巨大変身ヒロインのオリジナル小説を書いている草宗の独り言をつぶやくブログです。

草宗の書斎

ファントムガール第十一話 7章―3 | main | またも問題が
ファントムガール第十一話 7章―2
 
 キィィィィ・・・ンンンッッ!!
 
 澄んだ調べは殺意と闘気渦巻く空間に、美しさすら伴って響いた。
 振り下ろされた銀色の右腕。跳ね返る、稲妻のソード。
 全てを断ち切るはずの電撃剣が、根元からポキリと折れて旋回しながら宙を舞う。
 
「うッッ?!!」

 ギャンジョーのもう片方の腕。鞭に変形していない、右の角槍。
 象牙の剣と言うべき白い腕は、迫る電磁ソードを頭上で受け止めていた。
 激突の刹那。折れるアリスの剣、傷ひとつつかぬギャンジョーの腕。
 必殺の武器とともに胸のなかで砕けた何かが、それまで途切れることなかった戦乙女の攻撃に空白の時を与える。
 
 有り得ない。
 鋼で出来た電磁ソードが腕で折られるなんて、有るわけがない!
 
 ニヤァ・・・
 
 天使の青い瞳に映る、醜く吊り上がるスカーフェイス。
 肘から先を失った右腕。無防備な体勢。圧倒的不利に陥った守護天使が見たものは、己の顔面に殺到する白く鋭利な槍先―――

 ドシュッッ!!
 
「クックックッ・・・」

 鋭利な腕槍の切っ先は、端整な美少女の顔面、眉間の中央に突き刺さっていた。
 ピシッ・・・銀色のマスクに亀裂が走る。こぼれ落ちる細かな欠片。
 アリスの美貌を貫かんとした凶刃の刺突は、必死に掴んだ左手によって止められていた。
 
「仮面かぶってやがったとはなァ。命拾いしたじゃねえか」

「くッ!!・・・ううッ・・・」

 黒い亀裂が蜘蛛の巣のごとく広がったマスクの奥から洩れる声は、焦燥と混乱に揺れていた。
 必殺の武器である電磁ソードが敗れた。いとも容易く。
 しかもサイボーグ天使の攻撃の中核を担う右腕は、折れた刃を肘先に残して失ってしまった。攻守両面での損失は計り知れない。死に直結するギャンジョーの一撃はなんとか防げたものの、はるかにパワーの劣る左腕のみでどこまで対応しきれるというのか。
 安堵することを許さぬ凶獣の追撃は、すぐに襲い掛かってきた。
 
「ぐうッ?! ぐぐ・・・ッ?!」

「なんだァ、それで力入れてるつもりかァ?! 弱ェ、弱ェ!! このまま潰してやるぜェッ」

 巨大なビルが顔面に落ちてきたかのようだった。
 凄まじい圧力。なんというパワー。
 槍腕をアリスに掴まれているのも構わず、ギャンジョーの尖突が更なる進軍を開始する。右腕一本の力で、全身を使って対抗する守護天使に圧し掛かっていく。
 ピキッ・・・ピシッ・・・亀裂の広がる音が、本当の顔のすぐ上から響いてくる。踏みつけられているかのような圧力に、首ごともげてしまいそう。背を反らせ、脚を開いて全パワーをフル回転させるアリス。体内に響くモーター音を嘲笑うように、背骨が軋み、筋肉が震え、足裏はズブズブと東京湾の底に埋まっていく。
 
「どうしたどうしたッ?! ファントムガールってのはこんなもんかァッ?! ああッ!」

「ぐッ・・・ぐううッ・・・くッ・・・」

「クックックッ・・・どこまで我慢できるのか、試してやるぜェェ~」

 胸を張った体勢で迫る槍先に耐えるしかないアリスの目の前に、鞭に変形した左の腕が突きつけられる。
 何が起こるか悟った瞬間、少女戦士の腹部に灼熱の痛みが沸きあがった。
 
