、と・・・こりゃあ全部終わるまでに、三日三晩はかかりそうだぁ~・・・」

「地球上の鉱物が約4400種ある、といったな。その全てを試すなど・・・バカげた話だ」

 暗い地下室の片隅に積み上げられたものは、骸頭の指示で集められた、あらゆる種類の鉱物であった。
 すでに武器の形をしているものもあれば、原石のままの塊もある。銅、鉄、鉛、アルミ、マンガンなどの見慣れたものから、金や銀、ルビーなどの高価なものまで・・・
 反対側の壁には、実験済みの鉱物が投げ捨てられ小山となっている。それだけの数、これまでにオメガフェニックスは蹂躙を受けたという証明でもあった。
 
「ゲヒヒヒ・・・オレは楽しいけどねぇ~・・・骸頭の考えじゃあ、オメガスレイヤーの肉体に通用する鉱物がきっとあるはず・・・見つけ出したら、切り札は〝オーヴ”だけじゃあなくなるぜぇ~」

 地球上にある鉱物のなかから、もっともオメガスレイヤーに効くものを探す。
 それが〝百識”の骸頭から与えられたテーマであった。銃弾さえ弾き返すオメガスレイヤーの身体だが、苦手とするような鉱物があっておかしくはない。確信にも近い想いを、以前から骸頭は抱いていた。
 しかし、仮説を確かめるには実験材料を得なければならない。オメガ粒子を含んだ『Ω』マークのおかげで〝オーヴ”は発見できたが、「オメガスレイヤーの肉体に効果のある鉱物」を探すには、「オメガスレイヤーの肉体」という入手難度Sの貴重品が必要なのだ。
 
 その貴重なモルモットが、今、手に入った。
 オメガフェニックスという、極上の実験体が。骸頭にとっては待ちわびたチャンスが訪れたのだ。
 
「オレたち妖化屍にだって、苦手とする鉱物はある・・・そりゃあコイツらにも、あっておかしくないよなぁ~・・・」

「フン。ちまちまと敵の弱味を探るなど、情けないやり方だ」

「ゲヒヒ・・・そうは言うが虎狼よォ~・・・弱点の鉱物が見つかれば、100%の状態のオメガスレイヤーと闘えるぜぇ~? ・・・〝オーヴ”で弱体化させたコイツらとやるのを、お前嫌がってたじゃないかぁ~・・・」

 〝オーヴ”を含ませた武器は、確かにオメガスレイヤーに効く。事実、虎狼も〝オーヴ”入りの戟でフェニックスを倒した。
 しかし厳密にいえば、虎狼は決して斬撃によって勝利を手にしたのではない。〝オーヴ”の戟はオメガフェニックスの肌に弾き返されている。打突の衝撃は与えられても、皮膚を破ることはできていないのだ。だからこそ、あれほど突いたにも関わらず貫けなかった。強度自体はフェニックスの皮膚が、虎狼の戟を上回っていたのだ。
 つまり、〝オーヴ”の武器を使っても、虎狼はオメガスレイヤーを刺し殺せない、ということになる。
 
 間違ってはいけないのは、あくまで〝オーヴ”はオメガ粒子を摩滅させるもの、であることだ。
 〝オーヴ”の戟が効くのは、オメガ粒子を減らし防御力を低下させるためで、戟の刃自体は通用していないのだ。戟を操る虎狼の技量に関係なく、ただ〝オーヴ”を打ち込まれたからフェニックスは敗れた、と言っていい。
 武器の性能で勝利しただけ。とても誇れる気分にはなれない。少なくとも武人の感性ではそうだ。
 
「コイツらの肉体を貫く鉱物がありゃあ・・・お前の腕ひとつで斬り殺せるぜぇ~? ・・・〝オーヴ”なんぞに頼らなくても・・・実力ひとつで勝てるんだぜぇ~?」

「そんなことは、わかっている!」

 誘うように笑う呪露に、虎狼は憤然と言い返した。
 幾度も繰り返し言われている内容だった。確かに、オメガスレイヤーの頑強な肉体を貫く鉱物が存在するならば、卑劣な手段など使わなくても真っ向勝負ができるだろう。オメガヴィーナスに敗れた時も、戟が光女神の肉に通用したなら、勝っていたに違いないのだ。
 気が進まなくても、〝無双”の武人がこの実験に参加したのはそのためだった。
 
「いい返事だねぇ~! ・・・ゲヒヒ、じゃあ実験再開だぁ・・・今度はちょいと豪華に、銀でも使ってみるかねぇ~」

 銀の銃弾を拾った泥の怪物が、リボルバーの弾倉に装填する。
 勿体ないという金銭感覚も、酷すぎるという気後れも、呪露には無縁な感情であった。
 吊るされたフェニックスの右胸に銃口を突きつけると、至近距離から発砲する。
 
 ドオオウゥゥンンッ!!
 
