巨大変身ヒロインのオリジナル小説を書いている草宗の独り言をつぶやくブログです。

草宗の書斎

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オメガスレイヤーズ ~カウント5~ 「第三話 半年前。迫るその刻」②
 
 3、再戦
 
 
 ひとつしかない地下室の出入り口の前に、浅間翠蓮は立った。
 丸い瞳が印象的な、愛らしい容貌。全体に纏った、透明感ある淡さ。外見は神の遣いと見紛う麗しさであるにも関わらず、翠蓮は真逆の本性を露わにしていた。
 妖化屍〝輔星”の翠蓮。
 ダークなスーツに身を包んだ美女は、恐るべき妖魔の秘書役がその本懐であるらしかった。満足げで、嗜虐的な笑みがその美貌に浮かんでいる。

 
「虎狼さまのお役に立てて・・・翠蓮は嬉しゅう御座います」

 ただひとつの電球が照らす下、光り輝く美乙女と、巨漢の武人は対峙していた。
 白銀の光女神オメガヴィーナスと、六道妖がひとり、修羅妖・虎狼。
 互いを見つめ合う両者は、他の一切が視界には入っていないようだった。
 
「オメガヴィーナスッ・・・!! 貴様と再びまみえる日を・・・一日千秋の想いで待っていたッ!」

「虎狼・・・あなたがお父さん、お母さんの仇であること・・・一瞬として忘れたことはなかったわ」

 睨む。睨む。睨む。
 魅惑の瞳と獰猛な視線が交錯する。
 天音の瞳は、不思議なほどに澄んでいた。両親の仇に向けるものとは思えぬほど。
 虎狼の眼光は熱を帯びていた。飢えた獣にとって、待ちわびた獲物は愛の対象なのかもしれなかった。
 
「嫉妬いたします。虎狼さまが、そのような眼で私以外をご覧になさるとは・・・」

「翠蓮。決して貴様は、手を出すな」

「承知しております」

「オメガヴィーナスは、お前とは異なる意味で特別なのだ。すぐに終わらせる」

 薄く微笑んだ翠蓮は、両手を広げて眼の前の空間に突き出した。
 なにも変わらない。と、見えて、女妖魔と激突済みのオメガヴィーナスは変化を悟った。
 
「壁を作って、出入口を封鎖したのね」

「うふふ・・・さすがは天音さま。私の能力がわかったようですね」

「空気を固めることができる。それが、妖化屍となった引き換えに、あなたが手にしたチカラね」

 鋼鉄並の風船で攻撃されたがために、天音は翠蓮の特殊能力を見破ることができた。
 触れた範囲の気体を、圧縮できるのだろう。巨大風船を易々と振り回していたのを見ると、重さ自体は自在に調整できるらしい。
 見ただけではわからないが、出入口の前には分厚い空気の壁が出来ているはずだった。この地下室を、元『水辺の者』の妖魔は完全決着の場に仕立てあげたのだ。
 
「・・・翠蓮さん。あなたは、この男を愛しているのね」

「野暮やわぁ。男女の仲のことは、訊かんといてくれます?」

「998名もの破妖師を殺害し、オメガスレイヤーの命を狙う六道妖に名を連ねる。その虎狼に与するということは・・・あなたは完全に『水辺の者』と敵対することになるわ」

「悠長なことを仰るのね。私は今ここで・・・天音さまの死を見届けようというのに」

 屈託なく、ハーフアップの美女は笑った。
 陰鬱なセリフとは不釣り合いな陽気さが、地下室の暗さと相まって不気味であった。
 
「それはできないわ。オメガヴィーナスは無敵だもの」

「しばらく会わぬ間に、随分と自信をつけたようだな、オメガヴィーナス」

 戟を握る右手に、虎狼は力を込めた。
 穂先に刃が取り付けられた長柄の武具は、槍とよく似ているが、十字状に縦横に刃が組み合わせてあるのが特徴的だった。つまり、槍よりも攻撃範囲が広い。
 突く、斬る、薙ぐだけでなく、引っ掛けたり、突きから戻す際にも攻撃できるのが戟と言える。しかし、多様に見える反面、中途半端になりがちなのが、実際の戦場では槍に主役を奪われた原因となった。
 虎狼がこの珍しい武器を手にするのは、恐らく、戟が活躍した時代に生きた武人なのだろう。
 
「ええ。この4年半で私は、強くなったわ」

「だがッ! 貴様の命を欲するオレの渇きは・・・その空虚な自信を打ち砕くッ!!」

 ゆっくりと、長大な戟を〝無双”が振り上げる。
 迎え撃つ白銀の光女神は、両手を腰に当てて仁王立った。
 白銀のスーツを纏ったボディは、見事な流線を描いていた。膨らんだ乳房と煽情的なヒップライン。横から見ると「S」の字が浮かんだようなスタイルは、全ての女性が憧れにしよう。
 対する虎狼の肉体も美しかった。研ぎ澄まされた筋肉の集合体。力を望む雄獣ならば、鍛え抜かれた結晶に陶酔せざるを得ない。
 
 オメガヴィーナスと虎狼の闘い。それは、究極の肉体美を完成させた、女と男の闘いなのかもしれなかった。
 
「いくぞ」

 ドオオオンンンッッ!!!
 
 踏み込む足音は、両者同時に起こった。
 頭上に掲げた戟を、虎狼は一気に振り下ろした。速い。風圧で、天井に亀裂が走る。輝くプラチナブロンドの頭部に、真上から十字の刃が迫る。
 
 もらった。
 弁髪の武人は確信した。一刀のもとに、天音を両断するための一撃ではなかった。真の狙いはカウンター。飛び込んでくる白銀のヒロインを叩き落とすためだ。
 
 オメガヴィーナスの光速の超スピードを、虎狼はすでに体験している。
 他の妖化屍ならば、対応は不可能。しかし武を極めた虎狼は、かろうじて反応できる。光の女神が距離を詰めるよりは、戟を振り下ろす速度の方がわずかに速い。
 穂先は当たらずとも、鋼を束ねた長柄の部分が当たるはずだった。真上から一直線に振り下ろしたのは、突っ込んでくるオメガヴィーナスに対処するためのもの。
 
 ドガアアアッッ・・・!!
 