「守護天使サマのSMショーだぜェェ!! ぎゃはははは!!」

 鞭が肉を叩く破裂音が、動けぬアリスの全身で炸裂する。
 顔を、胸を、背中を、太腿を・・・生肉を抉られるような激痛と火箸で擦られたような熱さに、哀願の叫びがアリスの咽喉元までこみあげる。銀色の肌に浮かび上がるミミズの這った跡は、数十秒と置かぬうちに全身を埋め尽くした。
 並の少女なら一発目で絶叫を迸らせ、十発と待たぬ間にショック死は免れまい。
 そんな激痛の嵐を、狂ったように凶獣は浴びせ続ける。少女戦士が回避不能なのをいいことに。人類の希望とされる美少女の命を剥いでいく快感、愉悦。ピクピクと引き攣りながらも、なんら槍腕への抵抗に翳りがない聖少女に、スカーフェイスの歪んだ感情が喜色に満たされていく。
 悲鳴を噛み締める奥歯のなかに、鉄の味が混ざり始める。
 痛い。失神しかけるほどの痛撃。いや、気を失うことすら許されぬ激痛。意地だけが支えるアリスの心に、しかしこのまま鞭打ちが続けば死は避けられない絶望が広がっていく。顔面への串刺しか、鞭によるショック死か。反撃不能な状況に、ただ戦乙女は生命の薄皮を剥がされていくしかない。
 
「・・・・・・ッ??」

 不意に、打鞭の嵐は過ぎ去っていった。
 束の間訪れる安堵。しかし、アリスの視界に飛び込んできたのは、更なる悲劇的な事態であった。
 
「面白えもん、見せてやるぜェェ」

「なッ?!! ううッッ・・・ま、まさかッ・・・?!」

「ヒャハハハハ!! そうだァ、オレ様のこの腕は、いろいろと変形できるスグレモノってわけよォッ!!」

 目の前に突き出された左腕、鞭だった白い肘先がゴワゴワと形を変えていく。
 二本に分かれた鋼鉄のアーム。ギザギザの刃がついたそれは、巨大なペンチの先であった。
 あっと思う間もなく、むっちりとした女神の柔肉に食いつく。細く締まったウエストへ。
 変形した巨大ペンチが挟み込んだのは、先程引き千切った傷跡も痛々しい、アリスの右脇腹であった。
 
「ぐあああッ?! うあああッッ―――ッッ!!!」

 ペキ。ベキベキッ、ボキイッッ!!
 女神の肋骨が砕ける乾いた音色が、夜の湾岸に渡っていく。
 アリスの脇腹に食い込んだペンチの牙は、躊躇なくその顎を閉じていた。骨の粉砕される響きに続いたのは、グシャリという脇腹の肉が潰れる音。小さな爆破が起こったように、天使の側面で鮮血が激しく飛び散る。
 
「うがあああッッ~~ッッッ!!! アアアアアッッ―――ッッ!!!」

「当然、こっちの腕も変形可能だぜェ」

 ギュイ―――ンンンン・・・
 
 銀色のマスクに突き立てられていた右の槍腕が、突如として回転を始める。
 もはや槍ではなく、ドリル。
 ビキビキと整った美貌に広がる亀裂が一気に増える。必死に抑えんとする掌の皮膚は無惨なまでに削られ、女神の血が白い凶器を紅に染める。ツインテール美少女の顔面に、突き立てられた回転ドリル・・・正視に堪えられぬ酷い地獄絵図が、東京湾を舞台に展開されている。
 
 バキバキッ・・・バキィッンンッ! ズリュリュリュリュッ!!
 
「うぎゃああああああああッッッ――――ッッッ!!!!」

 ブシュッッ!! 鮮血の噴水が、遥か上空に噴き上がる。
 その瞬間、粉々に砕けた銀色のマスクが、膝上まで浸かった周囲の海水に飛び散った。
 
 絶叫。生肉を削る音。噴出する鮮血。無機質なドリルの回転。
 
 マスクを砕いてなお、ギャンジョーの腕ドリルは暴虐を止めなかった。美女の名を捧げて恥じない麗しきアリスの美貌、その中央の眉間に鋭利なドリルが突き刺さる。回転する。頭蓋を抉る。凄まじい勢いで噴き出す血の量と、瞳を見開き恐怖に引き攣る表情。真に迫ったそれらの光景が、女神の顔面に穴を開けられていく悪夢が現実のものであることを教える。
 
“死ぬッ!・・・死ッ!・・・死死死・・・殺されッ・・・!!”

