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草宗の書斎

オメガスレイヤーズ ~カウント5~ 「第三話 半年前。迫るその刻」③ | main | オメガスレイヤーズ ~カウント5~ 「第三話 半年前。迫るその刻」②
レッスルエンジェルス AWGP予選 第二試合 永原ちづるvsビューティ市ヶ谷

AWGP王座決定戦 予選  第二試合 

永原ちづる VS ビューティ市ヶ谷


 《予選第二試合 試合前、控室》
 
 
「うわ~・・・やっちゃったよ。ねェ、ちづる。市ヶ谷さんに思いっきり宣戦布告しちゃって大丈夫なの?」

 永原ちづるの控室に響いたのは、同期であり親友である、富沢レイの声だった。
 
「そうだよー。絶対市ヶ谷さん、キレてるよ? ただでさえ、めちゃめちゃ危険なリングなのにぃ」

 レイの後ろ、ピンクの髪をツインテールにした少女が、幼い声をあげる。
 パッと見、幼女のような印象だが、キューティー金井もレイ同様に、新日本女子プロレスに所属するレスラーだった。同い年でプライベートでも仲がいいため、新女の3人娘として知られている。
 
 今ふたりは、ブリッジしたちづるのお腹の上に乗っていた。
 自分とあわせ、3人分の体重を首と両脚の爪先だけで支えていることになる。
 ウォーミングアップをするちづるは、平然とした様子で親友ふたりと会話をしていた。
 

「大丈夫、大丈夫! っていうか、これからあたしたち、『裏武闘館』のリングで優勝目指して闘うんだよ!? これくらいでビビってらんないよ」

 喋りながらもちづるのブリッジは、ビクとも動いていない。
 〝ジャーマン娘”の異名はダテではなかった。ことジャーマンスープレックスに関するトレーニングについては、トップ選手のマイティ祐希子にだって劣らぬ自負がちづるにはあった。
 
「『裏』の試合か・・・ふたりとも、本当に気をつけてね」

「大丈夫だってば! あたしたち、ここまでちゃんと努力してきたじゃん。金井の分まで、レイと頑張るからね!」

 プロレスのルールに則った、なんでもアリのガチンコ勝負。それが『裏武闘館』で行われる闘いであった。
 人気。格。オトナの事情。そういった不純物、一切関係なく『裏』のリングでは真の強者を決めることができる。なかでも今回行われているAWGP王座決定戦は、日本一の女子プロレスラーを決めるビッグイベントだ。
 残念ながら金井は実力不足とされ落選してしまったが、新女では中堅ポジションにある3人娘も今大会へのエントリーに躊躇はなかった。
 
「そうだね、ようやく『裏』のリングに出場できるんだもんね。私はダメだったけど、ちづるとレイちゃんならきっと勝てるよ!」

「あたしたちってさー、『裏』にでるの、会社から厳しく止められてたもんね」

 レイがポリポリと頬を掻きながら、苦笑いを浮かべる。
 
「そりゃあ会社からは、それなりにいい待遇されてるし、安定してるっちゃあ安定してる立場なんだけどさ・・・」

「だから今回は出るんだよ」

 明るくて楽天的、なイメージの強いちづるが、珍しく硬い表情をしていた。
 
「あたしたちは会社から大事にされてると思うし・・・ちゃんとポジションも与えられてる。だけど・・・そうなんだけど・・・それでいいの、レイは!?」

 ブリッジを自ら崩し、ちづるはふたりの親友と座ったまま向き合った。
 丸い瞳に、気合いがこもっている。ジャーマン以外のことで、ここまで熱くなるちづるを見るのは、久しぶりのことだった。
 
「いい・・・んだったら、わざわざコミック販売会休んでまで、こんなところに来ないわよ」

「あたしたち3人・・・弱いって、思われてるよ」

 禁断の言葉を、ちづるは口にした。
 
「『アイドルレスラー3人組』だって。『狭間の世代』だって。ベルトには縁がない、強さとか関係ないレスラーって会社もファンも思ってる! ちゃんと・・・練習してるのに!」

 レイも金井も押し黙ったまま、視線を下に降ろした。
 言われなくてもわかっている。自分たちに対する評価は、彼女たち3人が身に沁みて理解していた。
 
 3人は、幸か不幸かルックスが良かった。
 容姿の可愛らしさは言うに及ばず。ちづるは童顔とは不釣り合いなほどに豊満なバストの持ち主だし、レイは趣味を生かした華やかなコスプレが人気だった。顏もボディも幼く、泣きやすい性格の金井は、ロリータ属性のファンから絶大な人気を誇っている。
 
 だからこそ、新女のフロントは『裏』リングへの出場を認めなかった。
 大切にされているが故に、待遇は決して悪くない。しかし・・・いつまでも彼女たちは、中堅と見られていた。『裏』に出られないため、実力を発揮するチャンスさえなかった。
 
「あたしは武藤や千種に負けないくらい、練習してると思ってるよ!」

「ちづるの場合、ジャーマンの練習ばっかだけどね・・・」

「い、いいじゃん! ジャーマンばっかでも、流した汗の量は負けてないもん! だけど・・・」

 3人の気分を特に憂鬱にさせるのは、第三世代と呼ばれる存在だった。
 新日本女子プロレスを隆盛に導いた第一世代が、パンサー理沙子。
 その後を継ぎ、現在主流と呼ばれる第二世代が、マイティ祐希子たち四天王。
 そして次なる世代。女子プロレスの未来を支えると言われているのが、武藤めぐみや結城千種らの第三世代。
 そう。つまり、武藤らの先輩にあたる3人娘は・・・世代として、なかったことになっているのだ。
 『狭間の世代』と揶揄されるのは、そんな理由からだった。ジュニア階級である金井はともかく、ちづるやレイはトップレスラーにはなれないと判断されたようなものだ。
 
 屈辱だった。
 アイドルレスラーとしての立場に、満足できるなら構わない。しかし。
 
「あたしは。あたしのジャーマンは。強くなるために磨いてるんだからね!」

「わかってるって。だから、今回のチャンスに賭けたんじゃん。あたしたちが必死に汗かいて練習してるのは・・・いつかトップに立つためだもんね」

 この大会で勝ち進めば。AWGPの王座につくことができれば。
 世間の眼を簡単にひっくり返すことができる。
 後輩である武藤めぐみや結城千種より弱いと思われている現状を・・・打破できる、千載一遇の時が今なのだ。
 