 戟の穂先が砕いたのは、地下室の床だった。
 コンクリートの破片が舞う。その奥に。
 わずかに後方に下がっていた、美しき白銀のヴィーナスがいた。
 
「きさッ・・・!!」

「以前と違うと、言ったわ」

 力強く足を踏み込んだのは、オメガヴィーナスのフェイントであった。前に出る、と思わせるための。
 今度こそ、突っ込む。青のケープが翻る。
 戟を床に食い込ませた虎狼に、白銀の閃光と化したオメガヴィーナスが吸い込まれる。
 
 爆発のような衝撃音が、地下全体を震わせた。
 
「ゴバアアアッッ!!」

 オメガヴィーナスの右アッパーが、虎狼の鳩尾を突き上げていた。
 バケツを振り撒いたような鮮血が、武人の口を割る。
 胃が破裂した激痛を、虎狼は初めて味わった。
 
「ッッ・・・!! 虎狼さまッ!?」

「ウゴオオオオッ――ォッ!!」

 咆哮を轟かせ、弁髪の武人は懐に飛び込んだ美乙女に抱きつく。左右の腕ごと抱え込み、細腰を怪力で締め上げた。
 愛刀の戟を手放すほど、手放さずにおられぬほど、修羅妖・虎狼は追い詰められていた。いや、並の妖化屍ならば今の一撃で爆散していただろう。
 反撃できるだけで、虎狼がいかに規格外の怪物であるかは十分実証されている。
 
「力勝負ならばッ・・・貴様になどッ!!」

「・・・くッ!」

 両腕に力を込めても、虎狼のロックは簡単には外れなかった。
 古今東西、数多いる妖魔のなかでも、オメガヴィーナスとまともにパワーで張り合えるなど、〝無双”の虎狼以外に存在しないだろう。
 
「恐るべき、ね。こんな妖化屍が、存在するなんて・・・」

「これが武だッ!! 我が鍛錬を見くびるなよッ、小娘ッ!!」

「それでもあなたは、オメガヴィーナスには勝てないわ」

 桜色の唇が、わずかに尖る。美乙女が吐息を吹く。
 〝威吹”と呼ぶオメガヴィーナスの技のひとつ。
 聖なる豪風が、至近距離から虎狼の顔面に浴びせられる。
 
「ぐがあッ!? ぬうおおおおオオッ――ッ!!」

 妖化屍からすれば、火炎放射を眼前で噴きつけられたも同然だった。
 たまらず天音を解放する。顏を押さえてもんどり打つ。
 
 これが、4年半の成果か。
 
 のたうち回りながら、虎狼はオメガヴィーナスの成長を実感していた。
 純粋なパワーとスピードに大きな変化はない。というより、4年半前の時点ですでにピークに達していたのだろう。元々、光属性のオメガスレイヤーの能力は、地球上では頂点といっていいのだ。
 成長したのは闘い方だった。
 ひとりの女子大生に過ぎなかった四乃宮天音は、月日を経て立派な戦士となっていた。以前のような単調な攻撃もなければ、多少攻められても慌てるところがない。
 MAXのスペックを持つ者が、経験を得て冷静で的確な戦闘を覚えたのだ。
 
「バカなッ・・・!? このオレをッ・・・よもやここまで圧倒するとは・・・ッ!!」

「虎狼。私はあなたを斃さなければならない。父母の仇だからではなく・・・オメガヴィーナスだからよ」

 後方にさがって距離を取る虎狼と、落ち着いた瞳でそれを見詰める白銀の女神。
 わずか4年半の間に、両者の立場は劇的に変化していた。一方的。しかしこれが、本来のオメガスレイヤーと妖化屍の関係。
 トドメを刺そうと、プラチナブロンドの美乙女が前に出る。
 
「させませんわ。オメガヴィーナスッ!」

「翠蓮ッ!! 手を出すなと言ったッ!!」

 修羅妖の制止は間に合わなかった。正確にいえば、数瞬早かったものの、〝輔星”の女妖魔は無視をした。
 見えない空気の弾丸が、オメガヴィーナスにヒットする。一発、二発ではない。数十発、数百発という弾幕の雨嵐。
 
 ドドドドドオオオオッッ!!!
 
 白銀の光女神の脚は、まるで止まらなかった。
 全身に当たる銃弾を、弾き返す。意に介さず、疾走する。
 〝無双”の虎狼に一撃を打ち込むべく、オメガヴィーナスが距離を詰める。
 
「ッ!!」

 猛スピードで突進してくる敵に、もっとも有効な回避手段は、なにか?
 カウンターの打撃は無理だ。オメガヴィーナスは速過ぎる。タイミングを掴むのは、極限の武人をしても不可能。
 退く、跳び避けるのもダメ。光速にも近いスピードに、容易に追いつかれるだろう。
 
 正解は、足元に飛び込む。
 身体を丸め、全身を路傍の石と化すかのように。不意に沈む相手への対応は難しく、咄嗟に攻撃は繰り出せない。体積が大きい分、同じカウンターでも打撃と違って確実に決まる。
 
 欠点は、せいぜい敵を転ばせる程度でダメージは与えられないこと。そしてもうひとつ。
 地を這って避ける姿は、卑屈で、惨めであることだった。
 
「この虎狼がッ!! ・・・これほどブザマにッ、なりふり構っていられぬとはッ!!」

 屈辱のなかで、武人は地下室の床を転がった。
 殺到していたオメガヴィーナスが、膝に飛び込んでくる虎狼につんのめる。宙を浮く天音は、すぐに態勢を整えて着地した。
 
「くッ!」

「虎狼さまッ!! 今ですッ!!」

「ヌウオオオオッ――ッ!!」

 振り返る白銀の女神と、床から戟を拾う武人とは同時だった。
 大上段から、オメガヴィーナスの脳天に戟の穂先が振り下ろされる。
 一瞬、宙に浮いたぶん、光属性のヒロインが跳び避ける時間は失われた。
 
 ガシャアアッッ――ッ・・・ンンッ!!!
 
 虎狼が振り下ろした戟の穂先は、粉々に砕けて飛び散った。
 オメガヴィーナスの拳が、十字状の刃を粉砕していた。
 
「グウッ・・・!!」

「妖化屍を葬るために、私たちオメガスレイヤーは存在している」

 刃を素手で砕かれる。
 妖化屍と究極破妖師との力の差を、虎狼はその現実に思い知った。
 
 ボボボボボンンンッッ!!
 
