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オメガスレイヤーズ ~カウント5~ 「第三話 半年前。迫るその刻」② | main | オメガスレイヤーズ ~カウント5~ 「第三話 半年前。迫るその刻」①
レッスルエンジェルス AWGP予選 第一試合 マイティ祐希子vsパンサー理沙子
「レッスルエンジェルス AWGP王座決定戦 予選」


《プロローグ 後楽園プラザ大会》


『コーナーポスト最上段から、天使が舞い降りたァ―ッ!! マイティ祐希子必殺の月面水爆ッ、ムーンサルトプレス!! 華麗に炸裂ゥッ――ッ!! カウントが進むッ・・・2・・・3ッ!! 入った! 入りましたッ、カウント3奪取ッ――ッ!! 新王者の誕生だッ~~~ッ!!』

 2000人を超す観衆で超満員札止めとなった会場に、歓声と悲鳴が轟いた。
 紙テープが舞い、興奮した観客が総立ちとなっている。彼らは今眼の前で起こった事態が、いかに歴史的な意味をもつのか、よく理解していた。
 
『NJPWヘビー級タッグ王座、新チャンピオンはマイティ祐希子・ボンバー来島のゴールデンペアッ! 長年王座を守ってきたパンサー理沙子・六角葉月組が敗れましたッ! そしてなんとパンサー理沙子は・・・日本人レスラーに初のフォール負けを喫しましたァ―ッ!』


 日本最大の女子プロレス団体・新日本女子プロレスの新春シリーズ最終戦。
 プロレス界の聖地とされる東京・後楽園プラザのメインイベントで起きたのは、単なる王座移動劇ではなかった。
 女帝パンサー理沙子が敗れたのだ。完全な3カウントを奪われて。
 シングル戦はもちろん、タッグであっても理沙子が日本人レスラーにフォール負けしたことなど、かつて一度もない。
 新人であった佐久間理沙子時代はともかく、パンサー理沙子とリングネームを変えてからは、敗戦自体が年に数回あるかという貴重さなのだ。日本人レスラー相手に、フォールやギブアップによる負けは記録にない。
 
 だからこそ、この敗北は歴史的事態であった。
 今日の結果は女帝の時代が終焉を迎え・・・急速な世代交代の波が押し寄せている事実を示している。
 
『これは大変なことになりました。今や新女の二大エースと呼ばれるまでに成長したマイティ祐希子が、このまま時代を掴むのかッ!? それとも・・・おっと、ここで祐希子がマイクを握ったぞ!?』

「やったァ~~ッ!!」

 偉業を成し遂げた次期トップ候補の最右翼は、底抜けに明るい声で喜びを爆発させた。
 
「みんな、やったよ!! みんなの応援のおかげで、ついに理沙子さんに勝てました! 今日はおいしいもの食べて祝勝会やっちゃうぞォ~!」

 会場のファンに向けて、飛び切りの笑顔を見せるマイティ祐希子。
 天真爛漫を絵に描いたようなはしゃぎぶりに、後楽園プラザが笑いに包まれる。計算なしで人を惹きつけてしまう魅力が、この新時代の旗手にはあった。
 
「ゆっこ、違うだろ。ここはもうちょっと、理沙子さんとの抗争を盛り上げるようにだな・・・」

 タッグパートーナーの来島が、傍まで近づきそっと呟く。
 恐らく、理沙子からのフォール勝ち、という重みを誰よりもわかっていないのが当の祐希子に違いなかった。女子レスラーとして必要なものを完璧といっていいほど備えている祐希子であるが、こうしたプロデュース力に関してはてんで疎い。
 
 敗れたパンサー理沙子が立ち上がり、くいと指で示してマイクを要求する。
 マイクを握る姿は、敗者とは思えぬほど気品と優雅に溢れていた。女帝の名は、ただ強さだけに由来するものではない。
 
「祐希子さん。見事でしたわ。今日の敗北は・・・このパンサー理沙子、しっかりと認めましょう」

 場内がどよめく。一部の女性ファンからは、泣き声にも似た悲鳴が漏れた。
 
「ただし。ただ一度の勝利で私を越えたと思われては・・・困りますわ。新女最強、ひいては日本マット界最強の看板は、それほど軽いものではありません」

 落ち着いた声であるにも関わらず、後楽園プラザは静まり返った。
 重い、響きだった。パンサー理沙子、いや、女帝と呼ばれるトップレスラーの貫録と威風が、言葉の端々に沁みついている。
 
「年明けから始まったこの新春シリーズ・・・新女のマットでは他団体の皆さんもまた、暴威を振るまれました。東京女子プロレス、太平洋プロレス・・・いまや新女のエースが日本のトップを名乗れる時代ではありません。そこにもほら、我こそが最強を謳う方がいらっしゃいますし」

 理沙子の指が示す先を見て、観衆が驚きの声をあげる。
 リングサイドの最前列。深くかぶったキャップで顏がわからなかったが・・・腕も脚も組んだ不遜な態度と、帽子からはみでたポニーテールは、マット通ならば見覚えある姿だった。
 
「WARSのッ! サンダー龍子ッ!! うわ、全然気付かなかった!?」

「・・・マイティ祐希子、貴様・・・一足先にパンサー越えを果たしたからといって、図に乗らない方がいいぞ」

 それまで微動だにしなかったポニーテールの女性が、ゆっくりと立ち上がる。
 脱いだキャップの下から露わになった視線は、新団体WARSのエースに相応しい、鋭いものであった。
 
「『一足先に』とは、ご自身も私に勝てるつもりでいらっしゃるのかしら?」

「勝てるつもり、じゃない。勝つ、だ。当然のように勝つさ。あんたがあたしから逃げなきゃね」

 リングの上と下。ヒョウ柄の女帝と龍を冠する他団体エースが、視線を交錯させる。
 優雅さを崩さぬまま睨み合ったパンサー理沙子は、やがて唇をわずかに綻ばせた。
 
「己の強さを信じるのも、トップレスラーの重要な資質。よろしいですわ、龍子さん。あなたにも真の最強を求める権利はおありのようです。『AWGP』・・・最強決定戦の参加を認めましょう」

「最強決定戦ッ!?」

 後楽園プラザに居合わせた全員が、理沙子の発言に驚愕の声をあげる。
 
「全ての団体、階級の垣根を取り払い、本気の闘いで日本マット界真の最強レスラーを決めるのですッ! 祐希子さん、龍子さん。最強を名乗りたければ、そこで頂点に立つことですわね。ただしッ! 闘いの場は『裏武闘館』ッ!! そこまで言えば、いかに過酷で、本当の意味での最強者を決める大会であるのか、わかりますね?」

 一瞬の静寂の後、この日一番の歓声が後楽園プラザを揺るがした。
 女帝パンサー理沙子から発せられた衝撃のニュースは、決して表沙汰にされることなく、ネットを通じて女子プロレス界の熱烈にして濃厚なファンの間に広がっていった。
 
 
 
 《プロローグ2、裏武闘館》
 
 
 後楽園プラザでの発表から2か月後。都内某所――。
 
 地図には載っていない場所に、その3000人規模の会場はあった。表向きは巨大な宗教施設。しかしその実態は・・・決して表舞台に出ることはない、アツく激しい闘いの聖地。
 『裏』という名称が示すように、そのリングの存在は決して公にされることはなかった。
 深い理解と情熱を認められた者だけが、観戦を許される、特別にして特殊な場。それが熱烈なマニアのみが知る、『裏武闘館』の存在だった。
 
 観衆は3000人といえども、彼らは通常興行の10倍にあたるチケット代を払っている。つまり、主催者が得る入場料は、3万人の会場と変わらない。
 加えて、当然のようにテレビ中継もネットでの動画配信も許されていないが・・・専属カメラで捉えた映像は、後日DVD作品として、信じられないような高価で取引されていた。会場でのグッズ販売も含め、その収益の巨大さはドーム大会をも上回る。
 
 新日本女子プロレスが今の社長に代わり、日本マット界が世界ナンバー1団体IWWFの傘下に入ったことで、行われるようになった大会だった。
 良識ある者からは、大会の是非を問う声はあとを断たない。しかし結果として潤沢な資金が女子レスリング界を隆盛させ、繁栄を呼んでいる以上は、現路線が変更されることはないだろう。
 
 なぜ、『裏武闘館』での闘いが、それほどまで異常な人気を呼ぶのか?
 
 理由は明快だった。あくまでプロレスのルールに則った・・・本当に真剣なバトルが展開されるからだ。
 
 そこには格もない。筋書きもない。美貌による人気も経歴による認知度も、通用しない。
 ただ、強い者が勝つ。
 シンプルにして究極の闘い。だからこそ、観衆は熱狂し、己の強さを信じるレスラーたちは出場を求め続けた。
 
 そして、プロレスのルールに純粋に従うことで、ただ強さを競うだけではない、異なる魅力と緊迫感がこの大会には生まれていた。
 例えば、相手の水着を破ろうとも反則にはならない。
 凶器を使用しようと、5秒以内なら認められる。
 目つぶしと噛みつき以外なら、どんな攻撃も許される。そう、それが・・・相手の股間に指を挿し入れるような攻撃であっても。
 
 だからこそ、定期的に行われる『裏武闘館』での興行は常に熱狂的ファンで埋め尽くされた。
 それが国内最強のレスラーを決定するとなれば、空前の興奮に迎えられるのは当然であっただろう。
 
 『AWGP』・・・新設された、日本マット界最強の女子レスラーに与えられる王座決定戦の当日。
 防音設備の行き届いた場内は、溢れかえった観衆のコールで、開始前から沸騰していた。
 
『・・・ただいまより、初代AWGP王座決定戦ッ!! 最強レスラー決定戦、予選試合をはじめますッ!!』

 怒号にも似た歓声で、リングアナウンサーの絶叫が掻き消される。
 AWGPという名称がIWGP・・・つまりInternational Wrestling Grand Prix からもじられているのは、プロレスファンなら誰もが気付くところだろう。レスリングのグランプリ、頂上決戦というわけだ。
 AWGPの『A』とは、アジアの略とも、オールの略とも、最強レスラーを意味するアテナの略とも、一番なのだからアルファベットの最初の字なのだとも・・・様々な説が飛び交っている。あるいは、『裏武闘館』に出場するレスラーのことをファンが隠語で「レッスルエンジェル」と呼んでいることにちなみ、エンジェルの『A』とする説もあった。
 実際には、それらすべてを勘案しての名称らしいが、真相はこの決定戦を仕掛けた新女の社長だけが知るところだ。
 
『決定戦の概要を、改めて皆様に説明申し上げます。我こそは最強! と名乗り出た勇者たちのなかから、実行委員会が厳選した32名ッ! 本日の予選ではそれら闘いの女神を32名から16名に減らし、さらに明日の一回戦で16名を8名にまで淘汰いたしますッ!!』