「んぐう”う”う”ゥっ――っ!! ・・・あハア”っ・・・!! ・・・ギア”、ア”っ!!」

 Eカップはあろうかという豊かな膨らみから、表面の溶けた銀弾がポロリと落ちる。
 炎天使の芸術的な乳房に、10円玉ほどの穴が穿たれている。底は見えなかった。だが血が一滴も流れないところを見ると、銀もまた、オメガスレイヤーの表皮を破れなかったのだろう。
 
「どけ。次は青銅を試す」

 虎狼の右手に握られたものは、青銅の剣であった。
 一直線に伸びたフェニックスの脇腹。左のアバラに太い刀身を振り降ろす。
 ベキベキと嫌な音色が響き、叫ぶ凛香の口から鮮血が迸った。
 
「ウアア”ア”ア”っ――っ!! ギャアア”ア”っ、アア”っ・・・!! ア、ガアア”っ・・・!!」

「これも違うな」

「肋骨はぐちゃぐちゃでも、皮膚はかすり傷ひとつ、ついていないなぁ~・・・コイツの肉を破れないと意味ないねぇ~・・・」

 全身に汗を浮かべ、瞳を裏返してフェニックスは叫び続ける。
 皮膚の内側にまで攻撃は届いてこないから、致命傷は免れている。しかし〝オーヴ”の枷で著しくオメガ粒子を制限された肢体に、苛烈な責めは響いた。抉られ、砕かれる激痛に、勝ち気がトレードマークのような少女は、美貌を歪ませ悶絶した。
 呪露が拳銃の代わりに鞭を持つ。
 ただの鞭ではなかった。一定の間隔で、鋭く磨かれた鉱石が取り付けられている。薔薇の茎を思わせるそれは、棘付きの鞭、とでもいった様相だ。
 
「金、プラチナ、翡翠、真珠、ルビー、サファイヤ・・・宝石類は手に入れにくくてなぁ~・・・こうやって少量で効果的に調べないと・・・」

 鉱石の棘がついた鞭を、泥の妖化屍が振るう。
 横から見ると「S」のラインを描いたような凛香の乳房から腹部にかけて、しなる鞭が打ち付けられる。
 
「キャアアア”ア”ア”っ――っ!! ・・・うああ”っ・・・!! ああ”っ・・・!!」

「ん~? やはり傷はついていないかなぁ~? ・・・グヒヒ、よくわからないねぇ~・・・そうら、もう一発」

 バチイイィィッ!!
 
「ひぎいイ”っ!? ギアアアア”ア”っ~~っ!! アアア”っ・・・!!」

「ゲヒヒヒ! ・・・鞭で打たれるのはそんなに痛いかぁ~、オメガフェニックスぅ~? ・・・じゃあもう一発だなぁ~」

 ビシャアアアッ!!
 
 剥き出しになっている乳房に、お腹に、背中に・・・ビクビクと震える炎天使の反応を愉しみながら、呪露は鞭を浴びせ続ける。
 爆ぜるような激痛が、凛香の肢体を疾走する。鞭打ちの痛みだけではない。無数に取り付けられた鉱石の棘が、ガリガリと素肌を削っていくのだ。
 血の流れないところを見ると、高価な宝石類にもオメガスレイヤーの弱点となる鉱石は存在しないようだった。だが表皮は破れずとも、鞭の一打は引き裂くような苦痛を与えた。全身をおろし金で擦られているような激痛に、ブクブクと白い泡が食い縛った歯の間からこぼれる。
 
「ゲヒヒ、ヒヒ! 痛いか? 苦しいかぁ~、フェニックスぅ~? ・・・生意気な小娘が痛がってると・・・もっと虐めたくなるよなぁ~・・・グフフ・・・せっかくだから、もうちょっと調べてやるよぉ~」

 とっくに目的の鉱物は鞭にないことは判明しているのに、フェニックスの悶える顏が見たくて、呪露はめちゃくちゃに鞭を打った。
 深紅のノースリーブスーツとショートパンツが、ますます裂かれて破片を飛ばす。
 
「はあう”っ!! ギャアア”っ!! あ”っ!! ・・・ああ”っ・・・きゃあああ”あ”っ~~っ!!」

 心身ともに蹂躙され、己の死期をも悟った凛香であったが、懇願の台詞は口にしなかった。
 オメガフェニックスとしての、最後の意地だったのかもしれない。
 究極の力を持つ紅蓮の炎天使は、いまや少し頑丈なだけの少女に過ぎなかった。その哀れな虜囚に、妖魔たちは容赦ない実験を繰り返す。
 
「次はこれを試す。オレもひとつづつ調べるのは、性に合わん」

 虎狼が持ち出したのは、巨大なノコギリであった。
 よく見れば、ひとつづつ刃の色が違っている。亜鉛、黒炭、コバルト、タングステン、重晶石・・・異なる鉱物で作られた刃が、ズラリ並んでいるのだ。
 天井から吊るされたオメガフェニックスの胸。乳房の上、膨らみが始まる稜線の麓に、横一直線にノコギリを当てる。
 
「っ!? ・・・はあっ、はあっ、はあっ・・・!! ・・・ぅああ”っ!?」

「初めて怯えた表情を見せたな、オメガフェニックス・甲斐凛香。だが、いくら哀れな瞳を向けてもムダだ」

「グヒ、グヒヒヒ・・・惨めだねぇ~、フェニックスぅ~・・・ノコギリはもう一本あるぜぇ~?」

 すずや大理石、チタンなどが組み込まれたノコギリが、呪露の手に渡る。
 ピタリとギザギザの刃が、炎天使の乳房の下に当てられた。
 傍目から見れば、左右から二体の怪物に、グラマラスな少女の胸が切り取られようとしているかのようだ。
 事実、オメガフェニックスに襲い掛かる仕打ちは、解体行為とほとんど変わらない。
 