 白銀のスーツから繰り出された連打が、虎狼の全身に叩き込まれた。
 巨体が吹っ飛ぶ。真っ赤な鮮血の糸を、幾条も放ちながら。
 壁に激突する寸前、空気のクッションが柔らかく、弁髪の武人を包んで受けた。
 
「・・・翠蓮さん」

「天音さま。あなたにこのまま、虎狼さまを仕留めさせるわけには参りません」

 愛おしげに、血まみれの妖化屍を翠蓮は抱いた。ふたりの周囲を、空気の壁が幾重にも包んでいくのが風の動きでわかる。
 
「決闘に水を差す無粋、ご容赦くださいませ。ですがそれでも、私は虎狼さまを失うことには耐えられません」

「翠蓮さん。なにがあなたをそこまで・・・」

「いずれわかる時は来ましょう。ただひとつ、間違いないことは。私は〝輔星”として虎狼さまと共にあり・・・あなた方『水辺の者』と袂を分かつことです」

 意識のない虎狼を抱えたまま、〝輔星”の翠蓮が出入口へと向かう。
 ようやく天音は気付いた。翠蓮が地下室の出口を確保したのは、オメガヴィーナスを逃がさぬためと・・・いざという時、脱出に備えるためだと。
 
「お覚悟ください。次にお会いする折りは、この翠蓮、全力で天音さまを殺しに参ります」

 オメガヴィーナスの力を全開にすれば、空気で固めた壁を粉砕するのは、可能かもしれなかった。
 だが天音は、遠ざかる妖化屍ふたりの背中を、それ以上追うつもりになれなかった。
 妹の郁美が六道妖の手に堕ち、オメガセイレーンが完膚なき敗北を喫したとは、この時点で知る由もなかった。
 
 
 
 4、4人目
 
 
 妖化屍と生死のやりとりをするオメガスレイヤーや『水辺の者』にとって、負傷は常に纏わりつくものであった。
 故に、当然のように破妖師専門の病院というものが存在する。一般社会に知られぬよう、治療するための施設。
 『征門二十七家』が運営する医療法人は、深泉会病院と名付けられていた。
 四ノ宮家で今朝別れてからわずか数時間後、天音と聖司具馬は、集中治療室の扉の前で再会を果たしていた。
 
「すまない」

 ようやくそれだけの言葉を、司具馬は搾り出した。
 並んで『面会謝絶』の表札を見詰めたまま、かなりの時間が経っていた。周囲に人影はない。病棟自体が一般の患者とは隔離されている。
 天音と視線を合わせることは、どうしてもできなかった。光属性のスーパーヒロインに変身する選ばれし戦士にとって、最悪の事態が起こったことは誰よりも司具馬が理解している。
 
「天音がどうしても守りたかったあのコのことを・・・オレは守れなかった」

「シグマが悪いんじゃないわ。むしろ、あなたのおかげで絵里奈さんはなんとか一命をとりとめた」

「だが」

「ごめんなさい。私のせいで、あなたの心に重荷を背負わせてしまっている。本当にあなたには感謝しているの。全ては私の見通しが甘かったせい。そして、六道妖のせいよ」

 唇を噛む天音の言葉が、心底からのものであることはわかっていた。
 だからこそ、司具馬は余計に辛かった。数多くの修羅場を経験している彼は、いい意味でも悪い意味でも仲間の不幸には慣れている。こんな気持ちになるのは、相手が天音だからだろう。
 
「アンチ・オメガ・ウイルス・・・ヤツらが〝オーヴ”と呼ぶ反オメガ粒子によって、オメガセイレーンは敗れた。六道妖がそこまでの力を得るなんて、誰も想像できるわけがない」

「私があのとき、〝無双”の虎狼に『Ω』マークを奪われていなかったら・・・」

「やめよう、天音。誰よりも危険を冒して妖化屍と闘っている君に、非があるわけがない」

「・・・でも」

「浅間翠蓮の裏切りによって、純血・純真・純潔という重要条件も六道妖にバレていた。オメガスレイヤー抹殺へのヤツらの執念は、オレたちの予想を遥かに上回っていたんだ。『水辺の者』全体が、甘かったと言わざるを得ない」

 責任論が今この場において、なんの意味も持たないことを司具馬は悟っていた。
 一番の問題点をあげるならば、かつての妖化屍とは比べ物にならないほど、六道妖が恐るべき力を蓄えたことだ。しかしこれは天音や『水辺の者』の現体制に問題があるというより、時代のせいだと思われた。
 
「発達しすぎた科学と・・・ネット社会が、六道妖という脅威を生み出したのかもしれないな」

 〝百識”の骸頭がいかに優れた頭脳を持とうと、数百年前ならオメガ粒子を菌と見抜くことはなかった。その時代には菌という存在自体が見つかっていないからだ。当然、抗生物質という発想からアンチ・ウイルスを研究することもなかっただろう。
 個々が簡単に繋がることのできるネットがなければ、全国に散らばる妖化屍が手を組むなど、恐らく考えられなかった。かつてははぐれ者の妖魔を容易く処理できていたのが、近年では妖化屍も多くの情報を手に入れている。
 〝大蟇”の我磨が四乃宮天音の特徴を知っていたことがあったが、あれなどはインターネットの恩恵を受けていたのかもしれない。
 
「天音に責任など、あるわけがない。誰よりも辛く、哀しい想いをしているのは・・・君じゃないか」
 
 セミロングの美乙女に、視線を向ける。ようやくふたりは、互いを見詰めあった。
 抱き締めてあげたい、と思った。やや切れ上がった魅惑的な瞳が、怒りと哀しみで揺れている。
 だが、24歳の無敵の女神に渦巻く激情は、自分などが癒せるとは到底思えなかった。
 
「ありがとう、シグマ。でも私は・・・私ひとりででも、郁美を取り返すつもりよ」

 司具馬がもっとも危惧していた言葉を、天音は口にしていた。

「ダメだ。〝オーヴ”が開発された今、オメガスレイヤーの優位は絶対ではなくなった」

「骸頭と縛姫の力は、途中からぐっと低下した、と言ったわよね?」

「・・・ああ」

「シグマ。あなたなら、その理由がわかっているんじゃないの?」

 真っ直ぐに見詰めてくる澄んだ瞳に、司具馬は己の全てが見透かされている気がした。
 
「天音は・・・わかってるようだな」

「私だけじゃなく、オメガスレイヤーと妖化屍の真の関係を知るひとならば、誰もがすぐに気付くことよ」

 思わず司具馬は溜め息を吐いていた。
 
「そりゃあ気付くさ。オレも冷静になれば、すぐにわかった」

「反オメガ粒子である〝オーヴ”は、妖化屍に対してもある程度の効果があった。だから骸頭たちの力も落ちたのよ」

 扉の奥にいる藤村絵里奈・・・オメガセイレーンがいかに無惨な敗北を遂げたかを聞いても、天音が恐れを見せないのはそのためだった。
 〝オーヴ”がオメガスレイヤーの能力だけでなく、妖化屍のパワーも同時に奪うなら・・・なんとかなる。少々のハンデなら乗り越えられる自信が、最強のオメガ戦士にはあるのだろう。
 つい数十分前には、あの〝無双”の虎狼をも天音は一蹴したばかりだ。
 〝オーヴ”が妖化屍にも効力を発揮するというのは、司具馬も同じ見解だった。まず、そう考えて間違いない。しかも骸頭をはじめとする六道妖は、その事実に恐らく気付いていない。
 