「よぉーし! 燃えてきたぁ――っ!!」

 ちづるが両手をあげる。いつもそうしてきたように、レイと金井が同時に片手をあげた。
 パンッ! と鳴り響く、ハイタッチの音色がふたつ。
 
「いっくよぉ――っ!! 市ヶ谷さんを・・・ううん、ビューティ市ヶ谷をジャーマンでぶん投げてやるんだからっ!!」

 アイドルレスラーの肩書きを。『狭間の世代』と呼ばれる低評価を、全て打ち破るために。
 永原ちづる、出陣。
 
 
 
 金をあしらった、豪華なガウンだった。
 財閥令嬢というバックボーンが、入場時の衣装から滲み出ている。たとえ凄惨な『裏』のリングであっても、ビューティ市ヶ谷は己を飾る行為に妥協をしない。
 生来の目立ちたがりな性格だけが、理由の全てではなさそうだった。
 彼女なりのプロ意識も、この一コマに垣間見える。美しく、華麗に魅せることも、己に課せられた使命なのだ。
 
「ダメージはとれたの?」

 入場ゲートの袖で待機する市ヶ谷に、落ち着いた声が掛けられる。
 自分に声を掛ける者など、限られている。顏を見ずとも、市ヶ谷にはかつて何度もタッグを組んだ声の主がわかっていた。
 
「オーッホッホッ・・・南、このわたくしにあの程度の投げが効いていると思って?」

「少なくとも、精神的ショックからは立ち直っているようね」

 市ヶ谷の傍らに立ち、黒髪ボブのレスラーが微笑を浮かべる。
 ビューティ市ヶ谷という唯我独尊のワガママお嬢様に、対等な関係で話せるのは、南利美くらいなものだった。
 不思議とふたりはウマがあった。
 欲望のままに動く市ヶ谷が、南はわかりやすかったし、へんに干渉してこない南が、市ヶ谷にはやりやすかった。
 なによりこのふたりは、互いの実力を口に出さないが認め合っている。
 
「不意打ちとはいえ、失神の恥を晒されたんだもの。当然、永原への怒りは収まらないでしょうね?」

「南、何分がいいかしら?」

 金髪の縦ロールをいじりながら、市ヶ谷は少し声のトーンを落として訊いた。
 
「なんのこと」

「あのジャーマン脳の小娘を・・・マットに這いつくばらせる時間ですわ」

 ふぅ、と軽い溜め息を南は吐いた。
 
「やりすぎて、殺さないようにね。失格になってしまうわ」

「ですから、何分がいいんですの?」

「・・・2分でいいんじゃない」

 真っ赤なルージュを吊り上げて、ビューティ市ヶ谷は高らかに笑った。
 
「オーッホッホッホッ!! 悪くありませんわね! わたくしを辱めた罪ッ・・・小娘に思い知らせて差し上げますわッ!」

 入場テーマがかかり、悠然と進んでいく最凶令嬢の背中を、南は不安そうな視線で見送った。
 
「久々に本気の市ヶ谷を見られるのは面白そうだけど・・・本当に、殺さないでよね。『裏』の市ヶ谷を相手できるのなんて、新女じゃ私か祐希子くらいしかいないんだから」

 入場ゲートの向こう、歓声が嵐のように巻き起こるなか、予選第二試合開始のゴングは鳴った――。
 
 
 
 《予選第二試合 永原ちづるvsビューティ市ヶ谷》
 
 
 『始まったぁ~ッ! AWGP予選第二試合、危険な香り漂う因縁マッチが、始まってしまいましたッ!! つい先程、永原のジャーマンで失神の憂き目を見たビューティ市ヶ谷! 『裏武闘館』初登場の永原ちづるは、果たして無事にこのリングを降りられるのでしょうかッ!?』
 
 リング中央に立つ175㎝の最凶令嬢に対し、ポニーテールの童顔少女は低く構える。
 隙を伺いつつ、ゆっくりと市ヶ谷の周囲を回る〝ジャーマン娘”。
 元柔道日本一であり、新女四天王のひとりである市ヶ谷と、中堅のアイドルレスラー・ちづる。
 本来なら、格は圧倒的だった。身体のサイズも、経歴も、ビューティ市ヶ谷と永原ちづるでは差がありすぎる。市ヶ谷の有利は疑いようがないだろう。
 しかし、なにが起こるかわからないのが、『裏』の闘いであった。
 ましてちづるは、試合外ではあるが、得意のジャーマンスープレックスで市ヶ谷を失神に陥らせたばかりだ。大番狂わせの期待に、場内は異常な興奮に包まれている。
 
『いっちがやッ! いっちがやッ!』『ち・づ・るッ!!』『いっちがやッ!』『いっちがやッ!』・・・

『お~っと、場内割れんばかりのコール合戦だ! 両者の名をファンが分かれて叫んでいます。これは・・・若干、市ヶ谷の声援が多いか!?』

 張り詰めた空気のリング上、回りながら、ちづるの耳には実況アナウンサーの声もファンの声援もしっかりと聞こえていた。
 若干、どころではなかった。明らかに市ヶ谷への声援が、ちづるを上回っている。
 
(・・・ほらね。市ヶ谷さんはヒールなのに・・・結局、強い者にファンは惹かれるんだよ)

 アイドルレスラーの悲哀を、ちづるは実体験から学んでいる。
 チヤホヤされる、と思われがちだが・・・ルックスのいいレスラーが喜ばれるのは、せいぜいリングの外だけだ。
 リングのなかで、本当に評価される者。それは強い者だけだ。
 強さを見せるためにリングの上に立つ。それが、プロレスラーなのだから。
 
「どうしたの、ひん・・・小娘。早くかかってらっしゃい」

 ライバルの祐希子に対し、常に使っている貧乳という挑発を、市ヶ谷は言いかけてやめた。
 93㎝のバストを誇るちづるは、自分と比べて1㎝しか変わらないのだ。
 身長差が10㎝もあることを思えば、むしろカップとしてはちづるに負けている。市ヶ谷自身は決して認めないが、永原ちづるの巨乳ぶりはグラマーボディの多い新女のなかでも際立っている。
 
『市ヶ谷と永原、まるで対照的なふたりではありますが、共通点もあります。ひとつはその類い稀な豊満バスト・・・そしてもうひとつ。必殺のフェイバリットホールドを、序盤から放っていくスタイルもふたりは同じッ! この闘い、いつも以上に早期決着の可能性が高いのですッ!』