「あああ”っ・・・!! ・・・い、いやっ・・・!! やめ、やめてっ・・・!! やめてヨ・・・!!」

「ゲラゲラゲラ! せいぜい祈れよ~、フェニックスぅ~! ・・・ノコギリのなかに苦手鉱物があったら・・・お前の身体、真っ二つだもんなぁ~? ・・・ゲヒヒヒッ!!」

 青褪める炎天使の言葉を無視し、一斉に二本のノコギリが曳かれる。
 メロンのようなふたつのバストの上下で、鋭い刃がギャリギャリと幾度も往復した。
 
 ギッ!! ギャリッ!! ビチッ!! ビリイィッ――ッ!!
 
「ア”っ!! ウギャアアア”ア”ア”っ―――っ!!! グギャアア”ア”ア”っ~~~ッ!!!」

 ノコギリの擦れる音色と、耳をふさぎたくなる凛香の悲鳴が地下室にこだました。
 あまりに凄惨な光景であった。もはや闘う力もないグラマラスな美少女を、巨大なノコギリ2本が何度も切りつけているのだ。
 離れて見ていた和服の妖化屍が、思わず視線を背ける。袂を分かったとはいえ、翠蓮にとって凛香は同じ『五大老』の家柄出身で通じる部分も多い。猟奇的ともいえる拷問ショーは、刺激が強すぎる。
 
 スマートフォンの着信音が鳴り響いたのは、その時であった。
 
 現代の通信ツールを使いこなせるほど、虎狼も呪露も世慣れていない。翠蓮の右手が襟元に入り、スマホの画面をタッチする。
 
『そちらの首尾はどうじゃな?』

 翠蓮の耳に届いてきたのは、地獄妖・〝百識”の骸頭のしわがれ声だった。
 
 
 
 8、人質
 
 
 自分がどこに幽閉されているのか、四乃宮郁美にはわからなかった。
 暗い。周囲は闇に包まれている。どこか屋内に連れ込まれたのは間違いないが、頭を強打された影響か、部屋の様子まではハッキリと判別できない。
 意識を取り戻した時には、すでに肢体は拘束されていた。古びた頑丈な椅子に座らされ、手足を括り付けられている。手首と足首に食い込むオレンジの髪は、〝妄執”の縛姫のものに違いない。その強度はワイヤーの鋼線ほどはありそうだった。
 
 右の太もも裏が、焼け付くように疼いていた。ガラスの破片で切り刻まれた傷は、かなり深くまで達しているらしい。緊縛されていなくても、この負傷では自力で逃げ出すのは難しいだろう。
 意外なことに、衣服は脱がされずに済んでいた。
 上は白黒ボーダーの長袖Tシャツ。下は真っ白なミニスカート。血で汚れてはいるものの、衣装自体は今朝自宅マンションを出たときから変わっていない。妖化屍に捕まるようなことがあれば裸に剥かれるものと覚悟していたが、少し予想と違っていた。
 
 だが、素肌を晒していないからといって、必ずしも女子大生は辱めを逃れているわけではなかった。
 
「・・・んッ・・・ぁあ・・・ッ・・・」

 濡れた桜色の唇から、吐息が漏れる。
 セミロングの茶髪を垂らし、郁美は美貌を俯かせている。うっすらと開いた瞳は、焦点があっていなかった。吐息にこもる、艶やかな響き。美しき虜囚は、感じているのだ。
 
 横縞のシャツを盛り上がらせる、左右の乳房。
 Dカップはあろうかという芸術的な稜線のトップに、なにか白い物体が貼りついていた。よく見ればそれらは、ふたつの乳首の先でモゾモゾと蠢いている。
 
 美乙女の胸を這いずるモノの正体は、蛆虫であった。
 シャツの下に隠された突起を気に入って、数匹の蛆虫が左右それぞれの乳房の先端に群がっている。生地越しにでも、乳首のわずかな凹凸を感じているようだった。ブニョブニョの腹を、争うようにして屹立した突起に擦りつけている。這うたびにシャツの下が硬く尖っていくのが、下等な蟲でも面白いようだった。
 
 言うまでもなく、蛆虫の飼い主は地獄妖・骸頭であった。
 
「こちらのオメガヴィーナスの妹は・・・他愛無いものじゃわい。所詮、ただの小娘じゃのう」

 皺だらけで背の低い怪老の手には、スマホが握られていた。絵本に出てくるような魔法使いが、現代を象徴する多機能携帯を操る姿は、ちょっとしたジョークのようだ。
 誰と会話しているのか、郁美に気にする余裕はなかった。蛆虫が生み出す微細な刺激は、悪寒以上に甘い痺れを胸の頂点から注いでくるのだ。
 
「なに、殺しはせん。オメガヴィーナス相手に、唯一最大といっていい大切な人質じゃからのう。始末するのは姉を地獄に落したあとじゃ・・・今は蛆虫をたからせておるだけで、ヒクヒクと震えておるわい」