 どよめきと拍手と歓声が、高い天井にこだまする。
 
『最終日にて、勝ち抜いた8名による決勝トーナメントを開催ッ! 頂点に辿り着いたただひとりの女神が、真の最強レスラーの証である『AWGP』のタイトルを手に入れるのですッ!!』

 今回『裏武闘館』で行われる王座決定戦は、3日に渡る長丁場であった。
 今日明日の闘いまでは、どんな対戦になるのか、当日までわからないが、3日目の決勝トーナメントは組み合わせが予め決まる。むろん、相手に恵まれるかどうかの運も、最強者には求められよう。
 
『試合ルールは、裏武闘館正式ルールに従います。即ち、全ての闘いは時間無制限の1本勝負ッ! 勝敗は3カウントのフォール、ギブアップ、10カウントのノックアウトのみッ! レフェリーによるストップやTKOはありませんッ! 反則は5カウントまで、ですが殺傷能力が高いと判断された凶器の使用は、手にした時点で反則負けとなります。リングアウトはありませんが、あらゆる決着はリング上でのみ有効となります。ご注意ください』

 リング外でいくら暴れても構わないが、勝利のためにはリングに戻る必要があった。
 時間切れも、両者リングアウトもない完全決着ルール。それが『裏武闘館』での標準なのだ。
 反則による勝敗も規定はされているが、かつて一度も適用されたことはない。『表』での反則負けは演出の範囲内だが、ここでは単なる恥に過ぎない。このリングにあがるものが、いかに本気で勝利を求めているか、その事実に如実に現れていた。
 
『こちらの遠心力型抽選機のなかに、選ばれし32名の名前が書かれたボールが入っています。これより無作為に選ばれた2名が、予選第一試合を行いますッ!!』

 グルグルと横回転している透明な機械のなかに、32個のボールが踊っている。
 ボタンを押すたび、撹拌されたボールがひとつだけ落ちる仕組みとなっていた。ロトくじの当選などと同じ仕組みであった。誰の思惑も介在できない、完全な偶然による試合の組み合わせ。
 闘いの女神のみが決めることのできる、運命の抽選が始まる――。
 
 固唾を飲んで会場中が見守るなか、2つのボールが選ばれた。
 
『・・・発表いたしますッ!! AWGP王座決定戦、予選第一試合はッ・・・マイティ祐希子vs.パンサー理沙子ォッ!!』



 《予選第一試合 試合前、控室》
 
 
「よりによって、いきなり理沙子さんと当たるとはな。運命ってのは恐ろしいぜ」

「いいわよ、べふに。ろうせ、いつかは当たるころになるんらから」

「ってゆっこ! てめえ、試合前にカレー食ってんじゃねえ! しかも大盛り!?」

「え、まら3杯しか食べてないらよ? 腹が減っては・・・てね!」

 カレー大好きの祐希子がところ構わず舌鼓を打つのは慣れた光景だったが・・・まさかこの大一番を前にしても変わらないとは。
 同期入団の盟友として、長くともにいるボンバー来島も呆れざるを得なかった。いや、この豪胆さがあればこそ、新女に君臨するあの女帝に勝てるのかもしれない。
 
「・・・ま、なんにせよ、オレと当たらなかったのは正直ホッとしたぜ」

「私もよ。ここのルールで恵理とやるのは、ぶっちゃけ気が引けるもんね。いきなり当たんなくてよかったぁ~」

 親友をファーストネームで呼び、心底嬉しげに祐希子は笑った。
 似た感想を漏らすふたりだが、その中身が違っていることに来島は気付いていた。祐希子は純粋に闘いづらさを口にしているが、来島の場合は・・・
 マイティ祐希子は全てを備えたレスラーだった。
 天性の、しなやかでしたたかな肉体。飛び抜けた柔軟性はブリッジワークに生かされ、頑強がゆえに力技や打撃にも耐え抜く。喩えれば、分厚いゴムのごとき身体は、打っても曲げても簡単には壊れない。
 それでいて祐希子の肉体でもっとも特長的なのは、超人的なバネであった。高いジャンプから繰り出す飛び技は、世界的にみてもトップランクに入っていよう。
 
 アスリートとしての身体能力の高さのみでなく、その容貌は愛らしくスタイルも女性らしさに満ちている。
 パフォーマンスには華があり、根性も一級品とくれば・・・女子レスラーとしては完全無欠に近いかもしれなかった。
 
 そんな祐希子と完全決着ルールで闘って、果たして勝利することができるのか?
 勝てない、とは言わない。しかし・・・予選などで当たりたくないのは、恐らく全レスラー共通の認識であっただろう。
 
「ゆ、祐希子さん! 頑張ってくださいね! 相手はあの理沙子さんですけど・・・」

 やたらとガチガチに緊張しているハチマキ姿の少女は、後輩レスラーの菊池理宇だ。
 ジュニアに属する小柄な少女だが、祐希子を尊敬するあまり常にそばにいる。持ち前の元気さと突貫ファイトで、ヘビー級に勝利することも珍しくない期待のホープだ。
 
「うん! 心配しなくても大丈夫よ、菊池! 新しい時代の扉を、私が開けてみせるんだから!」

「気をつけてくださいね、今回の大会は・・・みんな眼の色が違いますから! 上ばっかり見てると、下の世代に足元をすくわれることも・・・」

 元気娘が心配する理由を、祐希子も来島もわかっていた。
 ゴールデンペアのふたりは、つい1か月前の試合でタッグ王座から転落していた。パンサー理沙子組から奪った、NJPWタッグのベルト。初防衛戦にして、次世代のエースと目される武藤めぐみ・結城千種組に完敗を喫したのだ。
 しかも、マイティ祐希子自身が、フォールを奪われて。
 武藤の必殺技フライングニールキックから千種のバックドロップ。そして祐希子のお株を奪うようなムーンサルトプレスが武藤によって放たれ・・・
 女帝パンサー理沙子を破った祐希子が、下の世代に敗れる波乱に場内は騒然となったのであった。
 
「なにしろ、この大会で優勝すれば、世代なんか一気に飛び越えてトップになれるもんね。武藤が気合い入れるのも当然かな」

 リング外の祐希子には珍しく、声に真剣みが混ざった。カレーを頬張っていたお気楽な様子は、すでに微塵もなくなっている。
 来島に至っては、明らかに不快な感情が顏に出ていた。
 敗戦後、武藤にかけられた屈辱的な言葉が忘れられない。ボンバー来島の本気の怒りを感じた新女のフロントが、武藤めぐみとのカードを『表』では組んでこなかったことが、問題の深さを感じさせる。
 
「・・・『来島さんと組んでいたことは、言い訳にならない』か。随分とナメてくれたもんだぜ。千種も無言であったにせよ、武藤の発言を否定しなかったってことは、ウチらに喧嘩を売るのは納得済みなんだろう」

「いいわ、プロレスラーなんだもの。それくらい跳ねっかえてる方がやりがいがあるわ」

 立ち上がったマイティ祐希子の表情は、闘う者の鋭さに満ちていた。
 
「女帝だろうが、新世代のホープだろうが、他団体のエースだろうが・・・ぜんぶまとめて飛び越えてみせるッ! 私はもっともっと、強くならなきゃいけないのッ!」



「意外だな。なんだか、嬉しそうじゃないか」

 控室を訪れたブレード上原は、パンサー理沙子の表情に驚きを隠せずにいた。
 試合直前だというのに、ヒョウ柄の女帝は柔らかな微笑を浮かべている。
 
「それは嬉しいわよ。もっとも早く潰したかったコに、初戦から当たれるんですもの」
 
 理沙子にとって上原は、昔からのライバルであり、すっかりベテランとなった今では数少ない同士であった。この年齢までトップを張り続けているのは、上原以外には六角葉月とフリー参戦のガルム小鳥遊くらいしか思いつかない。
 
「てっきり、マイティ祐希子とは決勝でやりたがっていると思っていたよ」

「決勝まで上がってくる保証はどこにもないわ。私はともかく、あのコはね。それほど今大会は、実力者が揃っている」

「理沙子お嬢様。まもなく、試合が始まります。ご準備をお願いいたします」

 女子プロレス界を代表するレジェンドの会話に、メイド姿の少女が口を挟む。
 
「ん? このメイドは・・・確か東京女子プロレスにいた・・・」

「そうよ、メイデン桜崎。私が引き抜いたの。せっかくの素質を、埋没させていたから・・・私の帝王学は、このコに授けようと思っているの」

 かつて視察した東京女子プロレスの興行を、上原は懸命に記憶の底から思い起こす。
 確かにメイドキャラのレスラーはいたが、パッとしない、地味な印象しか残っていなかった。その彼女を、わざわざ現役トップの女帝が引き抜くとは・・・なにか光るものがあったのだろうか。
 
「時間です。理沙子お嬢様」

「・・・上原さん。あなたとは長い付き合いだけど、『裏武闘館』での私のファイトは見せたことがなかったかしらね?」

「ああ。なにしろ、君は新女の看板を背負っているからね。こんな危険なリングにあがるのを、会社は許さないと聞いていたよ」

「ふふ、それは少し間違っているわね」

 妖艶な笑みを、ヒョウ柄の女帝は刻んでみせた。
 
「危険なのは私じゃないわ。相手が、よ。でもマイティ祐希子が相手なら・・・今日は久しぶりに、本物のパンサー理沙子を見せてあげることができそうね」



 《予選第一試合 パンサー理沙子vsマイティ祐希子》
 
 
『真の日本最強レスラーを決定するAWGPッ!! その予選第一試合において、いきなり決勝戦さながらのドリームマッチが実現しましたぁッ~~ッ!! 現日本マット界に君臨する女帝パンサー理沙子ッ、対!! 二大エースとして肩を並べるまでに成長した〝炎の戦士”マイティ祐希子ッ!! 世代交代を賭けた究極の一戦が、まもなく始まりますッ!!』

 実況アナウンサーに煽られるまでもなく、『裏武闘館』のボルテージは頂点に達していた。
 本日の入場料。最低価格8万円。だが、会場内のすべてのファンは、この一戦を目撃できるだけでチケット代のもとは取れたと感じていた。
 これから始まる闘いは、単なる最強決定戦の予選ではない。
 女子プロレスマットの史上に残る分岐点なのだ。
 
 時代を留めるか、パンサー理沙子。
 あるいは、時計の針を進めるか、マイティ祐希子。
 
 カア――ンン・・・
 
 高らかなゴングの音色が響き、歴史的一戦は始まった。
 露出の多いヒョウ柄のリングコスチュームを着た女帝と、ターコイズブルーのワンピース型水着に身を包んだ次代のエース。
 大歓声のなか、両者はリング中央で脚をとめて睨み合った。
 
