巨大変身ヒロインのオリジナル小説を書いている草宗の独り言をつぶやくブログです。

草宗の書斎

キュアラブリー対アンラブリー

「パンチングパーンチっ!」

 密着していた拳が、ピンクの光を纏って膨らむ。
 膨らむ、というような生易しい表現では収まらなかった。巨大化、といっていい。
 ファントムは驚いていた。ボディブローを放ってきた拳で、そのまま光線技につなげるとは。着眼のセンスも非凡だが、容赦のなさもまた、とても並の少女のものとは思えない。
 内心で、恐怖と焦りがほのかに芽生える。圧倒できると思っていた、キュアラブリーとの闘い。愛の名を持つプリキュアが、まさかこれほどまでに強くなっているとは・・・
 己の体長ほどの大きさになったピンクの拳を、プリキュアハンター・ファントムは抱え込むので精一杯だった。
 
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五十嵐里美編 ~桜の夜~
 「こうしてふたりきりになるのも、久しぶりだな」

 工藤吼介の言葉に、五十嵐里美は薄く笑ってみせた。

 柔らかな風の吹く、夜だった。
 先日までの冬の寒さは嘘のように消え去り、まどろむ空気にもあたたかみがある。行き交う人々の誰もが、確かな春の息吹を感じる夜。まん丸にほど近い黄色の月が、世界を青白く浮き上がらせる。

 桜を見るには、絶好の夜であった。

 この街一番の花見スポットである川沿いの道には、時計の針は9時を回っているというのに、春の気配に釣られた人々で溢れていた。親子連れから会社帰りのサラリーマン、ご近所さんと思しき高齢者まで・・・一様に幸せそうな表情を浮かべて、満開の桜の薫りに酔っている。花見といえば付き物なのは宴会であるが、ここでは場所を占拠して騒ぐことが禁じられている。代わりに樹の下にいるのは、にぎやかな露天商。たこやきやとうもろこしやフランクフルトのおいしそうな匂いが、道行く者を誘う。射的で見事に景品をゲットした男の子の歓声が、人目をひく高校生のカップルにも聞こえてきた。

 「あの子たちも今ごろお花見しているかもね。ようやく実現できた小旅行なんだから、心身ともにしっかり休めてもらわないと」

 「お前もいけばよかったのに。留守番なんてしなくても大丈夫だろ?」

 「そういうわけにはいかないわ。・・・それに、私もたまにはひとりになりたいし」

 うん・・・と長い髪の美少女は天に向かって大きく伸びをする。幼馴染の吼介をしても、いまだに里美の真意を推し量れないことはざらであった。

 「くれぐれも言っておくけど、今日は桜を見に来たんだからね。吼介を誘ったのは、深い意味はないから」

 「わかってるよ、そんなことは」

 「せっかくの桜だから・・・ひとりで見るのはもったいないかなって、ただ思っただけなの」

 「わかってるっての。オレだって・・・桜を見たいからついてきただけさ」

 「それならいいんだけど」

 ふたりの高校生が、どこまでも続く桜のアーチの下を並んで歩く。頭ひとつ人波を抜け出した男の膨大な筋肉量に思わず目を引かれた人々が、隣りの少女の息を飲むほどの美しさに視線を離せなくなる。月光と桜霞に映える少女は幻想的なまでに美しく、Tシャツを透かして影をつけた男の筋肉は凝縮された鋼を思わせる。声と顔色を失っていく周囲を気にも留めず、超美少女と超獣は、ふたりだけのペースで屋台の並ぶ沿道を進んでいく。

 「向こう岸の桜も、もう満開だな」

 「そうね」

 「昔は向こうの桜も見に行けたんだがなァ・・・どこかの金持ちの私有地とかで、ここ最近は入ることさえできなくなっちまったな。ったく無粋なことしやがる」

 「なにか事情でもあるんじゃない?」

 幅20mほどの川の反対岸には、見事な桜が奥にまで連なっているものの、その下にはひと一人歩いていなかった。つい4,5年前までは誰もが散策できた国定公園のようなその土地は、賑やかなこちら側とは打って変わって静寂に包まれている。

 「覚えてるか? よくあっちで花見したよな」

 「小学校卒業まで8年連続でね。私たちが鬼ごっこして周りに迷惑かけるから、よく安藤に叱られたわよね。あの頃は、桜がこんなにキレイなものだなんて思ってなかったな」

 「今にして思うと、あそこの桜が世界で一番キレイだった気がするけどな」

 「・・・そうね。私もそう思う」

 言葉の端に滲んだ少女の深い想いを、真実を知らない格闘王は気付けるはずもなかった。
舞い散る桜の花のなかで、どこまでも深い慈しみを宿した美しい少女は、ニコリと微笑みを男に見せた。

「迷子には、ならないでね。ふたりだけのお花見を・・・今日は純粋に楽しみましょうね」

 白くて長い指が、そっと格闘家の固い掌に絡まる。手を繋いだ美少女と野獣。筋肉に包まれた男とくらむような美少女の組み合わせは、アンバランスでありながら奇妙に似合っていた。気品と優しさと凛とした佇まいを併せ持つ少女が先導するような形で、若いふたりはひとの流れに沿って歩いていく。

 歩くふたりの脳裏に、ショートカットの弾けるような笑顔が閃光のごとく何度も飛び交う。だがふたりは、やや強引にその姿を意識の深い部分に沈めた。互いに口にださずとも、今日彼女のことを想うのはルール違反であることはわかっていた。