 骸頭の口調に含まれた蔑みに、郁美の秀麗な眉がピクリと反応する。
 悔しかった。蛆虫に乳首をたかられ、嫌悪感よりも愉悦を感じてしまっているのは確かだが・・・姉の宿敵、そして両親の仇に嘲笑されるのは我慢ならない。
 大きなアーモンド形の瞳に力をこめる。顏を持ち上げた郁美は、キッと鋭く妖老を睨み付けた。
 知らず、はあはあと、半開きの口から甘い喘ぎが漏れていた。肉体は胸への愛撫に感じてしまっているが、気持ちだけが不気味な妖魔たちに反抗している。
 
「なに、その眼は? まだ自分の立場がわかってないようねェ」

 見向きもしない骸頭の代わりに、椅子の前に立ったのは、顏が陥没した熟女であった。
 鼻を中心に凹んでいなければ、少し小皺が目立つことを除けば、美貌のマダムといってよかったかもしれない。しかし、ソバージュをかけたオレンジの髪と、紫のルージュが悪趣味に過ぎた。なによりも異様に血走った眼が、毒々しさに拍車をかけている。
 
「・・・〝妄執”・・・の・・・バクキ・・・ッ・・・!」

「あんたに呼び捨てにされる覚えはないわねェッ、相変わらず生意気な小娘だこと!」

 四年と半年前、初めて妖化屍と遭遇した時から、四乃宮家の姉妹と縛姫には因縁が深い。
 クレーターのような陥没を顔面に刻まれたのも、縛姫はオメガヴィーナスと郁美のせいだと思っている。事実、その認識は誤りでもなかった。
 〝妄執”の異名を持つ妖化屍に積み重なった憤怒と憎悪を、郁美は利用しようとする。
 
「こんなこと、しても・・・ムダよ・・・オメガヴィーナスは負けないわ・・・。今度はその顏・・・凹んだだけじゃ、済まないんだから・・・」

 縛姫の陥没顏が、真っ赤に沸騰した。
 怒りに駆られた女妖魔は、すぐにも郁美を殺しかねなかった。いや、郁美は殺されようとしたのだ。
 自分が死ねば、人質としての価値はなくなる。白銀の光女神である姉を、危機に陥れずに済む。

「四乃宮郁美ィッ・・・!! 許可が下りた瞬間、あんたはこの私がバラバラにしてやるわッ・・・よ~~く覚えておくことねェッ・・・」

 燃えるような視線を縛姫に向けられながら、郁美は下唇を噛んでいた。
 目論見は失敗に終わった。この事態にあっては、死ぬことだけがオメガヴィーナスに対する最大の貢献だったのに・・・。
 人妖・縛姫の右手には、山盛りになった蛆虫が乗せられていた。
 
「今はこれで勘弁してやるッ! もうしばらくの間だけ、命ある時間を楽しむといいッ!」

 縛姫の手が、郁美の股間へと伸びる。
 椅子に座らされた美乙女の両脚は、60度ほど開いていた。オフホワイトのミニスカの奥で、薄ピンクのショーツがチラ見えている。むろん、緊縛された脚を閉じることなどできない。
 
「うッ・・・!! ああッ・・・!」

 瞳を見開き、郁美はブルブルと首を振っていた。
 数匹が乳首にたかるだけで、こんなにも甘い刺激が押し寄せるというのに、もっと過敏な秘部に大量の蛆虫が群れ集えば・・・
 ぐじゅり、と嫌な音色をあげて妖化屍の右手が太ももの間に当てられる。
 
「んッ!! ・・・ふくぅっ・・・!! んうぅッ!!」

 唇を噛み締め、懸命に嬌声を押し殺す郁美。
 だがその全身は突っ張っている。天を見上げる瞳が切なげに歪む。グッと握りしめた拳の隙間から、赤い血が滲み出てくる。
 ショーツ越しに無数の蛆虫が、モゾモゾと這いまわっていた。大陰唇を細かく摩擦してくる。微細な快感が、いくつも重なって断続的に畳み掛けてくる。
 蕩けた悲鳴が漏れそうなのを、ただ意地だけで郁美は抑え込んだ。じっと冷たく見下ろす女妖化屍の前で、痴態を晒すマネだけはしたくなかった。
 
「ヒョッヒョッヒョッ・・・おい、縛姫よ。ショック死など、間違ってもさせるでないぞ。その娘は大事な」

「わかっているわ。死ななきゃいいんでしょ?」

 首を振って耐え続ける郁美を、縛姫は憎悪の視線で見詰めている。
 ただ見る。醜い蛆虫にたかられ、快感を覚えてしまっている女子大生を。
 自分が身悶えする様子を、漏らしてしまう嬌声を期待しているのだ――縛姫の狙いが郁美にはわかった。直接愛撫を与えられるより、『観察される』という行為はもっとも恥辱的な扱いなのかもしれない。
 
「こんなッ・・・のッ・・・! こんなッ・・・ことでッ・・・私はァッ!! ・・・」

「フン。じゃあこれでどう?」

 虜囚の身でありながら、尚も反抗的な郁美に縛姫の眼が細まる。
 再びその右手には、山盛りの蛆虫。今度はボーダーシャツの襟元を開けると、内側に腕を滑り込ませる。
 ブラの生地をずらし、柔らかで瑞々しい乳房に直接、大量の蛆虫を塗りつけていく。
 