『すごい視殺戦だァッ――ッ!! 互いに、容易に動こうとしません。いや、動けないッ! ここは『裏』のリング、一瞬の油断が命取りになるぞォ! 手探りで闘う甘さは、敗北を招くのですッ!』

 従来のプロレスの試合ならば、相手の力量を測るように関節の取り合いなどから始まるのが基本だ。細かな技で体力を削り、やがて疲弊した敵に徐々に大技を仕掛けていく・・・
 しかし、『裏武闘館』での試合では、一撃で仕留める必殺技が初弾より放たれるのも少なくなかった。
 殺らねば、殺られるのだ。目的はいい試合をすることではない、勝つこと。スタートと同時にフルスロットルで加速せねば、この過酷なリングは生き残れない。
 
 一発。あるいは一瞬で、勝負が決まるかもしれないため、観衆はわずかも気を緩めることができなかった。
 
「ふふ・・・いい眼をするようになったわね、祐希子さん」

 不意に女帝が相好を崩す。
 真っ赤なルージュを綻ばせ、色香を振り撒いて妖艶に笑う。
 
「ここが残酷なリングであることはわかっているけれど・・・だからこそ、スタートくらいは礼を尽くして始めたいわ」

 すっと理沙子は右手を伸ばす。次代のエースの握手を求めて。
 『表』でのタイトル戦ならばともかく、真剣勝負の『裏』の闘いにあっては、あまりに不似合いな要求だった。これから全力で潰しあうふたりが、スポーツマンシップの象徴ともいうべき握手をするのは似つかわしいか、否か。
 天真爛漫を体現したようなマイティ祐希子も、一瞬戸惑う。それが正常な反応だ。
 
「・・・はい! 遠慮することなく、私は理沙子さんを倒します。だから理沙子さんも、本気で私を潰しにきてください! 互いに正々堂々と・・・」

 しかし祐希子は、自らも右手を差し出し理沙子の手を強く握った。
 疑念はあった。不審にも思った。だが、求められた握手は拒否しない。そんな生き方をしてきたのが、マイティ祐希子というレスラーなのだ。
 真っ赤なルージュが吊り上がったのは、その時であった。
 
「嬉しいわ。この右手を握り返してくれて。こんな簡単に掛かってくれるとは思いませんでしたわ」

 笑みを浮かべた唇が急に尖る。
 パンサー理沙子の口から噴き出される、紫色の粉末。
 
『ああーっと!! ここでまさかッ・・・!? 女帝の口から毒霧噴射だァ――ッ!!』

「いィ”ッ!? うわああ”ッ、眼、眼がッ・・・!!」

 右手を封じられた祐希子は、噴きつけられる毒霧をまともに顔面に浴びた。
 刺すような痛みが両目に走る。とても視界を開けてなどいられない。
 握手をしたままの右手がグイと引かれ、崩れた体勢で理沙子の懐に寄せられる。
 
「あなたの甘さに感謝しますわ・・・!」

 パンサー理沙子の右腕が祐希子の首を抱える。同時に左手は、右の太ももに。
 首と脚とをロックし、祐希子の動きを封じたうえで、そのまま後方に投げ捨てる。
 
『でたァッ――ッ!! いきなりパンサー理沙子必殺の・・・キャプチュードッ!! 炸裂ゥッッ!!』

 『裏』のリング独特の硬いマットに、脳天から祐希子の肢体が突き刺さる。
 
「ぐあああ”ッ、があ”ッ・・・!! うわあああ”ッ~~ッ!!」

 頭頂から尾てい骨までを貫く衝撃に、ターコイズブルーの女神がもんどりうつ。
 反り投げ=スープレックスの一種であるキャプチュードだが、首と脚とを固めているがゆえ、受け身は何倍も難しい。その危険な投げが、板間のように硬いマットで炸裂したのだ。
 
「咄嗟に受け身をとったのは褒めてさしあげますわ。ですが」

 振り上げた右足で、祐希子の顏を全力で踏み潰す。
 
「ぷぎゅウ”ア”ッ!!」

「いずれにせよ、秒殺決着です。私に勝てるなどと、思い上がった性根を叩き直してあげましょう」

 マットに転がり、のたうち回る祐希子に対し、容赦なく蹴りを放っていく。
 トゥーキックで鳩尾を抉る。理沙子の爪先が半ばほども腹部に埋まり、祐希子の口から唾液が飛び散る。
 さらに背中をサッカーボールキック。
 前にまわって、丸い豊かな乳房を全力で蹴り叩く。
 
「うがあ”ッ、かはァッ・・・!! ぐうう”ッ――ッ!! ぶはア”ッ!!」

 蹴る。蹴る。蹴る。
 
 エレガントな佇まいを漂わせたまま、狂ったように女帝は蹴りまくる。台頭してきた若きライバルへの、憎悪を剥き出しにした強烈なキック。
 毒霧で視界を奪われたマイティ祐希子は、暗闇のなかで激痛に悶え踊った。常人ならば、一撃で病院送りにされる理沙子のキックだ。
 前からも、後ろからも。頭も腹部も。横たわる祐希子の肢体を破壊する勢いで、パンサー理沙子は蹴撃を浴びせた。
 
「どうしました!? 悶えているだけで、このパンサー理沙子を越えられるのですかッ!?」

 シュートの要領でフルスイングした右脚が、祐希子の愛らしい顏をズバンッ! と蹴り込む。
 鼻血を撒き散らし、ターコイズブルーの身体が吹っ飛んだ。視線の焦点が定まっていない。
 
「くああ”ッ!! ・・・ふぐッ、ぶゥ”ッ・・・!!」

 ヒクヒクと痙攣し、力無くマットに横たわるマイティ祐希子。
 その背後に回ったパンサー理沙子は、冷酷な微笑を浮かべて再び蹴りを・・・後頭部をサッカーボールに見立て、容赦なく右脚を振り抜く。
 
 ズパアアッ――ンンッ・・・!!
 
「ぶはア”ア”ッ――ッ!! ・・・ッッ!!」

 可憐な造りの容貌から、大量の飛沫が飛び散った。
 祐希子の右手がなにかを掴もうと高く伸び・・・空を掴んでパタリと倒れた。
 うつ伏せに倒れたマイティ祐希子は、『裏』のリングに這いつくばったまま動かなくなった。
 
「終わりましたわ。レフェリー、試合を止め・・・と、ここではTKOはありませんでしたね。10カウントを数えなさい」

 女帝に促され、レフェリーは祐希子がダウン状態であることを確認してカウントを始める。
 
「1・・・2・・・3・・・」

「勝負は決まったのに無意味なこと。とはいえ、私の勝利を噛み締めるこの10カウントは、いつ聴いても心地のよいものですわね」

 くるりと踵を返し、パンサー理沙子は『裏武闘館』の大観衆に手を振った。
 地を揺るがす、大歓声。
 その異様な観衆たちの昂りを、ヒョウ柄の女帝は圧倒的強さを見せつけた自分への讃歌であると勘違いした。
 
「ッ!?」

 違う。
 この観客たちの狂喜と興奮には・・・なにかある。
 胸騒ぎが、危険を報せていた。異変を察し、振り返る理沙子。
 マットに沈んだはずの祐希子が、己の目線より高みに飛翔していた。
 
『立ったァッ~~ッ!? マイティ祐希子、死なずッ!! 一気に・・・逆襲のドロップキックだァッ――ッ!!』

 宙空に広がるピンクの髪が、理沙子には一瞬、天使の羽に見えた。
 頭上から突き刺さる、ドロップキック。
 祐希子の揃えた両脚が、女優さながらの理沙子の顔面に直撃する。ヒョウ柄の肢体が、ロープ際まで吹き飛ばされる。
 
「ぐぶウ”ッ!! なッ・・・!!」

「こん・・・のォッ!! 卑怯なマネしてくれるじゃないッ!! もう完全に頭に来たわッ!」

 ゴシゴシと両手で毒霧を拭うと、祐希子はロープにもたれかかる理沙子にダッシュした。
 女帝の美貌には、明らかなショックの色が浮かんでいる。自慢の顏を足蹴にされたのも動揺を誘うが・・・そんなことより、あれほど蹴り応えがあったというのに、マイティ祐希子がすぐに復活したことが信じられない。
 
「甘いわ!」

 男子スプリンター顔負けのスピードで突進してくる祐希子。しかし、長年のキャリアを積んだ女帝には、まだ冷静さが残っている。
 ラリアットを沈んでかわすと、突っ込む祐希子を背中に乗せてそのまま後ろに投げ捨てた。
 
『う、うまいッ、パンサー理沙子! ショルダースルーでマイティ祐希子を奈落の底へとッ・・・!?』

 ロープ際に立った理沙子の背後はリング外。背後に投げられた祐希子の身体は、1mほどの落差がある場外へと転落する・・・はずだった。
 信じられない光景に、実況アナが言葉を詰まらせたのも、当然であったろう。
 
 ロープ越しに場外へと、高々と放り投げられた祐希子の身体。
 だが、その右手が伸びる。トップロープを握り掴む。ちょうど体操の鉄棒競技で、一度離したバーを再び掴むように。
 リング下へと落ちるはずの肢体が、ロープの反動を利して引き戻される。ロープの間から一直線にリング内へと撃ち返される身体は、さながら巨大な嚆矢。
 完全に油断をしていた、パンサー理沙子の背中へ。
 祐希子のロープ越しドロップキックが、バズーカを思わす威力で炸裂した。
 
 ドキャアアアアッ!!
 
「ごぶウ”ウ”ッ!!? ぶはアッ――ッ・・・ァァア”ッ!!」

『こ、これはたまらなァ~~いッ!! 強烈すぎるドロップキックで、女帝の身体が紙くずのように転がったァァッ!! リングの端から端へとひとり大陸横断敢行ゥッ――ッ!!』

「ぃよお――しッ!!」

 リング中央、拳を突き上げるマイティ祐希子に、大観衆が沸騰する。
 一気の逆転、さらには超人的身のこなしに、敵味方関係なく感情が揺さぶられるのも当然であった。
 
(これほどに成長するとはッ・・・恐ろしいコだわ、マイティ祐希子・・・! 真に驚くべきはあの身体能力だけじゃない。脳天から落とす投げでも、数十発の蹴りでも壊せない耐久力よッ!)

 立ち上がるパンサー理沙子の表情には、焦燥の色がわずかに浮かぶ。
 
(認めなさい。彼女の実力を認めるの。クレバーさこそがあなたの最大の武器でしょう、パンサー理沙子! 純粋なアスリートとしての能力は、祐希子の方が上をいくわ。ならば・・・弱点を徹底的に突きなさい!)