 「キレイ、だな」

 「え?!」

 陶然とした吼介の言葉に、頬を仄かに赤らめた里美が、切れ長の瞳をやや丸くして男臭い顔を見詰める。

 「いや、その・・・桜が・・・」

 逆に頬を染めた男が、クイと顎で、前方に浮かぶ自然が作り出した夜景を指し示す。

 夢のような、景色であった。

 柔らかな青白い月の灯りのもと、連なる桜、桜、桜・・・
 鮮やかな薄桃色が、絶妙な濃淡で視界の上半分を占めている。優しい風が撫でるたびに舞う白き花びら。折り重なる桃色の花々がつくりあげた星霜に、魂ごと天に吸い込まれそうな錯覚に陥る。桜の下には、大地いっぱいに咲き誇る瑞々しい黄色の菜の花。自然が紡ぐ絶対的な美は、人々を陶酔させ、自分が自分であることすら忘れさせる。
 天を埋め尽くす薄桃色と、地を塗り尽くす黄色と。そして、その間に架かる、天の川のような花吹雪の橋。

 「キレイ、ね」

 「ああ、キレイだ」

 輪投げの屋台から、子供たちの騒ぐ声が響いてくる。
 固くて分厚い格闘家の掌を、里美は無意識のうちに、ギュッとわずかに力を込めて握った。

 「吼介、知ってる? 桜の花がなぜこんなに美しく咲くのか」

 「・・・さあ」

 切れ長の瞳に、儚げに舞い降る、花びらの渦が映る。

 「桜の樹の下には、死体が埋まっているからよ」

 美神が手掛けたとしか思えぬ端整な美貌。天と血から与えられた溢れ出る気品。修練によりあらゆる所作に染み込ませた優雅。翳りない内面から迸る慈愛。そして・・・
 完全なる美しき少女を包む、どこまでも深く、澄み切った憂い。
 御庭番次期頭領としての宿命を背負い、生まれ育った少女は、他の誰にも聞かせたことのない声で工藤吼介に言った。

 「もう少しだけ・・・付き合ってもらってもいいかな?」



 スレンダーな少女に手を引かれ、最強の呼び名を持つ高校生は雑踏を離れて、立ち入り禁止であるはずの、川の反対岸へとやってきていた。

 「オレも間が抜けてるよな」

 ライトアップもされていない、月明かりだけが浮かび上がらせる花の天井――
 どこまでも広がる桜の海のなかで、工藤吼介はひとり呟く。

 「国立公園並みに敷地を持つ金持ちなんて、日本でも限られてるっていうのに・・・よりによって一番近くのヤツに気付かなかったなんて」

 肩甲骨にまで届く長い黒髪を春の夜風にそよがせて、五十嵐里美は背中を向けたまま一本の桜の樹の下に立っている。大きく枝の張った、見事なソメイヨシノ。ここに到着してから20分。幾多の宿命を背負った令嬢は、じっくりと時間をかけて、ひとつひとつの樹を廻っていた。

 ハラハラと舞い散る桜の花のなか、話し掛けることもなく、男はずっとその様子を眺めている。

 すっと少女の白い手が、目の前の桜の黒い幹に伸びていく。
 漆黒の瞳で真っ直ぐに満開の桜を見上げながら、紅色の唇はポツリと言葉を洩らした。

 「伊達・・・宗元・・・」

 音も無く移動した里美が、隣りの桜の前に立つ。
 しばしの沈黙の後、くノ一の顔を持つ少女は、同じように舞う花びらを見詰めながら、また別の名前を呟いた。

 「黒田・・・真理子・・・」

 それぞれの名前の持ち主がどんな人物であるか、傍観する吼介にはわからなかった。
 ただ、銀色の美しき守護天使の正体を知る者として、里美が口にする者たちがどんな存在であるか、おおよその見当はついていた。

 「葛原・・・修司・・・」

 また別の樹に移動した少女は、そっと幹に触れながら違う名前を口にする。
 春の風が吹く。やけに濃く色ずいて見える花びらが、無限の時を思わせてゆるやかに舞う。
 壮大に咲き誇る桜に向かい合ったまま、振り返ることない里美の背中を、幼馴染の男はただ距離を置いて見守る。

 「ごめんなさい。こんなことに付き合わせてしまって。でも、私が犯してきた罪の一部を、誰かにも見てもらいかった」

 背中を見せたまま長い髪の少女は話し掛ける。時に海のごとく広く映る背中は、触れれば崩れてしまいそうに華奢であった。

 「こうすることで、私の罪が軽くなるとは思わない。血で汚れた私の手が、キレイになることはないわ。けれど私が彼らにできることは、これぐらいしか思い浮かばなかった・・・」

 掛ける言葉が見つからず、工藤吼介は夜風になびく黒髪を眺めていた。
 正義と呼ばれる少女戦士は、人知れず罪の呵責と闘っていたのだろう。いっそ蔑まれればどれだけ楽であったことか。守護天使として称賛をあびるなか、どうしても手を汚した己を許すことができない少女に、いかなる言葉をかければ救えるというのか・・・

 「オレにはお前の罪がどうなるかなんて、わからないよ」

 ドサリと男は、土の上に腰を下ろした。
 仰向けに寝転がる。空には満開の桜が占め尽くしている。

 「でも、ヘコみたきゃとことんヘコめ。オレでよければ情けない五十嵐里美の姿、見届けてやるよ。どうせあいつらには、あさってまでは会わずに済むんだろ?」

 コクリと長い髪が揺れる。
 美しき生徒会長の目蓋がどんなに腫れあがっていたとしても、大切な仲間たちに気付かれる心配はしなくてもよさそうだった。

 満月にほど近い月が天空に浮かぶ。
 鮮やかな黄色を灯した菜の花が、心地よい夜風に揺れる。
 そして頭上には、酔ってしまいそうに咲き誇る、桜、桜、桜・・・・・・
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