「だからといって、六道妖を甘く見るのは危険だ」

「甘くなんて見ないわ。でも、危険を恐れていては、郁美を救い出すことなんてできない」

「他のオメガスレイヤーが到着するのを待とう、天音。今、全国に散らばっているオメガカルラやオメガフェアリーに『五大老』が招集令を出している。彼女たちとともに、六道妖を・・・」

 病院の廊下を、急ぎ足でひとりの男が近づいてきたのは、その時だった。
 見覚えのある男だった。司具馬と同じ、黒のスーツ姿が『水辺の者』であることを教える。
 
「甲斐凛香さまと、連絡が取れません」

 開口一番、慌てた口調で男は言った。
 
「どうやら凛香さま自身が、通信ツールの電源を切っているようです」

 妖化屍のなかには、電波をも鋭く感知するものが多々いる。
 戦闘時や隠密行動を取る際、スマホなどの電源を落としておくのは、『水辺の者』の基本行動であった。
 
「交戦中、ってことか?」

「わかりません。ですが、かなり長く、その状態が続いています。圧倒的な戦闘力を誇るオメガフェニックスとしては異例のことです」

「〝オーヴ”の存在は、凛香には伝えてあるのか?」

 司具馬の声に緊張が高まった。
 
「いえ。その緊急事態を連絡しようにも・・・繋がらないのです」

「私が探してくるわ」

 言い終えた時には、すでに四乃宮天音の姿は遥か彼方の廊下にあった。
 司具馬が止める間など、なかった。
 
 
 
 直径10mはあろうかというトンネルに、ふたつの靴音が響く。
 5m間隔で照明があるため、地下のトンネルは思ったより明るかった。薄暗いが、足元はわかる。眼を凝らせば、先の道まで見ることができた。
 ふたりが歩いているのは、2mほどの狭い通路だった。中央に水流があり、反対側に同じ幅の通路がある。天井は丸く、巨大な筒のなかを歩いているようだった。
 
 景観は想像よりは悪くないが、臭いが酷かった。
 悪臭の元凶は中央の水流にある。緩やかに流れる濃緑色の汚水。時折プカプカと、排泄物らしき灰色の物体が浮かんでは沈む。
 
 地下下水道の通路を、〝無双”の虎狼は色白の美女の肩を借りて進んでいた。
 華奢な翠蓮が、虎狼の巨体を支えられるのが、彼女が妖魔化した事実を証明している。
 虎狼の右手には戟の長柄が握られたままであった。その穂先は砕けていようとも、長年愛用した得物を、武人は易々と手放すことなどできない。
 
「止まれ、翠蓮」

 通路の途中で、修羅妖は声をかけた。
 地上へと出る昇降口はまだ随分と先であった。戻るにしても距離がある。
 傍らにヘドロが流れる下水道トンネルの真ん中で、ふたりの妖化屍は立ち止まった。
 
「ですが、虎狼さま」

「構わん。ここでいい」

 弁髪の武人とスーツ姿の美女が、揃って後ろを向き直る。
 
「いい加減に出てこい。いつまでも尾けられるのは、不愉快だ」

「ふーん。わかってたんだ? 気付いてないと思ったヨ」

 闇のなかから、真っ赤なコスチュームの少女が浮かび上がる。
 ノースリーブのスーツに、ショートパンツ。両腕に嵌めたグローブも、膝下までのブーツも、背中のケープも・・・全てが真紅で統一された、ショートヘアの破妖師。
 紅蓮の炎天使オメガフェニックスこと甲斐凛香は、勝ち気な美貌をニッと綻ばせた。
 
「ざ~んねんっ。このままいったら、六道妖のアジトまで潜入できると思ったんだけどナ~。おいしい獲物を6匹も独り占めできると思ったのに」

「オメガフェニックス・・・貴様」

 翠蓮の肩から腕を放し、〝無双”の虎狼は仁王立った。
 
「今のオレは、猛烈に機嫌が悪い。軽率な発言を繰り返すならばッ・・・八つ裂きにしてこの汚水に散りばめるぞッ!」

「あのサ。ボロボロの姿で凄まれても、笑っちゃうんだけどナ」

 深紅のブーツを高らかに鳴らして、猫顏の美少女が距離を詰めていく。
 
「前のときは逃げられちゃったからネ。あなたとはどうしても決着つけたかったから・・・ずっとこういうチャンスを待っていたのヨ」

「甲斐凛香さん・・・いいえ、オメガフェニックス。下がりなさい。それ以上虎狼さまに近づくことは、この〝輔星”の翠蓮が許しませぬ」

「浅間翠蓮、か。同じく『五大老』の家系に生まれた者として、シンパシー感じてたんだけどネ。ちょっと残念。でも、あたしは裏切者は容赦しないから」

 フェニックスの左右の手首周辺に、炎が生まれて連なる。
 次々と出現し、繋がっていく業火。両手首の周りで、炎の輪が燃え上がる。
 
「虎狼、あなたがオメガヴィーナスに負けたのは知ってるヨ。でも、関係ない。ひとりの格闘者として、あたしはあなたに勝ちたい! 〝無双”の看板はこのオメガフェニックスが降ろさせてあげるワ!」

「・・・言わせておけばッ・・・随分とふざけたことをッ!!」

「虎狼さまッ! このような不躾な者は、相手になさらぬようッ!」

 巨漢の武人を庇うように、前にでた翠蓮が両手を突き出す。
 なにもない、ように見えた。空気を固める、という特殊能力を知らなければ、ハーフアップの女妖魔が発射した透明の弾丸がわかるわけがない。
 