 自分自身に、理沙子は心の声を言い聞かせた。
 トップに君臨する者として、次代の挑戦者を力でねじ伏せたい欲はある。しかし・・・己の足元で育ったマイティ祐希子というレスラーは、いつの間にか想像以上の怪物に成長していた。
 
 腰を落とし、低く構える。アマレスのフリースタイルのような慎重な構え。
 華やかな女帝にはおよそ似つかわしくない姿勢だった。『表』のリングならば、絶対にパンサー理沙子が見せることはない構えであったろう。
 魅せる、という華を捨て、理沙子は地道な勝利への方策を選んだ。飛び技や打撃ではマイティ祐希子に及ばぬ以上、レスリング技術・・・つまりは投げと寝技に活路を求めるのがもっとも有効な戦術だった。
 
「いいわ。その闘い、受けてあげる!」

 祐希子も低く構える。リング中央で、アマレスと見紛うバックの取り合いを始める。
 殺伐とした『裏』のリングにあって、その高度なレスリング技術のぶつかり合いは、新鮮さと驚愕をもって観客に迎えられた。素早い動きと一瞬の隙を狙って関節を取ろうとする緊迫感は、見る者の視線と心を釘づけにする。
 
『うわわッ・・・! すごいッ! 速いッ! 地味と思われがちなグラウンドの攻防が、なんとエキサイティングなことかッ! 頂点に君臨する女神のレスリング技術は、かくも刺激的であることを我々は再確認していますッ! しかもこのリングでは、背後を取られれば即ち死に繋がることを忘れてはなりませんッ!』

「あちゃー。さすが理沙子さん、というか・・・やることがいやらしいぜ」

「マイティ祐希子を倒そうと思ったら、誰もが行き着く当然の策よ」

 選手入場口のゲートの裾。柱の影から戦況を見守るボンバー来島の横に、黒髪ボブカットのスレンダーなレスラーが並ぶ。
 一見すると少し背の高いOL、くらいに見えなくもないが、クールビューティーを絵に描いたような美貌に輝く眼光は修羅場をくぐった者のそれだった。
 
「南か。〝祐希子キラー”としても優勝候補の闘いぶりは気になるのかい? それともパンサー理沙子越えのための研究か?」

「あなたこそ、祐希子の盟友という割りにはやけに鋭い視線で観戦してるじゃない。いつまでも祐希子のタッグパートナーという立場はこりごりかしら、来島?」

 パンサー理沙子に次ぐ、新たな女王候補とされる新日本女子プロレス四天王。
 あらゆる才能を兼ね備えた万能戦士〝炎の戦士”マイティ祐希子。
 世界有数の財閥令嬢にして元全日本柔道王者〝最凶のお嬢様”ビューティ市ヶ谷。
 日本最高の関節技の名手と名高い〝関節のヴィーナス”南利美。
 鍛え抜かれた肉体から繰り出すパワー殺法がウリの〝爆裂ファイター”ボンバー来島。
 いずれも高い実力を誇る4人であるが、エース争いという面では、祐希子が頭ひとつ抜け出しつつあるというのが現状だった。事実、戦績においても人気においても、四天王のなかで一番なのがマイティ祐希子なのだ。
 そんな祐希子に対し、パンサー理沙子以外で唯一、シングル戦を勝ち越しているのが南利美であった。
 ゆえにファンの一部につけられた、もうひとつの異名が〝祐希子キラー”。
 
「完全無欠のレスラーと思われがちな祐希子の、唯一の弱点が関節技。特に締め落して、失神させるような技なら一瞬で勝利できるわ。理沙子さんがその弱点を狙うのは当然ね」

「お前がゆっこに3連勝なんかしちまうから、その弱点が全員に知れ渡ったんだぜ」

「祐希子は関節技をナメている。当然の報いよ」

 呟く南の切れ長の瞳が、鋭さを増す。
 
「『関節技は地味だから練習しない』・・・あの時言われた台詞は、私にとっては屈辱的だったわ。マイティ祐希子だけは、許すことができない」

「あー・・・そう言ってやるなって。ゆっこにも一応、考えってのがあってさ」

「知ったことじゃないわ。理沙子さんに締め落されて予選で消えれば、その考えも誤りと気付くでしょ」

 南の希望をリングの女神が聞き届けたのか。
 バックの取り合いを続けていたパンサー理沙子と祐希子だが、スピードは互角でも関節技の有無が差になって現れる。
 理沙子がグラウンド勝負に持ち込んだ本当の理由。それはスープレックスを放つためではなく、首を狙うためだった。
 
「あ!?」

 一瞬の隙をついて、背後に回った女帝は右腕を祐希子の首に絡ませた。
 スリーパーホールド。柔道でいうところの裸締め。
 頸動脈を締め、脳への血流を遮断するこの技は、完全に極まれば長くても10秒以内、早ければ数秒で意識を失わせる。レフェリーストップがない『裏』リングでは、失神即敗北とはならないが、事実上の終戦を意味するのは言うまでもない。
 
「・・・終わりね。案外、早かったわね」

 入場ゲートの裾で、吐き捨てるように南は言った。
 自分が開発したマイティ祐希子の攻略法により、他のレスラーが祐希子に勝つ・・・複雑な心境が、〝関節のヴィーナス”を苛立たせていた。
 
「これで・・・眠らせてあげますわ!」

 首に挿し込んだ右腕を、パンサー理沙子は全力で締めあげた。
 〝炎の戦士”にとって最大の天敵ともいうべき裸締め。いかなる身体能力の持ち主といえど、抗えない失神地獄が祐希子へと迫る。
 
「・・・南。お前、ゆっこのことをちょっと勘違いしてるぜ。アイツは関節技の怖さは、よーくわかっているさ」

 祐希子の指が、首と右腕との間に差し挟まれていることに理沙子は気付いた。
 かろうじて保たれる、頸動脈の血流。
 失神を逃れた祐希子は、もう一方の腕の肘を、背後に立つ理沙子の腹部に突き刺した。
 
「ぐほオ”オ”ッ!! ・・・オオ”・・・ッ!!」

「ゆっこは練習してるぜ。関節技の、防御についてはな。簡単に極められるほど、甘くはないってことだ」

 ずるりと首を引き抜いた祐希子は、パンサー理沙子のバックに回る。
 腰に両腕を回すや、美しい弧を描いて女帝の後頭部を硬いマットに反り投げる。
 
『いったあァッ――ッ!! プロレスの芸術作品ジャーマンスープレックスゥッ~~ッ!! 投げ技の第一人者パンサー理沙子に対して、先に人間橋を架けたのはマイティ祐希子の方だァッ!! これは屈辱ッ!!』

 カウントは2.5。
 
『返した! 返しましたッ、パンサー理沙子ッ!! しかしこれは、心身ともにダメージはデカ~~イッ!!』

「よーしッ、一気にいくよォーッ!!」

 マットに這うヒョウ柄の女帝を、髪を掴んで引きずり起こすマイティ祐希子。
 観衆を巻き込んで盛り上がる次代のエースと、脚をフラつかせる現女王。優雅さを失った理沙子の美貌には、動揺がはっきりと表情に刻まれている。
 
「南ィ、お前のせいでゆっこはまた一段と手強くなった、てわけだ。どうしてくれる?」

「・・・倒し甲斐があるってものよ。私なら、祐希子に関節技を極められるわ。それに」

 切れ長の瞳でリングを凝視する南は、リング外でのある動きに気付いていた。
 
「この試合、まだ荒れるわよ。勝ちあがるのは祐希子だと、思わないことね」

『うわあ~~ッ、今度は急角度のバックドロップッ!! パンサー理沙子を強烈な投げ技でマットに沈めるゥッ~~ッ! これはマイティ祐希子の、世代交代を象徴するアピールなのか!?』

 轟音を響かせ、理沙子の後頭部が再び硬いマットに叩き付けられる。
 大の字になって、ヒクヒクと四肢を震わせるパンサー理沙子。
 
(・・・極め技を封じられ・・・投げ技まで上をいくというのなら・・・私に勝てる術はないわ・・・)

「・・・もはや、これまでのようね・・・」

「・・・理沙子さん。私は約束通り、最後まで遠慮しません。全力であなたを乗り越えますッ!」

 コーナーポストを駆け登り、一瞬で祐希子はトップロープ最上段に立った。
 観客が総立ちとなる。プロレスファンなら誰もが知る、マイティ祐希子の必殺技ムーンサルトプレス。後方宙返りをして肉弾を叩き付ける大技は、その地から発射されるのだ。
 
「これでキメッ・・・!?」

 ピンク髪の天使が舞い降りようとした刹那、リングサイドに人影が駆け登る。
 メイド姿をした、そのセコンドレスラーは手にした白いパウダーをコーナーポスト上の祐希子の顏に投げつけた。
 
「きゃあッ!? 眼・・・眼がッ・・・!!」

『ああーっとッ!! これは・・・メイデン桜崎ッ!? 理沙子のセコンドについていたメイデンがなにか粉状のものを投げつけたァ!! これは深刻な反則ですッ!!』

「メイデンッ、お前反則にするぞ!? すぐリングから降りるんだ!」

「わかっておりますわ、レフェリー様。即座に私はこの場を去ります。ですが、乱入しかけているあの者も、リング内に入らぬよう止めるべきではないでしょうか?」

 桜崎の指差す方向に、リングサイドに登った祐希子のセコンド・・・菊池理宇が、真っ赤な顏で叫んでいる。
 
「ちょ、ちょっとレフェリー! 今のはひどい反則だよ! ってなんでこっちに来るの!?」

「菊池ッ、お前もリングに上がってくるんじゃない! 反則にするぞ!」

「いい”ィッ!? なんでこっちが! おかしいでしょ! ちゃんと見てよ、ヘボレフェリー!」

 レフェリーと菊池がモメるのは、まさにメイデン、そしてパンサー理沙子の思うツボであった。
 激しいブーイングのさなか、視界を閉ざされた祐希子の脚を掴み、メイデン桜崎はリング下へと飛び降りる。
 
 グキャアアアアッッ!!
 