 隙を伺うちづるの顎から、汗が滴り落ちる。
 向き合っているだけで、凄まじい威圧感だった。これが『裏』のリング。これが本気のビューティ市ヶ谷なのか。
 ちづるのジャーマンと、市ヶ谷のビューティーボム。これらは本来、フィニッシュとなるべき技なのだが、ふたりは試合の流れに関わらず連発する。必殺技の乱発という、異色な試合運びをするレスラーなのだ。
 永原ちづる対ビューティ市ヶ谷の闘いは、ジャーマンスープレックスとビューティーボムの打ち合い合戦と言ってもよい。硬い『裏武闘館』のマットならば、最初の一撃で決着がついてもおかしくはなかった。
 
 慎重に距離を置いて探り合っているだけで、1分が経過する。
 
「このッ・・・いつまでノロノロやってるんですのッ!? わたくしは2分で終わらせるつもりですのよッ!」

 苛立った市ヶ谷が、自ら突っかかっていく。
 無理もなかった。内心では、憤怒の炎が燃え盛っているのだ。赤っ恥を掻かせたアイドルレスラー風情を、ボロボロにしたくて堪らなかった。
 しかも南利美に向かって、2分で決着をつけるなどと宣言してしまっている。
 
「よーしっ! きたぁ――っ!!」

 強引にビューティーボムを狙って、抱え込みに来る市ヶ谷。
 その脇を、ちづるはアマレス仕込みの動きですり抜けた。道場で日々鍛えた、基礎練の成果。我慢していれば、先に必ず市ヶ谷が突っ込んでくるのはわかっていた。
 最凶令嬢の背中に回り込み、両腕を腰に回す。
 
「このッ!!」

『は、速いッ、永原! 市ヶ谷のバックを取った! これは必殺、ジャーマンスープレックスの態勢ッ!!』

「いっちゃうよっ!! あたしのジャーマンっ!!」

 このまま後方に反り投げ、市ヶ谷の後頭部をマットに叩き付ければ・・・プロレスの芸術ジャーマンスープレックスは完成する。
 先に必殺技を放つのは永原ちづる。そしてその一発で、試合の決着はついてしまうかもしれない・・・
 かと思われた。
 
「かかりましたわね」

 市ヶ谷の冷たい声が聞こえた、と思ったときには、腰に回した右手に令嬢の右手が重ねられていた。
 手首に激痛が走る。順関節技。関節を本来曲がらない方向に曲げる逆関節ではなく、曲がる方にさらに曲げてやるのが順関節。右手首が折り畳まれるような痛みに、たまらず腰のフックが外れた。巻き込まれるように、右腕も引っ張られる。
 上半身が崩れるちづる。その右脚に、市ヶ谷が己の右脚を絡ませる。足の裏をピタリとちづるの脛に当て、刈り取るように跳ね上げる。
 
『こ、これはッ・・・跳ね腰!? ビューティ市ヶ谷の変形跳ね腰が、ジャーマンを狙う永原ちづるを・・・ッ!!』

 ブオオオオンンッ!!
 
「う、うわああああっ――っ!!」

 跳ね上げられたちづるが、宙を舞った。
 茶髪のポニーテールがなびき、脳天から真っ逆さまにマットへ落下する〝ジャーマン娘”。
 
 ドガアアアアッッ・・・!!
 
 豊かな乳房をゆさゆさと揺らし、永原ちづるはリング中央で仰向けに転がった。
 見開いた丸い瞳に、天井に備えられたライトの光が映っている。
 
「フン。あなたのようなヘナチョコと違って、わたくしはビューティーボムだけの選手じゃありませんわ」

『も、元柔道日本一ッ!! ビューティ市ヶ谷の投げ技、健在ッ~~ッ!! 永原ちづるの必殺ジャーマンが・・・脆くも敗れ去りましたァッ――ッ!!』

 大腰。払い腰。体落とし。背負い投げ。
 背後に回った相手を投げる技なら、柔道には豊富にあった。まして市ヶ谷のパワーは、ちづるを大きく上回っている。
 
『もしかすると、ビューティ市ヶ谷は永原ちづるにとって、相性最悪の天敵なのかもしれませんッ!! 唯一最大の必殺技シャーマンが通用しないとなれば、〝ジャーマン娘”の勝率は皆無と・・・』

「まだ2分には30秒ほどありますわね。ほら、お立ちなさいッ、ヘボ小娘!」

 大の字で横たわるちづるを、ポニーテールを掴んで無理矢理引き起こす最凶令嬢。
 場内のコールは、市ヶ谷への声援で一色となった。リアルファイトでも強いことは周知の事実であったが、目の当りにする〝史上最凶のお嬢様”の強さに湧きかえっている。
 ガクガクと膝を揺らして立つちづるに、トドメの一撃を刺すべく掴みかかる。
 
「わたくしに恥を掻かせた罪、この程度で終わると思ったら・・・」

 市ヶ谷の台詞は、途中で止まっていた。
 ちづるが一瞬にして、バックに回る。アイドル扱いされていることで、どこか市ヶ谷はちづるのことを舐めていたのかもしれなかった。
 
「あたしだって・・・一撃で終わるような、ヤワな鍛え方はしてないんだからぁっ――っ!!」
 
 再び最凶令嬢の腰には、〝ジャーマン娘”の両腕が回る。
 
『永原ッ!! まだ終わっていないッ!! 一気に! ここで! 逆襲のジャーマン・・・』

 ブウウオオオンンッッ!!
 
 リングに竜巻が発生した。
 宙空に高々と投げられたのは・・・またしてもポニーテールのグラマーボディだった。
 
「オーッホッホッホッ!! ジャーマンしかないとわかっていれば・・・これほどラクな防御もありませんわァッ!!」

 市ヶ谷の右脚の太ももが、ちづるの股間に吸い込まれ、跳ね上げていた。
 柔道でいう、内股。だが、それだけではない。ちづるを浮き上がらせた勢いで、市ヶ谷は自らも地を蹴っている。ちづるを宙に跳ね上げ、なおかつ己も高々と舞った、
 ギュルギュルと旋回しながら・・・頭から落ちていくちづるに、全体重を浴びせていく最凶令嬢。
 
「きゃあっ・・・きゃああああっ――っ!!」

『これはッ――ッ!! 旋風となって、永原ちづるがマットに落ちていくッ――ぅッ!!』

 グシャアアアァァッッ――ッ!! ・・・ッッ!!
 