「炎舞・撃っ!!」

 両腕の炎のリングを、一直線の猛炎と化して、フェニックスは撃ち出した。
 火炎の龍が、トンネル中を明るく照らす。荒れ狂う炎の奔流が、二体の妖化屍まで迫っていく。
 
「ぐッ・・・!!」

 高熱は気体を膨張させる。空気を圧縮して固める翠蓮の能力とは、真逆の作用といってよかった。防御のために密かに造ってあった空気の壁が次々に破裂していく。
 翠蓮にとってオメガフェニックスは、相性最悪の天敵であった。
 炎が消えたころには、翠蓮も虎狼も、防ぎきれなかった業火の余波で黒い煙をあげている。
 
「ッ・・・はあッ、はあッ、はあッ・・・オメガフェニックス・・・これほどとはッ・・・!!」

「ん~。なんかよくわかんないケド、あなたのやることは、あたしにはまるで通じないっぽいネ?」

 吊り気味の瞳に、小ぶりな唇。猫を思わす可憐な炎天使は、悪びれることなく言った。
 高校を卒業したばかりの令嬢少女は、肌も表情もキラキラと輝いていて、どこか挑発的だった。甲斐凛香はおおよそ苦労らしいものをしたことがない。だからこそ己のストレートな感情を、常に遠慮なくさらけだす。よく言えば正直で、悪く言えば配慮がない。
 時に失礼な態度を取ることがあっても、悪意によるものではなく、本音を包み隠さないだけだ。
 
 そんな凛香だから、翠蓮に対する勝利宣言は偽りない本音だった。
 
「ていうかサ、女のコを闘わせてないで、自分がでてきなヨ。まさか、負傷してるから今日はムリ、とか言わないよネ?」

 挑発とも取れる虎狼への言葉も、凛香はただ思ったことを口にしただけだった。
 
「調子にッ・・・乗るなァッ!! オメガフェニックスッ!!」

「いいネ、その感じ。じゃあ、いっくヨォ~っ!!」

 再び両手首に炎のリングが燃え上がる。
 腰を落とし、構えを取る紅蓮の炎天使に対し、虎狼は前に出た。オメガヴィーナスとの闘いで負ったダメージは、いまだ深く刻まれたままであった。愛刀の戟も、穂先が砕けてただの鋼鉄の長柄になっている。この闘いに限って言えば、修羅妖・虎狼の不利は明らかだ。
 いや、たとえ体調が万全で戟が本来の姿であっても・・・究極の破妖師であるオメガスレイヤーに、勝てるのかどうか。
 さすがの虎狼も気付き始めている。オメガスレイヤーは・・・化け物だった。戟の刃を何度斬りつけても致命傷に至らず、あげく片手で打ち砕かれた。鋼鉄よりも硬い肉体を誇る彼女たちを、どうやって殺せばいいのか。
 
 オメガフェニックスが、通路の地を蹴った。深紅のスーツに包まれたグラマラスなボディが、弾丸と化す。
 対する虎狼は、柄だけとなった武具を構え、防御の態勢に入る。
 
 ブジュウウウッ!!
 
「うわっと!? な、なにヨ、これ!?」

 激突する寸前、凛香の脚は止まっていた。
 汚水の流れのなかから、灰色のヘドロの塊が、紅蓮の炎天使に飛んでいた。突き出しかけた右腕に、べっとりと付着している。
 思わぬ形で横ヤリを入れられ、フェニックスは反射的に後方へ跳んだ。距離を再び開け、虎狼の様子を探る。
 穂先のない戟を構えたままの修羅妖に、おかしな動きはなかった。ただじっと、獣の眼光で睨んでいる。
 
「もう、臭いナ~。なんでこんなものが急にはねて・・・」

 鼻をつまむ猫系の美少女が、秀麗な眉と吊り気味の瞳を曇らせる。
 その瞳が見開いたのは、次の瞬間だった。
 
 ゲヒ。ゲヒヒヒヒ・・・
 
 最初フェニックスは、巨大なゴミが下水を流れているのかと思った。
 よく見れば、それは灰色のヘドロが盛り上がっているのだった。徐々に。モゴモゴと、膨れ上がっていく。
 汚水のなかに、何者かがいる――。
 察した時には、小柄な肉感ボディは水流に対して構えを取っていた。
 
「あなたっ、誰ヨっ!?」

 ゲヒヒヒ・・・ゲヘ、ゲヘヒヒヒ・・・
 
 人並みの大きさにまで盛り上がったヘドロは、汚水の流れの上に完全に立っていた。
 全体のイメージでいえば、灰色の汚泥が小山のように積み重なった感じ。だが、よく見れば頭がある。肩らしきところがある。腹と思われる部位はどっぷり突き出て、二本の脚もきちんとある。ドロドロの塊でありながら、人間としての形が見て取れる。
 顏らしき部分に、3つの曲線がある。と見えるや、パカリと開いて3つの赤い三日月となった。
 福笑いのお面にも似た、笑顔の眼と口だった。
 
「ゲヒ。ゲヒヒヒッ・・・お前が・・・オメガフェニックスかぁ~、小娘ぇ・・・」

 灰色のヘドロの山が、喋った。
 雪だるまのようでもあり、禿頭の太った中年男のようでもある。いずれにせよ、自信家の凛香が青ざめるほどに不気味な姿だった。
 
「な、なにヨっ、こいつ!?」

「いいカラダ・・・してるなぁ~・・・オッパイがデ~ンと盛り上がってるじゃねえか・・・犯してえなぁ~、グジュグジュにしてえなぁ~・・・」

「な、なにをこのっ・・・変態ヤロウ! あたしとやる気なのっ!?」

「そう興奮しなくてもぉ~・・・すぐに地獄に堕としてやるよぉ~・・・」

 ぐにゃぐにゃと泥のような全身をくねらせて、男は笑った。笑ったようだった。
 
「オレの名は・・・六道妖のひとり、餓鬼妖・・・〝流塵(りゅうじん)”の呪露(じゅろ)だぁ~・・・待っていたぜぇ~・・・」

「っ!! お前が・・・餓鬼妖! 4人目の六道妖なのネっ!」

 凛香の猫のような瞳が、鋭さを増した。
 虎狼、翠蓮に続いて3人目の敵。しかも新たな六道妖が登場したというのに、オメガフェニックスに動揺はなかった。武道で鍛えた引き締まった筋肉と、天性の豊満ボディがますます漲るかのようだ。
 