「はああ”ッ――ッ!? ああ”ッ、あ”ッ・・・!!」

「素肌にダイレクトで気色悪い蟲に這い回られる気分はどうだい? 反対側のオッパイにもたっぷり群がらせてやるわ」

 尖った乳首を、ツンツンと何匹もの蛆虫が突いてくる。密集した蟲が蠢くたびに、吐き気を催す嫌悪感と繊毛で撫でられるような快感が湧きあがった。
 刺激の強さは、生地越しの愛撫の比ではなかった。数倍、数十倍にも感じられる。
 
「うぐうう”ぅ”ッ――ッ!! はあ”ッ、あ”ッ・・・!! ああ”ッ・・・ま、負けないッ・・・!! こ、こんなことでッ・・・!! 負けないわッ・・・ああ”――ッ!!」

 叫びながら、ガクガクと美貌が横に振られる。唾液の飛沫が、キラキラと宙に撒かれる。
 言葉では否定していても、官能の波動に郁美の牝肉が悦んでしまっているのは間違いなかった。乳房と股間から流し込まれる、繊細な愛撫。桃色の熱が、じゅん、と郁美の子宮を蕩けさせる。脳は蛆虫の気味悪さに寒気を覚えているのに、肢体は疼いて火照っていく。
 
「あがああ”ッ――ッ!! ・・・あふう”ッ!! ・・・くふぅ”んッ・・・!! いやッ・・・いやあ”ッ・・・!!」
 
 アーモンドの瞳に涙を浮かべ、壊れるほどに首を振る郁美を、しばし縛姫は眺めていた。
 感じてはならない。叫んではならない。意地と怒りが郁美を支える全てだった。烈しすぎる快感を、ウブな女子大生は必死に耐えた。我慢しなければ、と思うほどに蛆虫が送り込む愉悦は肥大化して、郁美の女芯をじりじりと炙る。
 
(た、耐えられッ・・・耐えられないッ・・・!! お、おかしッ・・・おかしくなってぇっ・・・!! ちく、びッ・・・もう触れてはッ・・・いやァッ!! ・・・ふくう”ッ!! ・・・うあ”ッ・・・あ”ッ・・・!! そんな、ところッ・・・イジってはダメェッ~~ッ!! )

「はふう”ッ!! はあ”ッ!! はあ”ッ!! へあぁ”ッ・・・!! ひぐッ!! あ”ッ・・・ま・・・まけないィ”ッ・・・からぁ”ッ~~ッ・・・!!」

「腰をビクビク揺らしてる淫乱が・・・言葉だけは頑張るわねェ・・・」

 『淫乱』という単語に、耐え切れず郁美が瞳をつぶる。ぶわ、と溢れた大粒の涙が頬を伝った。
 淫乱などではない。並の人間に、耐えられるような刺激ではないのだ。それでも蛆虫の愛撫に反応してしまっている惨めさと相まって、侮蔑の言葉は超のつく美少女を叩きのめした。
 
 郁美は男を知らなかった。
 モテない、のではない。あろうはずがない。地域一帯の男子学生が噂にするような美貌。程よい肉付きのグラマー。性格的にも、ちょっと気の強いところはあるが、誰とも分け隔てなく接する態度が好感を集めている。
 だが己が「特別な家系」に生まれたことを知った彼女は、自然と男性からのアプローチを断るようになった。両親や姉のように、これ以上妖化屍に人生を左右される者を増やしたくなかったのだ。
 
 それでも自分が、男性から圧倒的支持を得ていることは嫌でも薄々気づいてしまう。すれ違う異性の多くが、あるいは頬を染め、あるいは欲情を剥き出しにして視線を釘づけにしてくるのだから当然だ。
 数えきれぬ男たちの劣情の願いを、はねのけてきた郁美。だが今は、そんな美乙女がたかが蛆虫に清廉な肌を穢されている。淫らに悶える痴態を、因縁深き妖女に嘲笑われている。
 惨めさと屈辱に、郁美はボロボロと崩れ落ちそうだった。快楽に耐え続けることだけが、美乙女の矜持をわずかに保つ最後の綱――。
 
「ほら。今度は下のおクチで、たっぷり蛆虫を頬張るがいいわ」

 右手に蛆虫の山を乗せた縛姫が、左手をスカート奥のショーツにかける。
 涙で潤んだ瞳を、郁美は限界まで見開いた。なにをされるのか、どうなってしまうのか、もはや自明の理。
 
「やめッ・・・やめてッ・・・!! やめてええェェッ~~ッ!!!」

 ピンクのショーツがグイと引かれ、右手が潜り込む。
 股間の陰裂とショーツとの間に、数えきれぬ量の蛆虫が挟まった。
 じゅくじゅくと、郁美の秘壺の奥へ何十匹もの蛆虫が、肉襞を擦りながら行進していく。
 
「きゃああああ”あ”ア”ッ――ッ!!! うああ”ッ、あああア”ア”ア”ッ~~~ッ!!! 入ってッ、入ってきちゃうう”う”ゥッ――ッ!! いやあ”あ”ッ――ッ、やめてええ”え”ェ”ェ”ッ―――ッ!!!」

「すごい悲鳴じゃのう。縛姫のヤツめ、あれほど言うたのに・・・オメガヴィーナスの妹が壊れねばいいがのう」

 スマホでの会話を一旦途切れさせ、地獄妖・骸頭が耳を塞ぐ。
 チラリと虜囚乙女を一瞥し、背を向けた。汗と涎を振り撒き、狂ったように悶え叫んでいるが、あれでなかなか四乃宮郁美がしぶといのはわかっている。あの程度ならば、修復不能なトラウマくらい抱えるかもしれないが発狂するまでにはいたるまい。
 