 人体が奏でるとは思えない衝撃音が、『裏武闘館』に響き渡る。
 回転しながら脳天を杭打ちされたちづるは、白目を剥いてヒクヒクとマットに転がった。
 
「ホッホッホッ!! スペース・トルネード・イチガヤ・・・STIとでも名付けますわ。本当は貧乳の祐希子に喰らわせたかった秘密兵器だったのに・・・この程度のザコにお披露目するなんて、残念ですわね」

 ぐったりと横たわるちづるのポニーテールを掴み、再び無理矢理立たせようとする市ヶ谷。
 だが今度は、豊満ボディの少女レスラーは、なかなか立ってこなかった。脚がもつれている。二人分の体重を浴びせて脳天から叩き付けられ、ちづるの意識はグラグラと揺れていた。
 
「あふ・・・はぁ・・・はぁっ・・・あ”・・・」

「ち、ちづるぅーっ!! あ、危ないっ! ・・・に、逃げてぇっ!!」

 セコンドのキューティー金井の悲鳴が響くなか、ちづるに覆いかぶさった市ヶ谷が、両腕をお腹へと回す。
 一気に振り上げると、ポニーテールのアイドルレスラーを頭上にまで持ち上げた。
 
「さて、時間ですわ」

 爪先立ちとなり、限界まで永原ちづるを天高く掲げる。
 そこから全力で、後頭部をマットに叩き付けるビューティーボム――。
 
 ズダダアアァウウウンンッッ!!!
 
「がはぁ”っ!!」

 衝撃で、ちづるの口から唾液と吐血が噴き出す。
 四肢を大の字に広げたまま、永原ちづるはピクリとも動かなくなった。
 
「ちょうど2分。レフリー、カウントなさい」

 丸々と盛り上がった乳房を、最凶令嬢が踏みつける。
 あまりに恥辱的な姿であるが・・・それは紛れもなくフォールの態勢だった。
 瞳を裏返した〝ジャーマン娘”に、冷酷な現実を知らせるカウントは進んでいった。
 
「1ッ・・・2ッ・・・」



 《試合開始より 2分経過》
 
 
「スッ・・・!!」

『かッ・・・返した!! 返しましたッ、永原ちづるッ!! 万事休すと思われましたが・・・かろうじて右腕をあげたッ!』

「・・・少し、ナメすぎたかしら?」

 白目を剥きながらも、ほとんど意識もないまま、ちづるは右肩をあげていた。
 力無く、あげただけだった。もし市ヶ谷がしっかりフォールを固めていれば、3カウントはまちがいなかっただろう。
 
「まあ、構いませんわ。どうせ小娘には、なにひとつ打つ手はありませんし」

 ポニーテールを鷲掴みにすると、またも市ヶ谷は息絶え絶えのちづるを強引に立たせる。
 無理矢理起こすのに、ポニーテールという髪型は便利だった。
 立つには立ったものの、膝を揺らし、両腕をだらりと垂らしたちづるは、意識も明確でないようだった。むしろ、この状態でフォールを返したことが信じられない。
 
「このシブトさは・・・認めてさしあげてもよろしくてよッ!」

 無防備なちづるの鳩尾に、市ヶ谷の強烈な膝蹴りが吸い込まれる。
 
「うぶう”う”ぅ”っ――っ!! うぼお”オ”っ・・・オ”オ”っ・・・!!」

 「く」の字に折れ曲がって浮き上がったちづるに、連続で膝が突き上げられた。
 
 ドボオオッ!! ズボオオッ!! ドムンッ!! グボオオッ!!
 
「ごぶう”う”っ!! おぼア”っ!! ぐぶう”う”っ――っ!!」

 たまらず叫ぶ美少女の口から、黄色の吐瀉物が撒き散らされる。
 逆流した胃液が、ビチャビチャとマットに降りかかった。
 
「や、やめてぇ! ひどい・・・もうやめてあげてくださいっ・・・!!」

 腹部を押さえ、悶絶する親友の姿に、セコンドの金井が嘆願していた。
 むろん市ヶ谷に、手加減するつもりはない。セコンドによるTKOも許されない『裏』のリングでは、闘っている本人が負けを認めない限り、試合は止まらないのだ。
 
「もう2分は越えてしまったし・・・こうなれば、小娘に受けた屈辱を100万倍にして返すしか、気持ちは晴れませんわねッ! 覚悟はよろしいかしらッ!?」

 ポニーテールをムンズと掴み、ちづるの愛らしい顏を黄色の反吐に叩き付ける。
 グシャッ、グシャッと、幾度と繰り返しマットに叩き付けられる顔面。
 痛みと悔しさで、見る見るうちに丸い瞳から涙がこぼれた。反撃に移りたくても、視線の焦点すら合わない状態では、闇雲に拳を振るうのが精一杯だ。
 
「うああ”・・・あ”あ”っ・・・!!」

「ひっ!? ち・・・ちづるぅっ!!」

 最初に異変に気付いたのは、セコンドの金井だった。
 頭部を強打し、腹部を激痛に苛まれている本人は、まだ異常がわかっていないのだろう。髪を掴む市ヶ谷の手を離そうと、懸命に両手でパンチを打っている。
 その右手が、奇妙な形になっていることに、ようやくちづるは気付いた。
 右の手首が、90度以上、内側に曲がったままになっている。
 
「うわぁっ!? うわわ、い、痛ぁ~~っい”い”っ!!」

 思い出したように、右手首を押さえて絶叫するちづる。

「あら? 先程のSTIのときに、ついでに曲げておいたのですわ。今頃気付いたの?」

「あああ”っ、ジャーマンがっ・・・!! これじゃあジャーマンがっ・・・!!」

 痛みにのたうつちづる以上に、真っ青になったのは金井だった。
 右手が壊されたら、ジャーマンは放てない。ジャーマンスープレックスを完全に封じられたら、いくら根性でちづるが立ち上がろうと、ただの蹂躙ショーになる・・・
 
「ち、ちづるっ!! も、もういいよぉ! やめよう! ・・・負けを・・・負けを認めて・・・」

「まだまだ楽しみは、これからですわよッ!」

 金井の声を遮るように、市ヶ谷がちづるに襲い掛かる。
 元々圧倒的な実力差があるのに、ちづるのジャーマンは柔道技に完封され、さらに大事な右手まで破壊されたのだ。
 
「もうジャーマンはムリだよぉ! せめてっ・・・せめて、他の技で突破口を・・・」

「ダメっ・・・だよ! 金井、それはダメっ・・・!!」

 パンチ、キック・・・単純な打撃技で、市ヶ谷の猛攻に抵抗するちづる。
 ジャーマンスープレックスに精根傾ける彼女は、他の技が極端に少なかった。ジャーマン以外の技で、〝史上最凶のお嬢様”に通用するものなど、はじめからないのだ。
 