「あたしが罠に嵌るのを、待ってたってワケ? そう思い通りにいくかナっ!?」

「ゲヒヒヒヒッ・・・待ってたのはお前じゃない・・・虎狼の方だぁ~・・・」

 突如ヘドロの身体の中央が割け、金属製のジュラルミンケースが吐き出される。
 この汚泥が集合してできたような妖化屍は、こんなものを体内に隠せるというのか。
 勢いよく飛んだケースは、虎狼の足元まで滑っていく。
 
「ようやく・・・決心できたかぁ、虎狼・・・さあ、骸頭からのプレゼントだぁ~・・・妙なプライドは捨てて、そいつを受け取るんだなぁ~・・・」

「一体っ・・・なにを!?」

 虎狼がこの地で立ち止まった理由が、ようやくフェニックスにはわかった。
 ひとつは、この呪露という妖化屍と会うため。
 そしてもうひとつは、単独行動に出た紅蓮の炎天使を逃がさないようにするため。
 
 筋肉の鎧を纏った武人は、無言でジュラルミンケースを開けた。
 なかから取り出したのは、十字状に刃が組み合わさった、新しい戟の穂先。
 だがその穂先は、妖しい緑の光を放っている。
 
「えっ・・・? なにヨ、あのヘンな緑色の穂先は・・・っ?」

「ゲヘ。ゲヘヒヒヒ・・・いいのかぁ、よそ見してて・・・お前、オレの相手もしてくれるんだろぉ~?」

 ゆっくりと水流の上を歩いてくる呪露に対し、炎属性のオメガスレイヤーは構え直す。
 
「もちろんヨっ! 何体でも、このオメガフェニックスがまとめて相手してあげるっ! さあ、かかってこい!」

「ゲヒヒヒヒッ!! バカだなぁ~・・・もうとっくに、攻撃してるじゃないか・・・」

 ヘドロの塊が言い終わらないうちに、異変は起こった。
 フェニックスの右腕に付着した泥が、盛り上がる。
 見る間にそれは腕の形となった。拳を握り、至近距離から炎天使に殴り掛かる。
 
「なっ!!?」
 
 ドキャアアアッッ!!
 
 はね飛んだ泥とばかり思っていたものは、〝流塵”の呪露の右腕だった。
 不意をつく一撃に、さしものフェニックスも反応が遅れた。顔面中央に、もろにストレートのパンチを喰らう。
 しかし、呪露の本当の攻撃はそれからだった。
 
「ぐぶっ!? ・・・んぐぐぅ”っ・・・んんん”っ――っ!!」

 鼻と口とを覆った灰色のヘドロが、内部に侵入していく。
 咽喉がつまり、気道が完全に遮断される。窒息の苦しみに悶える凛香。オメガスレイヤーであろうと、呼吸できない苦痛に変わりはない。
 顏に張り付いた泥を、両手の指が懸命に剥そうとする。
 だが、多少口元を拭ったところで、奥へと侵入するヘドロは止まらない。咽喉を掻き毟るオメガフェニックスの内部で、グボグボと不気味な音が鳴る。
 
 グジュウウ・・・ゴボボ・・・グボオオッ・・・
 
「ん”ん”っ!! んうう”っ――っ!! ごぶっ!! ごぽァっ・・・!!」

「さーて、頑丈なオメガスレイヤーも・・・胃のなかから攻撃されて、平気かなぁ~?」

 グボオオオンンッ!!
 
 胃まで達した呪露の拳が、胃壁内部に打撃を撃ち込む。
 
「んぼお”っ!? んんん”っ~~~っ!!」

 背を丸めて悶絶する凛香に、構うことなく連続で打ち込まれる内臓パンチ。
 
 ドボオオオッ!! グボンッ!! ボゴオオッ!!
 
「ん”っ!! んんぐぅ”っ――っ!! んん”う”っ~~ッ!!」

 窒息と胃壁を殴られる二重苦がオメガフェニックスを責め立てる。
 いくらオメガ粒子の力を得たスーパーヒロインでも、口腔から胃までを汚泥で埋め尽くされ、体内を拳で殴られてはたまらなかった。吐血の糸が、喘ぐ唇からツツ、と垂れる。甲斐凛香としてならともかく、オメガフェニックスがこれほどに苦しむのは初めての経験だった。
 
 ボオオオウウウッ!!
 
 紅蓮の天使が両腕に炎のリングを出現させる。自らの顏に拳を押し付け、侵入するヘドロを焼いた。
 ジュウッ、と咽喉が焼け付く。真珠のごとく輝く顏に、黒い焦げ跡が浮かび上がる。
 
「げぼおお”っ――っ!! げほっ、ごほぉっ!! ぐ、うぅっ・・・やってくれるじゃない!」

 己自身焼くことを代償に、炎天使はようやく侵入した泥を吐き出した。胃の内部で出血したと思われる赤い雫が、泥とともにボタボタと地に落ちる。
 吐いたヘドロの塊が、本体である呪露のもとへ戻っていく。だが、追いかける間もなく、オメガフェニックスをもう一体の六道妖が襲ってくる。
 修羅妖・虎狼。
 緑色の穂先を取り付けた戟が、一閃となって炎天使の丸い乳房に突き出される。
 
「くっ!! 炎舞っ!!」

 出現させた炎の渦で、虎狼の戟をフェニックスが迎え撃つ。
 
 燃えるリングが十字状の刃を受け止める。はずだった。これまでは。
 
 緑に発光する穂先は、フェニックスの炎を弾き飛ばし、『Ω』マークの描かれた胸中央に着弾した。
 
 ズブウウゥンンンッッ!!!
 
「がはあぁっ!!? ・・・ごふっ!! ・・・な・・・んで・・・っ!?」

 果実のような双乳がぐにゃりと陥没するのを、凛香は呆然と見詰めた。
 大量の鮮血が、口を割って飛び出す。
 刃の切っ先は、フェニックスの表皮を突き破ってはいない。深紅のスーツを切り裂くことすらできていない。
 だが、緑の戟の一撃は、深刻なダメージを豊満ボディにもたらした。剣道の渾身の『突き』を、竹刀ではなく鋼鉄の棒で、Eカップはあろうかという巨乳に喰らったような。
 
「うわああああ”あ”っ――っ!!」

 かつて味わったことのない激痛と衝撃に、小柄な少女は軽々と吹き飛ぶ。
 よろめく先に待ち受けていたのは、通路へとあがった汚泥の塊だった。
 
「どうしたぁ~、オメガフェニックスぅ~・・・強気な発言がなくなっちまったなぁ~?」

 背後からフェニックスは、〝流塵”の呪露に抱きかかえられた。
 デカい。間近で見る泥の小山は、2mほどの高さがあった。158㎝の凛香からすれば、ふた回り以上は大きい。
 ズブズブと、ヘドロの壁に真っ赤な戦士が埋まっていく。灰色の泥で出来た妖化屍は、紅蓮の炎天使を飲み込もうとしているのだ。
 