「んあア”ア”ッ!!? ・・・アガア”ッ・・・!!」

 コーナー最上段から強引に落とされたマイティ祐希子は、ターコイズブルーの水着に包まれた股間を、思い切りポストの金具に打ち付けていた。
 秘部を強打する鈍痛。しかもパウダーの目潰しを浴びた祐希子にとっては、暗闇のなかで不意打ちを食らったも同然の痛撃。
 脳がスパークし、意識が遠くなりかかる。パクパクと口を開閉し、声にならない悶絶を必死に叫ぶ祐希子。
 
「よくやりましたわ、メイデン。それでこそ、私が見込んだ後継者です」

 コーナーポストに跨って痙攣する祐希子の背後に、復活した理沙子が立っていた。
 
「あなたとまともに闘うのは、これまでのようですわ、祐希子さん。あなたを眠らせるためには、あらゆる手段を駆使するしかないようですね」

 手首に巻いたバンテージをほどく理沙子。捻じりあわせたそれは、それなりに頑丈な紐となった。
 絞首刑のように、後ろから首に巻き付ける。一連の反則を、菊池理宇とやりあっているレフェリーは気付いていない。
 
「首吊りスリーパー・・・あなたに耐えられるかしら?」

 コーナーポストからずり降ろし、首に紐が巻き付けられた状態の祐希子を、ロープ越しに吊り下げる。
 ロープを挟み、理沙子は内。祐希子は外。リングは1mほどの高さに設置されているため、外に投げ出された祐希子の脚は地につくことなく空中をもがく。
 
「うぐう”ッ!? ぐううう”ゥ”ッ~~ッ!! ンアアア”ッ――ッ!!」

「ふふふ・・・さあ。このスリーパーからも脱出できるのかしら? 関節技に弱いマイティ祐希子さん」

 見た目はスリーパーホールドをかけているように見せているが、実際には紐を使った反則技。巻き付けたバンテージで、祐希子の気道も頸動脈も強烈に締められている。
 ほとんど殺人と紙一重。股間を打ち付けたダメージから、いまだ脳内に火花を散らしている祐希子には、脱出へと意識を向けることすらできない。
 さらにリング下のメイデン桜崎が、足掻く祐希子の両脚を掴む。
 全体重をかけ、絞首刑状態の祐希子を引き延ばす。ギリギリと、二人分の質量が細首に絡んだ紐へとかかる。
 
「ンン”ッ!! んぶウ”ウ”ッ!! くふッ・・・!! ア”ッ・・・ァ”ッ・・・!!」

 ブクブクと、大量の泡が祐希子の口から溢れ出た。
 ビクンッ! ビクンッ! と肢体が波打つ。一直線に伸ばされたグラマラスなボディは、観衆が見守るなか痙攣することしかできない。
 虚空を掻き毟っていた両手の指が、パタリと力無く倒れた。
 ぎゅるん、と大きなふたつの瞳が白く裏返る。
 
「・・・もう結構よ、メイデン。呆気ないものね、マイティ祐希子」

 ロープ越しに首を吊られたまま、祐希子の四肢がぶらぶらと脱力する。
 垂れ流れた涙と涎が、首に絡んだ理沙子の腕を、さらには己の胸元をドロドロに濡らしている。
 白目を剥いたまま、マイティ祐希子は動かなくなっていた。
 
『あッ・・・あ―ッと!! 落ちたッ・・・! マイティ祐希子、失神ッ――ッ!! パンサー理沙子のスリーパーホールドの前に完全失神だァッ~~ッ!!』

 ゴボゴボと無惨に泡を吹き続ける〝炎の戦士”の姿が、熱狂する観衆の前に晒された。
 
 
 
 《試合開始より 10分経過》
 
 
「あら、いけないわ。全ての決着はリングの中でのみ、というのが『裏武闘館』でのルールでしたわね」

 いつまで経っても勝利のゴングが鳴り響かないことに気付き、パンサー理沙子は失神した祐希子を解放した。
 ターコイズブルーの水着を汗と涎で濡らした女神が、ドシャリとリング下に落下する。
 首絞めスリーパーによって意識を失ったマイティ祐希子は、力無くリング下に敷かれたマットに崩れ落ちた。ヒクヒクと痙攣する肢体は、10カウントを数えても起き上がってはこないだろう。
 
 だが、リング外での決着は認められていないため、いかに祐希子が惨めに失神していても、パンサー理沙子の勝利にはならない。試合はまだ続いていた。
 下界に降臨するかのような優雅さで、理沙子はリング下に降り立った。
 
「ならば、徹底的にマイティ祐希子を潰すとしましょう。力の差を思い知らせてあげないとね」

 ピンクの髪を掴み、意識のない祐希子の顏を無理やり起こす。ぐったりと脱力した〝炎の戦士”はされるがままだった。
 バンテージを捻じり合わせて作った紐が、白い首に巻かれる。リング上のレフェリーからは、普通に首をフロントのヘッドロックで捉えたとしか見えないだろう。
 絡みついた紐で首を引き上げられる――。首吊り刑に遭ったばかりの祐希子にとって、その苦痛は馴染みあるものだった。失神していようとも、肉体が窒息の苦しみと咽喉の潰れる痛みを覚えている。
 
「ぅ”・・・ぐぅッ・・・!! ァ”ッ・・・かはァッ・・・!!」

「起きたようね、祐希子さん。でも、力はまるで入らないようだけど」

 紐で首を締め上げたまま、パンサー理沙子は祐希子の肢体を持ち上げる。
 垂直に高々と抱えるや・・・真後ろに倒れていく。場外で炸裂するブレーンバスター。
 リングサイドと観客とを隔てる鉄柵に、測ったように理沙子はマイティ祐希子の背中を落としていく。
 
 メギャアアアアッッ!! ガシャアアッ――ッンン!!
 
「うぶうウ”ウ”ゥ”ッ――ッ!! かふッ!! うあ”あ”あ”ッ・・・あ”ッ・・・アあ”ッ!!!」

 激しく鉄柵に背中を打ち付けた祐希子は、仰向けで弓なりになったまま、柵の上に乗り続けた。
 大きく広げた両脚がヒクヒクと痙攣している。背骨を強烈に打ち付け、脊髄の神経が損傷したのかもしれなかった。
 鉄柵に乗せられた格好の祐希子の股間は、ちょうど観衆の視線の高さと同じになった。ターコイズブルーの水着が隠す太ももの間には、縦筋の翳が淡く刻まれている。
 
「・・・これは・・・くしくも、見世物にはピッタリの高さのようですね」

 妖艶な微笑を浮かべ、パンサー理沙子は赤い舌で上唇を舐めた。
 しなやかな右手の指を、マイティ祐希子の股間に挿し込む。もう一方の手は、ボリューミィーに盛り上がった左の乳房へ。
 繊細な指先が、股間の秘裂をすりすりと摩擦する。左胸を丹念に揉み回す。
 祐希子の陰唇が生地越しに震えるのが、特Aリングサイド席の観衆にはわかった。熱狂する会場とは対照的に、周辺一帯のみが生唾を飲んで静まり返る。
 女帝が性戯をもって、年下の挑戦者を嬲っているのだ。その光景はあまりに煽情的すぎた。
 理沙子の指がもぞもぞと這うたびに、マイティ祐希子のグラマラスなボディはヒクン、ヒクンと反応した。呆気ないほどに。
 コスチュームを押し上げるほどに尖り立った乳首を、理沙子の指がクイと捻る。高圧電流を通電されたかのように、弓なりの祐希子が身を捻じらせて引き攣った。
 
「んっ・・・うぁ”・・・っ!! ぁはあ”っ・・・ア”ッ・・・!!」

「うふふ・・・随分とウブいのね、祐希子さん。まるで生娘のような反応だこと。運動神経・反射神経ともに鋭いあなたのカラダは、快感に対しても過敏なようね」

「・・・や、やめぇ・・・そん、なッ・・・あぁう”ッ!? そんな、とこォ・・・触らない・・・でぇ・・・」

 くちゅ・・・ぐじゅ、ぢゅぶ・・・ぷちゅ・・・
 
 股間を摩擦する指の隙間から、淫靡な音色が漏れ流れる。
 ターコイズブルーのリングコスチュームが、秘裂の周辺のみ濃い青色に変色していた。積み重なっていく快楽の疼きに、陰唇がだらしなく口を開けて涎を溢れさせている。
 頬をピンクに染めながら、マイティ祐希子は顏を振って悶えることしかできなかった。背中を鉄柵に叩き付けられたことで、痺れた肉体は未だ自由に動かない。
 
(・・・くや・・しい・・・悔しい、よ・・・こんな、屈辱・・・! でも・・・だめっ、おかしくなっちゃ・・・うぅ・・・!)

「ア”っ、あああ”ッ・・・!! やめぇ、ひゃあ”ッ・・・めぇッ~~っ!! やめ、れぇっ~~・・・っ!」

「こんなに乳首を尖らせて・・・ビクビクと感じているくせに、抵抗だけはし続けるのね。・・・やはりあなたのことは気に入りませんわ」

 人差し指と中指。細長い二本の指を揃えて、濡れそぼる肉壺のなか・・・陰部の奥へとコスチューム越しに挿入する。
 そのまま生地で膣襞を、ぞりぞりと擦る。感度の鋭すぎる敏感地帯で、容赦なく快楽を湧き起こす。
 
「んぎいい”ッ!? ふぎゃああ”あ”ッ~~~ッ!!! あはあ”ッ――ッ、やめてぇ”ぇ”ッ~~ッ!!」

「マイティ祐希子にこんな弱点があったとは思いませんでしたわ! このザマで『裏』のリングでトップを取ろうなんて・・・おこがましいですわね!」

 乳房を揉み潰し、秘裂をまさぐる。徹底的な集中愛撫に、柵上の祐希子は悶え踊る。
 水着の股間に沁みは広がり、半透明な雫が糸を引いて垂れていく。ガクガクと震えるたびに飛び散る粘液が、淫靡さをいや増していた。
 失神させられただけでなく、愛撫に感じてしまうメスの姿まで晒されて・・・天才レスラー・マイティ祐希子が受けたショックは、かつてない大きなものであった。
 
「あ”ッ・・・ああア”ッ~~ッ!! も、もうッ・・・ダメぇっ~~ッ!! お、お願い・・・これ以上はァ・・・イジらない、でッ・・・!!」

「祐希子さん。それはギブアップと受け取っていいのかしら?」

 パンサー理沙子の質問に、顏を上気させた祐希子は、何も言い返すことができなかった。
 今にも泣きそうに眉を曇らせ、切なげに視線を彷徨わせながらも、歯を食い縛って敗北の台詞だけは懸命に抑え込んでいる。
 
「いいわ。どうせ場外ではギブアップしても無効ですもの。それならば・・・」

 リング下に敷かれたマットを理沙子はめくりあげる。コンクリートの冷たい床が、剥き出しになって現れた。
 鉄柵の上から祐希子の身体を引き降ろすと、強引に立たせて首と右の太ももとをロックする。
 
『あ、ああッ!? こ、この態勢はまさか・・・ッ!! パンサー理沙子、必殺の投げを、硬いコンクリートの床に放つというのかァッ!?』

 悲鳴と歓声が『裏武闘館』を埋め尽くす。
 女帝の企みに気付き、必死で抵抗するマイティ祐希子。だが、失神の影響で意識が混濁しているところに、官能の愛撫を注がれて、全身は思うようには動いてくれない。
 
『う、うわわあああッ~~ッ!! 場外でッ! それも剥き出しのコンクリートにッ! パンサー理沙子のキャプチュードッ、炸裂ゥッ――ッ!!』

 ゴキャアアアアアッッ!!!
 
