4、百識と慧眼
「くッ・・・妖化屍が・・・2体とは・・・」
緊張した父親の声が流れる。狼狽の色を、濃く反映した声が。
新たに崖上から出現した刺客。その姿は漆黒のローブに隠れていても、並の妖魔でないことは漂う雰囲気が教えていた。普通の人間でここまで感じるならば、オメガスレイヤーの天音はもっと察知していよう。
元々、妖化屍は破妖師の間で要警戒の存在だった。歴史を紐解けば、何十人、何百人という単位で犠牲者を生み出している。ただのリビングデッドであるケガレとは、危険レベルが違うのだ。
そのなかで、最上位の破妖師であるオメガスレイヤーは滅多に敗れることなどないが・・・妖化屍が2体揃う、などという事案はかつて聞いたことがない。強い自我を持つ妖化屍は、協調性の欠片もないからだ。
そんな連中がタッグを組む。それだけでも不気味このうえないのに・・・新たな刺客は正体が見えぬというのが、余計に不安を駆り立てる。かろうじて、声で男だと判明するくらいだ。
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