「ぐああ”っ・・・!! 力がっ・・・出ないヨ・・・っ!?」

 深紅の生地に金色で描かれた『Ω』のマークが、シュウシュウと黒煙を昇らせている。
 〝オーヴ”の存在を知らぬフェニックスは、先の虎狼の一撃でオメガ粒子がどんどんと消滅していく事実に気付くはずもない。ただ、あの緑の穂先が、脅威であることを悟るのみだ。
 
「ゲヒヒヒッ!! 柔らかくて・・・揉みがいがあるなぁ~、お前のオッパイ・・・」

 両手と思しき形をしたヘドロが、背中から回り、フェニックスの左右の乳房を覆っていく。
 ぐにゅぐにゅと揉み潰す。深紅のスーツに包まれた、弾力ある丸い果肉。
 屈辱的な仕打ちに、可憐なマスクに怒りの朱が走る。だが、ズリュズリュとスーツ越しに粘液の這いずる感覚は、甘い痺れとなって凛香の女芯を刺激した。
 
「くうぅっ!! こ、この・・・やめっ!! ・・・許さない、わヨ・・・!! 放しなさっ・・・ん”くう”ぅっ!?」

「ゲヘッ、ゲゲゲッ・・・!! 紅いピッチリスーツの下・・・コリコリと・・・なんか、固くなってきたぞぉ~・・・オメガフェニックスも・・・気持ちいいことには感じちまうのかぁ~?」

「ばっ、バカなこと言って・・・ん”はあ”っ!? んん”あ”あ”っ~~っ!!」

 強化スーツをほのかに押し上げた胸の頂点を、灰色のヘドロが入念に絡みつく。細かく蠢動しながら、小さな竜巻をつくってジュルジュルと回る。
 感じるたびに乙女の肢体から力が抜けた。よりズブズブと、〝流塵”の体内に埋まっていく。
 
 ズリュウウッ!! ジュボオオッ!!
 
 汚泥の粘液が、オメガフェニックスの両耳からも潜入を始める。
 ヘドロが脳に向かって這い進む感覚。耳の奥で、ズブブブッ!! と浸食の大音声が響き渡る。
 
「んはあ”あ”あ”ア”ア”っ――っ!! ぎい”ィっ、イ”イ”っ!! ・・・やめぇっ!! みみィっ・・・!! やめええ”ぇ”っ――っ!!」

「ゲヒヒヒヒッ~~ッ!! どうした、オメガフェニックスぅ~? ・・・耳に挿入されるのは・・・初めてかぁ~? ・・・ていうかお前・・・処女だなぁ?」

 ドジュウウッ!! ズボオオオッ!! ジュブウウッ!! グボオオオッ!!
 
 鼻に。口に。お臍に。そして股間の・・・陰唇と肛門に。
 次々とヘドロの塊が、凛香の穴という穴から侵入していく。オメガフェニックスの体表も、内部も、灰色の汚泥に埋め尽くされていく。
 
「んぶう”う”っ~~っ!! んオ”オ”っ・・・!! ん”ぅっ!? んんん”っ――っ!!」

 もはや紅蓮の炎天使の赤いコスチュームは、泥の粘液にほとんど覆われ見えなくなった。
 汚泥まみれのグラマラスボディが、ヒクヒクと痙攣している。勝ち気で挑発的だった凛香の美貌は、恥辱に歪み、愉悦に蕩けていた。
 体内で、ヘドロの蠢く音色がゴボゴボと響いている。
 
「穴という穴を犯され・・・快楽に飲み込まれているっていうのに、粘るねぇ~・・・抵抗してもムダだぁ・・・早くオレのなかに埋もれちまいなぁ~、オメガフェニックスぅ~・・・」

 呪露の灰色の肉体のなかに、8割方埋まった紅蓮の炎天使。
 泥水に埋没したような美少女破妖師の前に、戟を構えた武人が佇む。
 
「・・・終わりだ、オメガフェニックス」

 ドボオオオオオッッンン!!!
 
 虎狼渾身の一撃が、動けぬ凛香の左胸に撃ち込まれる。
 緑に発光する穂先が、背中まで突き抜けるかと思われる勢いで、豊かに膨らんだ乳房に埋まった。
 
「・・・ゴビュッ!! ・・・ゴボオオオオッッ!!」
 
 フェニックスの瞳が見開き、凄まじい量の鮮血を吐き出す。
 ショートヘアの炎天使は、血飛沫を振り撒きながら、呪露の体内に埋没した。
 救いを求めるように伸ばした右腕が、かろうじて灰色の小山から外に出ている。
 
「ゲヒヒヒヒィッ~~ッ!! オメガフェニックス・・・いただきますぅ~~ッ!!」

 グチュウウッ!! ジュボオオッ!! ブチュウウウッ~~ッ!!
 
 獲物を噛み砕き、咀嚼するかのように。
 餓鬼妖・〝流塵”の呪露の体内で、汚泥が暴れ回る。粘液が紅蓮の炎天使を蹂躙する。
 オメガフェニックスの悶絶を報せるように、ヘドロから突き出た右手が虚空を掴んで痙攣する。
 
 ビクッ!! ビクビクビクッ!! ビクンッ!! ・・・ピクッ・・・ピク、ヒク・・・・・・
 
 宙空を掻き毟っていた右手が、その動きを止める。
 やがて、深紅のグローブを嵌めた右手は、力無くパタリと垂れた――。

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| オメガスレイヤーズ | 01:02 | トラックバック:0コメント:7
コメント
「第三話 半年前。迫るその刻」の続き、3章からとなります。
ここまでオメガスレイヤーズは助走が長く・・・餅にたとえると、ずっとこねたり、ついたりしていたわけですが。
ようやく焼き上げて食べる段階に入ってまいりましたw とか言いつつ、「カウント5」は4話構成なので、もうゴールも見え始めているわけですが・・・