 祐希子の脳天が、灰色の床に激突する。
 うつ伏せに倒れたまま、ヒクヒクと痙攣する〝炎の戦士”。その頭部から、ドクドクと鮮血が広がっていく。
 
『う、動かないッ・・・!! 舌を出し、白目を剥いてッ・・・マイティ祐希子ッ、またも完全失神だァッ――ッ!! 女帝の無慈悲な断罪が下されたァッ~~ッ!!』

「1、2、3・・・とっくにフォール負けですわよ、祐希子さん。ルールに救われましたね」

 ぐったりと崩れた祐希子の肢体を、力づくで引きずり起こす。勝利のためにはリングに戻すしかないため、理沙子は通称エプロンと呼ばれるリングの縁・・・ロープ外にあたる部分に祐希子を乗せた。
 自らもリングインするヒョウ柄の女帝。
 だが、簡単には決着をつけにいかなかった。己の立場を脅かす存在となったマイティ祐希子に、更なる公開処刑を執行する。
 
「そら、起きなさい。あなたへの罰はまだ終わっていないのよ?」

 白い頬を往復でビンタし、祐希子の意識を無理やり引き戻す。
 
「・・・ァ”・・・あがァ”・・・ぅあ”あ”ッ・・・!!」

「ウフッ、カワイイ顏ね・・・。力の差を知って従順になったら、今度は本当の意味でちゃんと可愛がってあげますわ」
 
 引き起こした祐希子をロープ際に立たせる。場外キャプチュードのダメージで、ピンク髪の女神は立つのもやっとだ。
 トップロープを祐希子の首に引っ掛けるや、理沙子は背中を蹴って炎の戦士を再びリング下に落とした――。
 
『エッ、エグいッッ!! またもやマイティ祐希子が絞首刑に処せられたァッ――ッ!! 弱点である首、そして頸動脈を徹底して責め抜きますッ、パンサー理沙子ッ!!』

「うぐウウ”ウ”ッ――ッ!! ぐぶッ・・・!! くふッ、う”ぅ”ッ・・・!!」

 ビクッ!! ビクビクビクッ!! ビクンッ!!
 
 宙に浮いた祐希子の全身が悶える。ぐったりと垂れた四肢が痙攣する。
 ロープ際で首を吊られるのは先程と同じだが、決定的に違う点が2つあった。ひとつは積み重なったダメージがより深くなっていること。首に食い込むロープを、自力で外すことさえ祐希子はできなくなっている。
 もうひとつの違いは、理沙子の両手が自由である、という点だった。
 
「大観衆のファンの皆様に・・・もっと愉しんでいただかなくてはね」

 背後から両手を回した理沙子は、祐希子の豊かな乳房をムンズと鷲掴む。
 瑞々しい果実のような丸みと大きさ、そしてハリのあるバストだった。ターコイズブルーの水着の上からでもハッキリわかる美乳を、ぐにゃぐにゃと変形させて弄ぶ。
 次期エース候補最右翼であるマイティ祐希子の凌辱ショーが、『裏武闘館』のリングエプロンにて展開されていく。
 
「んはあ”っ・・・ああ”ッ~~ッ!! ア”ッ・・・!!」

「本当に敏感なカラダね・・・嬉しいわ、あなたにこんな大きな弱点があって」

「や”っ・・・め”っ・・・んあああ”あ”っ~~ぁ”!!」

 くりくりと人差し指が頂点を擦り回すと、コスチュームを押し上げ突起が屹立する。
 指先でツンツンと突き、上下左右に折り曲げる・・・ふたつの乳首をいいように遊ばれるたび、祐希子の唇から艶の混ざった嬌声が迸った。
 
「あ”っ!? んん”っ!! ・・・あはァ”っ!!」

(苦しッ、いッ!! 息ができなッ・・い・・・!! でも、でもぉ・・・こんな苦しいの、にッ・・・胸・・・がぁ・・・気持ちよく・・・ってぇ・・・!!)

「お顔がトロトロに蕩けてきたわね・・・窒息で昇天寸前なのかしら? それとも・・・私のテクニックに惚けるほど感じちゃってるの?」

 女優顔負けの美貌の持ち主だけに、理沙子が艶やかに笑うと、会場全体が濡れたようになった。
 さんざん祐希子のバストを嬲ると、リング下へと降りる。
 脱力した両脚を掴んで開き・・・愛蜜を垂らす祐希子の股間を開帳した。
 
「うふふ・・・恥ずかしい雫が垂れてるわよ・・・でもあなたには、もっと派手にスコールを降らせてもらいますわ」

 祐希子の左右の足首を握ったまま、理沙子は全体重を預けてぶらさがる。
 咽喉へ食い込むロープ。気道を潰され、祐希子の意識がさらに遠のく。
 だが、パンサー理沙子の真の目的はここからだった。
 祐希子の脚を掴んだまま、倒立する。体操選手が吊り輪で、十字倒立する格好。
 片脚を伸ばした理沙子は、沁みの滲んだ祐希子の股間に密着させると、激しく小刻みに揺らして震動させる。
 
『ああッ!? ああッ――と!! これは・・・電気あんまだァッ!? マイティ祐希子に襲いかかる、首吊り処刑&電気あんまァ――ッ!! これはたまりませんッ、マイティ祐希子ッ!! 秘部に送り込まれる快感と苦痛ッ、さらには窒息の三重苦だァッ~~ッ!!』

「ひぶう”ッ!? ふぇあア”ア”ッ・・・ふああア”ア”ッ――ッ!! ひぎゃあア”ア”ッ~~ッ!!!」

 ロープに首を吊られ、股間に震動を送られる祐希子の肢体が、壊れたようにビクついた。
 脱出など不能であった。息の出来ない苦しみと女壺を蕩かす官能電撃に、ただただ悶絶するしかない。
 
(イクッ!! イッチャうッ――ッ!! こんな、こんなのっ・・・耐えられぇ”ッ~~ッ!!)

「ひゃぶう”ウ”ッ~~ッ!! うはあア”ア”ッ――ぁんん”ッ!! ひゃめぇっ、ひゃあ”ッ・・・!! 耐えられにゃあ”ッ・・・い”ィィッ~~ッ!!」

「そうよ、あなたはオシマイよ、祐希子さん」

「あひゅッ!! はああ”ア”ッ・・・!! んあ”ア”ッ~~ッ!!」

「この態勢は私もキツイ・・・でも、だからといって技が解けるとは思わないことね。これでも女帝と呼ばれた女よ・・・訓練によって10分以上は維持できるわ。10分間、このまま我慢できるかしら?」

 10分どころか、1分でさえ地獄であることは、祐希子自身がわかっていた。
 絶望に飲み込まれ、最後の一線を守っていた防波堤が脆くも崩れていく・・・
 
「ア”ッ!! アアア”ッ!! ア”ッ!! ひゃめぇぇっ~~っ!! アツくてぇ”っ・・・トロけてぇ”っ・・・たまらないっ、のぉっ~~~ッ!!!」

 ぐるんと、瞳が裏返るのと同時であった。
 
 ぷしゅッ!! ・・・しゅしゅしゅッ・・・
 
『あッ!? あああッ・・・!!』

 理沙子の足の裏が密着する股間から、飛沫が噴き出す。
 失神したマイティ祐希子の肢体がガクーンと垂れ下がり、その弛緩とともに黄金の聖水は派手に噴射された。
 
 ぷしゃあッ・・・しゃあああッ――ッ・・・ボタボタボタッ・・・!!
 
『堕ち・・・たぁッ~~ッ!! そして昇天したァッ――ッ!! マイティ祐希子ッ、無惨に・・・失神&失禁だァッ~~ッ!!』

「・・・うふふ・・・とってもキレイよ・・・祐希子さん」

 股間の真下で聖水を浴びながら、理沙子は妖艶に笑ってみせた。
 ゴングは鳴ってはいない。しかし、誰が見ても勝敗は明らかだった。
 女帝の処刑の前に、炎の戦士は散ったのだ。
 
「本当に窒息死されたら、殺人になってしまいますね・・・そろそろ終わりにしましょう」

 リングに戻ったパンサー理沙子は、ヒクヒクと痙攣する祐希子をリング中央へと運ぶ。
 大歓声が『裏武闘館』を揺らしていた。凄惨極まりないシーンにも、ここの客は慣れているのだ。
 涙と汗と涎、そして愛蜜と小水とでドロドロに濡れて横たわるマイティ祐希子と、優雅な笑みを浮かべて見下ろすパンサー理沙子。
 新女の二枚看板に訪れた対照的な姿に、ファンは賞賛と興奮、そして一縷の望みを賭けた声援を飛ばし続けている。
 
「あら。まだ一部の熱心なあなたのファンは、逆転を信じているみたいですわね。これほど完膚なきまで潰されているというのに・・・可哀想ですけど、現実を教えてあげた方がいいかしら?」

 白目を剥く祐希子を蹴り転がし、大の字で横臥させる。
 動かない炎の戦士に跨るや、女帝は左右の頬をビンタで張った。
 バシーン! バチィッ! バシーンッ! 鋭い炸裂音が何度もこだまする。
 目覚めることない祐希子の顏を、今度はリングシューズで踏み潰す。グリグリと踏みにじる。
 さらに豊かな美乳を踏み・・・濡れた下腹部を踏み潰す。
 
「うふふ・・・アソコのなかがくちゅくちゅ鳴ってるわ・・・ファンの皆様、見えていますか? これほど屈辱的な扱いを受けても、マイティ祐希子はもう立ち上がれないのです」

「・・・くっそ、あのババア・・・ゆっこを嬲って愉しんでやがるッ! もう限界だぜ!」

 入場ゲートの裾で、ボンバー来島の怒号が響く。
 リングコスチュームに着替える前の、Tシャツ姿のままで来島は盟友を救うべく駆け出そうとした。
 
「待ちなさい、来島。さっき菊池がリングに入ろうとして、制止されたのを覚えていないの?」

「は? なに言ってやがるんだ、南ッ!? レフェリーの邪魔くらい、このオレがふっとばせないわけないだろう!」

 腕組みをした姿勢を崩さない、ボブカットのクール美女はかすかな溜め息を吐いた。
 
「わかってないのはあなたの方よ、来島。私が言ってるのは、そういう意味じゃないわ」

「ああ?」

「次にセコンドが乱入したら、祐希子の反則負けになると言っているのよ。あなたも・・・マイティ祐希子というレスラーを理解していないようね」

「このまま10カウントを聞いてもいいのですが・・・それでは新女の世代交代を賭けた闘いの決着としては、お客様もつまらないでしょうね」

 リングの上ではピンクの髪を掴んだ理沙子が、強引に祐希子を立たせようとしていた。
 意識は戻っても、次世代エース候補の脚はフラついている。頭部からは鮮血、股間部からは半透明な雫が滴り、二度も失神した身体に力は感じられない。
 
「ここは、私の必殺技で決着をつけてみせますわ」

 ヨロめく祐希子の右太ももを抱える。あとは首をロックして投げれば、必殺キャプチュードは完成する。
 パンサー理沙子が不用意に祐希子に近づいたのも仕方がなかった。
 
 グチャアアアアッッ!!
 