 グシャリッ・・・という鈍い音。
 折れた刃を肘先に残したままの右腕で、アリスは渾身の力で疵跡に歪んだ顔面を殴っていた。
 無我夢中。必死の抵抗。鋼鉄製の刃が微塵となって砕け散る。
 だがサイボーグのフルパワーを込めた一撃は、巌のごとき凶獣をかすかにではあるがぐらつかせた。
 わずかな緩み。窮地に陥りなりふり構わぬ戦乙女が、その隙を突く。
 ドリルとペンチの破壊二重奏から脱したツインテールの戦士は、一気に後方へと飛んで破壊獣から距離を置いた。
 
「ハアッ、ハアッ、うぐ・・・ううゥッ・・・」

 眉間と脇腹から噴き出す血で、オレンジの女神は無惨なまでに紅に染まっていた。
 右脇腹を抑え、細かく震えるファントムガール・アリス。顔面を朱で塗り潰された姿は凄惨ではあるものの、ダメージの度合い自体は、少し抉られただけで済んだ顔よりも完全に潰された脇腹の方が断然深い。破壊されたマスクの下からは、サイボーグ天使本来の素顔が露わになっている。
 美の黄金率で測ったような整った顔立ちは仮面と同じ、しかし鋼鉄に囲まれた機械製の左眼は、アリスが異端の女神であることを証明するように赤々と光を放っている。苦痛と狼狽と恐怖とで歪んだ美貌。勝ち気でクールな霧澤夕子が、そんな表情を浮かべるとは誰が想像したろう。身をもって体感した圧倒的暴力と、おぞましいまでの苦悶の予感。かつてない脅威を目の前にして、アリスは心の奥底が足元から凍えていくのを感じていた。
 
“な、なんて・・・奴・・・なの・・・・・・”

 塊となった血が咽喉奥にまで駆け登ってくる。
 たまらず海面に吐き捨てるアリス。銀のリングを嵌めた咽喉が、ゴブゴブと鳴っては上下に動く。尋常でない吐血の量が、巨大ペンチで潰された肉体の破損度を教える。
 
“ど、どうすればいい? どうすればこんな怪物に勝てるの?! 電磁ソードも、サイボーグのパワーも通用しない。力、スピード、耐久力・・・全てが私の遥か上をいくのがわかる。しかもこいつの残虐性はこれまでとは桁が違う。あのマヴェルさえ可愛く思えるほどの・・・。私が勝てる可能性なんて1%あるかどうか・・・”

 暗雲に呑み込まれていく装甲天使の瞳に、再び形を変えていく凶獣の角槍が映る。
 己の能力を愉しむかのような疵面獣。ドリルだった右手は、巨大な球体へとなっていた。光沢を持ったそれらが、鋼鉄のごとき硬度を誇るのは目にするだけでも計り知れる。
 ボーリング玉をグローブとして付けたヘビー級ボクサー。左手のペンチはそのままに、新たな変形を遂げたギャンジョーの姿もまた、破壊神とでも呼ぶべき禍々しさであった。両腕をいかなる形に変化させても、常に脅威と恐怖を孕んだ悪魔。仄見える疵面獣の意図が、アリスの脳裏に戦慄を渦巻かせる。
 
 わ、私を・・・解体するつもりなのッ?!!
 
 突撃してくる。一直線に。
 鋼鉄グローブを嵌めてからコンマの猶予も許さず、ギャンジョーが手負いの天使に一気に襲い掛かる。水飛沫が瀑布となって天を衝く。
 迎撃するアリスは、圧倒的力の差に動揺しつつも準備を怠ってはいなかった。
 左足の前蹴り。ギャンジョーという肉の戦車相手に、通常の攻撃はまるで無意味。右腕を失ったサイボーグ戦士が強力な打撃を放つには、このマシンの埋まった左足しかない。今できる最高の技を、カウンターとなって疵だらけの顔面に発射する。
 
 グシャリッッ!!
 
 突撃と迎撃が織り成す衝突音。
 銀のブーツがスカーフェイスにめり込む。巨体に似合わぬ猛スピードとサイボーグのパワーが掛け合わさった衝撃が、まともにギャンジョーの顔面を貫く。
 
「ッッなッッ?!!」

 揺らぎすらしない茶褐色の凶獣。
 ニタリと吊り上がるスカーフェイス。その瞬間、アリスに残された反撃の手段は消滅した。
 
 カシュッッ!!
 