本編の「オメガスレイヤーズ」が始まってからは、DL頒布という予定でいますので(ちょっと迷っているところもあるのですが・・・)、残り分をしっかり堪能いただければ幸いです。
他にもやりたい題材があるので、寄り道しながら、という形になると思いますが、最後までよろしくお願いしますw
2015.03.18 Wed 01:09 | URL | 草宗
>拍手コメントくださった方
いつもコメントありがとうございます(≧▽≦)
ヒロインのピンチがボクの創作活動の原典なわけですがw、負けてばかりだとイマイチ面白くない、かと言って勝ってばかりでは意味がない(^^ゞ、というジレンマのなかで、ベストな調整を自分なりに考えて奮闘していますww

凛香ちゃん、ボク自身は気に入っているキャラでして(^^ゞ (もちろん、気に入っていないキャラはヒロインにしませんがw)
ヘドロの呪露もずいぶん前から考えていたお気に入りキャラなんで、楽しみにしていただければ幸いですw

>前回の女子プロレスネタ
それほど引き出しが多いわけでもないのですが(^^ゞ、プロレス自体は以前からやりたかったので、個人的には待望の・・・という感じですね。
しばらくはオメガとレッスル、あとは頒布用のウルトラ戦姫の3本立てで活動しようと思っています。
あとエロ重視の作品と、サイボーグものというか戦隊ものというか、そんな感じのものを構想としては持っているんですが、流れを見てやっていけたらいいですね。
2015.03.20 Fri 14:32 | URL | 草宗
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2015.03.22 Sun 13:35 | |
>コメントくださった方
コメントいただき、ありがとうございますw 創作活動するものにとっては、一番の原動力になりますので嬉しい限りです(*´▽`*)

いろいろなことをしながらも、基本的に一か月に一回はオメガスレイヤーズをアップできるように頑張っています(^^ゞ
新しいキャラもちらちらと名前出ししていますので、頭の隅にでも置いておいていただければw
カウント5自体はそろそろ佳境に入っていきますので、引き続き応援いただきますよう、よろしくお願いします(≧▽≦)
2015.03.22 Sun 21:50 | URL | 草宗
>拍手コメントくださった方
いつもアツいお言葉の数々、ありがとうございます(*´▽`*)

セイレーンは退場と予想された方が多かったみたいですね^^; 実際のところ、彼女ひとりならあのまま終わっていたでしょうから。
カウント5は前夜譚ならではの縛りがあって、難しいところも多いんですけど、なんとかかんとかやりくりしてますね(^^ゞ 
とりあえず土俵際の魔術師、頂きましたw ありがとうございますw

ボクもゲスの極みですからw、普通の一般人への責めも遠慮なくやりたいと思っています。郁美ちゃんには覚悟いただいて(^^ゞ

裏切り者はやはり才女の方が似合うと思いますのでw、翠蓮さんはあんなキャラになりました。縛姫よりは断然悪の華が似合うのではないかとボクも思いますww

虎狼さんはアレですね、戦隊ヒーローがパワーアップロボを手に入れる前には、一回手ひどく敗北するようなもので・・・ww
タメ、という点でいうと、まさしく仰る通りですね(^^ゞ
今後のための通過儀礼といいましょうかw

そして呪露さん。ボクにとっても満を持しての登場ですw ハートキャッチプリキュアできてなによりでしたw
ヘドロキャラはずっと以前から考えていましたが、スーパーガール系ヒロインに一番あいますよね、やっぱりw 映画のあのシーンは、我々の業界wではレジェンドシーンですし。
こうしたストレートなゲスキャラは、なにげにファントムガールの田所先生以来かもしれません。本当は大好きなんですがw、なかなか出演させられず・・・
残る六道妖はあとふたりですが、なるべく偏りのないようにキャラ作りしたいですね(^^ゞ(もう決まってますけどw)

オメガ陣営の属性は、やはりそう予想されますよねw
不確定要素はありますが、戦力的にはかなりバランスが整ってきたので、安心してクライマックスに向かえそうです。
2015.03.23 Mon 00:04 | URL | 草宗
更新お疲れ様です。

私も今回でセイレーンが退場するのかと、思ってましたよw
なんてったって前回の対戦が対戦でしたからね。
それがここまで一方的に勝利を収めるとは、セイレーンも成長しましたし、虎狼は完全に舐めきってい

ましたね。
強くないヒロインをいじめても面白くないですし、ヒロインの強さを誇示させから
叩きのめすというのがヒロピンの醍醐味ですから、この勝利は今後の楽しみには必要ですね。
そしてその時の虎狼のセイレーンへのリベンジに期待です。

その虎狼もプライドを捨てて武器を受け取ったおかげで、
初登場時の強さが戻ってきた感じですね。
元々強かった所に最強の武器も手に入れたのですから、
以前に増してやっかいな敵になったかな。
今回の戦いでは、フェニックスが敵を甘く見すぎましたね。
油断せずに戦えばピンチにならずに勝てそうなのに油断してピンチになる、
この駆け引きが面白いですよ。
呪露も何ともいやらしくて、いいキャラしてますねw
体の中に入って攻撃とかフェニックスが飲み込まれていく様とか、
ぞくぞくしましたよ。

妖化屍達が弱体化したのもオーヴだったのですね。
でも弱体化するとはいえ本人が気づかない程度ですから
オメガスレイヤー側の圧倒的不利には変わりがない訳で、
今後の戦いが楽しみですよ。

オーヴの武器を使い始めた虎狼も使い続けると、
弱体化したりして。
敵側の話になるけど、まるで使い続けると自滅する制限時間付きの必殺技という感じで、
ちょっと燃えますねw
2015.03.30 Mon 21:51 | URL | さとや
>さとやさま
今回の作品はモチーフにしているのがスーパーガールですから、基本的にヒロインが強くないといけないんですよね(^^ゞ
オーヴの登場などにより、その強さは崩れていくわけですが、強さの表現はどうしても必要になってきますよね。

虎狼がヴィーナスに勝てなかったのも、武器が通用しなかったためですからねえ。オーヴ入りの武器を持つとなったら、話はかなり変わってくるかと思います。
フェニックスは油断が似合うキャラなんですよねえ~、ヒロインっぽくないですがww
呪露は能力的にも性格的にも、書いていて楽しい敵なので、今後も暴れて欲しいですねw

そうなんです。オーヴは妖化屍も弱体化させますが、その効力はオメガスレイヤーよりも小さいんですよね。
効果は強いんだけど、使い続けると悪影響がでる麻薬みたいなものでしょうか。妖化屍からすると、確かに時間制限付きの必殺武器と言えなくもないですw

基本設定がかなり出揃ってきたんで、クライマックスまであともうほんの少し、ってところでしょうか(*´▽`*)
2015.03.31 Tue 01:39 | URL | 草宗
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