『あッ、ああ――ッとォッ!? 頭突きッ!! 頭突きだァッ~~ッ!! 死に体と思われたマイティ祐希子の・・・まさかの頭突きが女帝の鼻柱に叩き込まれたァッ~~ッ!!』

 ぶぷッ、と鼻血を撒き散らして理沙子が仰け反る。
 とっくに終わったと思われた、マイティ祐希子の突然の蘇生。
 不意を突かれた女帝の脳裏を占めたのは、驚きではなく怒りであった。
 
「理沙子さんは侮ったのよ。マイティ祐希子の回復力をね。体力の復活も超人的だけど、なによりもあの程度で折れるような心の持ち主じゃないわ」

 南利美がポツリと呟く。
 若手の頃から何度も対戦してきた〝関節のヴィーナス”は、マイティ祐希子の強さをもっとも知る人物なのかもしれなかった。
 
「この私のッ・・・鼻をッ!! マイティ祐希子ッ、あなたはッ!!」

 激情に駆られた女帝は、憤怒のままに技を出した。
 祐希子の顔面を蹴ろうと、右脚を突き出す。プロレスというより、ケンカの技。
 華麗な女帝が繰り出した不細工な前蹴りを、マイティ祐希子は易々とキャッチしていた。
 
「理沙子さん」

 白目を剥いていた大きな瞳は、強い光を戻して輝いていた。
 
「あなたがただ勝つことだけにこだわっていれば・・・あたしは何度も負けてました。こんなリングでも、プロとしてお客さんを意識するあなたに・・・感謝します」

 理沙子の右脚を掴んだまま、もう片方の手で首を捉える。ググッと引き寄せる。
 
「そんな理沙子さんだから・・・敢えて、この技を贈りたいッッ!!」

 首と脚とをロックし、マイティ祐希子はそのまま後方にヒョウ柄の女帝を反り投げた。
 
『これはァッ――ッ!! 掟破りの逆キャプチュードォォォッ~~~ッ!!! パンサー理沙子の必殺技が、理沙子自身に下されたッ――ッ!!』

 ズガアアアアッッ・・・ンンッ!!!
 
 妖艶な女帝が脳天から、硬いマットに突き刺さる。
 仰向けに倒れ、大の字で卒倒するパンサー理沙子。
 しかし、技を仕掛けたマイティ祐希子も、これまでのダメ―ジでマットに転がる。大きく胸を上下させ、荒い呼吸を繰り返す。
 
『両者ノックダウンッ――ッ!! カウントが進みますッ、・・・3・・・4・・・立ち上がるのはどっちだァ!? あるいは両者KOの幕切れなのかァッ~~ッ!?』

「見事ね」

 マットに横たわる理沙子は、息ひとつ切らさずに言葉を発した。
 
「あれだけの攻撃と辱めを受けてなお立ち上がる精神力。私の感情が昂るのを利用した反撃。そして、世代交代を象徴するように、私の必殺技を敢えて使う・・・素晴らしいわ、祐希子さん。あなたになら、新女の看板を任せても大丈夫と、心底から思えます」

 鼻血で赤く染まった美貌が、柔らかに微笑む。
 
「ですが。それでも、新女のトップに立つ以上は、私は負けるわけにはいかないのです」

 カウントが8まで進んだところで、パンサー理沙子は身を起こした。
 優雅で、気品溢れる姿だった。
 片方の膝を立てる。踏ん張って、立ち上がろうとする。
 微笑んだままの理沙子の視界に、フラフラとよろめきながら飛び込んでくる、マイティ祐希子の姿が映った。
 
『マイティ祐希子、立ッ・・・!! 走ッ・・・!! そのままッ!! 突っ込みッ!! 理沙子の膝ッ、踏み台にッ・・・!! シャイニングウィザードォォッ~~~ッ!!! 至近距離から理沙子の美貌へ、膝蹴りの閃光が炸裂したァァッ~~~ッ!!!』

 ドキャアアアッッ!!!

 相手の膝を踏み台にして駆け上がり、顔面に膝蹴りを撃ち込むアクロバティックな離れ業、シャイニングウィザード。
 跳躍を生かした飛び技と、打点の高い打撃が得意な祐希子にとって、この秘技は持って来いの隠れ必殺技であった。
 
『両者崩れ落ちるように・・・折り重なったッ!! 祐希子のフォールッ!!』

 1ッ・・・2ッ・・・
 
 上になった祐希子は、ただ乗っているだけであった。抑え込む力など、残っていない。
 瞳を固く閉じた理沙子の意識は、膝爆弾の直撃によって、完全に吹き飛ばされていた。
 
 それでもパンサー理沙子は、無意識のうちに肩を跳ね上げようとする。
 
 ・・・・・・3ッ!!
 
 浮き上がりかけた理沙子の右腕が、力無くマットに倒れた。
 
『決ッッ・・・着ゥゥッ~~~ッ!!! 3カウント入りましたァッ~~ッ!! 新日本女子プロレスの世代交代を賭けた闘いッ、そして最強決定戦AWGP予選第一試合がついに決着しましたァッ――ッ!! 勝ったのは・・・〝炎の戦士”マイティ祐希子ォッッ!!!』



  ○マイティ祐希子(22分38秒 シャイニングウィザード→体固め)パンサー理沙子●
  
  

 《試合後 リング上》


『女子プロレス界最強を決めるAWGP予選ッ・・・まず初めに勝ち抜いたのは、新日本女子プロレスの次世代エース、マイティ祐希子ですッ! いや、女帝パンサー理沙子を破った今・・・マイティ祐希子こそが、新女の顏といって過言ではないでしょうッ!!』

 興奮冷めやらぬ会場で、もっとも神妙な顔つきをしていたのは、勝者であるマイティ祐希子であった。
 天真爛漫で悩みとは無関係に見える彼女にも、自分が成し遂げた事態の大きさは理解できる。
 
「・・・うふふ・・・まるで敗者のような表情ね、祐希子さん」

 セコンドのメイデン桜崎が駆け寄ろうとするのを制し、パンサー理沙子は自力で立ち上がった。
 コーナーポストにもたれかかった祐希子の方が、むしろダメージは大きいのかもしれない。
 だが、最後の瞬間、上にいたのは紛れもなく祐希子の方だった。勝敗の結果について異を唱えるものは、誰もいない。
 気品さを失わぬ態度で、理沙子はマイクを要求した。
 
「皆様、ご覧になった通りです。私、パンサー理沙子は・・・マイティ祐希子に敗れました。本日このときをもって、パンサー理沙子は無期限の休業を致しますッ!」

 事実上の引退宣言に、場内が騒然とする。
 発言を撤回するよう求めるファンの叫びを、両手で静かに理沙子は制した。
 
「これからはこちらのマイティ祐希子を筆頭に、新しい世代がマット界を牽引してくれることでしょう。私は傍らから見守りたいと思います」

「なッ・・・理沙子さんッ・・・!?」

 マイクを返し、リングから降りようとするパンサー理沙子。
 ざわめく会場内を、ひとつの影が駆け抜けリング内へと滑り込む。
 
「今の発言ッ・・・認めるわけにはいきませんわッ!!」

『あッ・・・ああッ――と!! ここで乱入ッ・・・乱入です! リングに飛び込んだのは・・・〝史上最凶のお嬢様”ビューティ市ヶ谷だァッ~~ッ!!』

 金髪の縦ロールに、白のドレスを思わせる豪奢なリングコス。
 身長もバストサイズも祐希子よりワンサイズ大きな乱入者は、すでに戦闘態勢を整えた格好でリングにあがっていた。
 
「い、市ヶ谷ッ! この、また厄介なところに飛び込んできて!」

「お黙りなさいッ、この貧乳! 今日はあなたに用はありませんわッ! わたくしが気に入らないのは・・・そこの勝ち逃げを企てる卑怯者です!」

 市ヶ谷が睨み付ける視線の先には、因縁の宿敵であるマイティ祐希子ではなく、いまにもリングを降りようとするヒョウ柄の女帝がいた。
 
「祐希子ッ! あなたがフォール勝ちした相手に・・・わたくしが負けっぱなしなど、許されるわけがありませんわ! 戻りなさいッ、パンサー理沙子! 引退するのは、このわたくしにボロキレのように敗れた後になさいッ!」

「このッ・・・! なに無茶苦茶言ってるのよッ、ワガママ女! 試合したばかりの理沙子さんにッ・・・」

 脚をよろめかせながら、祐希子が元柔道日本王者の財閥令嬢に殴り掛かる。
 
「フンッ! 瀕死の寸胴女が・・・身をわきまえなさいッ!」

 一瞬で、ビューティ市ヶ谷は祐希子の背後に回っていた。
 175cmのサイズとは思えぬ素早さ、瞬発力。
 祐希子の首に右腕を回した市ヶ谷は、あっという間に意識を刈り取った。
 
『ス、スリーパーホールドォッ!! 一瞬にしてビューティ市ヶ谷、ライバルの祐希子を締め落しましたァッ~~ッ!!』

「オーホッホッホッ!! 日本最強の柔道選手だったわたくしにとって・・・こんなことは朝飯前ですわ! 『表』の試合のように甘くないのよ、貧乳ッ!!」

 ゴボゴボと泡を吹いて失神する祐希子を投げ捨てる市ヶ谷。崩れ落ちるターコイズブルーの女神が、顏からマットに激突する。
 
「・・・感心できないわね、市ヶ谷さん。祐希子さんは私との試合でボロボロ・・・明日も試合を控えるレスラーへの暴挙は、許されませんわ」

「オーッホッホッ、ようやくやる気になったようですわね、この臆病者めッ! さあ、かかってらっしゃい! 真の実力ナンバー1は誰か、わからせて差し上げますわァ!」

 突っ込んでくるパンサー理沙子に対し、市ヶ谷は右の回し蹴りを打ち込む。
 柔道出身の市ヶ谷は、無類のパワーと投げ、そして関節技には定評があるが、打撃は脅威ではなかった。
 待っていたかのように、右脚をキャッチした理沙子は、そのまま一気にキャプチュードの体勢へと入る。
 
「・・・愚かですわね。当然、限界の近いあなたがそうくるのは、予想済みですわ!」

 ドボボオオォォンンッッ!!
 