 鋼鉄の球体が顎を砕く音は、想いの外に軽かった。
 衝き上がるギャンジョーのアッパー。細い顎を打ち抜かれた端整な美貌が、一瞬縦に潰れる。霧となった鮮血が顔のあちこちから一斉に噴き出す。
 破壊神の一撃をまともに浴びた無惨な天使。
 銀とオレンジの肢体がギュルギュルと回転しながら天高く舞う。血染めのファントムガール・アリス。瞳の青と赤を消した女神が、成す術なく舌なめずりする凶獣の下へ落ちていく。
 鉄球の豪腕ブローは、アリスの腰から背骨にかけてを打ち砕いた。
 下半身のプロテクターが粉々に飛び散る。軋む背骨。再び空を舞う戦乙女の軌道に沿って、濃厚な吐血が糸を引いて描かれる。極道世界で恐れられる怪物。残虐非道の悪魔の打撃を耐えるには、アリスの身体は小柄に過ぎた。暴虐に晒された哀れな天使は、受け身を取ることなく頭から東京湾の浅瀬に落ちる。
 守護天使の幕引きを象徴するように、巨大な水飛沫が立ち起こった。
 
 沈んでいく、ファントムガール・アリスが。
 うつ伏せで海面に没した銀の肢体から、じっくりと朱色が滲んでいく。ゆらゆらと漂う赤髪のツインテール。取り外した右腕、折られた電磁ソード、破壊されたマスクに、砕かれたプロテクター・・・アリスの苦悶を証明する跡が、戦地となった海にばら撒かれている。
 ブクブクと気泡がツインテールの周囲に沸き始めたのは、しばらく後のことだった。
 
「おっと、もっとゆっくりしてな。たらふく水飲みながらよォ~」

 巨大ペンチがツインテールの後頭部をガッチリと挟む。アリスの美貌を海底に押し付ける。
 酸欠の苦しみに狂ったように暴れる銀とオレンジの手足。跳ね飛ぶ水も必死の抵抗も、ギャンジョーはなんら意に介していなかった。まるで次元の違う腕力の差。溺死させられる苦しさに、クールな天使は殺虫剤を浴びた虫のように悶え暴れるしかない。
 緩慢になっていく、アリスの全身。
 5分間、水中に没し続けた女神の身体はついに動かなくなる。
 見計らったように左腕を引き上げたギャンジョーは、一気に守護天使を空中に吊り上げていた。
 
「うめえだろォ? 東京湾の海の味は」

「・・・ゴボオッ!! ゲホゲホッッ・・・ゴブウッッ!!」

「視線が虚ろだぜェ~、正義のヒロインさんよォ! 目ェ、覚まさせてやる」

 ズルズルとアリスを引き摺った凶獣は、船の波止場、湾岸に近付く。為すがままのアリス。ギザギザのペンチの刃が、こめかみを締め付ける痛み。少女戦士に抵抗する術などない。
 コンクリートの大地に、アリスの顔面は叩きつけられていた。
 衝撃に再び意識が遠のきかける。新たな鮮血が顔を染めていくのがわかる。だが、本当の悲劇がアリスを襲うのはこの後。
 巨大鉄球のパンチが、女神の後頭部に振り落とされる。
 コンクリの潰れる音と、肉の潰れる音。そして、花火のごとく飛び散る血潮。
 ビクンッ! ビクンッ!と大きく痙攣したアリスの手足が、ぐったりと脱力していく。
 ギャリッ! ギャギャギャギャギャッッ!!
 力の欠片すら残していない戦乙女の顔面を、岸の大地に埋没させたまま凶獣が滑らせる。擦り付ける。
 天使の血で描かれた、紅い一直線。
 戦女神と怪獣との闘いであったものは、もはやヤクザによる女子高生へのリンチと化していた。
 
「わかってるんだぜェ~?! てめえらファントムガールのゴキブリ並みの生命力はよォ。この程度じゃくたばらねえってなァッ!!」

 ツインテールをペンチに挟まれたまま、宙吊りになるオレンジの女神。一分の力すらなく、だらりと垂れ下がった四肢。
 鉄球ブローが瑞々しい乙女のボディを滅茶苦茶に殴りつける。
 
 ドボオッッ!! ゴスッッ!! ボギイッッ!! グシャアッッ!! グボオッッ!!・・・
 
「へぶうッッ!! あぐッッ!! ィィぐぐッッ・・・ガハアァァ――ッッ!!!」

“た、助けッッ・・・死ッ・・・潰されェッッ・・・ぐふッッ・・・壊されッッ・・・るッッ・・・”