『四乃宮郁美がどうか、されましたか?』

「なんでもないわ。ヌシが気にする必要はあるまいて、〝輔星”の翠蓮」

 郁美への性的拷問が続く場所から距離を取って、骸頭は会話を再開した。
 
「それとも、やはり元の仲間であった『水辺の者』への情は、容易には拭い去れんのか?」

 電話口の向こうで、裏切りの女妖魔が押し黙る気配があった。
 翠蓮が喋らなくなると、背後で叫ぶオメガフェニックスの悲鳴がよく聞こえた。あちらの拷問部屋でも、過酷な責めは続いているようだ。
 
『御冗談ではあっても今の骸頭さまのお言葉・・・この翠蓮、いたく悲しゅうございます』

「翠蓮よ、儂はヌシのことを、まだ芯から認めたわけではないぞぉ。密偵を潜り込ませる程度のことは、あやつらなら仕掛けておかしくないからのう」

『存じ上げております。骸頭さまが、この翠蓮をお疑いであることは・・・私はただ、ひとつづつ信頼を重ねるよう尽力するのみでございます』

「・・・まあ、よかろう。ヌシのおかげで純血・純真・純潔の3つの要素を知り得たのじゃしなぁ。これまでの働きぶりは、評価してやらぬでもない。儂らのために命を張る覚悟くらいは、当然できていようのう?」

『もちろんでございます。骸頭さま、そして虎狼さまのためならば、いつでもこの命差し出す覚悟です』

「ふむ・・・ヌシには今後、その忠誠が本物かどうか、試すための大きな仕事を用意してある。せいぜい励むがよいわ」

 慇懃な感謝の言葉が、スマホを通じて届いてくる。
 興味なさげに聞き流した骸頭は、話の内容を元に戻した。
 
「で。オメガスレイヤーの弱点となりそうな鉱物は、見つかりそうか?」

 これまでに虎狼と呪露が試した鉱物名と、それぞれの結果を詳細に翠蓮は報告する。
 大企業の会長と有能な秘書、とでもいうべき様相であった。我欲が剥き出しとなる妖化屍は、元々組織をつくるのには向いていない。せっかくの骸頭の策も、勝手気儘な六道妖の連中だけならうまく活用できない可能性も高いが、〝輔星”を名乗る翠蓮はその重大な欠点を穴埋めできる存在かもしれなかった。
 
「痴れ者どもがッ・・・!! なにをモタモタやっておるのじゃッ! 『水辺の者』どもの追跡は急速に迫っておるのじゃぞッ!?」

『はい・・・申し訳ございません』

「あと数時間もすれば、オメガヴィーナスがアジトに乗り込んできても不思議ではないのじゃッ! それまでに〝オーヴ”以外の切り札を手中にせねばッ・・・勝利は覚束ぬぞッ! 白銀の光女神を他のオメガスレイヤーと同様に見るでないッ!」

 妖化屍のなかでも、もっとも古株であろう〝百識”の骸頭は、光属性のオメガ戦士の強さをよく知っている。
 セイレーンやフェニックスを倒したのとは、訳が違う。元々骸頭が六道妖を結成し、オメガスレイヤーの殲滅を計画したのも、オメガヴィーナスの誕生あればこそだ。
 
 これまでの研究で、究極戦士であるオメガスレイヤーの弱点はいくつかわかった。
 ひとつ、変身前を襲うこと。その能力は、約10分の1ほどに抑えられている。
 ひとつ、反オメガ粒子ともいえる〝オーヴ”
 ひとつ、純血・純真・純潔。オメガスレイヤーが持つこれらの要素を、崩してやれば能力は減退する。
 
「じゃが足りぬッ! オメガヴィーナスを相手にするには、これだけでは足りぬのじゃッ! なんとかしてヤツらの肉体に通用する鉱物を見つけねばッ・・・」

 皺だらけの老人の脳内が、目まぐるしく回転していた。
 なにか、ある気がする。重大なヒントを、見落としている気がする。
 4400種類もある鉱物を、あと数時間のうちに全て試すのが不可能なのは、骸頭もわかっている。絞り込まねばならなかった。弱点と思しき鉱物を見定め、優先的にフェニックスの肉体で実験せねば・・・
 
 黙考する骸頭の邪魔にならぬよう、タイミングを計って翠蓮は、耳に入れるべき報告をする。
 
『骸頭さま。天妖を名乗る妖化屍が、そちらのアジトへと向かっている連絡を受けました。あとしばらくすれば、辿り着く頃合いかと思われますが・・・』

「なにッ!? 天妖・・・〝覇王”絶斗が来るじゃとッ!」

 絶斗の名を聞き、郁美へ意識を集中していた縛姫が思わず振り向く。
 
「・・・ゼット・・・ですって!? あの絶斗が来るのかいッ・・・!!」

「翠蓮よ、その情報に誤りはないなッ!?」

 間違いありません、冷静に伝える声に皺だらけの怪老の顏が吊り上がる。
 
「あの〝覇王”が来るならば・・・オメガヴィーナスとて恐れるに足りぬやもしれぬのう・・・」

 その瞬間、天啓のように骸頭の脳裏で複数の要素が絡み合った。
 絶斗という男のデタラメな強さを、骸頭は知っている。それはまさに、白銀の光女神すら彷彿とさせるほど。
 なぜ、天妖・絶斗はあのような力を持ち得たのか。
 〝百識”の妖化屍は、今は亡き〝慧眼”とも推論をぶつけ合ったことがあった。いくつかの可能性があげられるなか、やけに印象に残った推理がひとつ――。
 
 ・・・絶斗の強さとオメガスレイヤーとは、由来を同じにするのではないか?
 