 市ヶ谷のボディブローが、理沙子の鳩尾に深々と突き刺さっていた。
 
「おぼオ”オ”ッ――ッ!! ・・・オアア”ッ、ア”ッ・・・!!」

「効くでしょう、わたくしの打撃は。圧倒的パワーがあれば、全ての攻撃が必殺技ですわ!」

 腹部を抑えた理沙子が、前に屈んで折れ曲がる。胃が破れたような激痛に、動きがピタリと止まる。
 上から覆いかぶさった市ヶ谷は、腰に両腕を回してクラッチすると、女帝を一気に頭上へ持ち上げた。
 
『これはビューティ市ヶ谷のッ・・・必殺ビューティーボムの態勢だァッ――ッ!! この高さから後頭部を硬いマットに叩きつけられたら、ひとたまりもなァ~~いッ!!』

「・・・甘いわね、市ヶ谷さん。試合を控えたあなたがそうくるのは、予想済みです」

 高々と掲げられた理沙子が、全身を暴れさせる。
 深いダメージを負った理沙子を一撃で仕留めようと、市ヶ谷が大技を繰り出してくるのはわかっていた。頭上に持ち上げられた不安定な態勢を狙い、腰に回された両手をふりほどく。
 そのまま市ヶ谷の背後に飛び降り、逆襲へ移ろうとするヒョウ柄の女帝。
 
 ガシイイィィッ!!
 
「・・・え?」

「とんだマヌケですわねッ、パンサー理沙子!! あなたがわたくしのビューティボム対策を講じているのは、とっくに予想済みですわァッ!!」

 市ヶ谷のクラッチから逃れたはずの理沙子は、両腕の腋の下を大きな掌に掴まれていた。
 ビューティボムから脱出できたのは・・・罠だったのだ。市ヶ谷の本当の狙いは、理沙子の左右の腋の下。
 
「あッ・・・あああッ!!」

「喰らいなさい。改良された、本当のビューティボム・・・ビューティ・ツイスター・ボムを」

 腋の下を掴まれ、両腕を開く格好となった理沙子は、さながら十字架に磔にされた受刑者のようであった。
 頭上高く理沙子を掲げたまま、市ヶ谷がグルグルと回転する。竜巻のように。
 ジャンプ一番、回転を加えた理沙子の肢体を、脳天から真っ逆さまにマットへと落とす――。
 
「ご覧あれッ!! これが本物のビューティボム・・・B.T.ボムですわァッ!!」

 グシャアアアアッッ――ッ!!!
 
「ごぶう”う”ッ――ッ・・・!!」

 人間がマットに叩き付けられたとは思えぬ轟音を響かせ、パンサー理沙子の後頭部がリングに突き刺さる。
 衝撃で、理沙子の口から鮮血が飛び散った。
 そのまま大の字で転がったヒョウ柄の女帝は、白目を剥き完全にKOされていた。
 
『暴挙ッ・・・これは暴挙ですッ!! ビューティ市ヶ谷、激闘を終えたばかりのマイティ祐希子とパンサー理沙子を続けざまに失神ノックアウトォッ――ッ!! 新女の二枚看板が、相次いでマットに転がったァッ~~ッ!!』

「オーッホッホッホッ・・・!! 最後まで立っていた者が、一番強いのですわッ・・・! いいザマですわ、パンサー理沙子ッ! 引退でも休業でも好きになさい! わたくしのパワーの前に、惨めに散った弱者に対してはなんの興味も・・・」

 ひとりリングの中央に立ち、無惨に失神した祐希子と理沙子を見下ろして、市ヶ谷は至悦の極みに達していた。
 高笑いを響かせる最凶令嬢は油断しきっていた。我が世の春を謳歌するがごとく、己に陶酔する。
 背後から伸びた二本の腕が、腰に回されクラッチされるまで、異変に気付かなかった。
 
「はあ?」

 ブオオオンンッッ!!
 
 市ヶ谷の長身が、凄まじい速度で背後に投げられる。
 芸術的な弧を描いて架けられる、人間橋。
 急角度で後頭部から落ちていった市ヶ谷は、油断とあいまり、一撃で意識を吹き飛ばされた。
 
『ああ”ッ・・・!? ああ――っと!! ジャーマンスープレックスが決まったァッ~~ッ!! 失神!! ビューティ市ヶ谷、一発のジャーマンでノックアウトですッ!! 背後から急襲したのはッ・・・〝ジャーマン娘”永原ちづるッ!!』

「やったァッ~~ッ!! 決まったァ!! えっと、最後まで立っていた者が勝ちってことは・・・あたしがナンバー1ってことでいいのかなッ!?」

 リングコスチューム姿で登場した永原ちづるは、ノビてしまった市ヶ谷を見下ろしガッツポーズをする。
 
『た、大変なことになりましたッ・・・そうです! 先程抽選で決まったAWGP予選、第二試合は・・・永原ちづるvsビューティ市ヶ谷ッ!! これまた波乱と遺恨の臭いが濃厚に漂ってまいりましたァ!! この最強決定戦、生き残るのは誰だァッ~~ッ!?』


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| レッスルエンジェルス | 01:24 | トラックバック:0コメント:5
コメント
やりたいネタがいくつかあるなかで、今回思い切って取り組んだ新作が・・・コレですw
以前からやってみたかったプロレスもの・・・それも知る人ぞ知るレッスルエンジェルスの世界についに手を出してしまいました(^^ゞ
リョナ要素・エッチ要素は含んでいますが、もちろんいつもほど過激ではありません。スポーツバトル?なのでw

一応レッスルエンジェルスはスーファミ時代から好きで、ゲームをあまりやらない(方だと思う)ボクにしては珍しくよく遊んだんですが・・・なにぶん、基本あまりやらないので詳しくない部分もあります。
キャラとか多少のずれがあった場合はご容赦いただければ幸いです・・・。実際のところ、扱ったことのないキャラもいますし。
ちなみにプロレス自体も昔は大好きだったんですが、もう何年もご無沙汰してまして・・・若干古い時代のプロレスになっているのはご愛敬ということでお願いします(^^ゞ

初めてやってみたタイプの小説ですが、どんな仕上がりになっているのか・・・不安と期待半々でお送りしたいと思いますw
2015.02.27 Fri 01:30 | URL | 草宗
更新お疲れ様です。

それにしても今回はびっくりしましたよ。
レッスルエンジェルスとは、懐かしい。
違うHPへ来ちゃったのか?、と一瞬思っちゃいましたw

という私はゲーム自体はやった事は無いのですが、
レッスルエンジェルスは大好きな作品です。
えっちなプロレス物が大好きでw、
こんな感じのレッスルエンジェルスの小説を探して読んでましたし、
当時発売していたエッチな女子プロレスの小説を買ってましたw
女の子たちがスポーツで真剣に戦いつつ、エッチにいじめられるとかも大好き♪

それで今回の作品ですが、その必死に探して読んでいた当時を思い起こさせる雰囲気いっぱいで、
楽しんだよ!!

プロローグのマイクパフォーマンスから熱い!!
これこそプロレスの醍醐味ですね。
試合前の控え室の会話や雰囲気も楽しめましたし、
また試合も良かった。
この真剣勝負、それぞれの技の応酬や逆転に次ぐ逆転や助っ人乱入も
面白くて。
後半のエロ突入もすんなりと入り込めましたよ。
マイティ祐希子にこんな弱点があるなんて、責めるしかないし最高だって!!
この責められている姿、堪能しましたw
最後は見事な逆転でしたが、この超回復力があるなら、
逆に祐希子をいっぱい責める事も出来るという事ですよねw

試合が終わった後のバトルロイヤル状態も、面白かった。
祐希子と理沙子の戦いを見て、みんな火が点いちゃったのかな?(笑)
それとプロレスならではの実況アナが、いい味を出してますよ。

もし出来る事なら、続きもよろしくお願いします!!
2015.03.11 Wed 21:47 | URL | さとや
>さとやさま
確かにいきなりのレッスルエンジェルスですから、ビックリされるのも無理はないですよね(^^ゞ

ボクもプロレスものはけっこう好きで、昔はリアルのプロレスもよく見に行ってましたw ジャイアント馬場さんの顏の大きさに驚いたり、キューティー鈴木や大向美智子の可愛さにニヤニヤしたりww
試合自体に興奮しますし、ちょっといかがわしい雰囲気があるところも面白いですよね(*´▽`*)

レッスルの小説はむか~し菊池理宇が主役のを読みましたが、残念ながら(^^ゞ、エロはほとんどなかったですね。
あとご存じかどうかわかりませんが、レディ・サンダーというシリーズがあって、あれはかなり興奮しました。ボクのなかでは、バトルエロ小説のなかでは一番の名作ですねw

アツいバトルあり、高いエンタメ性あり、エロも十分盛り込める、とあって女子プロレスものは前から興味あったんですが、ようやく形にできました。
リング外の人間ドラマもプロレスには欠かせない重要なファクターだと思うので、そこらもちゃんと描いていきたいですね。

マイティ祐希子ことゆっこは、スペック的にはほぼ完ぺきなスーパーウーマンですからねw ウルトラマンのカラータイマーのように、弱点を設定しないと、と思いまして(∩´∀`)∩
絞め技に弱いというのが定説なんで、それにプラスしてエッチな技にも・・・
仰るようにとても頑丈なんでw、責め甲斐があるキャラかと思いますw

実況アナは少しキン肉マンの影響でてますが、そこはご容赦いただきましてw

構想が大きくなりすぎて、全32名のトーナメントになってしまいましたが、なんとか完結できるよう頑張りたいと思いますw
2015.03.12 Thu 21:44 | URL | 草宗
最近プロレスは見てないですが、嫌いじゃないですね。
アントニオ猪木とハルクホーガン戦とか、TVのリアルタイムで見ていましたよ。
猪木の失神姿は、当時何が起こったのか理解できませんでしたけどねw

レディ・サンダーも、もちろん知っていますし、まだ持ってますよ。
連載していた雑誌も読んでいました。
多分捨ててないと思うから、探せば出てくるかもw
私もこの作品は女子プロレス小説の中では一番かな。
他では、「監獄の堕天使 バトルマーメイド」や「スコルピオンレディ」が好きですよ。

この作品も続きが読めるのか心配する必要も無く、この先長い間楽しめそうですね。
32人トーナメントとなると完結まで数年かかりそうですが、
チャンピオンベルトを巻くのは誰になるのか、楽しみにしていますね。


2015.03.12 Thu 22:57 | URL | さとや
>さとやさま
ボクも猪木ーホーガン戦は見てましたw あれは衝撃がありましたね~。

レディ・サンダーご存じでしたか! さすがですね~。ていうか、雑誌に連載されていたとは知りませんでした・・・
ご紹介いただいたバトルマーメイドやスコルピオンレディは、残念ながら未見なのですが、いろいろとあるものなんですね~。

32人トーナメントだと、優勝決まるまで31試合ありますからね・・・一か月に1試合やったとしても3年ちかくかかりますが(^^ゞ、なんとか盛り上げていきたいですねw
2015.03.14 Sat 00:49 | URL | 草宗
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