「あたしからジャーマンとったら・・・なーんにも残らないじゃんっ!!」

「ホホホホッ!! 猛烈に惨めな生き物ですわねえ、小娘!!」

 財力も、力も、美貌も、経歴も、あらゆるものを備えた市ヶ谷からすれば、ちづるが哀れに見えるのは当然かもしれなかった。
 
「仕方ありませんわねぇ。ほら、なにも持たない貧乏人の小娘に、わたくしよりプレゼントを差し上げましょう」

 バンザイするかのように、市ヶ谷は両手を大きく広げて上げた。
 必然的に、両脇があく。レスリングをかじった者にとっては、バックを取れ、と言わんばかりの構えであった。
 
「だ、ダメぇ・・・罠に決まってるよぉ、ちづるぅーっ!!」

「わかってるっ、けど!! あたしは、くれるものは遠慮なくもらう主義だからっ!!」

 低く、速いちづるのタックル。
 ブリッジワークとバックに回るレスリング技術。ジャーマンに繋がる練習だけは、他の誰よりやってきた。元柔道日本一が反応しきれぬスピードで、その背後を奪う。
 
(一発っ! 一発でも決まれば、あたしのジャーマンならここから逆転することだって・・・!)

 希望を託し、市ヶ谷の腰に両腕を回す。
 
「うあ”ぅっ!? うああ”っ・・・!!」

 両手をクラッチした瞬間、激痛がちづるを襲った。
 忘れていたわけではない。覚悟を決めて、折り曲げられた右手首に力を込めたはずだった。
 しかし、ちづるの根性を嘲笑うように、疾走する苦痛の電撃にクラッチが切れる。
 
「オーッホッホッホッ!! やはりその右手では、ジャーマンはもう放てないようですわねッ!」

 背後のちづるに向かって、市ヶ谷が右脚を跳ね上げる。
 股間に吸い込まれていく最凶令嬢の右脚。
 またも内股か? と思いきや、今度は足の裏が強烈にちづるの股間を蹴りつけた。
 
 ドガアアアッ!!
 
「んひゃう”う”っ!!」

 いわゆる急所攻撃。
 女性に金的はなくとも、股間部に急所があるのは変わらない。大事な秘部を痛打され、折り曲がってちづるは悶絶した。
 
『こッ、これはたまらないッ~~ッ!! 舌を出し、白目を剥いて、永原ちづる痙攣していますッ!! あ、ああッ!? ビューティ市ヶ谷が、素早く永原のバックに回り込んだッ!』

 腋の下から、左右の腕を市ヶ谷が挿し込む。
 逆にジャーマンを放つのか? 会場の観衆が思い描いた予想を、最凶令嬢は思いがけぬ方向に裏切った。
 市ヶ谷の両手は腰に回らなかった。掴んだのは・・・ちづるの巨乳を包んだリングコスチューム。
 
『あッ!? あああッ~~っと!! お嬢様ご乱心ッ!! 永原の見事に発達したバストを・・・3000人の観衆にご開帳だァッ――ッ!!』

 ビキニタイプの水着のブラを、市ヶ谷はずり降ろしていた。
 ぷるん、とはち切れんばかりの丸い果肉がふたつ、衆目に晒される。大きいだけでなく、形も見事なバストだった。色白の肉饅頭の先に、ピンクの乳頭がぷくっと尖っている。
 アイドルレスラーのストリップに、歓声にどよめきが混ざった。一斉にカメラのフラッシュが、バシャバシャと焚かれる。
 
「んあ”ァ”っ・・・!! ふぐぅ”っ・・・!! ぇ”ア”っ・・・!!」

「ホホホッ、もうまともに話すこともできないのかしらァ!?」

 己がいかに辱めを受けているのか、ちづるはわかっている。童顔を真っ赤に染め、涙を滲ませているのはそのためだ。
 だが、股間を蹴られた苦しさに、喘ぐことしか出来なかった。生き恥を晒されているのに、ただただブルブルと震えるのみ。
 ちづるの両太ももを掴んで、最凶令嬢が持ち上げる。母親が幼児を抱き上げ、「しーしー」とオシッコをさせるポーズにも似ていた。
 M字に開脚し、股間部を無防備にさらけ出す永原ちづる。紫の水着にうっすらと縦筋が刻まれている。普段は元気印の明るい少女が、あまりの羞恥に打ちひしがれ、荒い吐息を繰り返す。
 
「ああ”っ、あ”・・・!! も、もうやめっ・・・やめ、てっ・・・!!」

「それはギブアップとは違いますわね?」
 
 ちづるを抱えたまま、その股間部をトップロープに密着させると、市ヶ谷はクロッチを摩擦して歩いた。
 
 ギャリッ!! ギャリギャリギャリッ!!
 
「ふぎゃあ”あ”っ!? ぎゅああああ”あ”あ”ァ”っ~~っ!!」

 端から端まで渡り切ると、次のコーナーを目掛け再び股間を擦りながら歩く。
 
「いやあああ”あ”ア”ア”っ――っ!! おかひ、おかひくなっちゃう”う”ぅ”っ~~っ!! うはあ”あ”あ”ァっ――んん”っ!!」

「オーッホッホッホッ!! さあ、よく見てもらいなさいッ!! 全ての方向の観客に、無駄に大きなオッパイを! ロープに食い込む卑猥なクチを! 官能に蕩けるアヘ顏を晒すことですわッ!!」

 ロープの途中から、じゅんっと溢れた蜜がテラテラと濡れ光っている。
 市ヶ谷の思惑通りに、ちづるは叫び続け痴態を晒した。リングを一周する。出発点となったコーナーポストに置かれた〝ジャーマン娘”は、ヒクつく陰唇から蜜を溢れさせてぐったり脱力している。
 
「・・・うう”・・・くふっ・・・うぐう”っ!!・・・」

 焦点のあっていないちづるの瞳から、ポロポロと大粒の涙がこぼれた。
 プロレスラーだから、痛いことには耐久がある。しかし、大勢の観衆の前で乳房をさらし、なおかつ秘所への責めに喘ぐ姿を見られてしまうのは・・・痛み以上のダメージがあった。
 
「さあ、死ぬ時間ですわよ、小娘ッ!!」

 コーナー上のちづるの両脇を、掌で鷲掴む。そのまま頭上高くにまで持ち上げ、リング中央へと移動する。
 女帝パンサー理沙子が一撃で葬られた、ビューティ・ツイスター・ボム。略してB.T.ボム。
 十字架に磔にされたかのようなちづるの姿は、まさに処刑を待つ身を彷彿とさせた。
 
「あ”・・・ああ”っ・・・!!」

 グラマラスな裸体をたっぷりと見せつけ、市ヶ谷はジャンプした。
 旋回しながらちづるを落とす。ポニーテールが、真っ逆さまにマットに突き刺さる。
 
 ギュルルルッ・・・ドオオオオオッッ!!!
 