 ヴィーン・・・ヴィーン・・・ヴィーン・・・
 辛うじて残された胸のプロテクター。黄金の鎧の奥から、エナジー・クリスタルの点滅音が洩れ流れる。触手怪物たちとの死闘、そして疵面獣によるリンチ・・・消耗し切ったアリスの生命に、限界の時が刻々と迫っている。 
「ギャハハハ! そろそろ終わりみてえだなァ?! この程度で守護天使とは呆れたもんだぜェッ!」

「ゴブッッ・・・くああッ・・・くッ・・・ううゥ・・・」

「あの女忍者の方が、まだ歯応えあったってもんだ」

 口調に含まれたドス黒い嘲り、それはアリスの背筋に強烈な悪寒を走らせるものであった。
 感じる、途方も無い嫌悪の予感を。
 忍者・・・五十嵐里美の身にでも、何かあったというのか? 苦悶の最中、やけに冴えた頭が純粋な疑問を口にさせていた。
 
「お、女忍者・・・?・・・な、なにを・・・した・・・」

「相楽魅紀とかいうネズミを一匹、バラしただけだ。首と手足を切り取ってやったら、いいダルマのオブジェになりやがったぜェッ! ギャハハハハハ!」

 相楽魅紀――特殊国家保安部隊の隊員にして、里美同様伊賀の忍びの血を引く末裔。
 以前ともに闘ったこともある野生的な女性は、使命に忠実で危険すら省みない純粋な戦士であった。年下の里美に対する、眩しいまでの忠誠。『エデン』とは融合していなくても、同士のような存在であった彼女をこの疵面獣は死に至らしめたというのか。
 鳩尾の付近で、青い炎が燃え上がる。
 ファントムガールとしての運命を受け入れて以来、いつかこんな日が来るのはわかっていた。誰かが犠牲者になる日。その誰かが自分であるかもしれない日。とっくに覚悟は決めていたのに、現実はこんなにも辛いなんて。こんなにも悔しいなんて――。
 
「きッ・・・貴様ッ・・・ッッ!!」

 迸る、怒りの叫び。アリスの四肢に反撃の力が蘇る。
 だが。
 
 グチャアアアッッ!!!
 
「それがどうしたァッ~、ああァッ?!!」

 鉄球グローブのストレートパンチが、装甲天使の顔面を打ち砕いていた。
 
「わかるかッ、クソアマ!! てめえが怒ろうが叫ぼうが、このギャンジョー様の足元にも及ばねえッ!! ここがファントムガール・アリスの墓場になるんじゃッッ!!」

 右腕が引かれる。鉄球と血塗れの顔面との間に、ねっとりとした紅の糸が幾条も橋を架ける。ビクビクと断末魔に震えるアリス。朱色の墨汁を塗りたくったような無惨な顔のなかで、青と赤の瞳だけが強く光を放っている。もうどれだけの破壊をその身に受けてきたか。端整な容貌を潰されての死、美少女の死に様としてこれ以上ない残酷なトドメが、孤立無援の天使に迫る。
 放たれる、鋼鉄の顔面ストレート。
 鈍く硬質な響きとともに、女神の聖なる血がドバッと咲き乱れる。
 
 ハンマーのごとき凶獣の一撃を、アリスは己の額で受け切っていた。
 噴き出す鮮血でツインテールがさらに真紅に染まる。衝撃であらゆる体内の傷が開く。ダメージは決して軽くは無い、しかしアリスは生きていた。人間の前頭部は想像以上に固いもの。それでも霧澤夕子ならば頭蓋を割られていただろうが、ファントムガール・アリスであるが故、戦乙女は無謀な方法で凶撃を耐え切ってみせたのだ。
 
 間が空く。両者ともに動けぬ時間が。
 脳震盪を起こした女神と、事態を呑み込めぬ凶獣。覚悟を決めていた分、先に動けたのは正義の側――
 
「ヒート・キャノンッッッ!!!」

 ソードの破片を残した右肘がポロリと外れる。奥から現れたのは、灼熱にたぎる砲弾を装填済みの砲口。
 抉られ、潰され、折られ、砕かれ・・・ありとあらゆる破壊の暴虐に削られつつ、アリスは最期の望みを決して諦めはしなかった。超高温の砲弾、ヒート・キャノン。ファントムガール・アリス最大の必殺技。発熱までの長き時間、恐らく唯一ギャンジョーに通用するこの技が完成するまで、装甲天使は凄惨なリンチを耐え忍び続けてきた。
 実力は明らかに敵が上。
 アリスが勝つ1%、かすかな勝機はこの方法でしか得ることはできまい。ズタボロにやられた挙句の、油断を突いた至高の一撃。危険な肉弾戦を挑んだのも、全てはこの時のためであった。冷静な分析と我が身を犠牲にする精神力の結集が、逆転の灼熱弾となって今放たれる。
 