「・・・縛姫よ。オメガセイレーン襲撃時に〝オーヴ”に触れていた儂らは・・・なぜか能力が落ちておったのう?」

「は? 何をいまさら・・・今はもう、元通りの力に戻っているでしょ。セイレーンかあの『水辺の者』の小僧が、なにか仕掛けていたんじゃないのかい?」

「もしや儂らは・・・恐ろしく単純で、考えたくもない理屈を見過ごしていたのかもしれぬッ・・・!」

 突如、声を張り上げ、骸頭はスマホ越しに指令を下す。
 
「翠蓮ッ!! ヌシらはまだ・・・紫水晶は試しておらんかったのうッ!?」

『ッ? ・・・はい。紫水晶・・・アメジストでございますね。しかしこれは・・・』

「試せッ!! すぐにじゃ! 今すぐ紫水晶をフェニックスの肉体で試せッ!! 結果を報告せよッ!」

 興奮する骸頭の様子に戸惑いながらも、指示を伝える翠蓮の声が聞こえてくる。
 
「儂の考えが全て当たっているならば・・・この闘い、詰んだやもしれぬのう・・・ッ!」

 歓喜を押し殺すような〝百識”の囁きが、暗い室内に流れた。
 
「ッ・・・ゼ・・・ット・・・・・・ムラサキ・・・水晶・・・ッ・・・」

 怒涛のような快感を浴びせられ、ゴボゴボと白い泡を吹く郁美の口から、無意識に言葉が漏れていた。
 法悦の波状攻撃に蕩けながらも、オメガヴィーナスのただひとりの肉親は、姉に迫る深刻な窮地を察知したかのようだった。
 
 
 
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| オメガスレイヤーズ | 22:49 | トラックバック:0コメント:7
コメント
拷問特集ともいうべき今回の更新ですが、個人的には六道妖を名前だけでも全員出せたのが嬉しいですねw

この「カウント5」は物語全体のアウトラインを説明する、という意味合いが大きいので、いろいろ設定的にわかりにくいところもあるかもしれませんが・・・うまく伝わっていればなによりです。

さて、他の記事にも報告しているように、夏コミ用に作品を作る可能性がありまして・・・その場合は集中して手掛けることとなるかと思います。
必然的に他の作品の進行は遅れるわけですが、オメガなどちょっと間があくことをご容赦いただければ幸いです。
2015.05.25 Mon 22:54 | URL | 草宗
>拍手コメントくださった方
いつもありがとうございますw 創作活動を始めてからけっこう経ちますが、お褒めの言葉や感想をいただけるのは、いつになっても一番の励みになります(*´▽`*)

夏コミ作品については、ボクのなかでほとんど決定させていただきました。長編ではなく一発もの、エロ重視、コミケ会場という場、などなど、諸々のことを熟考して答えを出したつもりです。

戦隊ものについては、ボクのなかでウルトラと比べるとハードな描写が少ない(というか、昭和のウルトラが凄すぎるのかもしれませんがw)ため、「好きではあるけどなんとなく見逃してきた分野」でした。
とはいえ、やはり戦隊とウルトラは二大ヒーロー番組ですからねえ~。(本当はライダーも入るんでしょうけど、「闘うヒロイン界」ではほとんど目立っていないので・・・(^^ゞ)
いつかは戦隊ヒロインをやりたい、という想いは当然のように以前からずっと抱いていました。それが最近、昔の特撮ヒロインの名シーンをちらちら見る機会があって、俄然「戦隊ヒロイン」を手掛けたい気持ちが盛り上がっていますw

コミケという場でいきなり完全オリジナルを披露するのは難しい、と思いますので、今回は見送りましたが、「戦隊ヒロイン」の長編は必ずやりたいと思っています。というか、設定の構想は着々と進んでいますw
いわゆる戦隊ヒロインそのまま、ではなく、サイボーグと戦隊を足して2で割ったような感じですかね・・・やるからには腰を落ち着けて取り組みたいので、ファントムガールのような長編にしたいですね。

夏コミはまだ本当にいけるかどうか、作品がちゃんとできるかどうか、定かでないですが(^^ゞ、時期や場所の都合で来られる方は限られちゃいますよね、どうしても。

さて今回のオメガですが、実をいいますと「責めをエスカレートさせずに、エロや苦痛を表現できないか」というのをテーマにしていたので、頂いた言葉はかなり嬉しかったです(*´▽`*)