『きッ・・・決まったァッ――ッ!! ビューティ市ヶ谷の真必殺技B.T.ボムゥッ!! 強烈な一撃に、永原ちづる完全失神だァッ――ッ!!』

 ブクッ・・・ゴボゴボッ・・・ゴボボボ・・・
 
 リング中央。仰向けで大の字に横臥するちづるの口から、大量の白い泡が噴き出る。
 瞳は裏返り、四肢のどこにも力は無かった。
 硬いマットに脳天をめり込ませ、永原ちづるの意識は吹き飛んでしまっていた。
 
「ダウンッ!! 1・・・2・・・3・・・」

 気を失っているポニーテールの少女に向かい、聞こえるはずのないダウンカウントが数えられていった――。
 
 
 
 《試合開始より 10分経過》
 
「・・・7・・・8・・・9っ・・・!!」

 職務を遂行するレフェリーのカウントは、止まらなかった。
 リング中央で横たわった永原ちづるは、ピクリとも動かない。白目を剥き、泡をゴボゴボと吐き続けている。
 残り1秒。
 たとえ今意識を戻しても、とても立ち上がることは不可能――誰もが試合の決着を確信した。
 
 グシャアアアッ!!
 
 ビューティ市ヶ谷の右足が、ちづるの乳房を踏み潰したのはその時であった。
 
「レフェリー、カウントを止めなさい」

「っ!? 市ヶ谷、なにをして・・・」

「わたくしはまだ、攻撃の途中ですわ。ダウンを取るのは早くてよ」

 通常ダウンというものは、一連の攻防が終わってから数えるものだ。攻撃の途中で試合を終わらせるのは、レフェリーがTKOを宣告する場合に限る。
 しかし、この『裏武闘館』のリングでは、TKOはなかった。
 そのルールを市ヶ谷は逆手に取った。完全失神しているちづるが立てるわけがないのに・・・まだ試合を続けようというのだ。
 すべては、身の程知らずな小娘を制裁するために。
 
「貧乏人の分際でわたくしに恥を掻かせた罪ッ・・・この程度で終わると、思わないことですわね」

 露わになった93㎝の巨乳を、リングシューズでグリグリと踏みにじる。
 大の字のちづるがヒクヒクと反応した。女性の急所である乳房を変形するまで潰され、さらに尖っている先端を摩擦されるのだ。
 圧迫による苦痛と、官能の疼き。両面から、意識のない肉体を責め立てられる。
 
「・・・っ・・・!! ・・・ィ”・・・!! ・・・ぁはぁ”・・・ん”っ・・・!!」

 ちづるの口から漏れるのは、艶めかしい喘ぎ。
 虫ケラを踏むような、市ヶ谷の容赦ない足・・・だが、微妙な加減ですり動かすために、痛みよりむしろ快感が沸いた。乳首から広がる愉悦の電撃が、バスト全体を、さらには全身を包んでいく。
 開かれた股間の中央で、縦の陰裂が痙攣している。
 じっとりと、紫のコスチュームに沁みが広がっていく。ちづるの華芯から溢れた蜜が、下のクチから漏れているのだ。
 
『あ、ああっ・・・!! 永原ちづる、バストを踏まれて・・・感じてしまっているようです・・・! 淫靡な光景に場内、固唾を飲んで・・・』

 実況のアナウンサーも、それ以上言葉を継ぐことができなかった。
 失神したアイドルレスラーが、乳房への愛撫で昇天しかけている。しかも、土足で踏みにじられる、という屈辱的な仕打ちで。
 単なるKO負けより、よほど惨めな醜態だった。
 
「ち、ちづる・・・」

 親友の股間から、透明な愛蜜が垂れてリングに広がっていく・・・衝撃的な光景を眺めながら、セコンドのキューティー金井は覚悟を決めた。
 
 私が、やらなきゃ。
 この状況で、ちづるを助けられるのは、私しかいない。
 私が助けなきゃ・・・ちづるは市ヶ谷さんにボロボロにされてしまう。
 
 もう試合の勝敗など、構っていられなかった。
 市ヶ谷を襲って、試合を止める。セコンドが乱入すれば、深刻な反則としてちづるの負けは確定するだろう。
 ちづるからは、恨まれるかもしれない。それでも構わなかった。
 たとえ親友から嫌われても・・・私はちづるを救う。
 
「えっ・・・えええっ――いっ!!」

『あッ!? ら、乱入ッ!! セコンドのキューティー金井が乱入ですッ!! 市ヶ谷に襲い掛かって・・・ッ!!』

 ドボオオオオォッッ!!
 
 リング下から飛び出してきたツインテールのセコンドに、最凶令嬢の膝蹴りが吸い込まれていた。
 
「はがあ”あ”っ――っ!? あ”っ・・・ああ”っ!!」

『か、返り討ちィィッ――ッ!! ビューティ市ヶ谷、この事態を読んでいたのかぁッ!! 重爆の膝が、金井の鳩尾に突き刺さったァッ――ッ!!』

「フン。虫けらの考えることは、とっくにお見通しですわ」

 一撃で、金井の動きは止まっていた。
 ロリータフェイスを硬直させ、腹部を押さえてガクガクと揺れる。軽量のジュニア戦士にとって、日本有数のパワーを誇る市ヶ谷の攻撃はあまりに重い。
 
「顏がいいだけのミジンコに、このリングに上がる資格などありませんわッ!! とっとと消え失せなさいッ!!」

 前屈みになった金井を、腰に両腕を回して持ち上げる。ピンク髪の少女が、高々と掲げられる。
 ビューティーボム・・・いわゆるパワーボムの態勢。
 だが、プライド高き令嬢は弱者が『裏』のリングに存在することを許さなかった。マットに叩き付けず、金井を担いだまま助走する。
 ロープ際――リングの外に向かって。
 
『う、うわあああッ――ッ!!? まさかッ・・・!! まさか市ヶ谷ッ、そのまま金井を・・・パワーボムの態勢から、場外に投げ捨てたァッ――ッ!!』

 ブオオオオンンッッ!!!
 
 ピンクのツインテールが、宙空に舞った。
 細身のアイドル少女が、弧を描いてリングの下へと落ちていく。逃げ惑う観客。特別リングサイドの客席、並べられたパイプ椅子の海へ――。
 
「きゃあああああ”あ”っ――っ!!」

 ガッシャアアアアッッ――ッンンンッ!!!
 