 囚われた七菜江、壮絶に散った魅紀。
 無念の何分の一かを、私が晴らしてみせる――。
 
 夜の東京湾に輝く、灼熱の小太陽再び。
 至近距離から発射されたオレンジの砲弾が、激しい爆音と熱風とを炸裂させた。

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| ファントムガール | 16:24 | トラックバック:0コメント:8
コメント
久々の更新となりました。ファントムの続きです。
最近はサイトの引っ越しなどの話ばかりでしたからねえ。なんだかすごく久しぶりの気がします。

例によって話はどんどん長くなっちゃってますが・・・当初の予定よりも戦闘シーンが随分濃くなってます。さらっと流す予定のシーンも書き込んじゃってますので。
この調子で最終決戦になったらどうなることやら・・・(-_-;)

皆さんが読んで飽きたり、ぐったりしないことを祈っています。
2008.05.22 Thu 16:28 | URL | 草宗
グッタリもしますよ~、息つく間も無く読んぢゃいました。
色々なトラブルへの鬱積が爆発した様な濃厚さでした。
少し休んでくださいね、と言いたい所ではありますが、続きも読みた~い!
2008.05.22 Thu 19:37 | URL | たけじゅん
>たけじゅんさま

長い間休んでいただけに、その分濃厚になったかなという感じですw
一気に読んでもらえるのは作者としては凄くうれしいです♪ 常に目が離せない展開が理想ですので。おかげでモチベーションもあがりますw
暑くなってくるとどうしてもペースダウンしちゃいますから、いまのうちにできる限り頑張りたいですね。
2008.05.23 Fri 00:16 | URL | 草宗
おおおおお
いつにも増して内容が濃いですね!
アリスもボロボロですね。
うーん、まだヒートキャノンがあったか。

うちのサイボーグ娘は満足に反撃もできずに轟沈しましたが、アリスには術を尽くして・・・・あとは草宗さんにお任せします。

では~
2008.05.23 Fri 09:51 | URL | にゃん
> にゃんさま

時間がかかった分、当社比10%アップほどの内容になってますw バトルは油断するとつい長めになっちゃいますね。
ハガネ&タマガネの壮絶な散り際ほどのものができるかはわかりませんが、いろいろと考えていることはありますので・・・ほんのすこ~しだけ期待しておいてもらえればw

任された分は、なんとか頑張ります♪
2008.05.23 Fri 21:13 | URL | 草宗
今回のバトル、久々の更新だけ有って凄かったですね。
中でも顔面ドリル攻撃の凄さと言ったら・・・
流石殺し屋だけあって、ギャンジョーの逆襲はハンパじゃなかったね。
全編ハラハラヒヤヒヤの連続で私も読み終わった時には、
私グッタリ気味でしたが、面白くって一気に読んじゃったよ。
読み応えがあったな~
この調子で次回もよろしくお願いしますね。
アリスの逆襲の結果が、早く読みたいよ~
2008.05.25 Sun 15:18 | URL | さとや
>さとやさま

いやあー、ありがとうございます♪
そのような感想をいただけるのは、ホントに作者冥利に尽きますよ。素直に凄く嬉しいです。
さとやさまのような感想をひとりでも多くの方に持っていただけるのが、ボクのなによりの目標とやりがいなので・・・

おかげさまでまたモチベーションがあがりましたw
次回もまた喜んでもらえるよう頑張ります~♪
2008.05.26 Mon 00:45 | URL | 草宗
さとやさま・にゃんさま

そうですよね、ナナのスラムショットはゲドゥーに片手であしらわれてるので、アリスのヒートキャノンがどうなるのか!?あらぬ想像が膨らんぢゃいますよね。
期待が高じて1日三回朝昼晩と、このブログを確認する毎日なので、草宗先生、よろしくお願いします(^^ゞ
2008.05.26 Mon 22:03 | URL | たけじゅん
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