今回は伏線をいくつか張ってあるのでw、どの部分を気に掛けてもらったのか、逆にボクの方が気になりますが(^^ゞ、なんとか期待に応えられるよう頑張ります。

2015.05.26 Tue 22:40 | URL | 草宗
>拍手コメントくださった方
いえいえ、コメントをいただくのは本当に嬉しいので、返事をしないというのはムリですよw

興味の対象として3点をあげていただきましたが、いずれも重要なポイントになるのは間違いないですね。
絶斗はお気づきのように、ゼット=Zを意識しています。まあウルトラにでてくる宇宙恐竜のアレとは無関係なんですがw
六道妖のなかでは、実は一番最初にキャラができたのがこの絶斗なんで、はやく本格的に登場させたいですねw

ボクが思うヒロインというのは、簡単に屈しないのが標準装備なので・・・そこをきちんと汲み取って頂けているのは本当に有難いです(*´▽`*)
まあ、確かに手間はかかりますがw しかしこうして理解していただくことで報われていますね。本当にありがとうございます。
2015.05.29 Fri 02:30 | URL | 草宗
更新お疲れ様です。

今回は説明回という感じで、これだけ読むと主役が六道妖側と思っちゃいますねw
また以前も書いたけど、六道妖達の真剣にオメガスレイヤーズを倒そうとする意気込みには感心しちゃいます。
捕らえたオメガフェニックスを使って弱点の鉱物を探そうとする姿には、
頑張れ!!と応援したくなるぐらいですよw
良い悪役が居ないと、ヒロインも映えませんからね。

今までの戦いの中で素肌自体には傷を負わせていないという事には、
これを読むまで全く気づきませんでした。
スーツはボロボロになるし、血なども吐いたりしているから素肌にもそれなりのダメージがある物だと思っていましたよ。
しかもこの体の強度はオメガ粒子の残量に関係ない感じですし、変身中はとても頑丈な体だったのですね。
また今のオーヴの武器の欠点も今回で判ったわけで、
トドメを刺せなかった理由もこれだったのですね。
捕らわれたヒロインを使って弱点を探るというのは、燃えますし大好きな展開です♪

にしても、戦士でもない郁美の頑張りは凄いって!!
責めもエッチで良かったよw
紫水晶で反応する郁美の姿には、オメガスレイヤーズに今後更なるピンチが待ち受けているという感じがして、
早く続きが読みたくなりますよ。
一応戦士じゃない郁美にも、オメガスレイヤーズに関しての事が
それなりに入っているようですね。

それにオメガスレイヤーと同じ力を持つといわれる絶斗の登場も、楽しみでしょうがないです。
同じ力を持つ敵の登場はお約束だけど絶対外せないし、
ワクワクしながら待ってますね♪

夏コミ用の新刊の題材は、決まったようですね。
コミケスペシャルの一発ものということなので、
普段の連載では読めないような内容の作品が読めるのかな、
と楽しみにしていますね。
まずはもうすぐの当落発表が、一番の山場ですね。

ここ最近は暑くて大変ですが、お身体ご自愛ください♪
2015.05.30 Sat 14:20 | URL | さとや
>さとやさま
今回の敵陣営、六道妖は気に入っているキャラが多いために、ついつい力を入れがちになりますw 決して主役ではないんですがw ただ、実験にしろ、ちゃんと努力して頑張ってますよね(^^ゞ

そうなんです。わかりにくいとは思うんですが、オーヴはオメガ粒子の働きを抑えるだけで、(もちろんスーパーパワーを失うわけですから、攻撃のダメージは受けてるんですが)頑丈な肉体自体は破壊できていなかったりします。
ここらはちょっとわかりにくいところとは思うんですが・・・「え? 普通の人間に戻るんだから、オメガ粒子がないと肉体も脆くなるんじゃないの?」という疑問は、いずれ明らかになる予定です(^^ゞ

オーヴだけだと、限界まで弱らせることはできますが、それだけで命を奪うまでには至らないんじゃないでしょうかね。

普通の人間でここまで苦しめられるのは、郁美以外だと西条家の双子のお姉ちゃんくらいかもしれませんねw
郁美自身はオメガスレイヤーの秘密はほとんど知らないんですが、直感で姉に迫る窮地を感じ取っているようですね。

同じ力を持つ強敵、は外せませんよねえ~w スーパーマンでいうところのニュークリアマンとか。
絶斗は名前がすごく気に入っているので、ようやく出せて嬉しい限りですw まあ、まだ名前だけですが(^^ゞ

はい、夏コミ作品の題材は決まりました。ちょっとだけですけど、書き始めています。
そのうちちゃんと発表しますが、皆さんが想像している通りのアレです(^^ゞ
斬新さはないかもしれませんが、カチッとまとまった短編を仕上げたいですね。

暑くなってきたのが本当にキツイですが、なんとか頑張りたいと思います。
2015.05.31 Sun 00:44 | URL | 草宗
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このコメントは管理人のみ閲覧できます
2015.06.05 Fri 21:19 | |
>コメントくださった方
ここまで本格的なピンチのない主人公ヴィーナスですが、もちろんこの後、なにもないまま終わることはありません(^^ゞ
最強の戦士ゆえに六道妖もいろいろと準備を進めていますので、いずれ近いうちにヴィーナスにも窮地が訪れるのではないかと・・・

夏コミ用の作品を優先的に手掛けねばならないので、少しオメガの更新は滞りますが、できる限り早い時期での再開目指して頑張ります。
2015.06.06 Sat 01:29 | URL | 草宗
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