 凄まじい破壊の音が、『裏武闘館』を包んだ。
 痙攣するロリータフェイスの美少女が、パイプ椅子のなかに埋没していた。
 リングの上から高さにして3m。距離にして5mの大ダイブ。
 瞳を裏返し、パクパクと口を開閉させて、キューティー金井は失神していた。
 
「フンッ・・・このわたくしの美しき闘いを、ミジンコごときが止めようとするなど言語道断ッ!! パイプ椅子のベッドで永遠に眠って・・・」

「いち・・・がや・・・っ・・・!!」

 搾り出すような声に、金髪縦ロールが振り返る。
 永原ちづるが、立ち上がっていた。
 フラフラと覚束ない足取り。しかし、その丸い瞳には、これまでにない怒りが燃え上がっている。
 
「ホホホッ・・・! 友情パワーというやつかしら? 弱者は群れるのがお似合いですわねッ!」

「あたし・・・まだ・・・負けてない・・・あなたは絶対に・・・許せないっ・・・!」

「よく喋る虫ケラだことッ! 身をわきまえて・・・お黙りなさいッ!!」

 正面から、市ヶ谷がフラつくちづるに組み付く。
 腰に両腕を回し、怪力で締め上げる。ベアハッグ、というより、元柔道日本一がやるのはサバ折りというのが妥当か。
 身長とパワーの差で、ギリギリとちづるの背骨を反らせていく。背骨の軋む激痛に、たまらずちづるは悲鳴をあげた。
 
「きゃああああっ――っ!! ぐうう”っ、うあああ”あ”っ~~っ!!」

「オーホッホッホッ!! このままふたつに折り曲げて・・・」

 メキャアアアッッ!!
 
 笑う市ヶ谷の顔面に、ちづるの頭突きが叩き込まれていた。
 
『き、強烈ゥッ――ッ!! 令嬢の鼻から鮮血がッ・・・! しかしこれは永原の頭も痛いぞッ!?』

 一瞬。意識が飛び掛けたのは、両者ともにだった。
 永原ちづるがビューティ市ヶ谷に勝るもの。それはジャーマンスープレックスの威力とバストカップ、あとは・・・根性。
 先に動き出したちづるが、市ヶ谷のバックに回る。
 
『で、出るのかッ、ジャーマンスープレックスッ!? しかし永原の右手首は・・・』

 折れているか、あるいはよくても重度の捻挫。
 両手をクラッチしても、力は入らない。根性ではどうにもならない、肉体としての限界。
 市ヶ谷の背後をとったちづるが、両腕を腰に回す。
 クラッチしたのは、右手の指ではなかった。
 ちづるの左手が握ったのは、右の手首。折れ曲がっている手首を敢えて掴むことで、激痛と引き換えに『離れないクラッチ』を得る。
 
「いっくよぉぉっ――っ!! あたしの・・・ジャーマンスープレックスっ!!」

 ついにちづるの、人間橋がかかった。
 高速で。しかも急角度で。市ヶ谷の後頭部が、マットに叩き付けられていく。
 
 ドオオオオッッ・・・ンンンッ!!!
 
『きまッ・・・たァッ~~ッ!! 〝ジャーマン娘”唯一最強のフェイバリットホールド、炸裂ゥゥッ~~ッ!! カウントが進みますッ・・・1・・・2・・・ッ!!』

「この程度でッ・・・!! このわたくしを、仕留められるわけがッ・・・」

 右肩を跳ね上げようとする、ビューティ市ヶ谷。
 いくらちづる必殺のジャーマンといえど、硬いリングといえど、一発で決着を許すほど最凶令嬢は甘くなかった。余裕を残し、フォールを返そうとする。
 だが、カウントの途中でちづるは、自らブリッジを崩して横回転をする。
 
『あッ!? ああッ!! 永原が、自分からフォールをときました。こ、これはッ・・・!!』

 市ヶ谷の腰に回した両腕のクラッチは、離さないまま。
 起き上がる。ジャーマンの態勢を維持したままで、長身の市ヶ谷を無理やり立ち上がらせる。
 
「なッ・・・!? は、離しッ・・・なさいッ、この虫ケラがッ!!」

「一発で効かなきゃ・・・何度でもぶちこむよっ!!」

 ダメージの残る最凶令嬢に、再びのジャーマンスープレックス。
 
『うわああッ~~ッ!! 二発目のジャーマンが決まったァッ――ッ!! 永原ちづる、一気呵成のローリング・ジャーマンだァッ~~ッ!!』

 投げては立ち上がり、また叩き付けては引き起こす。
 腰に回した両腕のクラッチを離さぬまま、連続でジャーマンを放つ秘技。それがローリング・ジャーマンスープレックスだった。
 
「ぐぶう”ッ!! ・・・こ・・・の・・・ッ!!」

「もういっぱァ――つっ!!」

 ドガアアアアッッ・・・ンンンッ!!!
 
 3度目のジャーマンが、市ヶ谷の後頭部を叩き付ける。
 ビクビクッ、と白のコスチュームを纏った長身が震えた。
 〝ジャーマン娘”の連続ジャーマンに、最凶令嬢の意識が飛び掛かっている。
 
「これでっ・・・決めるんだからァ――っ!!」

 ぐったりと崩れるビューティ市ヶ谷。無理矢理ちづるが引き起こす。フラつく最強令嬢を、強引に立たせる。
 
 4度目の華麗な人間橋が、リング中央で弧を描いた。
 
 ドオオオオオッッ――ッ・・・ンンッ!!!
 
『後頭部から・・・真っ逆さまにビューティ市ヶ谷がマットに沈んだァッ――ッ!! 強烈ッッ・・・永原ちづる、執念のローリング・ジャーマ――ンッ!! これは市ヶ谷、失神しているのかァッ――ッ!?』

 市ヶ谷の瞳は、裏返っていた。
 両肩がマットについているのを確認して、レフェリーのカウントが進む。
 
 1
 
 2
 
 ・・・ス・・・ッ!!
 
『あッ!? ああッ~~と!! 崩れたッ!! 永原のブリッジが崩れましたッ! いや、これはブリッジではなく、右手首のクラッチが・・・』

 捻挫した右手首を掴んだクラッチが、外れてしまっていた。
 激痛に耐え、4度のジャーマンに成功したちづる。しかし、痛みによって麻痺した右手首から、ちづるの意志を裏切って左手がずり抜けてしまったのだ。
 
「はあっ・・・はあっ・・・はあっ・・・はあっ・・・!!」

『立てないィ~~ッ!! 両者ともに、マットに倒れたまま立ち上がってきませんッ!! ダウンカウントが始められますッ!』

 ・・・1・・・2・・・3・・・

『どっちだッ!? どちらが先に立つんだッ!? ジャーマン4連発を喰らった市ヶ谷かッ!? あるいは、ダメージの深い永原かッ!?』

 いっちがやッ!! いっちがやッ!!
 ち・づ・るッ!! ち・づ・るッ!!
 
『場内真っ二つッ!! 観衆の大声援に応えるのはどっちなんだァッ~~ッ!! 市ヶ谷かッ、ちづるかッ!?』

 カウントが8まで進んだところで、両者は立ち上がった。
 ほとんど同時。市ヶ谷もちづるもガクガクと膝が揺れ、今にも倒れそうだ。
 
『立ったッ!! ふたりとも立ったッ!! そして・・・真っ向から激突ッ――ッ!!』

 正面から組み合うふたり。パワーで勝る市ヶ谷が、一気に押す。
 その瞬間、脇をすり抜け、ちづるは市ヶ谷のバックに回った。
 
『これでッ・・・決まるのかァッ――ッ!! 永原ちづるのジャーマンスープレックスゥッ――ッ!?』

 持ち上げる。市ヶ谷の長身が宙に浮く。
 あるいは『表』のリングならば、市ヶ谷はこのジャーマンを喰らっていたかもしれなかった。
 
 元柔道日本一の経験が、半ば無意識のうちにちづるの右手首を掴ませていた。
 
『捻じったッ・・・!! 市ヶ谷、捻挫している永原の手首を、無慈悲に捻じり回したッ!!』

 叫ぶちづるの右腕から、力が抜ける。
 その瞬間、ジャーマンの態勢から脱出した市ヶ谷は、ちづるの右腕を己の脇に挟み、全体重を右肩にかけてちづるをうつ伏せに押し倒した。
 右腕が逆に反り曲がる。関節の軋む音色が響く。
 
『うわあああッ――ッ!! ここで元柔道日本一の脇固めだァッ――ッ!! 永原の肩が、肘が、そして右の手首がッ!! ギチギチと悲鳴をあげるッ~~ッ!!』

「ぎっ、ぎあああ”あ”っ・・・!! うあああ”あ”ア”っ~~っ!!」

 ボロボロと涙をこぼしながら、ちづるは絶叫した。
 脱出は不可能だった。覆いかぶさってくる市ヶ谷を、はねのける体力すらすでにない。
 このまま我慢しても、肩が外され、右の手首が折られるだけだ。
 
 メチメチッ・・・ミキィッ・・・メリメリッ・・・
 
 ち・づ・るッ!! ち・づ・るッ!! ち・づ・るッ!! ・・・
 
 場内一色に染まった、ちづるコール。
 悔しさに童顔をぐしゃぐしゃにしながら、永原ちづるは頑として降参の意志を示さなかった。
 たとえ右肩を引き抜かれようと、ギブアップだけは絶対にしない覚悟だった。
 
「・・・このッ・・・なんて強情なッ!!」

 脇固めを外した市ヶ谷が、ちづるの首に腕を潜り込ませる。
 うつ伏せのポニーテール少女を襲う、裸締め・・・スリーパーホールド。
 
『あ・・・ああっ――っと!! 永原の瞳が再び白目を剥いているッ――ッ!! 市ヶ谷の締め技によってオチましたァッ~~ッ!!』

 意識のないちづるを仰向けに転がし、ビューティ市ヶ谷はフォールの態勢に入った。
 
「1ッ・・・2ッ・・・・・・3ッ!!」

『入ったァッ――ッ!! 入りました、3カウントッ!! 激闘を制したのはッ・・・〝史上最凶のお嬢様”ビューティ市ヶ谷ァァッ~~ッ!!』
 
 試合終了を告げる、ゴングが鳴り響いた。
 
 
 
  ○ビューティ市ヶ谷(16分27秒 裸締め→体固め)永原ちづる●
 
 
 
 《試合後 リング上》
 
 
 勝ち名乗りを受けながら、ビューティ市ヶ谷は敗者である永原ちづるを見下ろしていた。
 控室から慌てて飛び出してきた同期の富沢レイに、介抱を受けている。頸動脈を締められ、脳への血流不足で失神したちづるは、なかなか目覚めてこなかった。
 
 レイの指示によって、場外でK.O.されたキューティー金井はいち早く担架で運び込まれていった。
 ふたりとも意識は失っているが・・・今後に繋がるような、大きなケガはなかった。
 
「・・・このわたくしとしたことが・・・祐希子用の秘密兵器を使わされるとは、思いませんでしたわ・・・」

 誰にも聞こえない声で、最凶の令嬢はポツリと呟いた。
 
「あ、ちづるッ!」

 うっすらと瞳を開けたちづるに、レイが懸命に声を掛けている。
 リングに横たわった〝ジャーマン娘”の傍らに、ゆっくりと市ヶ谷は近づいていった。
 
「貧乏人にしてはよくやったと、褒めてさしあげますわ! しかし永原ちづるッ、あなたがわたくしに勝とうなど、100万年早くてよ! オーッホッホッホッ!」

 市ヶ谷の高らかな笑いは、いつもよりぎこちないものだった。
 ゴージャスな白のコスチュームを纏った令嬢は、場内の拍手を浴びてリングを去っていった。
 
「そっか。あたし、負けたんだ」

「よくやったよ、ちづる。すごくいい試合だったよ」

「・・・でも、負けちゃったら・・・」

 ち・づ・るッ!!
 ち・づ・るッ!!
 ち・づ・るッ!!
 ち・づ・るッ!!
 
 万雷のコールが、『裏武闘館』全体に響き渡った。
 いつまでも鳴りやまなかった。全員が叫んでいた。
 敗者に対する慰めのコールでないことは、ちづる自身がわかっていた。
 
「レイ、あたし・・・このリングに立って、良かった」

 〝ジャーマン娘”永原ちづる。かつてない充実感を得て、AWGP予選敗退。
 
 
 
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| レッスルエンジェルス | 00:13 | トラックバック:0コメント:1
コメント
レッスルエンジェルスの予選二試合目になります。
巨大ヒロインに限らず、ヒロインものはこれまでにいろいろと書いてきたんですが、スポーツの試合は今回が初めてなので、不安と期待ハーフハーフで進めていますw

どちらかというとエロよりもアツさ重視かも・・・
これでいいのか、自分でもわかりませんが(^^ゞ、とりあえずやりたいように進めたいと思います。
2015.03.30 Mon 00:21 | URL | 草宗
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